夏休みが始まって数日後、俺達は夏休みの課題の処理真っ最中である。争奪戦を恙無く進行させるために、夏休み後半のイベントを思い切って楽しむために、
そして去年みたいに慌てて宿題をやることがないように、団長が配慮を利かせたらしい。
ハルヒにしては有り難い配慮だ。宿題の答えを教えてくれる奴が複数存在するのは助かる。
それにまた延々と八月を繰り返すのは嫌だからな。いい加減にしないと長門がおばあちゃんになってしまうぞ。

「丸写しはダメよ。何故そうなるか、理解してから写しなさい」
丸写しの心配か?大丈夫だ。一問置きに長門と古泉のも写すから、カンニングの疑いはかからないと思うぜ?
「何言ってんのよ。あんたのためを思って丸写し禁止してんのよ。嫌だったらノート返しなさい」
お前から、
『あんたどうせ解けなくて悩んでいるんでしょ。仕方ないわね、見せてあげるから光栄に思いなさい』
と嬉しそうにノートを差し出してきたのに勝手な奴だ。
しかしそんなことを口走ったら金輪際宿題を教えてくれそうにないので敢えて謝っておこう。スマン。
「分かればいいのよ。この程度の漸化式も解けないようじゃ、先が思いやられるわね」
ああ済まなかったな。元々数学とは相性が悪いんだ。教師共々な。
「確かに、教え方が下手よね、アイツ。でもあんた、それ以上に物覚え悪いじゃない。
仮定法過去なのに過去形で訳したり、下一段やカ変すらちゃんと覚えてないし。
全然授業が頭に入ってないじゃない。授業は聞けばいいってもんじゃないの。ちゃんと理解しなきゃ、勉強している意味ないわよ?
全く、だからあんたはいつまで経っても平団員のままなのよ

俺はその後も課題が終わって暇をもて余しているハルヒの暇つぶし講演会を聞き流し、黙々と課題を進めていた。
なお、他の三人は我関せず、玄関なんかに飾ってある木彫り熊や剥製の鷹の様に黙って俺達の様子をしげしげと見つめていた。
課題がが終わったんならハルヒの愚痴相手になってくれ。そんな微笑ましい顔をしてこっちを見つめるな。気色悪い。
いや失敬。気色悪いのは古泉だけだ。他の二人は気色悪くはないぞ?だが何か勘違いしている目線が飛んで来るんだが気のせいか?

「みんな、宿題終わったわね!お昼ご飯作るわよ!」

ハルヒはお昼ご飯作成開始の号令をかけた。ここ数日、宿題対策本部である俺の家で昼飯を作るのが日課になっていた。
本日の昼飯は流し素麺である。三人娘が調理担当、男二人は流し素麺用の滑べらせる台やつゆの容器に使う竹を用意した。勿論鶴屋山から拝領したものだ。
鶴屋さんも誘ったのだが、
『ごめんよ~、うちで経営しているスパの落成式に出席しないといけないのさ。お詫びに今度そのスパに招待するから許してにょろ?』
と言われた。
スパか。男の俺には余り興味ないが美しさに磨きのかかった朝比奈さんを眺望できるのならそれもよいことだ。


さてさて、俺は流し素麺を十分に堪能した。その立役者である各団員の働きっぷりを紹介することにしよう。

朝比奈さんは何故か三角頭巾と割烹着姿でコンロの前に立ち、ツユを作っていた。
昆布と鰹節を沸騰する前に火を止め、生臭ささを抑え、繊細かつ豊潤な味を引き出している。
お茶だけでなく、出汁の取り方も上手い。全く、どこで勉強しているのだろうか?
「出汁の取り方は涼宮さんに教えてもらいました。私は、教わったとおりに作っただけです」
いえいえ、あなたが作るから素麺のツユが飲める宝石へと変わるんですよ。
見近に昆布と鰹で宝石を作る錬金術師がいたというのは驚愕に値します。

長門は野菜サラダを作っていた。キャベツだけではなく、キュウリやトマトなどの夏野菜をブリリアントカットとも見紛うばかりに綺麗にカットし、
そこに薄くスライスされたローストビーフが坐し、パルミジャーノ・レッジャーノが振りかけられた。非常に美味そうである。
だが、それより驚いたのは、ドレッシングまで手作りだったことだ。
バルサミコ酢とオリーブオイル、さらにバジル、セージ、タイム等の香草、隠し味にホースラディッシュを加えたドレッシングである。
長門がこれだけ料理好きだとは思わなかった。いつの間に覚えたんだ?
涼宮ハルヒに教えてもらった。このドレッシングは彼女のオリジナル」
お前もハルヒの命令だったのか。だが長門のオリジナルじゃなくて少し残念だな。今度はお前のオリジナル料理を作ってくれよ。
………そう。検討する」
長門は俺を暫く凝視し、首をマイクロメーターで半回転分程動かした。

ハルヒ?別に言わなくても分かるだろう?メインの麺を茹でてるんだよ。はい、終了。
わかったよ、言えばいいんだろ?うまかったさ。冷やすのを見越した茹で加減が歯ごたえ、コシ、その他物理的化学的要因が俺の味蕾を最高に刺激していた。
ま、それは朝比奈さんが錬金術で作った黄金の液体が多大なる貢献をしてるからであろう。

「何ニヤついてんのよ。マヌケ面」
ち、折角朝比奈さんが作ってくれたツユを堪能してたというのに。タイミングが悪いな。くそ。
「はっはーん、あたしが茹でた素麺が美味しくて感無量になってたってわけね。
そうゆうときは素直に『美味しゅうございました、団長様』っていえばいいのよ」
何のことだ?俺は長門の作ってくれた野菜サラダのドレッシングが美味くて感無量になってたんだが。
「それもあたしが有希に教えたのよ。照れなくていいわよ。素直に気持ちを伝えることは重要よ。ほら、早く言いなさい」
ハルヒは目を爛々と輝かせながら俺に迫って来た。俺がそれを言う前に、お前も俺に素直になっていうことがあるんじゃないか?

なっ、なんのことよ
言わないと分かんないか?俺だってお前の口から聞きたい言葉があるんだ。
………ここで言わないとダメなの皆の前で?」
ハルヒは自信無げに小声で問い返した。ああ、皆に聞いてもらった方がいいな。お前から皆に宣言してくれた方が気持ちが伝わるってもんだ。

……………
ハルヒはそれっきり、黙ったまま俯いてしまった。他の皆は何故か俺たちから少しずつ遠ざかっていた。
暫くして、蚊の鳴くような声で、
……C………琴が……キーよ………良い……4も……板よね………あんた………好き
等と聞こえてきた。琴のキーはCコード?4?板?弦の数か?よく分からんが琴の習い事でも始めたのか?いや、そんなことが聞きたいんじゃない。
どうしたハルヒ。そんなに言いにくいことか?
『流し素麺に使う水や氷を、家中の冷蔵庫や冷凍庫を空けてまで冷やして用意してくれたキョンに感謝よ!』くらい素直に言って欲しいものだ。

ん?みんなが口を半開きにしているぞ?長門以外。その長門もいつも以上に無表情な気がするが

さ、食べ終わったら争奪戦の打ち合わせを始めるわよ」
この流れを断ち切るかのようにハルヒが宣言した。猛禽類のような目で俺を睨みつつ。

団員三人も似たり寄ったりの眼差しを俺に向けてた。そんな変なことを言ったか?俺?

午後からは争奪戦の打ち合わせを行うことになった。
大まかな内容として、ハルヒや他の団員が出す課題を全てクリアしたものがハルヒに告白できるチャンスを得られる、と言うことになった。
なお、参加料1000円だそうだ。告白するためにお金を払うなんざ聞いたことがない。
何を考えているんだこいつは。あんまり大っぴらにすると生徒会からクレームが来るぞ?
「大丈夫ですよ。生徒会には事後に報告が入ることになってますし、参加料のことは知らないフりをしますから。
難癖付けますが部活動とは関係ないので渋々帰る手筈になっています」
既に生徒会には了承済みだったか。ここまで道化師を演じるとは、少し生徒会長が不憫に思えて来た。

で、ハルヒ。何を作ってるんだ?
「適性検査よ。入社試験でもSPIとかGABとかやるでしょ。それと似たようなもんよ。これで足切りをするの。よし、できた。ちょっと見て見なさい」
俺はハルヒの作成した適性検査とやらを拝見した。

―――――――――――

SOS団プレゼンツ 第一回涼宮ハルヒ争奪戦
適性検査      番号__氏名____
   
今から出す問いにはいいいえかで答えなさい。はいを選択した時点で以降の問いには答えなくて結構です。尚、嘘つきは嫌いです。ですので嘘をついた時点で失格です。正直に答えなさい。


1. あなたは宇宙人である。                                   (はい・いいえ)

2. あなたは未来人である。                                  (はい・いいえ)

3. あなたは異世界人である。                                (はい・いいえ)

4. あなたは超能力者である。                                (はい・いいえ)

5. あなたは上記4問に出て来た人物に知り合いがいる。   (はい・いいえ)

以上

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「どう?因みに、一つもはいがなかった奴は失格よ!」

俺は卒倒する頭を松葉杖で支える気分でこの適性検査を見ていた。
俺が知っている限り、この適性検査が合格できるのはSOS団の団員だけだ。団員はさすがに候補外だろう。
喜緑さんや佐々木なら合格だろうが女性なので問題外である。古泉や藤原の野郎はこの争奪戦に参加するとは思えない。

もう少し、門戸を広げないと詐欺になるぜ。お金とって開催して全員門前払いではさすがにクレームもんだ。
「なによ……、んー、でもまあそうね。そうそう宇宙人や異世界人に知り合いなんていないだろうし」
そんな知り合い、普通の人間にはいない。ん?ってことは俺は普通じゃないのか?何だか暗澹な気分だ。

結局、「あなたは今不思議な体験をしてみたいと思っている」という設問を一つ増やすことで適性検査は完成した。
ハルヒのトンデモ設問内容に俺が突っ込み、ハルヒ曰く『妥協に妥協を重ねた結果よ!有り難く思いなさい!』と発言したおかげで纏まったのだ。
だが、有り難く思うのは誰なんだ?

その後は団員三人が考えてきた課題の練り直し作業と相成った。
ハルヒは俺には内容を教えず、四人で相談していたため、俺はすることもなくシャミセンの毛繕いをぼーっと眺めていた。
途中、「みくるちゃん、『じゃんけん』って何よ!もう少し真剣に考えなさい!」とか「有希、なかなか目の付け所がいいわ!面白そうじゃない!」とか「古泉君、あなた策士ね。引っ掛かる奴等が目に浮かぶわ!」等とほざいていた。
全く、俺はのけ者か?
「心配しなくていいわ。あんたは当日頑張ってもらうから。知力体力六感勇気希望情熱友情愛情に運のよさ、当日までに蓄えておくのよ!」

どう頑張ってもそのうちの半分も蓄えられないぜ

争奪戦当日~開会式・適性検査~ に続く

 


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