「生徒会長が重傷!?」
僕は臨時教師としてやってきた新川さんの言葉に驚いて大声を出した。
はっとして自分の口を塞ぐが手遅れ。まだ世間へは公式発表のなされてない事なのであんまり大声だとまずい。
爆発事故の現場として周辺の廊下含めて封鎖されている生徒会室内なので多少は外に漏れても大丈夫だろうが。
「いきなりの事で驚くだろう。そりゃ、仕方ない」
「申し訳ございません。私が居ながら」
ぺこりと深く頭を下げる喜緑さん。そんな事はどうでも良い。
僕はぽかんとしている。それは自分で理解している。
だが、その情け無い表情から元のスマイルに戻せるほど今は落ち着いていられない。
あの生徒会の重傷。襲撃してきたのは朝倉涼子。
そしてその目的は僕の命だという。
「怖い、ですか?」
喜緑さんが僕の顔を覗きこんで尋ねてくる。えぇ、と頷く。
「大丈夫ですよ。私と長門さんで貴方を守護しますから」
「・・・そうじゃないんですよ」
「?」
「それよりも、彼女が心配なんです」
「神人さん・・・ですか?」
「はい」
僕の不安はやはり彼女だ。
人間とは違う神人。そんな彼女が死んだらどうなるか。
それ以前に、死なせるわけにはいかない。僕の大切な人だから。
でも相手はインターフェース。所詮、閉鎖空間の外での僕では到底敵わない。
だから彼女を巻き込ませるわけにはいかない。
でも、もし巻き込まれたとしたら。その時は?
不安が渦を巻いている。巻いて、巻いて、いつまでも巻いていた。
「大丈夫だ、古泉」
新川さんはそう言って僕の肩をとんとんと叩いた。
「いざという時には機関総動員でお守りしてやるさ」
「私もいますから平気です。あと、長門さんはもちろんですね」
「お二人ともありがとうございます」
新川さんと喜緑さんはにっこりと笑う。
多くの人に支えられてここに居る。当然の事だけど、それを再び重々理解した。
ふと生徒会室の扉が開いた。そして見慣れた陰が入ってくる。
「帰りのホームルーム終わりましたか、神人さん?」
「うん」
時刻は昼頃。本当は終わるような時間じゃない。
生徒会室が攻撃されたから捜査という事で職員も早帰りなのだ。
もちろん、捜査するのは我々機関である。
「じゃあ、帰りましょうか」
「うん!」
「では、失礼します」
僕たちは手を繋いでややこげた生徒会室から出た。
多少なり恐怖はあるけれども、神人さんが横に入れば大丈夫な気がした。
それに今は新川さん達や喜緑さん達も支えてくれた。だから、大丈夫。
そんな油断をしていたからだろうか。
隣に居る神人さんがキョロキョロと不安そうな顔で回りを見渡すのを見て知った。
突如として変わった空気に気付くのに恐らく数秒掛かってるだろう。
僕は自分の失態に腹が立った。奇襲を考えなかったわけでもあるまい。
このタイミングで来たその脅威にやや頭が混乱していると解る。
だけど、自分で処理が出来ない。
どこまでも続く長い、長い廊下。次元を捻じ曲げたかのように長い。
それは果てが見えない。果てが見えないが故に闇がある。
右も、左も解らない。窓があるべき側にも教室が並ぶ。
左右鏡になっていた。その廊下の向こう側に少女が一人立っている。
「朝倉涼子さん・・・ですね?」
「えぇ。はじめまして、だよね。古泉くん」
微笑むその少女から放たれる殺気という名前の無邪気。
純粋に殺す事を楽しんでいるような雰囲気。まさに快楽殺人者の域。
彼が出会った少女は間違いなくインターフェースだった。感情の無いが故の快楽殺人者だ。
神人さんを連れて逃げられるか。自信は無い。
ふと危険を感じて僕は近場の教室の扉を開けて神人さんを抱えて飛び込んだ。
「きゃっ!」
「少々乱暴ですいません、神人さん」
振り返ると廊下を何かが突き抜けていくのが見えた。
間違いなく当たれば死ぬ。
僕は恐怖を覚えながらも迎撃の準備に移った。
右手に赤い弾―――と言ってもとても小さいが―――を発生させた。
インターフェースが作り出す空間は構造上閉鎖空間にやや似ているところがある。
故に小規模ながら発生させる事が出来るんです。
僕は教室の前側の扉が開いたと同時にそれを放った。
「ふぅんもぉぉぉっふっっっ!!」
朝倉さんはその攻撃に目をやや見開いて回避しようとした。
だが、避けきれずぐしゅっという湿っぽい音と共に朝倉さんの右手が拭き飛んだ。
この程度の傷はインターフェースにとっては苦でもないだろうが、片手を再起不能にすれば多少は悪足掻きになるだろう
「なかなかやるわね」
にっこりと笑いながら朝倉さんは言う。
「死ぬわけにはいきませんからね」
「じゃあ、これならどう?」
そう言ってこっちに手を翳す。刹那、多量の刃物が飛んできた。
「負けません!!」
僕も左右両手を前方に翳す。
「ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんもっふ!!」
小さな赤い弾を何発を連射してそれを次々と叩き落す。
「頑張るわね。だけど・・・これで最後よ」
朝倉さんの手に光る何かが生えていた。
それは棒のようでもあり、羽毛の無い羽根のようにも見える。そして、悪の塊のようにも。
「ちなみに長門さんを易々貫通させれた代物だから、あっという間にあの世にいけるからね」
にっこりと笑いながら嫌な事を言う。
「じゃあ、死んで」
ふと、次の瞬間、空間に罅が入り、そこから無数の水晶が突き出てきた。
水晶はバリンと割れて粉々に砕け散り、小さな欠片一つ残さず消失した。
そして、
「進藤さん!?」
「ひーちゃん」
進藤さんがよいしょと罅割れの中から現れた。
「貴女が、対有機丸大豆コンタクト用ヒューマの井戸Inフェスティバル?」
いきなり思いっきり間違えてますね。
「大幅に間違えてるわよ、貴女」
インターフェースにまでつっこみさせるそれはある意味神の領域に突入してますね。
「長ったらしくて覚えられない。日本語難しいんだもん」
「そうなの。で、貴女は誰なのかな?」
「超能力者?」
なんで疑問文ですか。
「ふぅん・・・古泉一樹と一緒にわざわざわ殺されに来たの?」
「違う―――貴女を倒しに来た」
出資者・・・ではないが無理難題をおっしゃる。
「へぇ~倒せるのかな?超能力者にインターフェースが」
「うん」
うん、って。子供みたいに頷いたけど大丈夫なんでしょうか。
「じゃあ、殺してあげ―――」
「超能力者は閉鎖空間における神人退治の能力を持ってる人を一般に言う」
思いっきり朝倉さんの言葉を遮る進藤さん。
「いきなり何を言ってるの?」
「ただ、世の中には例外があるから、涼宮ハルヒの求めた事なのかは知らない。だけど、例外がある」
ちょっと日本語が気に掛かりますがこの際無視しましょう。
ツッコミいれられるような空気じゃないわけですからね。
「それが、私とお姉ちゃん。もっとも、私はお姉ちゃん程の異端ではないけど」
一体何を言ってるのか。そういう顔で朝倉さんは進藤さんの話を聞いている。
それはこちらも同じだ。超能力者の種類が一つではないという言葉の意味が解らない。
僕の知らない事を平然と語っている。
「お姉ちゃんは夢の海に生きる幻想。そして、私は現の地に立つ現実。それ故二つで、夢現」
そこで深い深呼吸をする。そして、進藤さんの姿が揺らいだ。
やがてすぅっと溶けるように姿を消す。
「私が統括するエリア内部で・・・!!」
朝倉さんが少し苦々しく呟く。そして辺りを見渡している。
ふと、突如天井から水晶が突き出た。朝倉さんはそれを回避する。
僕はただそれを見ていた。何が起きているのか解らない。
水晶が進藤さんがやっている事なら間違いなく僕が知っている超能力者ではない。
突き出た水晶はバリンと割れて跡形もなく消える。
今度は壁から水晶が突き出る、それを交わす朝倉さんの足元から水晶が浮上する。

―――べちゃ。

赤い血が飛び散る。宙を舞うように朝倉さんの右足が転がる。
当の本人は何が起きたのか解らないという顔でそれを見ている。
そして、右足が違う方向から出てきた水晶によって千切られた事に気づいて、その表情の色をあからさまに変える。
水晶の先には赤い物がべっとりとくっ付いている。
その水晶から突如別の水晶が生える。
「あ ― ― ― 。」
スローモーションのように流れる景色、朝倉さんの反応が遅れたのが目に見えて解った。
そして、水晶が朝倉さんの顔の右半分を抉った。
眼球が眼窩から飛び出て神経を引きずりながら転がる。顔の筋肉組織、骨格、脳をさらけだす。
それでも朝倉さんは立っていた。だけど、流石にその表情に余裕は見えない。
「まだやる?」
ゆらりゆらりとしながら進藤さんがすぅっと現れる。
「いえ・・・ひとまず、退却しないといけないかな・・・・・」
朝倉さんは苦々しく顔半分削れた恐ろしい顔で苦々しく笑うとその場から姿を消した。
「・・・二人とも、早くこっちへ」
声がした方を向くと進藤さんが空間の罅割れから手招きをしていた。
僕達はその中に飛び込んだ。そして、スタッと生徒会室前に戻った。
そこには喜緑さんがすまなそうに立っていた。
「すいません。構成された空間に進入できなくて助けるのが遅れました」
「・・・いいえ。向こうだって一筋縄ではいかないようにしてますよ。仕方ないです」
「すいません」
「それよりもですね―――新川さん」
「・・・解ってる。進藤日和の事だな?」
「えぇ、教えていただきましょうか。この人がどんな超能力者なのか」
一難は去った。とりあえず、今は頭の中にある疑問を解消したい。そう思った。
だけど僕は、いや、誰も気付いていなかった。問題はまだある事に。
歪んでいく神人さんの変化に。
 
 


|