情報統合思念体に報告を完了する。その日あった出来事をなるべく細かく。
一つ漏らさず。でも、伝えてはいけない事もある。それは私と彼の事。
誰にも言ってはいけない。誰にも知られてはいけないエラー。
だって、私はインターフェースだから。彼は、観察対象だから。
ふと、彼の声が聞きたいと思うエラーが起きた。私はそのエラーに従う。
あと少しで携帯電話に手が届く距離まで指が近づいたその時、

Under the namu of justice~Under the name of just kill~♪

彼の着信音が鳴った。さっと電話を手に取って受話ボタンを押す。
「もしもし」
『喜緑さん。今から会えませんか?』
彼の声がした。
「今から・・・ですか?」
時計を見る。もう夜も遅い。そんな時間に今から会いたいと彼が言う。
何かあったんだろうか。ちょっと不安になる。
「解りました」
『じゃあ、学校で待ってます』
学校で、待ってます?
待ってるって事はすでに居るっていう事なんだろうか。
だとしたら急がないといけない。何故、学校なのかはおいておきましょう。
私は急いで外に出る準備をして出て行った。

・・・・・・・・・・。

「キョンくん」
私は校門の前に立っている彼に声を掛ける。
その体がぴくりと反応してこっちに向いた。そして、
「すいません、喜緑さん。こんな時間に」
と一礼。
「いえ。どうしたんですか、いきなり」
「ただ、会いたくなっただけですよ。強いて言えば・・・一緒に学校忍び込もうと思いまして」
「学校に、ですか?」
「はい。どうもそういうガキっぽい事してみたくなって」
そう言って笑う。しかし、何故だろう。何かを隠しているような気がする。
気のせいかもしれない。だけど、気になった私は敢えて訊いてみた。
「何か、隠してません?」
ぎくっとした顔。解りやすくて助かります。こういうところも好きです。
何かあると解ったからには言う言葉は決まってます。
「何を隠していますか?」
深い自嘲の溜息。そして、彼は言う。
「・・・じつは、忘れ物しまして・・・しかし、学校に一人で入り込むのは恐ろしく・・・」
「そこで私に頼んだわけですか?」
ちょっとだけ、嫌なエラーが発生した。人はこれをむかつく、というのだろう。
しかし、同時に慈しみというエラーが発生していた。
「えぇ・・・すいません。こんな事で呼び出して。イヤなら一人で行ってきます」
だって、可愛いじゃないですか。こういうの。
「仕方ないですね・・・ここまで来たんですから一緒に行きますよ」
「ありがとうございます」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

夜の校舎というのは暗い。まぁ、当然と言えば当然ですね。
見慣れた風景と一変した光景っていうのは印象がだいぶ違います。
だからでしょう。深夜の学校で人が幽霊が出ると言い出したのは。
「あ、俺の教室ここです」
そう言って彼は中に入っていく。それに私も続く。
お目当てのものをあっさりと見つけたらしくそれを手に取る。どうやらノートのようだった。
「それにしても暗い学校ってだいぶ印象が違いますね・・・」
その言葉は聞くだけなら怖がっているように聞こえる。
けど、彼の顔は至って楽しそうだった。
私はそんな表情を見て、こっちまで楽しくなった気がした。
だから提案した。
「そんな中、これだけで帰るのはもったいないと思いませんか?」
「と、言いますと?」
「お茶、飲ませてくれませんか?」

・・・・・・・・・・。

SOS団の本部、こと文芸部の部室を私が開ける。
鍵が無いのでこうでもしないと開けられませんから。
「不思議の国へようこそ、アリス」
先に入った彼が仰々しくお辞儀をして私を中へと導く。
こういう演出を人は臭いと言うんだろうけど、私は嫌いじゃない。
キョンくんがやってくれるなら。
「失礼しますね、チェシャ猫」
私の返答に彼は微笑んで給湯ポッドの電源をコンセントに差し込んだ。
「温まるまで少しお待ちを。朝比奈さんのほど上手くは注げませんから期待しないで下さいね」
「期待して待ってます」
暗い部室。電気は宿直の教師に見付かると危ないから付けられない。
窓から入ってくる夜空と街灯の微かな光だけが頼り。
「SOS団本部に来るのはあの日以来ですか・・・」
あの日。初めてエラーに従った日。そして、彼とキスした日。
「びっくりしましたよ。貴女一人で来るとは思いませんでしたから。しかも、俺を見たくて来たって言われるし」
「びっくりさせちゃいましたか。それはそれは失礼しました。あ、そうでした。膝枕ありがとうございました」
「いえいえ。膝枕といえば・・・ギリギリでしたね、あの時」
「そうですね・・・くすっ」
今思い出すだけでも思わず笑まずにはいられない。じつに絶妙なタイミングだったから。
ズンズンという足音がして、慌てて立ち上がって少し離れたと同時に涼宮さんが入ってきました。
私をじろりと睨み付けてきて「何のよう?」って。
その後ずるずる引っ張って世間話をする事になったんですけどね。少しは打ち解けたと思います。
それにしても、まさか涼宮さんがアレだったとは・・・想像も出来ませんでしたが。アレが何かはみんなに内緒です。
ふと私の中のエラーがある事を欲した。
「あ、キョンくん。お湯が沸くまでもう一回膝枕してくれませんか?」
「えぇ、良いですよ」
彼はすっと正座した。
「どうぞ」
「失礼します」
私はしゃがんで、そのまま横たわり彼の膝に頭を置く。温もりが伝わる。
「あの時はいきなり膝枕を要求してすいませんでした」
「いえ、お気になさらず。喜緑さんの温もりを堪能できましたから五分五分です」
「そうですか・・・。ちょっとだけこのまま寝かせてもらって良いですか?」
「良いですよ。お湯が沸いたら起こすので構いませんか?」
「はい」
「解りました。それまでお休み、大好きな人」
「えぇ、おやすみ、大好きな人」

私は人間じゃない。インターフェース。だから、別に眠らなくても平気。
でも、彼の膝枕では別。眠たくないけどやっぱり寝たい。

―――優しい温もりが、そこにあるから。

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最終更新:2007年05月04日 05:29