SOS団が解散――もとい俺たちが卒業してから1年が経とうとしている。
なんだかんだで俺は二流の私立大学に通っている。
ハルヒがしきりに同じ大学に行くよう勧めてきたものの、とてもあいつが行くような国立大に受かる頭はなく、受けに行ってもいない。
そして卒業式の日、いつもと変わらず部室に集まった俺たちにハルヒは言った。

「あたしたちももう卒業だし、SOS団はこれで解散にするわ! 縁があったらまた会いましょう!」

何となくその時にこちらをしきりに見ている気がしたのはやはり俺の気のせいだったろうか?
とにかく、それっきりハルヒとは連絡を取っていない。まぁ、縁があったらまた会えるんだろう。あいつがそう望むのならな。
それが「縁」ってやつなのかもしれないが。
朝比奈さんや長門、古泉とは卒業後も連絡を取り合っていたものの、春、夏、秋と季節を重ねるにつれてだんだんと疎遠になっていった。
特に古泉のあのにやけ顔を拝むことがなくなったのはいいことだろう。
俺の気分が害されない。……冗談だ。
ハルヒがあの灰色の空間を作ることがなくなってるってことだろう。
それとも、俺に代わる人物が、既にハルヒの傍に居るということだろうか。

だから俺はもう不要になったというのか?
それなら今まで連絡がないのも頷ける。
以前聞かされた「選ばれた」というフレーズが頭の中で繰り返される。選ばれたのにこんなにあっさり切り捨てられるのか。ざまあねぇな、俺。
軽い頭痛がした。まるで、頭が考えることを拒否するかのように。
今ではすっかりやらなくなった肩をすくめるあのポーズを一度して、
俺は溜息をついた。

いいことじゃないか。もうおかしな事件に巻き込まれて、過去に戻ったり、殺されかけたり、パラレルワールドを見たりしなくて済むっていうんだぜ。それこそまさに高校時代、ハルヒと過ごしていたあの頃の俺が望んでいたことじゃないってのかよ。
……畜生。大学のベンチで何度も肩をすくめてたら俺は変質者以外の何者でもなくなっちまう。
ああそうさ。俺は確かにあの高校時代が楽しかった。
部室の戸を開けるときにノックをし、朝比奈さんのメイドルックを鑑賞しながらお茶を飲み、古泉とボードゲームをする横目で読書する長門を眺め、ハルヒと一緒に市内を練り歩く。
危険というリスク以上に、そんな非日常の日常が好きだったのさ。
もう一度……もう一度会いたいなんて、俺らしくないだろうか。
いい加減寒くなってきた。妹にもらった下手糞だが暖かいマフラーを直し、膨らみかけた桜の蕾を眺めつつ門をくぐった瞬間。
ハルヒが居た。……などということはなく今日何度目か分からない溜息をついた。
自分の願望が達成されず落ち込むなんて、ハルヒか俺は。

「まったくです」

そう、まったく俺はなんて……ちょっと待て。
振り返ると、紛れもなく高校時代に見飽きるほど見たあのにやけた笑みがあった。

「お久しぶりです」
連れだって入った喫茶店で古泉はそんな挨拶とともに近況報告を始めた。
まず、古泉とハルヒは同じ大学に居るらしい。
ハルヒは大学では全てのサークルを見回ったもののどこにも入らず、だが今度は自分でサークルを立ち上げるようなことはなく、高校時代から頻度こそ減ったものの昔のように古泉と二人で市内を練っているらしい。 
ハルヒの超能力じみた能力も失われていないようで、機関が見張ることを考えると古泉が近くに居るのは当然だろう。
当然なことのはずなのに、心に蠢くこのどす黒い感情に気づいて、軽い自己嫌悪に陥る。聞こえないように舌打ちをした。

さて、古泉の話によると、朝比奈さんだが、高校を出て大学に行ったものの、ハルヒの卒業に合わせて大学を中退。ハルヒの下宿の近くに引っ越して就職したようだ。
いかがわしい職業ではないらしい。うん、それでいい。
長門は……古泉には分からないらしい。
卒業と同時に連絡を取らなくなったというから、ひょっとしたら長門と連絡を一番長く取っていたのは俺だったかもしれない。まぁ、ハルヒの近くにいて元気に観察しているのは確かだろう。
古泉の近況報告が済んだところで、俺は自分の近況報告もそこそこに、この一年ずっと気になっていたことをズバリ聞いた。

「ハルヒは……あいつには、俺はもう必要ないのか?」

ああ、俺にしてはかなり直球の質問だな。
何をそんなに焦ってるんだ俺は?
古泉はこちらを見透かそうとする目を笑顔のまますると(これがまたムカつく顔なんだが)、

「そんなこと僕に聞かれましてもねぇ?」

などとほざきやがった。

「ただ、高校在学中に比べて閉鎖空間が発生する数が格段に上がったのは確かです。しかし、閉鎖空間ひとつあたりの脅威は減少傾向にあります」
……日本語で説明してくれるとありがたい。

「噛み砕いて説明すると、涼宮さんが不愉快に感じる数は多いものの、ものすごく不愉快に思うことはまずなくなった――もしくは、意識的にそれを押さえつけようとしている、といったところでしょうか」

そこで古泉は一旦間をとった。
この野郎、もったいぶるんじゃねぇよ。

「何なら、会ってみますか?」

心臓が、核爆発を起こした。


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