「キョンくーん、ハルにゃんが来てるよー」
 日曜日の朝っぱらから妹に叩き起こされる。いい天気みたいだな。
 いてっ、痛い痛い、わかった。起きるから。いてっ、起きるって。
 
 慌てて準備をして下に降りると、ハルヒはリビングでくつろいでいた。
「あんた、何で寝てんのよ」
「用事がなかったら日曜日なんだから、そりゃ普通寝てるだろ」
「普通は起きてるわ。こんないい天気なのに。あんたが変なのよ」
 たとえ俺が変だったとしても、こいつだけには絶対変とか言われたくねぇ。
「で、今日はどうしたんだ。お前が来るなんて聞いてないぞ」
「んー、今日はなんかキョンが用事あるらしくって、暇だから遊びに来たのよ」
 今のを聞いて何をわけのわからないことを、と思った人間は間違いなく正常だ。なら俺は何だ?変人か?
 そうだな、わかりやすく説明すると、この涼宮ハルヒは異世界からやってきた涼宮ハルヒなのだ。
 
 
 
 
『涼宮ハルヒの交流』
―エピローグ―
 
 
 
 
 もうあれから数ヶ月が過ぎ、俺たちは基本的には落ち着いた日々を過ごしていた。
 あの日、異世界から『俺』とこの涼宮ハルヒが、初めてやってきた日、病室はとんでもない混沌状態だった。
 俺たちの方のハルヒが病室に帰ってきて、この二人の存在がばれそうになった瞬間、俺は諦めて目を瞑った。
 その後、ハルヒの声に目を開けると、二人の姿は消えていて、ハルヒは何も見ていないようだった。
 一瞬、今までのことは全部夢なんじゃないかとも思ったが、周りの連中の顔色からそうでないことは明らかだった。
 後で古泉に確認したところ、二人はドアが開いた瞬間にふっ、と消えていったそうだ。
 そういうわけで、なんとかその日は乗り切ったのだが、なぜかこいつは度々こっちに遊びに来るようになった。
 ハルヒにだけは絶対にばれないようにと頼みこんだのだが、こいつはわかっているのかいないのか。
 ちなみにこっちのハルヒとこのハルヒの違いは、顔を見ればなんとなくわかるようになった。
 
 俺の部屋にハルヒを連れて行き、尋ねる。
「で、どうしてお前はちょこちょここっちの世界に来るんだ?向こうで遊べよ」
「せっかく来れるんだからその方がおもしろいでしょ、なんとなく」
 別にどっちもたいして変わりゃしないだろ。
「それとな、お前らわざわざこっちの世界にデートするために来るのはやめてくれ。
こないだ鶴屋さんに見られてたらしく、やたらとにょろにょろ言われて大変だったんだぜ」
 ハルヒはしたり顔になる。
「こっちの世界ならなにやってもあんたたちのせいにできるし、人目を気にしなくてすむのよ。
あ、犯罪行為とかは今のところするつもりないから安心していいわよ」
 くそっ、お前らが町でめちゃくちゃするせいで俺らが学校でバカップル扱いされてるっていうのに。
 何度かその様子が谷口と国木田にまで目撃されて、かなり冷やかされちまったんだぜ?
 いや、まぁこっちの俺たちの学校の様子に原因がないとも言えないが。
 
「で、あんた今日は暇なのよね?ホントに?」
 だからさっき用事はないって、……あ!
「やべっ、忘れてた。もう少ししたらハルヒが来る」
「あんた何やってんのよ。あたしが来てなかったらまだあんた寝てるわよ。せいぜいあたしに感謝しなさい」
 言ってることが当たっているだけに何も反論できん。
「それにしてもどうしようかな。有希のところにでも行こうかしら。それともみくるちゃんで遊ぼうかな」
 みくるちゃんで、ってなんだよ、で、って。
「帰ればいいだろ。向こうのSOS団で遊べよ」
「そんなこと言ったって、こっちの有希とじゃないとできない話とかもあるのよ。
あたしのところの有希とは、お互いまだ秘密が守られてるっていう暗黙の了解があるし。
それをわざわざ自分から崩すなんて無粋なことしたくないし」
 いや、お前から粋なんて感じたことはないから安心しろ。
「どっちにしろ早く行かないとまずいんじゃないのか?お前は長門の家までワープで行くのか?」
「そんなことできるわけないでしょ。もちろん徒歩よ」
「だったら早くしないと、もうハルヒが来るぞ」
「そうね、じゃあ有希のところに行くわ。またね」
「ああ、それじゃ……ってやっぱ待て。時間がまずい。行くな。最悪玄関でハルヒと鉢合わせになる」
「じゃあどうすんのよ。……あ!三人で遊ぶってのはどう?楽しそうじゃない?」
「却下だ却下。考える間でもない」
 全然楽しそうじゃない。間違いなく俺の負担が数倍になってしまう。
「……とりあえず帰ってくれないか」
「嫌よ。それ結構疲れるのよ。って言ったでしょ」
 だから疲れるんならいちいちこっちに来るなよ。
 
「……わかった。なんとかしてみる」
 仕方なく携帯電話に手を伸ばす。
 なかなかでないな……。コール音が8回程度のところでやっと声が聞こえる。
『……もしもし、どうかしましたか?』
「都合悪いのか?ならやめとくが」
『結構ですよ。それよりご用件は?』
「ああ、すまんな。今ハルヒがどのあたりにいるかわかるか?」
『先ほど家を出たようですから、……あなたの家まであと3分といったところでしょうか?』
 3分?ってもうすぐそこじゃねぇか。
「今向こうのハルヒが俺のところに来ていて困ってるんだ。なんとか長門の家まで運べないか?
なんか帰りたくないってわがまま言ってて困ってんだ」
『……それは困りましたね。5分もあればそちらにタクシーを寄越せますけど』「くそっ、無理だ。他に何か――」
 ピンポーン。
 ああ、間に合わなかった。何が3分だよ。1分もなかったじゃねぇかよ。
「……どうやらもうハルヒが来ちまったようだ。お前3分って言わなかったか?まぁいい。これからどうす――」
『ご武運を』
 プツッ。
 ってまじかよ。あいつ切りやがった。信じられねぇ。
 
 下で妹が何か言ってるのが微かに聞こえる。
「とりあえずどこかに隠れるか、帰るかどちらかにしてくれ」
「そうね。おもしろそうだからちょっと隠れてみるわ」
 おもしろそうとかで行動するのはまじで勘弁してくれ。
「キョンくーん。なんかまたハルにゃん来たみたいだよー。なんでー?」
 いや、妹よ。お前は知らなくていいんだ。
「とりあえず待っててもらうように言っててくれ。準備ができたら行くから」
 くそっ、どうすりゃいいんだ?
 長門に頼むか?しかし、長門はハルヒには力が使えないって言ってたな。
 
 ピンポーン。
「はーい」
 誰か来たのか?また妹が相手をしているようだが。
 
 しばらくすると再び妹が部屋に来た。
「みくるちゃんが来たよー。それでね、『10分間涼宮さんを連れだします』って伝えてって言ってたよー」
 どういうことだ?でも朝比奈さんナイスだ。助かりました。
 このチャンスに、再び携帯電話を手にとる。……今回も長いな。何かやってんのか?
『……もしもし、どうにかなりそうですか?』
 なりそうですか?じゃねぇよこのヤロー。
「説明は面倒だ。時間がない。とりあえず家にタクシーを頼む。5分あればなんとかなるんだろ?頼む」
『わかりました。すぐに新川さんを向かわせます』
「サンキュー、よろしくな」
 電話を置いてハルヒに話しかける。
「とりあえずなんとかなったぞ。5分で古泉からタクシーが来る」
「あたしもう来たんじゃないの?どうして助かったの?」
「事情はよくわからんが朝比奈さんに助けられたようだ。どうしてわかったんだろうな」
「みくるちゃん?……なるほどね。たぶんあんた後でみくるちゃんに連絡することになるわ」
 なんだって?どういう意味だ?
「そのうちわかるわ」
 そう言ってニンマリ笑う。
「まぁわかるんならいいさ。それより長門の家に行くんだよな?なら連絡するが?」
「あ、そうね。やっぱいきなり押し掛けるのは人としてどうかと思うしね」
 お前は何を言ってるんだ?お前は今何をやってるかわかってないのか?それとも俺ならいいってのか?
「……じゃあ連絡するぞ」
 
 長門の携帯に電話をかける。
『何?』
 って早っ!コール音なしかよ。
「あ、いや、今俺のところに異世界のハルヒがいきなり遊びに来たんだが、俺はハルヒと約束があるんだ。
で、この異世界ハルヒがお前と遊びたいみたいなこと言ってるんだが、どうだ?」
『いい』
「迷惑ならそう言えばいいんだぞ。お前もせっかくの休日だろ?いいのか?」
『問題ない』
「……わかった。ありがとよ。じゃあもう少ししたらここを出ると思う。よろしくな」
『だいじょうぶ。……私も楽しみ』
「そっか、ならいい。じゃあまたな」
『また』
 
 ふうっ、と、電話を置いて一息つく。
「だいじょうぶみたいだ。長門も楽しみだってさ」
「そう、それは良かったわ」
「それにしても、お前長門に変なこととか教えるなよ」
「変なことって何よ。あたしは人間として当然のことを有希に教えてあげてるだけよ」
 俺はお前に人間として当然のことを教えたい。
 
 ピンポーン。
 三たびチャイムが鳴らされる。
 今度は妹がすぐにやってくる。
「キョンくんタクシー来たよー。ってあれー、どうしてハルにゃんがいるのー?」
 頼むから気にしないでくれ、妹よ。
 
 タクシーで長門の家に向かうハルヒを見送った後玄関先で待っていると、すぐにハルヒと朝比奈さんが現れた。
「あんた、こんなとこで何やってんの?」
「何って、お前を待ってたに決まってるだろ?」
「そ、そう。わざわざ出てこなくても中にいればいいのに」
 ちょっと照れてるみたいだ。
「それじゃあ、私は帰りますねぇ」
「あ、朝比奈さん。わざわざありがとうございます」
 すると、朝比奈さんは近づいてきて、俺の耳元でささやく。
「私は実は少し未来から来ました。後で私に伝えておいてください」
 あっ!なるほど。さっきハルヒが言ってたのはそういうことか。
「今日の午前10時にキョンくんの家に行って、涼宮さんを10分ほど連れだすように伝えてくださいね」
「わかりました。後でやっておきます。今日はありがとうございます。助かりました」
「お願いね」
 そういって極上の笑顔を浮かべると、少し手を振り、朝比奈さんは去って行こうとして再び戻ってきた。
「あの……今日はちょっと都合が悪いの。できたら連絡は明日以降にしてもらってもいいですかぁ?」
「はあ、構いませんけど。用事でもあるんですか?」
「えぇっと、この時間の私は今は古いず……あっ!な、なんでもないですぅっ。禁則事項ですっ。それじゃあ」
 そう言うと、朝比奈さんは大慌てで走って行った。
 何だって?古いず……?古いず、古いず。まさかその後には『み』が来るんじゃないでしょうね?
 そんなばかな。いくらみくるだからってそこに『み』は来ませんよね?
 
「あんた、何やってんの?みくるちゃんなんだって?」
「あ、ああ。いや、ちょっと頼まれごとをしただけだ。気にするな」
「……まぁいいわ。中に入りましょ。お茶でも煎れてあげるわ」
「ああ、そうだな。サンキュ」
 
 こんな感じで、ドタバタしながらも異世界との交流はまだ続いている。
 
 
 
『涼宮ハルヒの交流』 ―完―
 
 
 
 


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