Report.23 長門有希の憂鬱 その12 ~涼宮ハルヒの手記(後編)~


 前回に引き続き、観測対象が綴った文書から報告する。



(朝倉涼子の幻影I)


 最近、朝倉が出てくる夢を見る。
 最初は変な空間だった。
「ようこそ、涼宮さん。ここはわたしの情報制御下にある。」
 朝倉は、意味不明なことを宣言した。と思ったら、おもむろにごっつい軍用ナイフを取り出した。そして、あたしに向けてナイフを構えた。
「ちょ、ちょっと! 何の冗談よ、それ!? 面白くないし笑えないって!」
 朝倉はあたしの呼び掛けを完全に無視すると、一直線にあたしを刺してきた。
「……っ!」
 あたしは紙一重で、朝倉の攻撃をかわした。
「性質の悪い冗談はやめて! 玩具でも危ないって!」
 あたしは叫びながら、あたしを掠めていった朝倉に向き直った。
 ……ナニ、コレ。
 朝倉のナイフが、何もない空間に突き刺さっているように見えた。
 かと思ったら、朝倉のナイフが突き刺さってる辺りを中心に、黒い人型の靄のようなものが現れた。朝倉は、ナイフをその黒い人型の靄に突き刺したまま、靄を払うように振り抜いた。
 一刀両断された靄が空気に溶けていった。
 ………
 ……
 …


 なんじゃこりゃ――――!!


 ってところで目が覚めた。
 マジで、何じゃこりゃ?



(朝倉涼子の幻影II)


 最近、朝倉が出てくる夢を見るっていうことは前に書いたけど、この話には続きがあったのだ。いや、本当に続きなのかどうかは分かんないけど。
 内容としては、実は前に書いたことがあった。ここから前のどっかのページに書いてある。その内容は、まあ、その……あたしが朝倉の『ぱんつ』見て喜んでるやつよ。


 そこ! HENTAIとか言わない! あたしだって自覚してるんだから!


 冗談はさておいて。
 前にも書いた内容ではあるんだけど、『ぱんつ』だけなのもアレなので、もうちょっと詳しく書いとこう。
 状況としては、こう。
 あたしは通学路の途中、あの北高前の長い坂を下り、線路沿いにしばらく行った住宅街にいた。街並みは、あたしが知ってる、見慣れた風景。でも、二つ違う点があった。
 一つ。空の色がヘン。一言で言うと、色がない。
 二つ。物音がしない。本当に、一切、音がしない。完全な無音。
 目の前には、人影が二つ。
 人影その1。私服姿の朝倉涼子。両手にはなぜか鉄筋を持っている。
 人影その2。覆面姿の超能力者。覆面にはなぜかストッキングを使っている。
 そんな二人が、あたしの目の前で戦っている。超能力者が空中に鉄筋を発生させて、朝倉に向けて撃つ。朝倉は、両手の鉄筋で、飛んできた鉄筋を残らず叩き落とすと、そのまま間合いを詰めて超能力者に殴りかかる。超能力者はすぐに自分の手の中に鉄筋を出現させ、対抗する。一進一退の攻防。
 ああ、なんて現実離れした夢だろうか、とあたしは目の保養に勤しんでたってわけ。夢の中なのに、妙にリアルだったわね、朝倉のスカートの中身(ちなみに『縞パン』よ)。
 しばらく攻撃の応酬が繰り広げられた後、両者は間合いを取って睨み合い。
 って書くと、互角のように見えるけど、実は超能力者の方は飛び道具持ってんのよね。撃ち出される鉄筋を叩き落としてる朝倉だけど、だんだん押されていく。そして、調子に乗った超能力者は、大量の鉄筋の雨を朝倉に降らせた。
 夢の中なのに、思わず叫んじゃったわ。まあ、朝倉は無事だったけど。さすが夢。
 その後もすごかった。
 地面に磔にされた朝倉の言葉に、あたしは有希の姿を思い浮かべた。


 何ということでしょう。
 再び降る鉄筋の雨を爆散させて、長門有希が颯爽と現れたのです。


 ……いや、劇的にビフォーアフターしてる場合じゃないって。自分で自分にツッコミを入れてる間に、有希はヌンチャクで超能力者をしばき始めた。……いつも通りの無表情で。


 有希……相当怖いって、それ。


 だって、考えてみてよ? ぱっと見は可憐で儚げな美少女が、ストッキングで覆面した変態を、無言で無表情のまま、淡々とヌンチャクでどつき回してるのよ!
 こんなシュールな画には、なかなか遭遇できないわね。
 それから朝倉は、これまたイメージぴったりな薙刀を装備。あたしの護衛として大立ち回りを披露してくれた。
 はっきり言うわ。


 激萌え!!


 夢の中の二人は、なぜか息もぴったりで、まるで長年付き合った相棒みたいだと思った。


 まるで……姉妹みたいに。



(朝倉涼子の幻影IV)


 夢とは、まこと奇怪なものであることよ。
 ……古文の直訳風に書き出してみたけど、他意はない。
 最近、朝倉が出てくる夢を見るけど、今日のは今までで一番恥ずかしい夢だった。
 これを書いてるのは午前五時。あまりの恥ずかしさに目が覚めて、しかもそのまま眠れなくなったってわけ(目が覚めたのは四時頃だったような……うわ、一時間も悶々としてたのか! 重症だ……orz)。
 どうにも寝付けないし、悶々として身悶えして仕方がないので、文章を書いて気持ちを落ち着けようと試みるテスト。
 ああ、やっぱり動揺してるな。日本語おかしい。「試みる」と「テスト」って、意味一緒やん!
 ……よし。大分落ち着いてきた。落ち着いてこー!
 ああもう。いい加減話を進めよう。書き出してしまわないともう、おかしくなりそうだし。
 まず場面を説明するわ。
 この夢は、この間見た夢と繋がっているのかいないのか、よく分からない状況。ただ、なんかやたら長い、どこかで見たような包みが壁に立て掛けてあったから、多分続きものじゃないかと睨んでる。
 壁、ってことでも分かるように、場所は室内。て言うか部室。
 登場人物は、朝倉、有希、みくるちゃん、古泉くん、キョン、それから……喜緑さん? 生徒会役員の。あのクソ生徒会長と一緒に現れた人。SOS団に恋人の捜索依頼をしてきたこともあったわね。
 状況は、部室で、あたしと有希が話してて、というか、あたしが有希に語りかけてて、それを登場人物全員に見られてるところ。
 こんな大勢の人間に見られながら、あたしは……うわー、やっぱり恥ずかしい!
 自分でも分かるくらい、顔が熱い。多分、真っ赤になってるんだろうなあ。でも、これを書かなきゃ、多分ずっとこの顔と身体の熱さは治まらないわ。
 こんな衆人環視の状況で、あたしは、有希に、激しく、


 告 白 し た
 キ ス し た


 ………
 ……
 …
 ぎゃぽ――――!! 死ぬほど恥ずかしい!!


 ――30分経過。ようやく落ち着いてきたので再開。
 あれから30分、あたしは布団でずっとごろごろ転がってた。ていうか、身悶えてた。あひー、とか奇声を発しながら。……こんな姿、人には絶対見せられないな。
 夢の話の続きは……


 あ゛――――! ダメ! 無理! もうこれ以上詳しく書けない! 書いたら死んじゃう! でも書かないとやっぱり恥ずかしくて死んじゃう!


 ギリギリ書ける範囲で書いてみることを試みると、次のようになる。
 あたしは有希を正面から見据えた。そして、有希に出会った日からの、あたしと有希の思い出を語った。
 最初はやけに無口で変わった娘だと思っていたこと。それがだんだん、どうすれば仲良くなれるかというものに変わっていったこと。文化祭の思い出。体育祭の思い出。雪山の冬合宿。バレンタインデー攻略計画。
 要は、あたしの「愛の告白」が延々と続いてたってわけ。
 おお、これだけ端折って書くと、書けるもんね。
 しかし、ありえない。夢だから、で説明は付くけど。
 それにしても、おかしすぎる。違和感ありまくり。どこに違和感を覚えるかって、そら、女が女に告白してる時点でツッコミ入れるやろ! ってなもんだけど、そこだけじゃない。何というか、夢にしては、そしてありえない情景にしては、妙に現実感があることか。
 今でも、こう、抱き締めた時の有希の感触とか……うわー! 不用意に書いたら、感触が蘇ってきた――――!
 落ち着け落ち着け……こんせんとれーしょん……って、それは「集中」!
 アホなこと書いてないで、先に進めよう。
 さて。このやたらと恥ずかしい夢は、困った事に、非常に現実感があるのだ。なぜなら、夢の中で有希に熱く語った、あたしと有希の思い出が、どれも実話だからだ。
 思い出だけじゃない。あたしの、有希に対する「想い」もまた、現実にあたしが有希に感じてる想いをいろいろと加工したら、わりと無理なく得られるくらいに「それっぽい」のだ。


 つまり。


 あたしは、有希のことが好き?


 ……ということは、これはあたしの願望っていうこと?
 いつか、有希に告白したい。そしてOKを貰いたいっていう、信じられないような願望だと? ありえなーい。
 はあ。明日からどんな顔して有希に接したら良いんだろ? まともに顔見られないかも。
 そうだ。試しに有希に抱きついてみて、感触を確かめてみようか。それで「現実は違う」って納得しよう。
 ……なんてね。アホか、あたしは。


 翌日。……結局実行してしまった。アホや、あたしorz


 えー、抱き締めた有希の感触は、小さくて、柔らかくて、正直たまりませんでした……


 って、違う、そうじゃなくて。
 驚いたことに、夢の中と同じ感触だった。
 すぐに抱き比べ(!)てみたけど、やっぱりみくるちゃんとは違う感触。主に胸とか。
 いやー、有希ってば、やっぱりちっちゃくて可愛いなぁ~!
 でも身長は、実はみくるちゃんの方が若干低いのよね。あの巨乳で分かりにくいけど、みくるちゃんの方が、本当は小柄なのよね。抱き締めても、全然そうとは思えないけど。
 有希の方が、胸とか小振りで、なんていうかイメージぴったり? って感じ。
 みくるちゃんのは「手から溢れ出す」って感じだけど、有希のは「手に収まる」って感じかな。小柄な身体と小振りな胸を、あたしの身体と掌でしっかり掴めるというか。
 ……とにかく、みくるちゃんの感触を夢で再生してたわけじゃなかった。
 何であたしは、有希の抱き心地を知ってたんだろう。まだ抱いたことなかったはずなのに。まさか予知夢?
 って、「抱いたことない」って、なんか変な意味にも取れるわね……


 うーん……
 考えれば考えるほど、分からないや。


【ここから先は、涼宮ハルヒがすべてを思い出した後の話。】



(涼宮ハルヒの混乱)


 あたしは今、猛烈に困惑している。


 何コレ。


 「コレ」とは、今この文章を書いている、この日記帳、『涼宮ハルヒの手記』のことよ。
 もう一度問う。何コレ。


 この手記に書いてある文字は、確かに、あたしの字だ。でも、あたしはこんな手記の存在を知らない。でも、何となく書いた覚えがある。
 そしてその内容が、ますますあたしを困惑させる。とても信じられない内容だわ。ぶっちゃけ、ありえない。


 だって、だってよ。
 あたしが、有希のこと、その……「好き」だなんて。しかも、有希と、その……「一線越えちゃってる」なんて。
 あー、やばいやばい。書いてて顔が熱い。いや、全身か。
 落ち着いて考えてみなさいよ?
 あたしと有希は、女の子同士。
 そりゃ、あたしだって、有希と仲良くしたいとは、思うわよ?
 あの娘、いつも無口で無表情で、ちょっと変わってるところはあるけど、ああ見えてうちのSOS団随一の万能選手なんだから。団長たるあたしも鼻が高いってもんだわ。それに、確かに有希は、よく見るととても整った顔立ちで、色白で……儚げな中にも、可憐さと凛々しさが同居してる、そんな不思議な魅力があることは認めるわ。
 でも、だからって、有希と……「肉体的に」まで仲良くなりたいとは、さすがに思わないわ。


 だから、ありえない。それこそ、精神病の一種だわ。
 落ち着け、あたし。こんなときは素数を数えるのよ。
 1,2,3……しまった、1は素数じゃないわ。



(涼宮ハルヒの決心)


 さてと。前のページでは、あのように書いたけど。前言を撤回するわ。
 この手記を見付け、読み終わって、前のページを書いてからしばらくの間。
 あたしは、心を落ち着けるために、しばらくぼーっとしてた。
 物事を考察するに当たっては、先入観や固定観念は最大の障害となる。だから、心を空っぽにするために、ひたすらぼーっとしてた。ある意味放心状態よね。そうやってしばらく放心して、明鏡止水のような心境になって、あたしは再び考え出した。
 そうしたら、思い出した。
 間違いない。この手記は、あたしが書いたものだわ。朧ながらも、あたしがこれを書いていた頃のことが思い出されてきた。
 それと共に、ある「想い」も、思い出した。


 あたしは、有希が好き。


 まさか自分がこんなことを思ってたなんて、信じたくない、認めたくないけど、もう言い逃れはやめることにするわ。だって、自分の心にはいつまでも嘘をつき続けられないんだもの。
 自分の心に嘘をつくのをやめた途端、色々なことが一気に思い出された。
 何てことかしら。
 あたしは、こんなにも、有希のことが好きだったなんて。
 それに……有希と、その……ヤっちゃったのも本当のことだ。
 うわ、恥ずかしい! 有希ったら、あんなことやこんなことを……
 いや、そもそも、先に手を出したのはあたしなんだけどさ。
 てことは、自業自得か、あたし?


 あたしは、決めた。もう迷わない。もう忘れない。
 あたしは、有希のことが好き。
 この気持ちは、まだ明確に伝えてないかもしれない。あの告白が夢だったとしたら。夢じゃないかもしれないけど、それならそれでもう一度、想いを伝えたって良いはずだわ。
 だからあたしは、有希に手紙を書くことにした。この際だから、この手記ごと見せるわ。
 有希、読んでね。あたしのこれまでの、そしてこれからの気持ちをさ。



(涼宮ハルヒの手紙)


 有希に読んでほしいこと。
 ここまで読んで、あたしはどんなことを思っていたのか思い出した。
 不思議なことに、今まで何となく感じていた、心の一部が抜け落ちたような感覚が治まった。まるでパズルのピースがはまるように、抜け落ちていた部分がぴったり埋まったような気がする。
 この「手記」を読むに、あたしは色々と大事なことを忘れていたらしい。
 あたしの身に何かが起こったのだろうか? その辺りは今でもまだ思い出せない。でも、ある日を境に、心から何かが抜け落ちたような気がしていた。
 今なら分かる。その時「何か」があって、あたしはある大切な想いを忘れてしまった。
 自分で忘れていたのなら、自分の不甲斐なさを恥じるしかない。でも、なぜかそうじゃない気がする。あたしは、何者かにその想いを忘れさせられたのだと感じている。これは何かの陰謀かもしれない。
 とにかく、今はそのことはいい。思い出せた事実の方がずっと大切だから。
 思い出した想いを、改めてここに記す。もしもまた、忘れたり忘れさせられたりするようなことがあっても、すぐに思い出すことができるように。


 有希へ。


 あたしはあんたを愛してる。
 あたしもあんたも女の子だけど、そんなことは関係ない。
 いろんな意味で、あんたが好き。大好き。
 だからあたしは、あんたがいなくなった時、とても寂しかった。苦しかった。
 そして、もう二度とあんたを失いたくないって思った。
 それなのに、この気持ちを忘れていたなんて、どうかしてる。本当にごめん。
 この気持ちを忘れないように、想いを文字にしてここに記す。


 願わくば、もう二度とこの気持ちを忘れることがないように。
 願わくば、もう二度とあんたを失うことがないように。


 そして――願わくば、あんたとずっと一緒にいられますように。


涼宮 ハルヒ


【ここまでが、その時にわたしが見た手記の内容。その後、次の部分が涼宮ハルヒ自身の手によって新たに書き加えられた。】



追伸


 有希はあたしの嫁。


 「嫁」と書いて「ともだち」と読む。

 



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