こんにちわ、朝比奈みくるです。
今回はお買い物のお話です。
わたしって、ちょっと可愛いものをみかけると、すぐ買っちゃうんです。趣味がお買い物っていうわけじゃなくて、可愛いものを集めるのが趣味なのです。
そのせいで涼宮さんにちょっと疑われたりもしましたけど。
お金については禁則事項なんで詳しくはいえません。でも、こっちにいる間は、可愛いもの集めを趣味にしていても問題ないです。
向こうに戻ったら、即破産しそうですけど……


きっかけは下校途中のこんな会話からでした。
長門さんと涼宮さん、わたしが3人で横に並んで歩いています。キョンくんと古泉くんはすこし離れて後ろを歩いています。
涼宮さん、なんとなくキョンくんを気にしているようにも見えますけど、気にしたくないようにも見えます。
別に二人で一緒に歩いてたって、構わないんですけどね。
「有希って、服あんまり持ってないの?」涼宮さんがいいました。
「そう」長門さんは返事をしました。
「そうなんだ。買い物とかいかないの?」
長門さんはほんのわずかに首を横に振りました。
「そっか。……たまには買い物に付き合ってあげてもいいかしら」
長門さんは無言で歩いています。
「でも、日曜日は予定があるし……」
どうやら、思い出すと頬が緩んじゃうような予定のようです。
「誰かとデートですか?」わたしがいいました。
相手は後ろで古泉くんとなにごとか、密談している人でしょうね、きっと。
「そ、そんなんじゃないわよ」涼宮さんはかなり焦っているようです。「ただ先約があるっていってるだけ。そんなデートとかって」
「怪しい」長門さんがぼそりと言いました。
「なにいってんのよ、有希まで。そんなんじゃないわよ」
そう言いながらも頬が緩んでいるのが何よりの証拠ですけどね。

「じゃあ、日曜日にキョンくんと古泉くん誘って、お買い物にいきましょうか?」
そうわたしが長門さんに提案すると、長門さんは満更でもない表情を浮かべました。
どこからかわたしを睨んでる視線を感じますが、そっちはとっても怖いので見たくありません。
「みくるちゃん、あたしをのけ者にするなんていい根性ね?」怖い人の声が聞こえてきて、わたしの心臓はどうにかなりそうです。
「あ、そんなんじゃないですぅ~ただ、用があるっていうから」
「みくるちゃん、責任持って有希を買い物に連れていってあげなさい」
そんなに目を三角にして怒らないでくださいよ、涼宮さん……


そんな訳で、長門さんを連れて買い物に出掛けることになったのです。
でも、二人だけだと会話が続かないので、誰かもうひとり一人連れていきたいところです。
普通のお友達だと長門さんのことは知らないので、関係者のほうが安心出来ますね。
わざとキョンくんに電話してみようかな。戸惑うキョンくんは可愛いかもしれません。
でも、その後で涼宮さんからの電話で、とっても怒られそうな気がします。
触らぬ神に祟りなしってキョンくんも言ってましたし、やめておきましょう。
そうなると、鶴屋さんしかいません。もし駄目だったら、古泉くんでいいや。
わたしはそう思って、鶴屋さんに電話をかけてみました。
「やっほ~みくるん」
いつもハイテンションな鶴屋さんが即電話に出てくれました。
「あ、こんにちわ。あの、日曜日って暇ですかぁ?」
「日曜日かい?大丈夫だよ、買い物かいっ?」
「ええ。でも、今回は長門さんがメインなの」
わたしは鶴屋さんに事の次第を話しました。
「ひゃはは、大胆なこと言うもんだねえ。ハルにゃん、怒ってなかったかい?」「ええ、ちょっと怒ってました……」
「そうだろね。有希んこは外であっても制服着てるしねえ。いいかもしんないっ」
「じゃぁ、日曜日……時間はいつにしましょう?」
「10時でいいんじゃないかい?」
「じゃあ10時にいつものところで」
「で、みくるん、おもしろい話があるんだけどさぁ~聞く?」
「え、なになに、教えてください」
それから2時間ほどおしゃべりを楽しみました。電話代もかさむんですけど、これもいまは大丈夫です。わたしが払ってる訳じゃないですし。
向こうに帰ったら、こんなに長電話できないんだろうなぁと思いますけど。


土曜日はちょっといつもと様子が違ってましたけど、いつものとおり涼宮さんに率いられて、ウィンドウショッピングが楽しめました。
ついでにお買い物も出来ればよかったんですけど、衝動買いは9割失敗しますしね。でも、欲しいもの一杯できちゃいました。
お家の中がお洋服と雑貨で一杯になりそうです。今度の連休にはまた向こうに持って帰ろうかな。
オークションって手もあるんですけど、ちょっと面倒ですよね。

今日は日曜日。とってもいいお天気です。暖かい風が流れるように吹いてて気持ちいいです。
わたしが待ち合わせ場所についたころには、すでに鶴屋さんと長門さんがいました。
「おはよございまーす」
「おはよ、みくるん」鶴屋さんは結構短めのプリーツスカートに、ショート丈のGジャンという格好です。カッコ可愛いって感じですね。
ちなみにわたしはワンピースにカーディガンです。春は、やっぱりこういうスタイルがいいんじゃないかな。まず間違いありませんし。
涼宮さんぐらい可愛ければ、季節あんまり関係なく変なデザインのTシャツで平気なんでしょうけどね。
でも、ああいうのどこで買うのかしら。今度聞いてみたいところです。
「………」長門さんがわたしを見てかすかに頷きました。やっぱり制服です。
長門さんには可愛らしいスクールスタイルがいいかもしれませんね。
でも、男の子っぽい感じでまとめると、逆に可愛さが強調されるかもしれませんね。
「で、どこに行くにょろよ」鶴屋さんは元気一杯の声で言いました。「いつものところかい?」
「んー、せっかくだからちょっと遠出するのもいいんじゃないですかぁ?」
「いいねぇ。じゃ、行こうかぁ」

電車に3人で乗りました。ちょっと遠くまで出掛けるんですけど、この駅って各駅停車しか停まらないんですよね。
不便でしかたありませんけど、途中で乗り換えます。
「有希んこは、服ホントにもってないのかい?」鶴屋さんが長門さんにたずねました。
「必要な分だけ所有している」
「そうなのかい、せっかく女の子に生まれたんだし、もっとおしゃれを楽しむといいよっ」
「おしゃれ?」まるで初めて聞く単語のように、長門さんが言います。
「ほら、みくるんなんていつも決まってるだろ? 有希っちも可愛いんだから、きっと似合うさ~」
「……分からない」長門さんはほんの少しだけ小首をかしげました。「似合うとか、似合わないということが」
「そりゃ自分だけじゃよく分らないかもなぁ~ そういう場合は、人に見立ててもらうのが一番っさ」
「そう」長門さんはつぶやくように言いました。
「みくるんなら、有希んこにどんなの勧めるんだい?」
「スクールスタイルってのはどうかなぁって。あとはあえて男の子みたいなのとか」
「なるほどねっ、いいかもしんないっ!! 意表をついてゴスロリなんてどうかにゃ?」
「うーん、どうでしょう……なんか意表つきすぎのような……」
長門さんはずっと窓の外を眺めていました。


電車を二回乗り換えて、目的地に到着しました。
いろんなお店が入っているビルなんですけど、ギャル系からお姉さん系までなんでも揃っていて、しかもお安く買えるのです。
普通なら1枚しか買えないところが、2枚、3枚買えちゃうんです。

「どこからみていくにょろ?」鶴屋さんが楽しげに言いました。「いろいろあって目移りしちゃうけど」
「当然、手当たり次第ですよぉ」
「みくるんは買い物になると人が変わるねっ」鶴屋さんがわたしの肩を軽く叩きました。
「そんなことないですよぉ」
「目の色が変わってるっさぁ。で、有希っちはどこか行きたいところあるのかい?」
長門さんは透視でもしているかのように、お店を眺めています。
薄い唇がすこし開き、言葉を紡ぎました。
「まかせる」

まかせると言われたからには、いろんなお店に入って見ましょう。
まずはギャル系のお店ですが、ここは馴れ馴れしい店員さんはいないのでゆっくり選べます。
デニムのマイクロミニなんてどうでしょうか? わたしは長門さんに合いそうなサイズを選びました。でも……
「とりあえず試着したほうがいいっさぁ」鶴屋さんの一言で、わたしはスカートを長門さんに渡しました。
長門さんはそれを受け取ると、更衣室に入りました。一瞬、更衣室に入らないで着替えるかもなどと思っちゃいましたけど。
鶴屋さんはギャル系の服に大爆笑しています。えと、お店の人が迷惑そうな顔をしていますので、押さえてください。
「だって、こんなデザインありえないにょろよ」笑い過ぎて出た涙を、指で拭いながら鶴屋さんがいいます。
「そういうの好きな人もいるんですから」
「そうだけどさぁ、みくるんはこういう服は着ないねぇ」
「ええ、ありえないデザインですから」
「みくるんはわがままだねぇ」とまた鶴屋さんは大爆笑です。
カーテンが開き、長門さんが姿を見せました。セーラー服のスカートを脱いで、代わりにマイクロミニを履いてて、かなり変です。
「んー有希っちは小さいからなぁ」残念そうな表情で鶴屋さんが言いました。
「そ…うですねえ」わたしは他に言う言葉がありません。
まるで小学生が短めのスカートを履いているように見えます。可愛いんですけどね。
長門さんは小首をかしげながら、カーテンを閉じました。
「ちょっと悪いことしちゃったかなぁ」
「そんなつもりはなかったんだろ? 大丈夫っさぁ、有希んこもわかってくれる!」
カーテンがまた開き、ていねいに畳まれたスカートを手に長門さんが出てきました。無表情なまま、長門さんは靴を履くと、そのままレジに向かいました。
二人ともびっくりです。
「か、買うの?」
「あの、無理しなくていいんですよ?」
「サイズは適切」長門さんは何を言っているのかという表情をちらりと見せながらいいました。「購入に値する」
「そ、それならいいんですけど」
長門さんは無表情のままレジに並び、会計を済ませると私達のところに戻って来ました。
「これで終わり?」長門さんはぼそりとつぶやきました。
なぜかその言葉が挑戦状のように聞こえてしまうのは、なぜでしょう?
「いえいえ、まだまだですよ。これからです、お買い物は」
「みくるん、なんかムキになってないかい?」
鶴屋さんがやれやれといった目でわたしを見ていますが、そんなムキになることなんかありません。
ただ、お買い物の楽しさを長門さんにも知ってもらえるチャンスですからね。

何軒か回った後、長門さんは紙袋やらビニール袋を4つほど下げています。
中身はと言えば、さっき買ったマイクロミニ、お姉さん系のお店で可愛いニットのワンピースを一着、ジーンズショップでジーンズ二本、ワニ大好きショップできれいな色のポロシャツを三枚といったところです。
まだ本命のスクールスタイルのお店にはいけてませんが、お昼を食べてからです。
いまは、どこで食べようかうろうろしているところです。
「ずいぶん買ったねえ」鶴屋さんが言いました。
「そうですか?買い過ぎですかねぇ」わたしは長門さんを見ながら言いました。
そんなに買ってないと思うんですけどね。
「有希っちじゃなくて、みくるん」
「ええ~わたしですかぁ」
鶴屋さんがニヤニヤ気味の悪い笑顔で、わたしが下げている紙袋やらビニール袋を見つめています。
「付き添いのはずのみくるんが、有希っちと同じだけ袋をもってるじゃないか」
鶴屋さんは小さな袋を一つだけです。中には雑貨屋さんでみつけたきれいな色の髪留めが入っています。
ちょっと可愛いワンピースを見つけたんで買って、いい感じのカットソーが安かったんで買って、きれいな色のカーディガンを見つけたので買って、えーとあと何買ったっけな?
「ひらひらスカートと、すけすけスカートを一枚づつ買ってたっ」鶴屋さんが呆れたように言います。
「みくるんは買うだけ買って、結局、着なかったりするんじゃないのかい?」
「そういうこともごく稀にありますけど、毎回じゃないですよぉ」
「無駄使い?」長門さんが子供のように澄んだ目で言うのを聞いて、すこしだけ胸が痛むのはなぜでしょうね。


お昼はここでいいかな?と鶴屋さんが指さしたのは、かなり有名なイタリア料理店です。何が有名かと言えば、とてもおいしいけど、値段が高いことで有名なのです。
高校生の身分では、ランチといえど予算大幅オーバーです。この後もまだまだお買い物したいのに、お金がなくなってしまうじゃないですか。
鶴屋さんはわたしの訴えをまるで無視するかのように、元気に店の中に入って行きます。
店に入ると、テーブル席は満杯です。これは結構待たされるんじゃないでしょうか。先に待ってる人がいないのが救いですけど。
「いらっしゃいませ、鶴屋様。何名様ですか?」
店員さんが微笑みながら、声を賭けてきました。
「三人!」鶴屋さんは元気よく、指を三本立ててます。
「どうぞこちらに」
あれ、テーブル席は満杯なのに、どこにいくのかしら。店員さんの後をついて歩けば、なぜか個室に案内されました。

テーブルの上には、三角に折られた白いナプキン、真っ白なお皿とステンレスじゃなさそうなナイフとフォークにスプーンが並べられています。
おまけにワイングラスまで。
店員さんは鶴屋さんとこそこそ話をしたあと、出て行ってしまいました。
「なかなかすてきな場所ですねえ」
「いいだろ、ここ?、実はうちがちいっと出資したらしくて、お馴染みなんだよね」
鶴屋さんは溌剌と答えました。鶴屋さん家が「ちいっと出費した」って、どれぐらいの額なんでしょうか。きっと想像を遥かに越えそうです。
「そういえば、メニューが見当たりませんけど……」
「ん?適当に見繕ってくれるっさ。ちょっと待てばいいにょろよ」
「ふぇ?」
「大丈夫。ここはちゃんとしたもの出してくれるところだっ」
えと、そういう意味じゃないです。っていうか、すんごく高そうでそれも困っちゃいます。
でも、弾けるような笑顔の鶴屋さんには何も言えません……

前菜に生ハムが出て来て、イチゴのサラダがでてきて、えーとスープもでてきて、その後、すんごくおいしい赤身のお魚が出て来ました。
ガーリックトーストがすごくおいしくて、全部食べたらお代わりが出て来たのには驚きました。ああ、あたしたち、いくら払うんだろう……
いますぐお金を送金してほしいぐらいです。
「いやぁ、満腹満腹」鶴屋さんはお腹をさすりながら、満足そうにいいました。
年ごとの女の子としてはどうかと思いますけど、同じ気持ちで一杯です。
食後にはいい香りのコーヒーが出て来ました。えと、エスプレッソだったかな、カプチーノだったかな、ブルーマウンテンだったかな……なんだろう。
今度はしっかりメモることにします………



「みくるんはだれかいい人いないのかい?」鶴屋さんがおもしろそうな目をしながら、わたしに言いました。
こういう目をしながら、とんでもないことを言い出す人を知ってます。ええ、ひどい目に何回もあってます。最近、おとなしいのが逆に不気味ですけど。
「なかなかいないんです」いいなと思う人はいても、いずれは未来に帰らきゃいけないですしね。
「キョンくんにはハルにゃんがいるからねぇ~」
「別にそういうんじゃないですけど……」
キョンくんは頼りになるし、とっても優しいです。でもなんだかんだ言って、涼宮さんが気になる様子です。
口ではああいいますけど、目は涼宮さんを探してることもありますし。
大体、涼宮さんは名前で呼ぶのに、わたしはいつまでたっても朝比奈さん止まりです。別に名前で呼んでくれてもいいんですけどね。
涼宮さんだって、キョンくんは特別扱いです。雑用係だとか言ってこき使ってるように見えますけど、単に甘えてるだけですよね。
涼宮さんも何だかんだ言いつつ、キョンくんの言うことならわりと素直に聞きます。

「あの二人は特別」長門さんはコーヒーにたっぷりミルクを注ぎいれながら良いました。ひょっとして苦くて飲めないのかしら?
「そうだねぇ~なんかもうできあがってるって感じにょろね~」
「たまに部室にいて恥ずかしくなるときありますもん」
「どんな?」
「二人が掛け合いで喋ってるときなんて、まるっきり彼氏彼女の会話ですもん」
「暑苦しい」コーヒーを飲み干した長門さんが言います。
「うひゃひゃひゃひゃ」なにがおかしいのか鶴屋さんは大爆笑しています。
「でも、最近涼宮さんにライバル登場したんですよぉ?」
「なんだって!!」鶴屋さんは目を輝かせて驚いています。「ひょー相手は誰だい?」
「佐々木さんって言ったかな。かなり可愛いんですよ。中学三年にキョンくんとクラスが一緒で、おまけに一緒に塾に通ってたらしいの」
「はぁぁぁぁ」鶴屋さんの表情はおでこを中心に光り輝いています。「そいつはすごいね、どこかで会ったのかい?」
「ええ、以前涼宮さんとお買い物行った時にばったり。二人でお茶してたんですよ」
「ハルにゃん、大ショーックの巻だね」
「キョンくんはなんでもないっていうんですけど、涼宮さんは相当イライラしてましたねぇ」
「で、それからそれから?」鶴屋さんが身を乗り出しています。心なしか長門さんも興味深そうに話を聞いています。
「それで、先に佐々木さんが帰って、わたしたちも帰ろうとしたんですけど、隣の駅まで行くはずの涼宮さん、キョンくんの隣に立ってて」
「いやぁーそれ見たかったっ。ハルにゃんどんな顔してた?」
「澄まし顔ですよ。それが」
「ぴったりくっついてたとか?」
「それはなかったですけど、わたしは帰ったんで、その後はわからないですぅ」
「ハルにゃんも告白しちゃえばいいにょろにな~」鶴屋さんはそう言って、コーヒーを一口含みました。
「回りから見れば、お互い告白したようなもんですよね~」

「そういえば、今日は二人はどこ行ったんだろね?」
「両名はフリーマーケットに参加」長門さんが一言つぶやいたあと、足りないと思ったのか言葉を続けました。「私の占い」
「有希っちの占いは当たりそうだねっ」鶴屋さんは春の日差しのような笑顔を浮かべながらいいました。
長門さんも満更ではない表情を浮かべています。

いよいよ会計の時がきてしまいました。あの、一番食べた人が全部払うっていうのはどうでしょうか? だめ?
と提案する間もなく、鶴屋さんは伝票ももたずにレジに向かいました。というか、素通りしてお店を出て行ってしまいます。
お店の人達も会釈するばかりで、無銭飲食をとがめる人はいません。
「あの、鶴屋さん、お金は?」
「いいっさー、今日は特別だよっ。大丈夫、任せといて!」
そういって鶴屋さんは笑顔で軽く胸を叩きました。
ああ、涼宮さんがこんな性格の人だったら、わたしも楽しく任務ができたのになぁ………


店を出てしばらく歩くと、二人ともお手洗いに行ってしまいました。
わたしは一人寂しく、大荷物を抱えて二人を待っているところです。
「呑気に買い物かよ、いい身分だな」
どこかで聞いたような声ですけど、きっと変な人に違いありません。聞こえなかったことにしましょう。
「事態が動きはじめてるのにお遊び気分で、任務が果たせると思ってるのか?」
変な人じゃなくて、危ない人みたいです。きっと頭の中は『高校生だけど実は極秘組織に所属してるオレ』なんでしょうね。
実際にそういう人知ってますけど、そういうことをひけらかしたりはしません。
だいたいそういう妄想ってコンプレックスの裏返しで……って涼宮さんが言ってました。
それはともかく、早く帰ってこないかなぁ、長門さんと鶴屋さん。
「聞いてるのか、朝比奈みくる」
「ふぇ?」
名前を呼ばれてふりかえると、いつかのパンジー君が立ってました。
「パ、パンジー君」
ついうっかり秘密のあだ名で呼んでしまうことって、ありますよね。

わたしは彼の本名を知ってますけど、楽しいのでそうひそかに呼んでました。心の中でだけですけど。
わたしだって、人間には変わりありませんから、ついそう呼んでしまってもしょうがないことです。………でも、ごめんなさい、パンジー君。
パンジー君は神経質そうに顔を一瞬歪めましたけど、何も言いませんでした。
「こっちに来てるんだ。お仲間と一緒なの?」
「……くだらん」パンジー君は吐き捨てるように言いました。
「はい?」
「実にくだらんことだ。仲間など、実にくだらん。茶番さ。すべてがな」
実に芝居がかった言い方です。
「そ、そうなんだ」
「あれと一緒とはな。利益相反だろう?本部に報告済みか」
パンジー君はわたしと同じ年なはずです。その割りには難しい言葉を知ってますね。利益相反ってどういう意味? そもそも、あれってなんでしょうか?


何かがものすごいスピードで動いたような気がしました。なんだかよく分かりませんけど。
そこになかったものが、突然現れたような……あれ、長門さん。いつの間に戻ったんですか?
「………」
長門さんは何も言わず、わたしの前に立っていました。パンジー君は長門さんをにらみつけているようです。長門さんはたたずんでいるだけです。
「……くそっ」パンジー君が吐き捨てるようにいって、歩きだそうとしました。
その時です。今度は目の前を何かが流れて行きました。流星のようななにかです。
……あれ、鶴屋さん。なんでパンジー君にドロップキックなんかしてるんですかぁ? ケガしちゃいますよ、パンジー君が。

「みくる、早く逃げるんだっ」鶴屋さんはわざと大声を出しています。「やぃ、痴漢野郎、おとといこいってんだ!」
パンジー君はフロアに倒れたままです。頭を押さえてうめいているようです。
大丈夫かしら?
「みくる!」鶴屋さんが珍しく真剣な表情でいいました。「大丈夫かい?変なことされなかったかい?」
「ええ、わたしはまったく大丈夫ですけど。彼が……」
「痴漢野郎なんかにかまうことはないよっ!!」


なんか辺りは大騒ぎです。警備員さんが向こうのほうから駆けてきています。
パンジー君はやっと起き上がると、頭をふりふり立ち上がりました。
「さ、これ以上騒ぎになっちゃまずいから、行くよっ!!!」鶴屋さんがわたしの手を引いて走りだしました。
長門さんも後ろからついてきています。
「待て~」警備員さんの声がします。振り返ると、全力で逃げるパンジー君の
背中が見えました。
ちょっと大変なことになっちゃった。ごめんね、パンジー君。

騒ぎが届いていない場所まで来ました。追っかけられているのはパンジー君で、わたし達ではありません。
でも、もうお買い物をする気分じゃないです。
「そだね、帰ろっか?」鶴屋さんが笑顔で言いました。
機嫌よく歩きだした鶴屋さんを先頭にわたし達は歩きだしました。
「長門さん、ありがとう」わたしは長門さんに小声でいいました。「守ってくれたんでしょう?」
「………」長門さんは、無表情なままです。「お礼」
「?」
「今日買い物に連れて来てくれたお礼。気にしないで」
ちらりと長門さんがわたしを見ました。きれいな透き通った瞳がわたしを見つめます。
それはいつもより、ほんの少しだけ暖かい色をしていました。



おわり


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