………………
 …………
 ……
 俺は流れているのかも、止まっているのかもわからない気色の悪い浮遊感に身をゆだねていた。
 この感覚がタイムスリップって奴なんだろうか? しかし、目の前が真っ暗、というより光を認識できないので
何も見えず何も感じられない。
『このままあなたの意識情報をあなたの有機生体に戻す』
 長門の声に、孤独感が解消されたのを感じつつ、俺の置かれている状況が何となく理解できた。
俺の意識だけがどこかにとばされているらしい。幽体離脱って言うのはこういう感覚なのか。まだ三途の川は渡りたくないんだが。
しばらくこの状態が続くのか?
『長くはない。じきに移送が完了する』
 そうか。ならちょうどいい。いい加減何が何だかさっぱりだから解説の一つもしてくれないか?
このままだとまたパニックになっちまいそうだ。
『わかった』
 長門の了承を確認した俺は、聞きたいことを整理しつつ、質問を始める。
 一番聞きたいのはハルヒを襲ったあいつらについてだ。俺たちを襲い、陥れようとしている連中。
『詳細な情報は不明。わかっていることは、涼宮ハルヒに影響を受けた有機生命体であることだけ』
 影響か。古泉みたいなものか?
『そう。ただ、古泉一樹と明確に異なる点は、涼宮ハルヒによって特定の能力を与えられた者ではないということ。
少なくてもイレギュラーな形での能力発現の可能性が高い』
 そんな奴がいるのか?
『あなたはその例である者と認識しているし、接触したことがある。わたしも同じ』
 接触? そんな奴いた憶えが……
 俺ははっと気が付いた。自覚がないが、ハルヒによって何らかの能力を与えられていて、そのせいで情報統合思念体の存在を
認識してしまった人間。あのラグビー野郎の中河だ。
『彼は涼宮ハルヒの影響下にあった。その後、危険と判断しそれを抹消した。不確定な問題を発生させる恐れがあったから』
 ってことは、俺を事故らせて、ハルヒを襲ったあいつらは中河と同じような連中なのか。
しかし、何で突然ハルヒを狙ってきたんだ?
『その点については、少なからず情報統合思念体の失策に責任がある』
 ……どういうことだ?
『順を追って話す。情報統合思念体があなたの友人の存在を認識したとき、放置すれば弊害が顕著化すると判断した。
そして、その問題を排除するべく行動をとった。具体的には、同様の状態を維持している有機生命体の調査と認識、
発見次第それを解消すること』
 他にもいたって事だな。
『その数は想像を超えるものだった。涼宮ハルヒの影響は情報統合思念体の予測を上回り、数多くの有機生命体に及んでいる。
それを一つ一つ消去していく作業を開始した。だが、その時点で【彼ら】の中にもわたしたちの動きを察知する者が現れた』
 まあ、大々的に動けば気が付く奴もいるだろ。中には自覚している奴もいたかも知れない。
それ自体は失策と言うよりも想定される状況だと思うんだが。
『そこで情報統合思念体はその動きを捉えられなかった。【彼ら】はこちらの動きを探りつつ、次第に情報統合思念体というものを
理解し始めた。それに同調するように、【彼ら】は結集を始める。互いの能力を理解し合い、こちらから情報をかすめ取り
その存在意義は大きくなっていった。そして、ついに【彼ら】は涼宮ハルヒの存在にたどり着く』
 消去して回る長門たちに対抗して組織化し、身を隠しつつ情報を得ていたのか。やっかいな連中だ。
『【彼ら】は情報創造を行える涼宮ハルヒ存在を、自分たちの利益にとって有効な存在と認識した。
そして、彼女を確保すべく行動を開始する。それがあなたを襲った事故の原因』
 ちっ。話し合おうともせず、いきなり俺を謀殺しようとしたのか。短絡的にもほどがある。
『あなたを意識喪失状態に陥らせ、涼宮ハルヒの精神状態を不安定にさせる。同時に、それに乗じて涼宮ハルヒに接近し、
その能力の確保を行おうとした。これについてはわたしにも責任がある。彼らの行動に一定の不審を感じたが、
結論には至らなかった。【彼ら】の自己の偽装能力はわたしの予測を上回っていたから』
 自分を責めるなよ。向こうの方が一枚上手だったってことだ。誰もお前を責めやしないさ。
だが、ハルヒの能力を確保ってそんなことが可能なのか?
『あの能力を身体から引き離し、別の存在へ譲渡する可能性は無いとは言えないが、危険すぎる。彼らの取った方法は
涼宮ハルヒの精神を奪い、彼らの命令を全て受け入れる状態にすること』
 ふざけやがって。ハルヒを操り人形にするつもりだったんだな。
『だが、涼宮ハルヒも無自覚ながら対抗していた。文芸部室に立てこもった。あそこは様々な次元が交錯し、
【彼ら】が立ち入れば、自らの能力が何らかの反応を示し、情報統合思念体に察知される可能性があった。
だから、あの部室だけには立ち入ることができなかった』
 古泉も同じ事を言っていたのを思い出す。俺が平然とボードゲームに興じている部室も、奴らにとっては、
毒の沼地に足を突っ込むのと同じくらいに危険な代物だったんだろう。
『そのため【彼ら】は部室の位相異常状態を除去する必要があった。まずは涼宮ハルヒのみ部室内に閉じこめ、
その効果が薄れることを待った。そのために、情報統合思念体への不正アクセスを多用したことが後の検証で判明している。
彼らの中に、情報統合思念体の認知を越えて利用できるレベルの者までいたことは、きわめて重大な事実として捉えられている』
 ……そして、ついに奴らは動いた。
『部室の空間レベルが通常に近づいた時点で彼らは仕掛けた。部室内に侵入し、涼宮ハルヒの確保の実行を試みる。
わたしが【彼ら】の動きを理解したときには、もう遅かった。しかし、予定外に【彼ら】の行動を遅延させた存在があった。
それがあなた』
 わざとやった訳じゃないけどな。
『感謝している。【彼ら】をわずかでも食い止めてくれたおかげで、涼宮ハルヒの精神は完全制圧状態にならず、
多くの自我を確保することができた。そして、【彼ら】にも次なる問題が発生していた』
 神人か。だが、わからねえ。あそこまでやらかすようなストレスっていったい何だ?
『【彼ら】は一部ながら涼宮ハルヒの得たとき、その情報創造能力に圧倒されてしまった。そして、狂った。
今まで同調して行動していた【彼ら】はばらばらに自らの願望を叶えようと、涼宮ハルヒの能力を使おうと試みた。
だが、できなかった』
 なぜだ?
 俺の問いかけに長門はしばらく沈黙を続ける。そして、おもむろに
『通俗的な言い方をするならば』
 ――一拍置いて、
『全ての願望を叶えられる神は一人だからこそ成り立つ。複数人……それも大多数では成り立たない』
 俺はその意味を直感的に悟ることができた。
 例えば、二人の人間がお互いに死ねと望んでみよう。いや、これだと二人とも死んで終わりか。なら、自分は生きていたいが、
相手には死んでくれと互いに望んだ場合はどうなる? この場合、二人とも死ななければならないが、
一方で二人とも生きなければならない。れっきとした矛盾って奴だ。連中はその矛盾の壁に阻まれて何もできなかった。
目の前に、何でも願いを叶えられるはずのツールが存在し、それを使えるにもかかわらず、実行できない。
その理由は、自分の願いに相反する願いをする誰かがいるから。
 ……互いに憎み合ったんだ。あの罵声の嵐はその時の言い争いのものなのだろう。
 一方でそんなに簡単に人間って奴は狂ってしまうものなのかという疑問も生まれる。
それまで奴らはそれぞれの目的も異なりながらも、一致団結して動いていた。なぜ突然仲間割れを始めた?
銀行強盗とかもいざ金が手に入ると、仲間割れを起こしたりするのが王道だが、いくら何でもあっさりすぎる……
 いや、違う。よく思い出せ。あの中河の恥ずかしいなんていう表現ではできないような妄言の数々だ。
普通の人間ならあそこまで言わないだろうし、長門に能力を抹消されたあとのアイツの態度を見ても、
いくらなんでも異様すぎる。それほどまでに情報統合思念体の認知って言うのは人を狂わせるものだってことだ。
ハルヒを襲った連中は情報統合思念体を認識できている奴もいたようだったが、それでも狂わなかった。
中河と唯一にして最大の違いは、それは敵だと認識していたからかもしれない。中河を狂わせた叡知って奴も
それが襲ってくるとわかれば、恋愛感情と誤認するはずもなく、その目には強大な敵として映ったはずだ。
だからこそ、それを退けられるハルヒの存在を欲した。だが、今度はそれを手に入れたとたん、それに魅了された。
今までハルヒをそんな対象としてみたこと無かったし、実感も無かった俺だが、確かに「何でも叶えられる」なんていう
もしもボックスを手に入れたと自覚してみろ。正直、何をしでかすかわからん。
『情報統合思念体の存在同様、【彼ら】にとっても涼宮ハルヒの能力は過ぎた代物だった。有機生命体が持つ「欲」という感情を
暴走させるには十分すぎる。そして、それを使えないという矛盾した状態に彼らの精神的圧迫は飛躍的に向上し、
感情を爆発させた。もはや、止めることなど不可能な状態に陥ってしまっていた』
 結果があの神人大暴走か。それでもあの程度の被害ですんだのは……やはりハルヒのおかげか?
『涼宮ハルヒは無意識ながら閉鎖空間を発生させて、神人の活動を閉じこめようとしたが、完全とはいかず、
被害の拡大は止められなかった。ただ、それでも【彼ら】を閉鎖空間内にとどめるように外部から切り離した状態にし、
【彼ら】の矛先を彼女のみに絞らせようとした。その結果、【彼ら】の目的が再び集約される。
それは、自分一人が涼宮ハルヒの全能力を確保し、他の競合する有機生命体を全排除すること。可能かどうかは不明だが、
そうすればいいと【彼ら】は信じている』
 なんてこった。連中はまだハルヒをしつこく狙っているか。ん、じゃあ、もしかして俺が目覚めて北高に向かっているのも
奴らの目的の一つなのか?
『そう。【彼ら】の中の一人はあなたの存在を察知した。そこで、あなたを涼宮ハルヒの元に導き、利用しようとしたと思われる』
 長門の話を聞いたおかげで、今までの奴らの目的が大体わかってきた。最初の朝倉襲撃は単純に俺の確保だったかもしれないが、
偽の情報を俺に与えて、古泉たちを手にかけるようにし向けたのは、俺にとってのハルヒの存在を
連中と同じ認識にすることだったんだろうな。あの時、朝倉に化けた奴は、ハルヒの能力を使えば、
俺の過ちは全て無かったことになるみたいなことを言ってやがった。現に俺は、危うくそれを受け入れそうになってしまった。
やれやれ、危ないところだったぜ。
『わたしが認識しているのはここまで。あとはあなたの目で見て判断して』
 わかったよ、長門。色々教えてくれてありがとな。ああ、一つだけ確認したいんだが、今回の一件についてお前のパトロンは
何をやっているんだ?
『情報統合思念体は各派共通で閉鎖空間発生前の状態に回帰することを望んでいる。ただ、大規模介入は避けて、
あくまでも消極的介入のみ。また、万一涼宮ハルヒの全能力が【彼ら】によって奪われた場合は、強制除去を実行することでも
一致している』
 強制除去って何だ……と聞こうと思ったが止めた。言葉からしてろくでもないことに決まっている。
『わたしはそれを決して望まない。しかし、今のわたしにできることは限定的。だから――』
 何となく真っ暗闇で何も見えないのに、長門の顔が見えたような気がした。それは無表情だが、どこか決意に満ちた顔つき。
『あなたに賭ける』
 ……以前にも同じ事を言われたな。仕方がない。もう一度世界の命運を背負ってみるかね。
俺みたいな凡人に賭けられるようじゃ、世界ってのはもっと精進が必要だぞ。
『もうじき、あなたの移送転換が完了する』
 おっとその前にちょっと頼みがあるんだが。
 長門に頼み事をすると、幸いなことに受け入れてくれたらしく、俺の目の前が明るくなり、脳天気に歩く馬鹿たれの姿が
目に飛び込んできた。俺はそいつの頭の真上に拳を振り下ろした
 
 ――目を覚ませ! この大バカ野郎が!――
 
 怒鳴り声もおまけで付けてやった。確かこんな事を言っていたはずだからな。これを忘れると、俺が偽朝倉の後ろにホイホイと
ついていっちまう。
 ほどなくして、また視界が闇に落ちた。ま、色々それから大変だが、がんばってここまでたどり着いてくれ。
『あと数秒であなたは元に戻る。あと、涼宮ハルヒの方である程度の問題が発生した模様。
ここから先はあなたの意思で動いて』
 わかった。またあとで会おうぜ、長門。
 
 ――そして、俺の目に膨大な光が飛び込んできた。
 
◇◇◇◇
 
「やあ、ようやくお目覚めですか」
 俺の目に飛び込んできたのは、こっちに手をさしのべている古泉の姿だった。一回やっちまったという自覚があるせいか、
罪悪感と歓喜が入り交じった妙な感覚に陥る。しかしここはできるだけ平静を取り繕っておこう。
こいつに向かって間違っても涙を流したりしたら、周りに変な誤解を与えかねないからな。
まあ、それでもさすがにさしのべられた手を握らないほど、俺は落ちぶれちゃいないから、素直に古泉の手を借りて立ち上がる。
 全身を伸ばすと、まるでさび付いていたかのように身体がきりきりと悲鳴を上げた。
一体、俺はどうなっていたんだ?
「12時間ほどですか、ずっとあなたは意識を失っていたんですよ」
 その古泉の言葉を聞きつつ、辺りを見回すとちょうど国木田ノートを発見したときに休憩していた場所だった。
あのノートを開いたときから、俺は奴らの謀略に飲み込まれていたのか。
「わりい。また俺が遅延させちまったみたいだな」
「気にしないでください。この程度で済んだことに皆ほっとしているくらいですから」
 辺りを見回せば、口を開く古泉の他、機関メンバーと谷口がこっちを笑顔で見つめていた。やれやれ、ボンクラすぎる俺を
こんな笑顔で迎えてくれる人たちだったのに、奴らの思惑に乗せられて一度でも疑っちまった自分が恥ずかしいぜ。
「しかし、よく一旦引き返そうとか思わなかったな。ここにとどまっている方が危険だっただろうし」
「ええ、その通りですが、長門さんが僕たちの前に現れましてね。あなたは必ず帰ってくるから信じてと」
 にこやかなスマイルで話す古泉。長門、いくらなんでも俺を過大評価しすぎ何じゃないか? 信じてくれるのは嬉しいけどな。
 と、ここで森さんが凛とした声で叫ぶ。
「では、障害は解決されたと判断し、これから閉鎖空間の中心部へ移動します。ここから先は何が起きるかわからないから
確認警戒を怠らずに」
『了解!』
 全員の元気のいい声がこだまする。待っていろよ、ハルヒ、長門、朝比奈さん。絶対に助けてやるからな。
 
◇◇◇◇
 
 俺たちはついに連絡橋を越えて、閉鎖空間の中心部に突入した。ここからは誰も戻ったことがない生還率0%の世界。
何が起きても不思議ではない。が、
「なんてこった……!」
 突きつけられた現実に俺は唖然とするばかりだ。
 現在、俺たちは北高から10キロ程度離れた山の上にいた。特に敵に遭遇もせずにここまでたどり着いたわけだが、
それもそのはず、ハルヒを乗っ取ろうとしている連中は俺たちの相手をしている暇がないらしい。
 双眼鏡で北高周辺の様子を見ると、あの光り輝く神人が辺りを破壊し尽くす勢いで暴れていた。
それなら何度かみかけた光景ではあるんだが、その神人に向けて猛烈な勢いで光弾が浴びせられている。
子供のころにみた湾岸戦争で空に撃ち上げられる大量の対空砲火みたいな状態だ。
「まるで戦争じゃねーか! 何がどうなっているんだよ!」
 谷口がでかい声でわめく。発砲音らしき音がそこら中に響いて、大声でしゃべらないと相手の声を聞き取れないのだ。
 古泉は森さんと何やら話し込んでいたが、やがて俺の元に近づき、
「事情はよくわかりませんが、あまりこのままにしておいて良さそうな状況ではありませんね。
ここは僕が出て神人を片づけることにします」
「だがよ、それでどうこうなる事態か? ――っ!」
 すぐ目の前の市街地からまた多数の光弾が撃ち上げられ始め、轟音が鼓膜どころか地面を揺るがす。
 古泉は片耳をふさぎつつ、俺の耳元で、
「涼宮さんはあの神人が暴れている付近にいると想像できます。それにあれだけの火力ですからね。
何かの拍子でこちらに向けられれば、あっという間に全滅ですよ」
 確かにその通りだ。少なくとも連中がこっちに注意を向けてない間にケリを付けた方がいいかもしれねえ。
この状況が長門の言う仲間割れの一環なら漁夫の利を狙うべきか。
「その通りです。しかし、僕一人ではいきません。あなたも一緒です。最終的にはあなたが必要になるでしょうから」
 いや待て。お前みたいに俺は空を飛んだりはできないぞ。ってまさか……
 古泉は自分の背中を指さすと、
「僕の上に乗ってください。そうすれば、一緒に涼宮さんの元にたどり着けますから」
 にこやかに言ってくる古泉とは対照的に、俺は泣きたくなってしまった
 
◇◇◇◇
 
 俺は古泉の背中に覆い被さるように立つ。やれやれ、まさかこの年になって他人の背中に乗ることになろうとは。
しかも、相手がうらやむような美形野郎で俺と同い年と来ている。マジで勘弁してくれ。
「しばらくの我慢、我慢です。そうすれば、何もかも終わりますから」
「へいへい」
 そう言って俺は古泉の肩に手を置く。と、森さんが俺たちの前に立ち、
「恐らくこれが最後の任務となるでしょう。ですが、特に作戦などは決めません。あなた達二人に全て任せます。
思うようにやっていいわ」
 その顔は上官と言うよりも、信頼していると顔に書いてあるような優しげな笑みを浮かべていた。
そして、俺たちに背を向けて他のメンバーを見回すと、
「これより、最後の任務を果たします! 古泉たちは目標である涼宮さんたちの確保、わたしたちはこの場所を死守し、
古泉たちの帰還できる場所をします!」
 ――ここで肩を上げるような深呼吸をしてから――
「古泉、わたしたちはあなたに背中を預けます。信じた道を進みなさい。代わりにあなたたちはわたしたちに背中を預けて。
絶対にここを動かず、あなたたちの帰りを待ち続けるわ」
 この言葉に古泉はヘルメットを少し深くかぶり、
「わかりました……!」
 その返事とともに、俺たちの周りを赤い球状のフィールドが展開される。そして、そのまま遙か上空へと飛び上がった。
 
◇◇◇◇
 
 灰色の空の元、俺は見慣れた待ちを真上から見下ろしていた。いやはや、まさか飛行機にも乗らずに上空から
自分の街を見ることになるとは考えもしなかったね。
 北高周辺では相変わらず神人が暴れに暴れて、辺りを廃墟に変えていた。マンションに向けて振り下ろされる腕、
民家を踏みつぶす足。それらが繰り返されるたびに轟音が鳴り響き、ミサイルが着弾したような砂煙が空高く舞い上げられる。
神人を目撃したことはあまりなかったが、こうやって注視してみるとかなり恐ろしい破壊力を持った存在だ。
古泉はずっとあんなものを相手に戦っていたのか。
「さすがに慣れましたよ。神人の動きは複雑ではありませんからね。初めて遭遇したときは
あまりの恐ろしさに立つこともできませんでしたが」
「あんなのを見て平然としている方がどうかしているさ」
 古泉の言葉に、俺は感心と畏怖を込めて答えてやる。何だかんだで大した奴だよ、お前は。
 神人に向けて一直線に飛ぶ俺たち。神人の周囲からは相変わらず砲撃か銃撃のような攻撃が続いている。
しかし、そんなものを浴びせられ続けても神人の暴走は止まりそうにない。
「一旦、近くの建物に降ります。そこで状況を再確認しましょう」
 そう言って古泉は高度を下げて、手近にあったビルの屋上に降りた。北高まであと数キロ。距離が近くなったせいか、
神人の破壊行動に伴う衝撃が、身体に直にぶつけられてくることを感じる。
 俺たちは持っていた双眼鏡で神人の様子を眺め始めた。暴れている場所は北高の校庭付近のようだった。
 古泉は双眼鏡から一旦目を離すと、真剣な表情で額に指を当て、
「神人は一体だけのようですね。他に発生は確認できません。それならば僕一人でも対処はできますが、
やっかいなのはあの周りから浴びせられている攻撃の数々です。あれをかいくぐりながら、神人を倒すのは
結構至難の業になりそうですから」
「目的はハルヒたちの奪還だろ? 無理に倒す必要なんて無いじゃないか。そもそもハルヒが発生させたかどうかもわからねえ。
いっそ放っておいて、北高に突入してハルヒたちを探した方がいいと思うぞ」
 俺の提案に、古泉は珍しく驚嘆の表情を浮かべて、
「ナイスアイデアです。神人退治が専門だったせいか、少々倒すことに固執してしまっていたようですね。
それでいきましょうか」
 そう言って古泉が立ち上がろうとしたときだった。突然、鉄がきしむ音が俺の耳に届く。振り返ってみれば、
屋上から階下に通じる出入り口の扉が開き、そこから――
「――なんだこいつら!?」
 そこから出てきたものを見て、俺は悲鳴を上げてしまった。全身タールで覆われたような真っ黒な身体、口避け女の如く
大きく開かれた口、そして、周囲の光を反射して爛々と輝いている不自然に大きな目。そんな妖怪変化な物体が3つほど、
こちらを見ていた。
 俺が唖然としていると、次の瞬間、俺たちに向かって銃弾が数発放たれた。運良くこちらには当たらず、
屋上の手すりに辺り火花が飛び散る。気が付けば、そいつらの手には短銃のようなものが握られていた。
こっちに殺意を向けているのは確実だ。
 俺と古泉は背負っていた自動小銃をすぐさま握ると、そいつらめがけて一斉に撃ちまくった。
こっちの反撃を予測していなかったのか、その3つの物体はあっけなく全弾を全身に浴び、ばたばたと床に倒れ込む。
「今のはなんだ……?」
「さ、さあ……」
 さすがの古泉も今のが何だったのか理解できないようだった。俺はその正体を確認すべく、
警戒しながら動かなくなったそれらに近づき、銃口で突っついてみる。
「……人間……か?」
 それらは形だけ見れば、人間のように見えた。だが、とても正常な状態には見えない。病気ってわけでもなさそうだ。
 と、古泉が双眼鏡で神人とは別の方向を眺めている事に気が付く。そして、見てくださいとその方角を指さしたので、
俺もそれに続いた。
 その先には別の3階立てのビルがあった。その上にはさっきここに現れた奴らと全く同じ容貌の人間もどきが
群れをなして神人を見つめていた。指を指したり、何やらでかい口で周りとしゃべりながら、まるで観戦気分といった感じで、
神人の暴れっぷりを眺めている。
「ひょっとしたら、あれがあなたの言っていた【彼ら】なのではないでしょうか? とても人間の姿には見えませんが、
この閉鎖空間の中心部分にいるということは、他に考えられません」
「だが、俺が以前見かけたのは普通の人間の形をしていたぞ。あんな妖怪人間モードじゃなかった」
 俺の反論に、古泉はあごに手を当てて、
「これは推測に過ぎませんが、彼らの姿を見てください。まるで欲を丸出しにしているように見えませんか?
長門さんは、【彼ら】は自らの欲望を暴走させていると言っていましたから」
 俺にはただの化け物にしか見えないが……。だが、それが本当だとしたら、あんな姿になってまでハルヒを――ハルヒの能力を
求めるなんて狂っているとしか思えねえ。ますますあんな連中にハルヒを渡すわけにはいかないな。
 ふと、何かのエンジン音のようなものが聞こえ、屋上から真下を走る道路の様子を見渡す。
そこには装甲車のようなごつい車輌が走っていき、その後ろを数十人のあの黒い化け物たちが追いかけている。
何だかもう訳がわからん。カオスな状態だな。
「そろそろ行きましょう。彼らの一部と遭遇した以上、僕たちの存在を捉えられた可能性もあります。
ぐずぐずしている時間はないと考えるべきです」
 俺もそれに同意して頷くと、再び古泉の背中に手を置き、そのまま上空へと浮かび上がる。
 さて、ここからが本番だ。まず神人に接近して北高の様子を探る。可能ならそのまま北高に突入してハルヒたちを探す。
これでいいよな、古泉。
 …………
 …………
 ……古泉?
「え、ああ。すみません。周りに集中していてあなたの声に気が付きませんでした。何ですか?」
「おいおいしっかりしてくれよ。とりあえず、神人に接近してくれ。可能ならそのまま北高の屋上に降りて欲しい。
あとは校舎内を片っ端から調べてハルヒたちを探すんだ。それでいいか?」
「わかりました」
 古泉は俺の言葉を了承すると、一直線に神人に向けて飛行を開始した――が、突然身を曲げて急上昇を始める。
俺にかけられた重力で身体がひん曲がりそうになり、思わず抗議の声を上げようとしたが……
 すぐにその行動の意味がわかった。俺たちのすぐ真下を光弾数発がかすめていったからだ。
「おい古泉! 今のもしかして俺たちに向けられた攻撃か!?」
「どうやらそのようですね! また来ますよ! さっきとは比べものにならないほどの量が!」
 振り返ってみれば、背後から雨あられの如く光弾が俺たちに向けて飛んできている。冗談じゃない。
あんな猛スピードで飛んでくる物体が当たれば、身体が木っ端みじんに粉砕されちまう。
奴ら、俺たちの存在に気が付いて排除しにかかったな。以前と違って確保ではなく、抹殺に動いているのは、
攻撃してきている連中が俺たちなんて必要と判断していないのか、そもそも俺たちのことなんか知らないのか。
どっちでもかまわんがね。
「速度を上げて、もっと上空に上がります! しっかりしがみついていて下さい!」
「お前に任せた! 好きにやってくれ!」
 俺の返答とともに、古泉は今までよりも遙かに速いスピードで飛び始めた。そして、高度を上げて光弾をかわしていく。
だが、かなりの砲火をこっちに向けたらしい。そこら中の地上から、俺たちめがけて光弾が次々と撃ち上げられてきた。
 そんな猛攻の中でも古泉の動きは見事だった。急上昇、急降下を繰り返し、または螺旋状に回転したり、急激なターンで
光弾を撃ち上げている連中の目測を狂わせたりと、全てきれいにかわしていく。よく知らんがバレルロールとかブレイクとか
そんなものか? しかし、しがみつくだけで精一杯な俺にはそんなことをいちいち確認している余裕はない。
 ようやく古泉の飛行状態が安定し、俺は目を開けて辺りを見回す。見れば、もう神人は目の前に迫っていた。
よし、まずは――
 そこで俺は2つのことに気が付いた。神人の胸元辺りに人影のようなものが見える。
この距離ではぼんやりと人の形をしているぐらいしかわからないが。
 もう一つが非常にまずいものだった。神人からそれなりに離れたところから、2つの物体が撃ち上げられ、
そいつらが煙を吐き出しながら俺たちめがけて飛んできている。
 俺は古泉のヘルメットをつかんで、その存在を知らせる。
「おい古泉! 何かこっちに飛んできているぞ!」
「――あれは対空ミサイルでしょう。さっきから無誘導で飛んできているものとは違ってあれを対処するのは少々面倒ですね」
「脳天気なことを行っている場合か! どうするんだ!?」
 古泉はしばらく黙っていたが、やがて意を決したように、
「神人との距離が近すぎます。二つを同時に相手はできませんから、一旦距離をとってから対処しましょう!」
 そう言って、速度を上げて神人から離れ始めた。ちくしょうめ。せっかく目の前まで来れたってのに!
 俺たちは上空1000メートルぐらいまで上昇し、他の光弾の射程外にする。さて、これでこっちに向かってすっ飛んでくる
ミサイルに集中できるってもんだ。
 古泉の飛行速度はかなり速いが、さすがにミサイル以上ではない。背中に迫ってくるその姿は次第に
細部まではっきりと見えるくらいに接近してきていた。
 とりあえず、無駄かも知れないが、俺は古泉の背中に乗りながら自動小銃を構えて、その二つのミサイル向けて撃ちまくる。
運良く当たって爆発でもしてくれないかと思ったが、この高速飛行中でしかも片手は古泉の肩をつかんでおかないと
振り落ちてしまうような不安定な姿勢で撃ちまくっても当たるわけがなかった。じりじりとこちらとの距離を詰めてくる。
「まずいな! ここからじゃ当たりそうにねえ! もっと近づいてきたらそこを狙って――!」
「無理です。あの手のものは目標に接近したら自爆しますので、近づかれた時点でこちらは終わりでしょう」
 古泉の冷静な解説はありがたいんだか、対応策がないんじゃこのまま直撃コースだぞ。どうすりゃいいんだ。
そうだ、古泉の超能力なら破壊できるんじゃないか? カマドウマを吹っ飛ばすぐらいの威力はあるんだから。
「確かに、僕の超能力ならミサイルを破壊できるでしょうが、あなたを背負ったままではそれも満足にできません」
 ちっ……俺がお荷物状態か。あんなものがすっ飛んでくるってわかっていたら、途中で降りておけば良かったな。
だが、今は後悔している時間も惜しい。だったら!
「わかった、古泉。俺はここで一回下車させてもらうぞ。ミサイルの方はお前に任せるから、破壊後に俺をキャッチしてくれ!」
「本気ですか!? 危険すぎます! 大体、僕が破壊に失敗したら、あなたはそのまま地上に激突しますよ!」
「えらく本気だ! どのみち、このままだと二人ともおだぶつだからな! ってなわけであとよろしく!」
 俺はとおっとかけ声を上げて、古泉の背中から空中に身を投げ出した。ふと、ここでミサイルが俺めがけて
飛んできたらどうしようと不安がよぎるが、幸いなことにこ2発とも古泉を追いかけていってくれた。
あとは少しでも落下の速度を抑えるべく、テレビでやっていたスカイダイビングを思い出し、できるだけ空気を全身に
ぶつけるようなポーズを取る。
 程なくして、上空で大きな爆発が2つほど起こった。頼むぞ、古泉。ここで投身自殺みたいな終わり方はしたくないからな。
そのまま数十秒ほど落下が続いたが、やがて赤い球体に包まれた古泉がこちらに向かってきた。
そのまま俺を抱きかかえるようにキャッチして、また背中に背負わせる。
「全く無茶しますね、あなたも。涼宮さん並ですよ」
 あきれ顔の古泉。全く俺もすっかりハルヒウィルスに犯されてしまっているんだろうな。
 と、ここで古泉が数回頭から何かを振り払うような動作をした。
「おい、古泉どうかしたのか?」
「いや――大丈夫です。何でもありません。ええ、大丈夫です」
 大丈夫と連呼する古泉だったが、どうみても様子がおかしい。いつの間にか、あのインチキスマイルがすっかり消え失せ、
何かの苦痛に耐えているような苦悶の表情に変化している。だが、それも無理ないだろう。
さっきからあれだけの攻撃を浴びせられつつけ、それを紙一重でかわし続けているんだ。
精神・肉体ともに疲弊してきて当然といえる。これ以上長引かせるのはまずいな。
「よし古泉。とっととケリを付けるぞ。また神人の前に行ってくれ。そういや、あの化け物の胸の辺りに人がいたように見えた。
そいつを確認しておきたい。できるか?」
「わかりました……!」
 ここでまた頭を振るう古泉。もう少しだ、すまんががんばってくれ古泉。
 古泉は身をかがめると、スキーの直滑降の如く、急降下を始めた。この高度から一気に降りれば、奴らもすぐに対応できないから
周囲からの攻撃も最小限に押さえられるはずだ。
 次第に神人の頭の部分が近づく。と、こっちの動きに気が付いたのか、目なのか何なのかわからないものが俺たちに向けられた。
『来るなっ!』
 俺の頭に飛び込んできたのは、聞き覚えのない青年の声だった。同時にその巨大な腕を俺たちめがけて振り回し始める。
『なんでだよっ! どうして邪魔するんだよ! そっとしておいてくれよ!』
 訳のわからんわめき声が脳内にこだまするが、俺は徹底的に無視することにした。お前らの事情なんてあとで聞いてやる。
まずハルヒを返してもらうぞ、話はそれからだ!
 古泉は器用に神人の腕をかいくぐり、目標である神人の胸元前を通過した。速度が速かったため一瞬しか見えなかったが、
そこにいた人間の姿は俺の脳裏に完全に焼き付いた。
「キョンっ! 古泉くん!」
 あの聞き慣れて決して忘れる事なんて絶対に無いと断言できる声。間違えるわけがねえ、ハルヒだ。そしてその隣にいるのが
朝比奈さん。二人とも俺が知っているあの日のままの姿だった。北高のセーラー服姿も変わっていない。
あの二人が神人の胸元に取り込まれた状態になっている。
『さっきまでいいって言ったのに、どうして約束を破るんだ! この嘘つき女!』
『うるさい! よくも騙してくれたわね! 絶対――絶対にあんたのいうことなんて聞いてやらないんだから!』
 再び脳内に響いてきたのは、さっきの青年の声とハルヒの言い争いだ。
 ……この野郎。ハルヒに何かしようとしやがったな。おまけにあんなところに埋め込んで、
光弾の直撃でも受けたら二人が無事で済まねえぞ。
あと、長門はどうしたんだ? 姿が見えないが、別のところに捕らえられているのか?
 俺は長門の姿を確認するべく、古泉に神人の周りを飛ぶように指示しようとするが、先ほどからとは比べものにならない
砲火がこちらに向けられ、たまらずに神人のそばから離脱する。せっかく近づけたのに、また距離が離されちまったか。
 だが、俺は何となく現状を理解することができた。手段はわからないが、連中の一人がハルヒに取り入ろうとしたのだろう。
そして、うまい具合に近づくことができたものの、ハルヒの持ち前の勘の鋭さでその謀略を見破り、拒絶したんだろうな。
んで、それにぶち切れた野郎が神人を発生させて大暴れ。周りにの連中は抜け駆けしたとでも思ったんだろうか、
それを阻止すべく攻撃を仕掛けているってところか。全くしっちゃかめっちゃかだ。組織だっていないってのは、
強大な組織を相手にするよりやっかいだぜ。やることなすことバラバラだからな。
 また、俺たちは神人からの数キロメートルのところまで後退する。次こそ、ハルヒたちを取り返してやる。
すまんが姿が確認できていない長門は後回しだ。ハルヒたちを取り戻せれば居場所もわかるかもしれないしな。
「古泉! もう一度、神人の胸元に行ってくれ! 次こそ、ハルヒたちを――おい古泉? 聞いてんのか!?」
 俺の呼びかけに古泉は反応しなかった。代わりに耳を押さえ始めて激しく頭を振り始める。
 様子がおかしい。さっきからどこか違和感を憶えていたが、てっきり疲労によるものだと思っていた。だが、何か変だ
「違う……僕は!」
 古泉は苦悩に満ちた表情で、突然叫んだ。それが向けられたのは俺じゃないのは明白だった。
誰としゃべってやがるんだ?
「おいしっかりしろ! どうした何があった!」
 身体を揺すって聞き出そうとするが、また砲火が激しくなる。ふらふらと単調な動きをしているためか、
かなり至近距離をかすめる光弾が増えてきた。このままだといずれ直撃は必至だ。
 俺は何とか古泉の状態を把握しようと、もう一度呼びかけようとするが、
『邪魔をするな』
 低く悪意のこもった声が俺の耳に飛び込んできた。誰だ……? この働きかけのやり方は連中と同じものだ。となると……
『おまえは黙ってみていろ。今この男は事実を知ろうとしているのだから』
 訳のわからんこといいやがって。事実だと? それはハルヒをお前らがどうこうしようとしているっていうことだけだ。
だから、俺たちはそれを取り戻す。それ以外の何でもないね。
『ほう。この男を信用できるのか? こいつは機関という組織から送り込まれたエージェントだぞ。
涼宮ハルヒを中心としたお前らの枠組みなど、組織への忠誠の前では無に等しい。いざとなれば、この男はすぐに裏切る』
 そんなわけがないな。今までずっと付き合ってきたが、出会った当初はさておき、今ではすっかりSOS団の一員さ。
今更ハルヒたちを投げ捨てて裏切るようなマネは絶対にできない。こいつはそういう奴だからな。
『なぜそうと言いきれる? 全てこの男の演技かも知れない。何の確証がある?おまえらを裏切らないという確証がどこにある?』
 証拠だと? ははっ。そんなものは無いね。
『哀れだな。それはお前の思いこみに過ぎない。いつか裏切られる。必ず』
 ああ、そうかもしれないな。俺は古泉の全てを知っているわけでもないし、細かい事情とかはっきり言って知らん。
知ろうとも思わないな。だが、はっきり言えることがある。
 俺は数回古泉の背中を叩くと、
「もうこいつなしのSOS団なんて考えられないんだよ。誰か一人がかけてもダメだ。いけ好かない点や胡散臭さ満載だが、
それでも俺にとって古泉はSOS団の一員さ。だから、俺は信じるよ。こいつがSOS団を裏切るわけがないってな。
例え裏切るような事態になったら、二、三発ぶん殴って目を覚まさせてやる。それで十分だ」
 不思議とこんな状況でも俺の心は動揺しなかった。疑いのかけらも全く頭に浮かばずに自然と口から信頼の言葉が出る。
 俺に対する語りかけは無駄だと悟ったのか、声の主はしばらく沈黙を続けた。
 だが、次に放たれた言葉は衝撃的だった。
『おまえがそう思っていても、この男は違うようだな』
「……なんだと?」
 この時古泉の顔は青ざめ、すっかり精気を失ってしまっていた。唇をかみしめ、冷や汗が首筋を流れていき、
目は大きく見開いたまま瞬きすらしない。
 こいつ……古泉に何をしやがった!?
『事実を伝えたに過ぎない。この男はお前の求める枠組みに取って必要ない存在だと言うことをな』
 そんなわけがねえとさっき言ったばかりだ。古泉だってそれをわかっているはず。
『この男にはすでに帰るべき場所が存在している。涼宮ハルヒを中心とした枠組みが崩壊したとき、この男は酷く絶望した。
無力な自分に腹を立て、何もできない現実に憤った。しかし、それでも元には戻らない。そんなこの男を周りの人たちは
手厚く守った。時に優しく、時に厳しく、時に暖かく』
 ……森さんたちか。こいつも普段はひょうひょうとしていたが、やっぱり俺が昏睡状態になった上、
ハルヒたちまでいなくなったことがたまらなく辛いことだったんだ。だが、それに何の問題がある?
いい人たちに囲まれて古泉は幸せだっただろう。
『だが、この男はそんな人たちの優しさを無視して、それでも涼宮ハルヒの枠組みに戻ろうとしていた。
世話になった人たちの気持ちを全て裏切って』
 バカ言え! それは絶対に違うと断言できる。森さんたちは古泉を支えたが、SOS団のことを忘れさせようとした
訳じゃないはずだ。そんなことをする理由もない。
『この男には帰るべき場所がすでにある。そこは涼宮ハルヒの元ではなく、2年間ずっとこの男を支えてくれた人たちのところだ。
あくまでも涼宮ハルヒの元に行こうとするなら、その人たちへの明確な裏切り行為と言っていい。
そして、おまえは涼宮ハルヒの元へ戻るために、この男の力を利用するどころか、支えた人たちへの裏切り行為を助長させている』
 ふざけた意見だ。曲解にもほどがある。どれだけそんなことを言われようが、森さんたちに話を聞くまで、
俺は絶対に受け入れねえ。
『おまえはそうかもしれない。だが、この男はどうかな?』
「くっ……」
 俺は唾棄するように、苦渋のうめきを吐き捨てた。古泉の奴、こんなふざけた戯れ言に惑わされているってのか。
いい加減目を覚ませ! 屁理屈の応酬はお前の得意分野だろ?
 こんなやりとりをしている間に、砲火はますます激しさを増していく。さらに、前方の市街地から小さな煙を吐く物体2発が
撃ち上げられたことに気が付いた。さっきよりも小型のものだが、あれも対空ミサイルだな。
『余計なこと……!』
 さっきまで無機質だった声のトーンが変わり、激怒の色合いに変化する。チャンスなのか、ピンチなのかわからんが。
とにかく古泉の目を覚まさせないとならねえ。
「おい古泉! しっかりしろ! こんなばかげた話なんて聞くんじゃねえ! とにかく今は――そうだ上昇しろ!
前方からまたミサイルがすっ飛んできているんだ! このまま直撃すると二人ともやられちまうぞ!」
 そう言ってまるで操縦桿を操る如く古泉の頭を引き上げると、きれいに上昇を始めた。
すまん古泉。こんなもの扱いなんて俺だってしたくないが、今は緊急時だ。帰ったらコーヒーをおごってやるから勘弁してくれ。
 だが、背後を追いかけてくるミサイルはやはり小型ながら速度はこちらよりも上だ。じりじりと距離を詰めてきている。
「僕は……裏切った……?」
「違う! そんなことは裏切りでも何でもないんだよ!」
 古泉の独白みたいな言葉に、俺は無我夢中で反論するがやはり古泉の耳には届いていない。
 どうする――どうする!?
 俺は手持ちの荷物に何か使えるものはないかと、ドラえもんが道具を探すようにあれこれ片っ端から掘り返し始めた。
すると、一つの手榴弾が手元に残る。
 ……できるのか? そもそも可能なのか?
 だが、悩んでいる時間なんて無い。もうミサイル二発はすぐ背後まで迫っているんだ。
 古泉の頭をさらに引き上げ、上昇角度を高くする。できるだけミサイル2発を下にあるようにしなけりゃならんからな。
あとは、この手榴弾にかけるしかない。
 俺は覚悟を決めて手榴弾からピンを引き抜いた。そして、爆発寸前まで手で握りしめ、タイミングを見計らって
背後にミサイルに投げつける。
「……っ!」
 激しい閃光と衝撃に、俺は意識を失ってしまった――
 
◇◇◇◇
 
 ――俺ははっと自分が気絶していることに気が付き、あわてて目を開けた。
 視界に入ってきたのは、逆さまになった世界。そして、俺はその地面に向かって一直線に落下を続けている。
やばい、このままだと洒落にならないぞ。
 俺はすぐに古泉の姿を確認しようと辺りを見回した。すると運のいいことにすぐそばに、俺と同じように自由落下を
続けている古泉がいた。ただ、俺とは違い意識はあるようで、しきりに口を動かして何かをしゃべっている。
 すぐに泳ぐように俺は古泉の方へ移動して、落下を続けているこいつの身体にしがみついた。
「大丈夫か、古泉!」
「…………」
 俺の呼びかけに古泉は冷めた視線だけを俺に向けてきた。そして、小声でぼそぼそとつぶやき始める。
「僕は……帰ります」
「何言ってんだよ。もう目の前にハルヒたちがいるじゃねえか」
「涼宮さんたちのところではありません。森さん、新川さん、多丸さんたちのところにです……」
「ああ、そうだな。だが、それはハルヒたちを助けてからだ」
「もういいんです……僕が勘違いしただけでした。SOS団に僕なんて必要ないんですから」
「…………」
「勝手にそう思っていただけでした。必要とされているし、だからこそ僕もSOS団副団長でありたいと思っていました。
だけど、それはただの思いこみだったんです」
「……何ふざけたことを言ってやがる!」
「あまつさえ、森さんたちの善意を僕は踏みにじろうとしてしまった。僕をあれだけ大切にしてくれた人たちを無視して、
僕なんてどうでも言いSOS団に拘っていたんです。バカとしか言いようがありませんよね……」
「そんなわけがあるか! お前は騙されているんだよ! あいつらの常套手段だ! 大体何の根拠があって、
SOS団に自分が必要ないなんて思っているんだ!?」
「さっき神人に接近したときに、涼宮さんはあなたの名前しか呼ばなかった。僕のこと何滴にもかけていない証拠です。
涼宮さんにとってあなたさえいればいいんですよ……」
 古泉の言葉に、俺は記憶の糸をほじくり返し始めた。あの時、ハルヒはなんて言った? 確か、俺の名前と――ああそうだ。
古泉の名前もしっかりと呼んでいた。
「いいか古泉! あの時ハルヒはお前の名前もきちんと呼んでいたんだよ! かなりの大声だったからお前にも聞こえたはずだ!」
「嘘だ。僕には聞こえなかった。涼宮さんはあなたさえいればいいんだ……」
「それは捏造だ! おまえに語りかけている奴が何か細工しただけだ。俺が保証してやる。ハルヒにとってお前は必要なんだよ」
 だが、古泉は全く俺に言葉に聞く耳を持たない。それどころは、少し強い目つきで俺を睨みつけると、
「あなたもあなただ。あなたも涼宮さんだけいれば良いんでしょう? そのために僕を利用しているに過ぎないんだ。
もういい、疲れた。僕は森さんたちの元に帰る。あの人たちは僕を受け入れてくれる。あなた達なんかと違う――」
 ……いい加減ぶち切れたぞ、古泉! あまりの言いようじゃねえか! ああ、お前が理解していないってなら教えてやるまでだ!
 俺は激怒に身を任せ、古泉の胸ぐらをつかみ上げる。そして、それこそ、鼻息がかかるほどまで顔を近づけて、
「――ふざけんなっ!」
 自分のあごが外れるかと思うほどの怒声をぶつけてやる。さすがにこれには驚いたのか、古泉が目を見開き、
きょとんした表情を浮かべた。俺はそのまま続ける。
「いいかよく聞け! 確かにハルヒがお前のことをどう思っているのか、確実なことをは何も言えねえ。
俺はハルヒじゃないからな。そんなこと聞きたきゃ、本人にあって直に言えばいい。
だから、ここは俺の素直な気持ちを言うことにするぞ」
 ――一旦深呼吸をすると――
「まず最初に謝っておく。俺の意識がどこかに飛ばされている間に、はめられたとは言えおまえに疑いを持ったあげく、
殺しちまったんだからな。だが、お前を失ったときに俺がどれだけ絶望したかわかるか!?
もう元のSOS団には戻れない。古泉がいなければ、SOS団は成立しない――もうあんな気持ちは二度とご免なんだよ!」
「…………」
 古泉は黙ったままじっとまじめな面で俺を見つめている。
「俺にとってもうSOS団ってのは、誰一人かけてはいけないんだ。ハルヒも長門も朝比奈さんも、当然古泉、お前もだ。
俺にとってお前は絶対に必要なんだ。ああ、だからといってお前を支えてくれた森さんたちを否定するつもりは毛頭ねえ。
いいことじゃないか、それだけ信頼できる仲間がいるなんてうらやましい限りだぜ。だけどな、だからいって
どちらかを選ばなければならないなんて事はないはずだ。お前は森さんたちの仲間であると当時に、
SOS団の副団長なんだ――それでいいんだ! だから、俺たちの元に――」
 この時、俺は自分が今どのくらいまで落下しているんだろうとか、全く気にならなかった。頭にあるのはたった一つの言葉。
 
「帰ってこい! 古泉一樹!」
 
 俺の渾身の台詞に、古泉の顔がまるで急速充電されたかのように、みるみると精気と取り戻していく。
そして、すぐさま俺の身体を引き寄せると背中に乗せて、また超能力飛行を再開した。
「すいません! がらにもなくバッドトリップしてしまっていたようです!」
「いや……正気を取り戻してくれるならそれでいいさ」
 何だが、とんでもない事を言っていたような気がしてきたおかげで、古泉の目を見ることすらできやしねえ。
しかも気が付かないうちに、古泉の背中にあぐらをかいて座っているし。なにやってんだ、俺は。
 すっかり忘れていたが、俺たちはいつの間にやら地上数十メートルの辺りまで落下してたらしい。あぶないあぶない。
もうちょっとで床に落ちたトマト状態だった。
 と、古泉は何やら肩を振るわして笑っているようだった。嫌な予感がするが、念のため聞いてやる。何がおかしいんだ?
 古泉は、空を飛んで背中に俺を乗せているにも関わらず、器用に肩をすくめると、
「いやはや、驚きましたね。まさか、あなたからあんな言葉が聞ける日が来るとは」
「……何の話だ?」
 すっとぼける俺に古泉は嫌がらせをする子供みたいな笑顔を浮かべると、
「おや、お忘れですか? 僕の顔の真正面で『俺にはお前が必要だ!』なんて――」
「あーうるさいうるさいうるさい! 聞こえねえぞ、砲撃の音がうるさくて何にも聞こえねー! あーあーあーあーあー!
これ以上お前の背中に乗っているのが、いい加減ウザくなってきただけの話だ!」
 ああちくしょう。何であんなこっぱずかしい事を言ってしまったんだ。しかも、俺の顔が紅潮して、耳まで赤くなっていることが
わかるのがなおさら恥ずかしい上に、むかついてくる。
 しばらく古泉は神人の周りを移動しながら苦笑していたが、
「……いいでしょう! あなたの意見に同調しておきます。そろそろ決めてしまいましょうか!」
「ああ、これ以上時間を費やしても仕方がないからな!」
 そう言って俺たちは神人に迫った。今度は低高度から、急上昇してハルヒたちのところに向かう。
ハルヒたちの位置はつかんでいるから、問答無用に神人を解体してやるつもりだ。
『来るなぁっ!』
 神人を動かしている野郎が絶叫して、俺たちめがけて光る腕を振り下ろしてきた。だが、古泉が華麗な手さばきで腕を振るうと
大根がきれいに切られたように、その腕が切り落とされた。
「このまま一気に神人を崩壊させます。その時、涼宮さんたちをあなたがキャッチしてください」
「了解した! お前は存分に暴れてこい!」
 俺たちは急上昇を続け、次第にハルヒと朝比奈さんの姿を視界に捕らえ始める。
「古泉くん! キョン!」
 ハルヒの声。ほれ見ろ、古泉。お前の名前もちゃんと呼んでいるだろ?
「ええ……そうですね! 今回は僕の耳にもはっきりと聞こえましたよ!」
 やたらと嬉しそうな声を上げる古泉。ま、ハルヒだってお前がいなくなって良いなんて思っていないさ。
あいつにとってもSOS団はなくてはならない存在だろうからな。
 俺たちが迫るにつれて、神人の暴れはさらに激化した。
『来るな来るな! 何で邪魔するんだよ! せっかく手に入ったのに! 何で奪おうとするんだ!』
 身勝手なことばかり言いやがって! お前らが俺たちSOS団を奪って、あまつさえ世界をめちゃくちゃにしたんだぞ!
そんなふざけた連中にハルヒを渡せるか! 返してもらうからな!
 俺は古泉の背中から、ハルヒめがけて思いっきり飛んだ。急上昇の加速と併せてまるで空を飛ぶようにハルヒに近づく。
一方で古泉はここぞとばかりに全力を出したのか、赤い球状に完全変形するとUFOが動き回るような異様な速度で
神人を切り裂き始めた。そして、神人が完膚無きまでバラバラに解体される。
 ハルヒと朝比奈さんは拘束状態から脱し、そのまま落下を始めた。俺は二人に向かって必至に手を伸ばす。
ハルヒも同じだ。だが、届くか届かないかかなり微妙な距離になってしまっている。
くそ――肩とか手首とは言わない! せめて指一本だけでも握らせてくれ! それで十分だ――
 俺の願いをハルヒは読み取ったのか、すぐに指を俺の方に突き出してきた。
 すぐにその指をとっさにつかむ。そして、少し引き寄せると、次に手首、肘と次第に引き寄せていって、
最後には二人の腰を両腕で抱きしめた。俺は二人の感触を味わうかのように、強く強く抱きしめる。
 二人をキャッチした辺りで、俺たちはゆっくりと落下を始めた。早いところ、古泉に拾ってもらわないと、
3人とも地面に激突してしまうが、あまりの歓喜の感情に全身が高揚してしまい、全く気にならなかった。
 よく言う。失ったときにその価値が初めてわかると。
 だが、俺にはその続きがあると今理解した。一番、実感できるのは取り戻したときだ。この身体がまるで浮いていくような
爽快感と感激。
 
 ――もう離さねえ! 絶対に離さねえっ!!
 
 しばらくそのまま落下が続いたが、やがてハルヒが俺を思いっきり睨みつけてきて、
「バカバカバカバカバカバカ! この大バカキョン! 二年も団長を放って一体何やってたのよ!」
「……無茶言うなよ。俺だってついこないだようやく目を覚ましたばかりの病み上がりなんだ」
 と弁明してみるが、案の定ハルヒはこっちの話を全く聞かずに、俺に朝比奈さんの顔を突きつけると、
「ほら見なさいよ、みくるちゃんの可愛い顔がこんなにやつれちゃって……あんたのせいだからね!」
 言いがかりにもほどがあると思うが、確かに朝比奈さんに負担をかけてしまったのは、断じて許せん話だ。
すいません、朝比奈さん。ようやくお迎えに上がりましたよ。
「キョンくん……」
 朝比奈さんはすっと俺の肩に額を押しつけてくる。
 ふと、長門の存在を思い出し、
「そうだ長門! ハルヒ、朝比奈さん! 長門は知りませんか?」
「ここにいる」
 そう無感情な長門口調で口を開いたのは、朝比奈さんだった。って、なんだどういうことだ?
「わたしのインターフェースは一時破棄した。その方が【彼ら】に察知されずに動きやすかったため」
「長門さん、それ以降あたしの頭の中に住み着いちゃって……」
 長門モードから朝比奈さんモードへ戻る。何だよ、ちゃっかり全員そろっていたのか。しかし、長門よ。
お前はそれでいいのか?
 また朝比奈さんモードから長門モードに変わると、
「問題ない。わたしという記憶を含んだ情報が存在していればいい。インターフェースはいくらでも再構築できる。
それにこの身体はわたしには合っていないと思っている。身体のバランスが悪い、それに歩くだけでなぜかエラーの蓄積される」
 それを聞いたとたん、俺は思わず苦笑してしまう。朝比奈さんは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
まあ、それならいいけどな。
 ここでようやく俺の襟首が掴まれ、落下速度が緩やかになる。見上げれば、古泉が俺をつかみ上げていた。
「古泉くん! 久しぶりっ!」
「ええ、お久しぶりです、涼宮さん」
 二人は笑顔で挨拶を交わした。ま、何はともあれ、これでSOS団は復活ってわけだ。
「このまま、森さんたちのいるところまで移動します。少々辛い姿勢が続きますが、我慢してください」
 そう言って古泉はのろのろと移動を始めた。どういう訳だか、さっきまで猛烈に撃ち上げられていた砲火がぴたと収まっている。
 そんな中、ハルヒはオホンとわざとらしく咳をつくと、
「ま、まあ、いろいろあったけどさ。ここは団長からキョンの全快を祝って、挨拶ぐらいしておかないとね」
 その言うと、初めて俺に見せるような優しげな笑顔になり、
「お帰りさない……キョン」
 ――ああ、ただいまだ。ハルヒ、SOS団のみんな。
 
◇◇◇◇
 
 森さんたちのいるところに近づいてきた辺りで気が付く。閉鎖空間の果てが明るくなりつつあること。
ずっと灰色の世界だったが、まるで夜明けのように光が差し込みつつあった。そして、もう一つがすすり泣くような嗚咽の声。
それも恐ろしくたくさんの人間が発しているものだ。ホラー映画のワンシーンみたいで、俺の全身に鳥肌が立っていく。
 それを確認した朝比奈さん(長門モード)は、
「【彼ら】が泣いている」
「……何でだ?」
 最初は疑問符を浮かべる俺だったが、すぐに理解できた。
 ……連中にとっても、もうハルヒ以外には何もないのかも知れない。
「これは簡単には閉鎖空間から出してはくれなさそうですね。もう一波乱あるかも知れません」
 古泉の言葉に、俺はやれやれ勘弁してくれとため息を吐くことしかできなかった。
 
~~その6へ~~

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最終更新:2020年07月02日 20:36