シャミセンが死んだ。突然の不思議な話だった。
トラックに引かれかけた妹にどこからともなく現れ、横から体当たりして代わりに引かれたという。
その死体はあまりに綺麗でいつものように昼寝してるのではないかと思ってしまう。だが、それは違っていて、間違いなく死んでいる。
いつも元気な我が妹は枯れる事ない涙を流しながら何回も呟く。私のせいでごめんね、と。
「シャミセン、お前は良い家族だった。女なら結婚を申し込んでいただろうな」
我ながら意味解らない言葉を掛ける。思考が回らないから。明日には、シャミセンは灰となって地に還るから。
「・・・明日も早い。寝ようぜ」
「・・・うん」
泣きたい。それを誤魔化すように妹を宥めて俺は笑う。
シャミセンが泣き顔を望んではないと感じたからだ。

考えれば、何故そう感じたかを考えればそもそもこの時から全ては始まっていたのだと後々気付いた。

夜。俺は水を飲もうと思って俺はキッチンに降りた。
居間への扉を開けようとノブに手を伸ばす。シャミセンの死体があると思うと心境は複雑だ。
やっぱりやめようか。などと思っていると、

―――りぃんりんりぃん・・・。

聞こえたのはシャミセンの為に買った鈴の音だった。

それはシャミセンの入ったダンボールに一緒に入れている為、触れない限りはならない筈だ。

我が妹だろうか。それとも・・・
「シャミセン?」
俺はそう呼びかけて、そっと居間に入った。

暗くてほとんど見えない暗闇。そこに何かが居る気配がする。
もしかしたら泥棒か?だとしたら危ういのではないだろうか。
震えながら電気のスイッチを探す。

―――カチッ。

明るく照らされた部屋。様子が一目で見渡せる。
そしてそこにそれは居た。まさしく猫の耳。猫の尾。まさしく人の顔。人の体。
中学生くらいのまさしく可愛い猫耳の女の子が寝ていた。
「な、汝は誰そ!?」
なんで俺は古文なんだよ。パニックに陥り過ぎだろ。落ち着け落ち着け。
とりあえず深呼吸する。女の子は眠そうに目を開け、猫のように欠伸しながら体を伸ばす。
「おはようございます。御主人様」
「・・・はい?」
俺は思わずフリーズした。
「あぁ、いきなりで申し訳ございません。御主人様が私の死体に少し泣きながら『女なら結婚を申し込んでいただろうな』と仰ってたのでなってみました」
・・・ちょっと待てよ?
「・・・・・だから、誰?」
背中に冷や汗が伝っているのが解る。嫌な予感嫌な予感がぁぁぁぁ!
「私ですか?」
女の子は可愛らしく微笑む。
「シャミセンですよ」
・・・頭がどうにかなっちまいそうだ。

 

呑気だと思うさ。

まだ俺はこの時、知らないからな。これが世界を蝕む愛の始まりだと。
そして、物語はかく語り出す。破滅の呪文を交えつつ。

 

 


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