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 「キョンの馬鹿ぁ!」
部室棟に響き渡る怒声と共に、俺にお茶がかけられ
かけた当人のハルヒは勢いよく文芸部室から飛び出してしまった。
 「待てハル・・・くそ、行っちまいやがった」
俺達はいつも通りの放課後を過ごしていたが、ハルヒという台風に巻き込まれれば
たちまち部室は愚か全世界が引っ掻き回されてしまう。
俺は大した事を言ってないつもりなのだが、どうやらハルヒの機嫌をまた損ねてしまったらしい。
長門が無言で、朝比奈さんがおろおろした態度で、古泉が険しい表情で俺を見つめている。
 「出来れば今すぐにでも涼宮さんを追ってほしいのですが、
  その体で今校舎を歩き回るのは問題がありますね」
俺は長くなってしまった髪を鬱陶しく背中へと流す。
朝比奈さんの淹れたてのお茶をぶっ掛けられた所為で、また俺は女になってしまった。
ハルヒに見られなかったのはいいが、このままでは追いかけることができない。
 「ああ、畜生どうすれば」
俺が行かないと閉鎖空間が拡大してしまう。
頭を掻き毟って無い知恵を振り絞っていると、長門がとことこと傍に駆け寄ってきた。
 「長門?」
 「任せて、腕を出してほしい」
言われた通りに腕を捲くって長門の目の前に差し出す。
すると長門が俺の手首を掴み、何時かやられたように可愛らしい唇を皮膚に当てて
何やら注入し始めた。歯が立てられているだけで注入されている感触はないが、
何回かこの光景を見ているので今回もそうなんだろう。
 「終わった」
長門の手が離れる。何をしたんだと聞く前に俺は自分の体の変化に目を剥いた。
 「え、なんで制服が変わっちゃったんですかぁ」
朝比奈さんが驚くのも無理はない。
俺は今女性陣が普段着ている北高のセーラー服姿になっていた。
ご丁寧にブラジャーまで着いてるし、上履きのサイズもぴったりになっている。
 「何をしたんだ?」
 「限定的体組織変化対応モードを一時的に付加した」
相変わらず漢字ばっかり並んでいるが、つまり
 「つまり、彼が女性になればセーラー服を着用し、男性になればブレザー姿になると。
  しかし限定的というのは?」
 「彼が制服を着ているときでないと効果を発揮しない。今はそれで事足りると判断した」
古泉、俺の台詞を取ってでも説明したいのか。まあいい。
兎に角これで俺は一介の女子高校生にしか見えないわけで、
外に出ても不審者と思われることがない。
 「そうか、毎回すまないな長門。
  ついでにもう1つだけ。今ハルヒは何処にいる?」
 「2年5組の教室」
即答とは流石万能宇宙人だな。2-5教室って事は俺達のクラスって訳か。
なんでそんな処にいるのか知らんが、学校の外に出て行ってないだけマシである。
善は急げというし、さっさとハルヒのところに向かうとするか。
 「サンキュー。じゃあ俺はこのまま教室に寄って帰るわ。
  古泉、怪我すんなよ。朝比奈さん、夜道に気をつけて帰ってください」
 「涼宮さんをよろしくね」
 「よろしくお願いします。あなたの背中に世界がかかっていますから」
いちいち言う事が大げさなんだよお前は。
俺は床に転がっていた鞄を掴み、ハルヒの後を追った。
友人を助ける為に必死に走り続けたメロスと比較するのは大それた事だが、
階段を一段飛ばしで降り、中庭を通って廊下を駆け抜けていく。
そうそう、まず教室に行く前にトイレに行って頭に水をかけないとな。
でもこの場合、男子トイレと女子トイレのどっちに入ればいいんだ?
えーと確かここを曲がった先にトイレが。
 「wawawa忘れ・・・うおっ!」
 「った!」
どうやら出会い頭に誰かとぶつかったみたいだ。
俺は走っていたから運動量の関係で相手が飛ばされてしまい、俺も後ろに倒れてしまった。
なんかよく知る間抜けた声がした気がするんだが。
 「ったく、気をつけ――」
起き上がるとそこには何と谷口がいた。あああ面倒な奴に見つかっちまった。
谷口は上半身を起こしたまま、しまらない顔で俺の事を凝視している。
もしかしてバレたか? 
しかしそれは杞憂だったらしい。いきなりマジ顔になったかと思えば、
すくっと立ち上がると俺に手をさし伸べて、
 「お嬢さん、お怪我はありませんか?」
なんて言いやがった! うっわ、普通に引く。
古泉のようなイケメンがやれば様になるんだろうが、谷口がやってもウザいだけだ。
でも本人は気づいてないんだよなぁ。だからクリスマス前に振られるんだよ。
 「あ、大丈夫です」
バレてないのなら好都合。さっさとこの場を後にして、水を被ってハルヒに会いに行くぞ。
俺は立ち上がって埃を叩くと、礼をそこそこにその場を過ごそうとした。
 「待ってください!」
だがそうは問屋が卸さなかった。
なんとコイツは俺の腕を突然掴んだではないか。
 「ここで会ったのも何かの縁。見れば俺らは同学年のようですし、
  親睦を深めるためにもこの後喫茶店にでも行きませんか」
ナンパされた。しかも台詞が陳腐過ぎる。
 「ぶつかってしまって、ごめんなさい。先を急ぐんで、それじゃ」
無理やり腕を振り払うと、俺は一目散にその場を後にした。
後ろのほうで谷口が何か行ってるが構ってられん。俺は今世界の危機に直面してるんだよ。
あートイレあった。誰もいないし男子トイレでいいか。
タオルは確か今日の体育で使った奴が鞄に入ってるはずだ。



次の日。俺はいつものように登校していた。
あの後ハルヒと一緒に帰り、古泉から閉鎖空間の消滅したことを知った。
イレギュラーな出来事はあったが、世界が改変されなかった事に比べたら些細な事だ。
 「よう国木田。今日も早いな」
 「お早うキョン。ほら谷口も」
谷口の机に目を向けると、腹でも痛いのか奴は机に突っ伏していた。
 「どうしたんだ谷口。元気ないじゃないか」
 「・・・ああ、ようキョン」
顔をまた上げたかと思えば、また伏してしまった。
どうしたんだ一体。
 「なんでも昨日運命の人に出会ったーとかで、
  何組の女の子だったか思い出してるんだって」
 「はあ?」
もしかして頭をぐりぐりやってるのはその所為なのか?
そんな事で思い出せるのならテストで赤点なんか取らねぇよ。
 「そうだ、キョン! お前放課後に髪の長い女子を見なかったか?」
 「知らねぇよ、大体髪が長い女って何処にでもいるだろうが」
朝比奈さんや鶴屋さんだって美しい長い髪を持っておられるし、
そう珍しいものじゃないだろ。
しかしどうもコイツのいう条件が当てはまりそうな奴を1人知ってる気がするんだが。
 「昨日廊下でその子とぶつかったんだよ。化粧はしてなかったが、あれはいい女だ。
  間違いない、その子が俺の運命の人なんだ!」
やっぱり俺なのかああああ! 運命も何もただぶつかっただけじゃねぇか。
しかも俺あの時逃げたぞ。腕も無理やり振り切ってやったし。
普通そこまでされたら断られたと思うだろ。
 「問題はその子が何組かわからないって事だ。
  全クラスの女子生徒の顔は全部覚えているはずなのに!
   ああ俺の運命の女神はどこだああ!!」
その記憶力を勉強方面に回せばいいと思うぞ。
しかし、谷口に見つかってしまったのは面倒だな。
コイツはこういう事だけには無駄な行動力を発揮するし、
その内2年のクラスを片っ端から漁るんじゃないか? 骨折りにしかならんがな。
谷口は頭掻き毟ってぎゃーぎゃー騒いでるし、国木田は無視して課題をやり始めた。
やれやれ、女化しても学校を歩き回るのは暫くやめたほうがいいだろう。
あ、国木田。1時間目の宿題写させてくれ。

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