キョン「ただいま」
 
 西暦20XX年、俺は高校を卒業してそこそこのレベルの大学に受かり、卒業してから就職、現在は毎日定時に会社に行って働く毎日だ。
 まあ普通社会人ってのはすべからくそうしてこの日本経済の歯車的活動の一環を担って生きていくものだが、ここにその例から外れた存在がいた。
 
ハルヒ「おかえり、今日の晩御飯なに?」
 
 普通、家にずっといて、しかも働いて帰ってきた奴に対して言う台詞じゃあない。「おかえりなさい。ご飯にする? お風呂にする?」というのが相場だろう。
 だがこいつがいまだかつて俺の帰宅を暖かい風呂や飯をこしらえて待っていたことなど一度としてない。
 
ハルヒ「あ、レベル上がった!」
 
 おそらく今日もまた一日中ずっと座りっぱなしだったと思われるパソコンデスクに腰を下ろしたままハルヒが言った。
 画面に映し出されているのはオンラインのRPGゲーム、ここ数ヶ月もっぱらハルヒのライフワークは電脳世界と行ったり来たり、もとい行きっ放しの状態だ。
 
キョン「せめて部屋くらい片付けておいてくれよ。こちとら働いて帰ってくたくたなんだ……」
ハルヒ「なによ偉そうに、別にいいじゃない。それよりお腹すいたから早くご飯作ってよ」
 
 人様の家に上がりこんで飯まで食わせてもらってる身分でここまでぞんざいな態度が取れるのはある意味才能だと俺は思った。
 ハルヒが俺と同棲(?)するようになったのは、もう半年ほど前のことだった。
 きっかけは、町で偶然にハルヒを見かけたことだったが…………
 
 
~回想シーン~
 
 ハルヒは高校卒業後、俺より遥かにランクの高い一流大学に合格したと聞いていた。
 だから、俺が社会人になったある日、街角で着古したぼろぼろの服で歩いていたハルヒを見たとき俺は愕然とした。
 まさかと思って声を掛けたらやっぱりハルヒだった。そして聞くところによると、ハルヒは大学を中退して家を追い出されたということだった。
 
キョン「そりゃまたどうして……? お前はあんなに優秀だったじゃないか」
ハルヒ「ふんだ。心の病ってもんがあるのよ、あたしもう何もやる気がしないの」
 
 話し方や雰囲気だけは昔のハルヒのままだった。それだけで俺はほっとした。
 俺たちは話をするためにハンバーガー屋に入って席に着いていた。ハルヒは当然金なんて持ってないから俺のおごりだ。まあ持ってたとしてもハルヒは俺におごらせるだろうが。
 
 そして話は聞けば聞くほどに深刻なものだった。
 ハルヒはもうずっと前から全てに対してやる気を失った状態でいるらしく、大学は早々と中退、それからも家で親に身の回りの世話を一切まかせっきりにしたまま自分は部屋に閉じこもってパソコンをいじっていたらしい。
 いわゆるニートとかひきこもりと呼ばれる人々と同じ症状だった。そして、ある日ついに我慢が限界に到達した両親がハルヒに出て行けと怒鳴ったらしい。
 
キョン「それで着の身着のまま家を出て来たのか」
ハルヒ「そうよ。せめて着替えくらい持って出るべきだったと後悔してるわ」
 
 ハルヒ自身、自分が家族に負担をかけていることを重々承知していた。だから、両親としてみれば、ハルヒに頑張ってほしくてつい口から出た「出て行け」の言葉がハルヒにとっては耐えられないものだったのだ。
 
ハルヒ「ていっても、家を出たのはついおとといのことだけどね。まさかキョンに見つかるなんて奇妙な偶然ね」
 
 偶然。おそらくそうじゃないだろう。
 俺は普段この町に来ることはない、しかし今日なぜか上司からいきなり出張の仕事を申し付けられ、高校時代まで慣れ親しんだこの町に一日だけ戻ってくることになったのだ。
 それはひょっとしてハルヒがそう望んだからじゃないのか? ハルヒは家を追い出されて、寂しく一人で外を歩きながら、俺に会いたいと願ってくれたんじゃないか?
 ハルヒは俺に無言のSOSを送っていたんだ。そうだとしたら、俺にはハルヒを放っておくことなどできるはずがない。俺がハルヒを助けてやらないといけない。そう思った。
 
キョン「ハルヒ。お前、俺と一緒に暮らす気はないか?」
ハルヒ「へっ!? な、なに言ってんのよ急に!」
キョン「行くあても無いんだろう、だったらいいじゃないか。俺は今アパートに一人暮らしだが、ちょうど家が広すぎると思ってたんだ。だからハルヒ、俺と一緒に……」
ハルヒ「ま、待ちなさいよ! あんた何考えてるの!? 今日会ったばかりでいきなり同棲しようなんて! 猿でももうちょっと貞淑なアプローチするわよ!」
キョン「下心なんて無い、本当だ、誓ってもいい」
ハルヒ「なんなのよ一体……? でも確かに野宿はもうごめんだし、お風呂に入ったりちゃんとした食事も採りたいと思ってたところだから丁度いいわ。でも、あんたは本当にいいの? あたしきっと迷惑かけるだけよ、何も役に立つことなんて出来ない」
キョン「ハルヒ、お前は役に立たない存在なんかじゃない、俺が保障する。きっと今は調子が悪いだけだ。高校時代までが出来すぎてたんだ、そのつけを払うと思えばいい。そして元気になったら、いつでも出て行ってくれて構わない、だから……」
 
 ハルヒはその時、ただ笑って「わかったわ。だったらお邪魔させてもらうけど、あたしが世話になるからって威張ったり偉そうにしたら駄目よ! あんたがどうしてもっていうから、仕方なくあんたの世話になるだけなんだからね!」と言っていた。
 
 
~回想シーン終わり~
 
 
 そしてそれから数ヶ月が経過して今日に至る。
 ハルヒの「病気」は一向に良くなる兆しは無い。結局今日もまたずっと家でパソコンをいじってただけで、部屋の片付けすらしようとしないし、服も着替えていない。
 
キョン「晩飯出来たぞ」
ハルヒ「ああ、ちょっとまって、今きりが悪いわ。セーブするまであと10分くらいだから」
 
 はあ、俺はおもわずため息をついて額に手をやった。このポーズをするのも高校を卒業してから久しぶりだったが、ハルヒが家に住むようになってからはしょっちゅうだった。そして、これまたあの頃よく言っていた台詞が俺の口から出て来た。
 
キョン「やれやれだ……」
 
 同棲相手が出来たというより、でっかい子供が出来たといった感じだ。
 
 
 

ハルヒニート 第一話 完

 

 


|