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前回の粗筋。
今宵、メイド森園生による執事新川への尻バットが決行される。


そろそろ日も落ちて来た。
遊具の影が長くなり、カラスが鳴き声がオレンジに染まった空に響く。
がんがんと痛みが走る頭を軽く振り、
私は目の前の有り得ない現実を受け入れるべく再び目線を公園の中央へと向けた。
そこには、新たなる能力を得た朝比奈みくるを初めとするスーツ集団が…
背丈を頼りに見当を付けると、朝比奈みくるはレッド、谷口はイエロー、新川はブルーだった。
ちなみに鶴屋家長女と喜緑江美里の身長は大差無いのだが、
恐らくはグリーンのスーツが鶴屋家長女だろう。
何故なら、後に残っている人物が着ているスーツは黄緑色だから。
なんて解りやすい。
……あれ?ピンクは?
「頭痛薬買って来た。あと水も」
多丸の弟がスーパーのビニール袋を下げて公園の入口から入って来た。
「ナイスタイミング」
いつの間に抜け出したのかしら、と思う私を余所に、兄は親指を立てて薬を受け取る。
「もうちょっとだ。頑張ろう、みんな。
この戦いが終わったら――」
「兄さん止めてくれよ、それ死亡フラグじゃないか。
そんなもん立てるのは一樹くん一人で十分だ」
「違う違う。
この戦いが終わったら、
朝比奈みくるも涼宮ハルヒも鍵の彼も一樹くんに任せてしまえばいいのだから」
酷いわね、と思いつつ口の方は勝手に、
「ああ、そうね。
古泉が独りで大童してればいいのよね」
と動いていた。
私としたことが、前回なんてツッコミばかりだった。あれでは園生は大童ではないか。
今回はテンション低く進めよう。
多丸兄弟と同じく、頭痛薬をミネラルウォーターで流し終わると、
涼宮ハルヒにスカートの裾を引っ張られた。
「ねーねー、おば」
「何?おば、の次は?
なんて続くのかな?かなかな?」
「……おねーさま」
「どうしたのかな?ハルヒちゃん。
お腹空いたの?
一樹先生のお家に帰ろっか?」
優しい声と笑顔で言うと、彼女は人差し指を公園の中央に向けた。
「なあに?」
にこにこと笑顔を張り付けてそちらに目をやる。
と、そこには新川と谷口と喜緑江美里が騎馬戦の馬を作っていて、
その上に鶴屋が跨がっていた。
その四人の前には、朝比奈みくるが両手を目一杯広げ、通せん坊をしている。
「ちるちるぅ、解って欲しいにょろ」
「解らないな。
争いは止めようと言ったばっかりだ」
「けど、ちるちるもあのハンドボールバカをけちょんけちょんにする使命があるんだろぃ?」
鶴屋は岡部を振り返った。
その岡部はと言うと、呑気に靴紐を結び直していた。
「……え、俺?」
「そだよ」
いきなり話の矛先を向けられた岡部に鶴屋はそれだけ言い、
また朝比奈みくるへと視線を戻した。
「それと同じっさ。
ちるちるは使命通り、こいつを倒すだけでいいにょろ。
いくら伝説のデコリストと言ったって、
私達の事情を一から十まで解ってる訳じゃないからね。
君はここで私達の勝利を祈ってりゃいいのさ」
こっちはこっちでやるから、そっちはそっちで頼む、と鶴屋は言いたい様だった。
「せっかく新しい力を手に入れたんだもん、
今度こそ今度こそ、ホッペタ族の生き残りを……」
「何故自ら悲しい歴史を繰り返す必要がある!?」
朝比奈みくるが声を荒げた。
ああ、私からしてみると、かなり下らない事で味方同士が揉めてる訳ね。
そこに涼宮ハルヒが、
「さっきからずうーっと、ああなの。
ごにんそろったんだから、いっきにたおしちゃえばいーのに」
と頬を膨らませる。
この子の思い通りに行かないなんて、
あの四人の額に対する執着心は一体どこから来るのやら。
ここは適当に誤魔化すべきか。
「でもねハルヒちゃん、考えてもみて。
いくら正義のヒーローでも、五人で一人の敵を攻撃したら可哀想でしょう?」
「んー…?」
観察対象B、もしくは鍵の彼が首を傾げる。
「でも、わるいやつらはざこいっぱいつかってるよ?」
納得いかないのだろう、涼宮ハルヒはそう言って益々頬を膨らませた。
「全く、ちるちるはなんにも解ってないねぇ」
「そんなの解るものか!」
「んもう……あぁーっと!」
「あんな所に空飛ぶブタがっ!」
「え!?」
朝比奈みくると涼宮ハルヒと鍵の彼が空を見上げる。
箒に跨がった長門有希の後ろで、
こんな姿になってしまいました…
と落ち込むブタ泉(肥満体型な古泉ではない)を想像してしまった私を誰が責められようか。
「……と、見せ掛けて」
鶴屋がニヤリと笑った、気がした。
ヘルメットを被っているのでその顔は見えないが。
ばっ、と馬の三人が前に飛び出す。
「全面戦争!」
鶴屋が拳を振り上げる。
「勃発じゃーい!!」
と下の新川谷口喜緑が続け、彼等は朝比奈みくるを避けて公園から全速力で出て行く。
「奴等の頬袋にシゲキックスめがっさ入れてヒリヒリさせてやるにょろー!」
「額に『内』と書かれた仲間の恨み…!私達で晴らしましょう!」
「せめて『肉』ならまだ許せたのによぉ!」
「まずはハムスター一族から攻めるべきですな!」
えー……?
もう、ほんと、なんなの?
戦隊もののお約束として、レッドがいないと勝目無いのに、なんて無謀な…
ところで、語尾が「なのだ!」になったハム泉(お歳暮にハムを送りつける古泉ではない)
を想像してしまった私はどうすれば。
実際そんな事になったら、掃除機で吸い込むけど。
「き、聞いてない…こんなの、聞いてないよ……」
結成後二分という、かつて無い程の早さで分裂した
ツルピカ戦隊デコレンジャーのリーダー、朝比奈みくるは呆然とその場に立ち尽くす。
「なんでー?
なんで、れっどだけなんだよ?
しかもさー、なんかちっちゃいし、よわそーだし」
鍵の少年の一言が朝比奈みくるの小さな背中に突き刺さる。
「ねぇ、けんかしたの?
けんかしたから、みんなれっどだけおいて、どこかいっちゃったの?」
次に、涼宮ハルヒの発言が朝比奈みくるを傷付ける。
当り前だが、この二人に悪意は無い。
「ねー、どして?」
涼宮ハルヒの大きな目に見つめられ、朝比奈みくるは、
「し、強いて言うなら音楽性の違いかな…」
と声を振り絞った。
「ふーん。
で、ろぼっとは?」
「はひ?」
鍵の彼の言葉に、朝比奈みくるがきょとんとする。
「いつろぼっとでてくるの?」
「あ、ロボットね、うん……ちょっと待ってて」
彼女は、隣で出番はまだかまだかとそわそわする岡部を無視して
ピチピチスーツのベルトに引っ付いていた小型の通信機を取り出した。
「あ、もしもし…博士。
ちょっとしたハプニングと良い子からのリクエストがあったんで、
予定よりちょっと早いんですけどもうみくるロボ出して欲し……え!?メンテ中!?」
朝比奈みくるの素頓狂な声に、涼宮ハルヒの、
「みくるぅ?」
と訝し気な声が続く。
「まあ、みくるなんて良くある名前だよ」
と多丸の兄が透かさず口を挟んだ。
「そんな……そこをなんとか。
忙しいって、一体何して……え?窓ガラス直して、オスガキの代わりにオムライス作ってる……?
じゃ、じゃあそれが終わったら……
ふへ?え、え、賢いちっちゃい女の子?
気が合う?お話するって……
なん、な、なっ?
『マクスウェルの電子理論とフロンティア電子理論の関連性について』?
へ、へぇえぇえー………え!?
そりゃ、そりゃあ…!
ええ、もちろん。
それくらい知ってます!
百回しゃっくりしちゃうと死んじゃうってアレですよね!?
……あっ、まっ、切らないで切らないで切ら……」
朝比奈みくるの願いも空しく、ブチッ、と通話が切れる音が私達の所にまで聞こえて来た。
「博士ぇ、ふぇえぇ……ひどい、ひどいよぉ…」
「ふ…ふははは…は?」
憎きヒーローのピンチではあるが、果たして素直に喜んでいいのかどうか解らないのだろう、
岡部がかなり遠慮勝ちに笑った。
「ざ、様ぁ無いな、究極戦士よ!
フローラとか言ったか?
愛した女は血筋を選び、信頼していた発明家には見捨てられ…」
「だあ、大丈夫だもん。
今までだって、ずっと独りで戦ってたんだも……
くひゅう…ぅうぅ」
「ちょ、泣くなよやり難いだろ……」
「うゆ、だぁってぇ……」
恐らくヘルメットの下は涙でぐじゅぐじゅになっているのだろう朝比奈みくる
にゴーグル越しに見上げられ、岡部はかちこちに固まった。
更にこめかみに汗が浮いている。
こいつ、悪役には向いて無いんじゃないの。
と、そこへ、
「あーあーあ、あーあーあー」
「なーかしたーなーかしたー」
「いーけないんだーいけないんだー」
「せーんせーにゆってやろー」
えらい懐かしい囃し歌が聞こえた。
見ると、涼宮ハルヒと鍵の少年が並んで岡部に向かって、
交互にあの歌を歌っている。
別にそこまで悪い事してなくても、これ歌われちゃうと、
やめてっ、先生には言わないでっ!
って焦るのよね。
この子達はこの子達で、どうしてもヒーローに勝って欲しいのかもしれない。
まあ、条件反射みたいな物かもしれないけれど。
さて今回この歌の犠牲者である岡部はと言うと、
「お、俺だって先生だ!」
と、言い訳になっていない言い訳をした。
「聞いたかい、兄さん、森さん。
孤独に戦うヒーローを泣かすあんなのが教卓の前に立っているんだって」
「ああ、ばっちり聞いたさ。
日本の教育現場は終わったな」
「まさかここまで落魄れるなんてね」
涼宮ハルヒと鍵の彼の囃し歌と、私達の非難が重なる。
「ぐっ……!!」
ヒーローでも何でもない、ただのギャラリーに追い詰められるという、
異例な状態に立たされた悪役・岡部は、
「解った!解ったから!」
と、朝比奈みくるの前に跪いた。
薄っぺらいプライドね。
「俺の負けでいいんだろ!
それで片がつくんだったら、いいよいいよ、負けてやるよ。
どうせ悪役の俺は負けるんだ、倒されるか降参するか。
ただそれだけの違いだ」
「いいの…?」
「ああ。だから、もう泣くなって。究極戦士」
あら、なんかこのまますんなり収まりそうな予感……
「なにゆってんの!」
「ながされんな!」
ですよねー。
「そいつは、きゅきょくせんしをゆだんさせて、
それでどっかーんってするつもりなんだ!」
鍵の彼は、どっかーんの部分で両手を大きく広げた。
いまいち良く解らないジェスチャーだが、涼宮ハルヒはその隣で、
お前首もげるって、と言いたくなる位に首を縦にぶんぶん振っていた。
「そ、そーな……の?」
「ガキの言う事だ、信じるな。そんな魂胆ねーよ。
素直に負けるって。
いや、もう負けた、負けたさ!
俺の負け、お前の勝ち!!これでいいんだろ」
「よくない」
涼宮ハルヒがばっさりと切り捨てた。
「ぜんっぜん!よくないっ」
ぷんすかと漫画の様に怒る彼女は、不幸を呼んで来た。
多丸兄の携帯に。
彼は機械越しの相手と幾つか言葉を交わし、通話を切った。
「……今日の神人はえらく強いらしい。大人しくなる気配も無し。
一向に現場に来ない古泉一樹に電話してみたら、
今の自分にはどうしようも無い等とほざく。
君達は一体何をしているんだ。と」
「ヤバいな」
「さっさと終わらせてしまいましょう。
ねえ、ハルヒちゃん」
私がそう呼び掛けると、彼女はなかなか鋭い目線を寄越した。
「なに」
「ハルヒちゃんは、あのヒーローさんにどうして欲しいの?」
「かってほしい!
てきがこーさんするんじゃなくて、もっと…」
「もっと、戦って欲しい?」
「そ!」
「でも、今日のヒーローさんはロボットは使えないみたい。
それに、ロボットが君達の町を目茶苦茶に踏み付けるのが見たいの?」
そう問うと、園児二人は言葉に詰まった。
よしよし、この調子でいければ。
「ハルヒちゃんもキョンくんも、そんな子じゃないわよね?」
「うー……」
「んー……?」
そのままそのまま!いいぞ、いけ!
とばかりに多丸ブラザーズが目線を寄越す。
さて、主役であるヒーローとそれに対峙する筈の悪役は言うと、
すっかり和解(?)したらしく、
ブランコを楽しそうに漕ぐ朝比奈みくるの背中を岡部が押している。
ここまで友好的な変身ヒーローとラスボスなんて初めて見た。
「もう!
いいもん、ろぼっとはもういいから!
だから、もうなんでもいいから、とにかくかって!」
自棄を起こしたのか、涼宮ハルヒはブランコに座る朝比奈みくるに向かって叫ぶ。
「なんでも、かぁ……どうしようかなあ」
「丁度ブランコ乗ってることだし、靴飛ばしにするか?」
いくら架空の設定と言えども、世界をハンドボール一色に染めた男と、
それを倒すために立ち上がった少女の決戦がブランコで靴飛ばし。
いや、まあ穏便に進むのならなんでもいいけれど。
「うーん。
でも、このみくるブーツにはロケットブースターが付いてるから、ズルしちゃうかも」
随分と物騒な物を履いている。
「そうだな……缶けりは?」
「二人で缶けり?」
「ああ、二人はきついな。
人数を増やそうにも、チョッカーはもう全滅したしな」
「あ、ごめんなさい…私ったら、オ・カーベさんの大切な部下を……」
「いやいや、いいって事よ。どうせ雑魚共だし」
「でも…」
「いいっていいって。
あいつらを殺るのが君の仕事、君に殺られるのがあいつらの仕事なんだから」
「ありがとうございます…オ・カーベさんって、本当はとっても優しい人なんですね」
「止めてくれ。
俺は自分の欲望のままにハンドボールで世界を征服している男だぞ?」
「そうだけど……
私達、もっと別の出会い方をしていれば、いいお友達になれたのかも……」
「……戦い難くなるだろう。
そろそろ決着を付けよう。競技は君が決めてくれ」
「はい。
これで、これで戦いが終わるとして、もう二度と、私達は会えないんですね」
「もう、本当に止めてくれ……!
本気が出せないじゃないか…!!」
何なの、こいつ等……ヒーローと悪役よね?
なんかヒロインとヒーローみたいになってるけど、ヒーローと悪役よね??
「……隠れんぼ、にしませんか?」
「お、いいな。童心に帰るか」
ぴょん、とブランコから飛び降りた朝比奈みくるは地に足を着けると直ぐさま振り返り、
そのゴーグル越しの瞳で岡部を見、彼はその瞳に向けて穏やかに笑ったのであった。
………わ、解らん…もう何がなんだか……

「ルールは簡単。
じゃんけんをし、負けた者、
つまり鬼はしゃがむなり遊具や木の前に立つなりして視界を一時的に塞ぐ。
その状態を維持したまま、鬼は数を数える。
そして勝った者は」
「みんなしってるぞ」
鍵の彼は見事に多丸兄の説明をぶった斬った。
ごほん、と咳払いをして、多丸兄は手を叩く。
「はい、出っさなっきゃ負けよー、もーんく無っし、じゃんけっ」
「そっ!!」
地域限定なじゃんけん音頭で決まったのは、
「究極戦士がチョキ、オ・カーベがパー。
よって、オ・カーベが鬼」
多丸弟が冷静に全員に告げる。
「ああーっ!負けたぁ!」
「オ・カーベさん、これは鬼を決めるじゃんけんです。
勝ち負けはまだ解りません。
オ・カーベさんが私に勝つ見込みは、まだ十分あります!」
「それもそうだな!
よーし、君に勝って邪魔者無しに全地球生命体をハンドボール中毒にしてみせるぞ!」
おかしいおかしい。
この二人では、
デパートの屋上でやってる様な安っぽいヒーローショーですら荷が重い。
「よし!始めるぞ!」
「はい、受けて立ちます!
正々堂々と、非道な悪役だからってズルは無しですよ。
……心優しいオ・カーベさんに、そんな事出来る筈ありませんけど…」
「く、止めてくれ…!もう本当に止めてくれ…!!」
はいはい、もう解ったから…
「いーち、にーい」
岡部が木に押し付けた腕に顔を埋め、数を数える。
私達ギャラリーはギャラリーらしく、邪魔にならない所に移動。
「きゅーう、じゅー!
もーいーかーい?」
「まーぁだだよー」
うふふあははとか言い出しそうな声で、
本当に楽しそうに岡部と朝比奈みくるは言葉を掛け合う。
「いーち、にーい、さーん、しーぃ」
突然、朝比奈みくるはちょろちょろと動き回るのを止めた。
ん?
「この時を待っていた……」
ん!?
「背中がっ!!」
彼女は素早く、ヘルメットのゴーグルの部分を片手で勢い良く外す。
そこって外せたんだ…
「ガラ空きどぅわーーーー!!!
食らえっ、みくるビーム・デコフラッシュVer.!!」
露になった朝比奈みくるの瞳は「外道」と矛盾した名を付けてもいいのか悪いのか、
正義の炎でめらっめらに燃えていた。
「!?
ちょ、な、いっそテメーが悪役やれよ!!」
迫り来る黄金の光線を振り返り、岡部は絶叫した。
ジュゥッ、と肉体が焼けるには柔らかい音が響き、
彼がいた所には……こんがりと焼けた七面鳥が転がっていた。
わ、わー…大変だあー?
「オ・カーベ、貴様の敗因は、この私に背を見せた事…
戦いの最中に敵に背中を向ける等愚の骨頂……」
ゴーグルをはめ直した朝比奈みくるのその声だけが、この場を支配していた。
敵に背中を見せるどころか、押させていたのは何処の誰だったっけ。
数十秒沈黙が続き、
「え、やったー……?」
「す…すごーい……のかな??」
困惑気味な鍵の彼に続き、こちらも困惑真っ直中な涼宮ハルヒが
目をぐるぐると回しながらもぱちぱちと手を叩く。
「良い子の諸君、声援ありがとう。
いつでも最後に勝つのは正義!
この世に私がいる限り、悪が栄える事はない!」
朝比奈みくるは台詞を決めながら、三輪車に跨がる。
「おっと、サインはよしてくれ。
私は使命を真っ当しただけだ」
キコキコとペダルを踏みつつ、
「この美しき日本の未来を担う少年少女の諸君よ、
困った事があったらいつでも私を呼ぶがいい!」
と手を振り、彼女の背中は段々と小さくなって行った。
「えー…こまったらー?
どーしよっかなー……」
涼宮ハルヒがそう呟く。
「神人、なんとかなりそうだって」
携帯をいじくりながら多丸兄が弟と私に告げた。
「よし、じゃあ…帰るか」
「ああ…新川はどうする?」
「そうね、制裁を食らわせるのはあんた達に任せるわ」
「解った、任されるよ。
じゃあ、森さんはこの子達を」
「ええ。
じゃあ、帰ろうか。ハルヒちゃん、キョンくん」
「うん…」
「はやくかえろー……」
まあ、その、えー………さよなら、オ・カーベ!
私達はあなたを多分三十分は忘れないわ!!

涼宮ハルヒの改変により、未来人とはまた異なった存在へと変化を遂げた
朝比奈みくるが玄関の扉を開けたのは、彼女がこの家の、
今は塞がった窓ガラスを大破して出て行ってから52分49,08秒が経った頃だった。
そろりそろりと部屋に入って来た彼女の体には傷一つ無い。
「おかーり」
「はひゅっ!?
あ、ただい……ううん」
彼女は首を横に振った。
「おかえりじゃないよ、ゆきちゃん。
みくる、ずうっとおうちにいたよ?」
「そう」
私はただ頷いた。
彼女が困ると言うのならば、知らない振りも訳無い事。
そこへ、
「ただい……帰って来てたんですか!
怪我は!?してませんか!?」
ディペット博士と名乗る人物を見送るために一時の間外出し、
再び帰還した古泉一樹が部屋に飛び込んで来た。
「朝比奈さん、大丈……」
そこまで口にして、彼は漸く
彼女が私達に秘密裏に動いていた事を思い出したのか、
「……今までどこに隠れてたんですか?
心配したんですよ」
と言葉を改めた。
「えとね、ひとりでかくれんぼしてたのー」
照れた様に笑う彼女の顔に、一仕事終えた様な汗を見つけ、
古泉一樹はお疲れ様です、と呟きながらエプロンの裾で彼女の額を拭った。
「のであった……なあんて綺麗に閉めようったって、そうはいかんざき!」
扉を蹴り飛ばし、侵入を果したのは森園生だった。
彼女の足元には涼宮ハルヒと彼が複雑な表情で立っている。
「あ、お帰りなさい」
古泉一樹がそう言うが、涼宮ハルヒも彼も森園生も、
誰一人として古泉一樹が彼等に財布を渡し忘れた事には触れない。
そればかりか、
「あたし…つかれた……」
「おれも」
と、床に尻餅をつく要領で座り込む。
そのままの姿勢で涼宮ハルヒが朝比奈みくるに声を掛ける。
「みくるちゃん」
「なーに?」
「びーむ……まさかね………なんでもない」
ぐたりと涼宮ハルヒが彼に伸し掛かる。
「おーもーいー」
戯れていると表現するには足りない元気さで、彼が呻く。
そんな二人を見つめ、くすりと笑ってから、
「朝比奈さんが無事に変身ヒーローとしての役割を果せた様で何よりです」
と古泉一樹は小さな声でにこやかに森園生に言った。
「……あんたそれ、本気で言ってんの…?」
「え?違ったんですか?」
「はん」
「……何を怒っていらっしゃるんですか?
気に触る事をしましたか?」
「やあね、怒ってなんかないわよ。
ブタなりハムスターなり、さっさと目覚めてしまいなさいよ、
飛べないブタはただの古泉、だなんて思ってもいないわ」
「凄まじい暴言ですね…」
はっきりとした苛立ちを見せる森園生を尻目に、
今回の主役である朝比奈みくるは、
「いーにおいがするー」
「おむらいしゅ。あなたのはかしぇがちゅくった」
「わー、さすがはか……うわわ」
「………」
「おーむおむ、おうむさんのおむらいすー」
と調子外れな音程で歌い、酷く幼い笑みを浮かべた。
………朝比奈みくる、お疲れ様。

続く

「悔しいっさ…でも、完敗にょろ……」
「まさかヒマワリのタネが無効化されるなんて…」
「くそっ!あの時、脂取り紙を使っていれば…!」
「ハムスター族恐るべし…!」

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