「・・・古泉、なんでそいつが居る」
俺の開口一番。これ以外何と言えば良い?
「いえ。実は今回貴方に用事があるのはこの人でして。土下座までして頼まれたので仕方なく請け負って」
古泉は相変わらずのニッコリスマイリングで答える。
「その用事ってのは?」
「さぁ?僕にも解りません。まぁ、とにかくそういう事ですので、僕はこれで・・・」
何でもない休日。その日に俺はこのニヤケ面に呼び出された。
そんでもって、そいつはある奴を連れて来て自分はそそくさと帰った。
さて、場には二人残る。
「で・・・お前が、何の用だ?」
俺に呼ばれて、ビクリと反応する。
古泉に頼んで俺を呼び出したのは、他でもない。
あの、橘京子だ。
「・・・えっと・・・そのぉ・・・えっとぉ・・・」
何かもじもじと顔を赤らませて言葉を詰まらせている。
油断なら無いが、可愛いと言えば可愛いのだろう。
「す・・・す・・・す・・・」
「す?」
「すご、凄く愛してます!私と超付き合ってください!!」

・・・・・・・・・・・・・ん?

反応出来なかった。一瞬停止した思考回路を思い切り稼動させる。
何か知らないが物凄いニュアンスを含んだ言葉で叫ばれたぞ。
例えるなら雷に打たれながらDir en greyの生演奏を梅しば食べながら見るような衝撃だ。
曲はCLEVER SLEAZOIDがZOMBOIDを推奨するね。
自分が吐いた言葉にかなり衝撃を覚えたのか橘は顔を驚愕と恥の色に染めて下に向けた。
これは演技か。それともリアルなのか。
考えてみれば敵と呼ぶに相応しい相手だ。うん、それ以外何者でもない。
策略か?孔明の罠か!?あー解らない!!
こうなったらストレートがまさに必勝方法だ。
「罠か?」
「ち、全然違います!!」
顔をバッと上げて橘は反論する。
「私個人の意思です!ただ、ひたすらに私が、私が、貴方を大好きで―――」
「あぁ・・・その、なんだ。周りの視線が痛いんだが」
そうだ。場所を考えろ。ここを何処だと思ってる?
イトーヨーカドーの地下一階のマクドナルド。
・・・なんか、非常に、微妙。
「ご、ごめんなさい・・・」
「あぁ、そう落ち込まなくて良いぞ。熱意だけは感じたからな」
「熱意だけじゃ駄目なんです!私の思いが―――」
「周りの視線が・・・」
「ご、ごめんなさい・・・」
「まぁ、熱意は伝わった」
「熱意だけじゃ駄目なんです!私の思いが―――」
「周りの視線が・・・」
「ご、ごめんなさい・・・」
「まぁ、とにかく熱意は伝わった」
「熱意だけじゃ駄目なんです!私の思いが―――」
「周りの視―――」
「もう、ごまかさないで下さい・・・」
どうやら本気のようだ。
泣きかけ、っつかもう泣いてる双眸が揺れながらもしっかりと見つめてくる。
「返事が欲しいんです」
ぎゅっ、とそう言って覚悟を決めたように目を思いっきりつむる。
返事か。そうだな、返事をしてあげないといけない。

しかし・・・なんて返事をすれば良い?

こんな状況は初めてだし、どうしたら良いのか解らない。
でも、こんなに健気な相手を裏切れないという感情だけが大きくなる。
どうしたら良い。俺は、本当にどうしたら良い。
「あの・・・やっぱり駄目、ですよね?」
唐突に言われた。
「やっぱり・・・そうですよね。私、貴方にとって敵ですもんね・・・・・」
「待―――」
「良いんです。解ってましたから。時間を取らせて・・・すいませんでした」
橘はそういうと走ってどこかに行った。
「おう!兄ちゃん追いかけろー!!」
どこぞのジジイに言われなくても解ってるさ!!
っつか、何でこんな時間帯に酔っ払いがイトーヨーカドー地下に居るんだよ!!
そんな疑問を振り切って、俺は食いかけの照り焼きマックバーガーを片手に立ち上がった。
そして橘京子を追いかける。俺は男であいつは女。少しずつ背中が近づいている。
何処を走ってるのかも解らない。ただ、ひたすらに追いかけた。

そして、気付くとイトーヨーカドーの立体駐車場の屋上に居た。
「待てよ、橘・・・」
待てと言わなくても、もうあいつの逃げる場所なんて無い。
「何ですか?何か用ですか・・・?」
振り向かず俺に背を向けたまま聞いてくる。
「まだ・・・返事言ってないぞ、俺は」
「良いです。解ってます。聞きたくありません」
「良いから聞け」
「イヤです!」
「聞けッ!!・・・黙って、聞け。良いか?」
橘京子は俺の方に振り向くと少し小さく頷いて、俯いた。
「俺とお前は・・・確かに相反する者同士だ」
「・・・解ってます。だから」
「でもな、別にそんな事関係ない。お前は、真剣に俺が好きなんだな?」
「・・・・・はい」
「じゃあ、良いじゃないか。敵同士なんて知った事じゃない。そんな理由で気持ちを裏切る事なんて出来ないからな」
俺の言葉に顔を上げる。驚愕の表情で。それを見ながら俺は言葉を、続ける。
「・・・橘の気持ちを、俺は受け入れるよ」
「・・・!!」
信じられないという表情で口を押さえて、橘は俺を見つめる。
「本当に、ですか?」
「嘘は言わない。そんな空気じゃない」
俺は橘に歩み寄ってそっと抱きしめた。
そして、言ってやる。
「だから、本当だ」
「・・・ありがとうございます」
こうしてみると橘京子は華奢な体付きだった。強く抱きしめたら壊れそうなぐらい細い。
今まで気付かなかったけど、こいつも女の子なんだとしみじみ実感する。
そりゃ、恋だってするだろう。あぁ、しないわけがないさ。
「良かった・・・恋が叶った」
そう呟いて、橘の体から力が抜ける。
「どうし、た・・・!?」
「・・・大丈夫。何でもないです」
「嘘をつくな」
そっと額に自分の額をくっつける。凄く熱い。
「バカ。こんな状態になってまで俺に会いに来たのか?」
「ううん・・・朝方は大丈夫だったのに・・・えへへ・・・やっぱり、私の体は駄目だね・・・」
橘は苦しそうに、しかし健気に笑う。
一体何が何だかわからない。とにかく近くの病院に俺は橘を担ぎ込むしかなかった。
運が良いというべきだろう。
そこは古泉の知り合いが経営している病院であるのは。言ってしまえば『機関』関係の病院だ。
さっさと病院の奥に通され、そして検査が行われる。
数十分後。
「情報によると橘さんは過去に心臓移植を受けてるようです。手術事態は成功してるようですが、体が相当弱ったみたいです」
「じゃあ、走ったりなんて事したら」
「当然、こうなるでしょう。下手したら死ぬかもしれませんね。階段の上り下りなんてもっての他です。
 今は処置をして安静にさせてますから、ご安心を。古泉を一応呼びますか?」
「・・・いえ、結構です」
医者は俺と橘を置いて病室を出て行った。
・・・バカな事をした。
あの時、ちゃっちゃと返事をしていればこんな事にはならなかったのに。
自分を責めずにはいられない。優柔不断さが、こんなにも人を苦しめたのだから。
「キョン、くん・・・?」
ふと、ベッドから弱々しい声が聞こえた。
「気がついたか!?大丈夫か!?」
「はい・・・心配掛けて、ごめんなさい」
「大丈夫さ。心配なんてしてないからな」
「嘘ですよ。そんなに泣いてるのに」
「あれ・・・何時の間に俺は・・・・・」
「嘘をついたら駄目ですよ」
「悪い」
「罰として・・・えっと・・・わ、私を抱きしめてください」
俺は橘をぎゅっと抱き締めた。女の子特有の甘い匂いがした。
そして、気付いた。
あぁ、なんだ。俺は初めからこいつが好きだったんじゃないか。
自分の素直さの無さに俺は、ほんの少し苦笑いした。

その頃廊下。
「良いんですか、言わなくて?」
「・・・古泉。来てたのか」
「えぇ・・・」
「・・・言えないな。あんなに幸せそうな二人を見てると」
「そうですね・・・」
「まさか、あの愛に限りがあるなんてな・・・」
「橘さんの余命は、あとどれくらいですか?」


「・・・あまり、長くないだろうな」
 
 

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最終更新:2007年08月17日 16:45