次の日の昼休みのことだ。弁当を食べ終わった後、俺は無性に眠りたかった。
「ふわぁー・・・」
「そんな顔してたらますますアホみたいな面になるわよ!」
「うるせぇ・・・昨日の夜寝るのが遅かったんだよ・・・」
「どうせテレビでも見てたんでしょ!」
「まぁそんなとこだ・・・頼むから静かにしてくれ・・・」
「・・・しょうがないわね・・・あっ!みくるちゃん!!ちょっと話があるんだけど・・・」
ふぅー、やっと静かになったか。もちろんテレビを見ていたから眠いわけではない。
昨日の新川とかいう刑事の話が気になったことで眠れなくなってしまったのだ。
村ぐるみで行われているかもしれない連続怪死事件・・・もしもこいつらがそれに関わっていたら・・・
いや、そんなはずがあるわけはないさ。絶対に・・・

ハルヒが朝比奈さんと窓際に行ってくれたおかげで、俺はウトウトと眠りに入るところだった。
しかし、あいつらの会話が俺の頭を起こさせた。
「・・・綿流しの晩に失踪したらしいわ・・・」
ッ!?綿流しの晩・・・裕さんの話か!?
「・・・かさんのなんでしょうか・・・」
「・・・恐らくね・・・」
「・・・他にもいるんでしょうか・・・」
「まぁ、彼女が祟りにあったのかオニカクシにあったのかはわからないけど・・・」
オニ、カクシ・・・?鬼隠し?なんだ?神隠しみたいなものか?
「どちらにしてももう一人いるんですよね?」
「オヤシロさまならね・・・」
「今年は穏便に片付けるつもりらしいです。警察ともそういう手はずになっているようです」
「それじゃあもう一人誰かが・・・されたかもしれないいってこと?」
「そうみたいです・・・」
「次は・・・あたしかな・・・」

  !?  え・・・?
「大丈夫ですよ、涼宮さんはちゃんと帰ってきたじゃないですか・・・」
「だけど、あの子は!!・・・」
「止めましょう・・・こんな話は・・・」
ハルヒが次の犠牲者?なぜだ?
そもそもなぜ裕さんの話を知っているんだ?この事件はほとんど情報が漏れてないはずなのに・・・
まさか本当に村ぐるみで?・・・まさか。
あいつら話し終わったみたいだな・・・

!?おい、何やってるんだよ俺は!仲間の話を盗み聞きするなんて!!
畜生!どうしてハルヒも朝比奈さんも俺には相談がないんだよ!
俺だって・・・俺だって仲間だろ!?SOS団の一員だろ!?畜生・・・
   ・
   ・
   ・
放課後になった・・・あの後は午後の授業になってもボーっとしたままだった。
やめよう・・・せっかく楽しみにしていた放課後がきたんだ・・・今を楽しもう。
「ハルヒ!!早くやるぞ!」
「あ、キョン。残念だけど今日は中止よ」
「え?なんでだよ」
「ごめんなさい、キョン君。今日は私ちょっと用事があるんです・・・」
「そうなんですか・・・ならしょうがないですね」
俺は極力笑顔を作ろうとした。朝比奈さんを悲しませたくなかったからな。
「そういうことよ!みくるちゃんもそんなに気に病むことはないわよ!」
「ごめんなさい、明日は必ず参加しますね」
「ということだからキョン!ロッカーから出したゲームを片付けて帰るわよ!」
「へいへい」

しょうがねぇな、さっさと片付けるか。あの推理ゲームもう一回やりたかったんだがな。
SOS団のメンバーの名前が書かれた犯人を示すカード・・・『ハルヒ』、『キョン』、『みくる』、
『古泉』、『有希』・・・ん?『朝倉』 誰だこれ?

「キョン!早くしなさいよみんな帰っちゃったわよ!」
「・・・なぁハルヒ、このクラスから転校した奴っているのか?」
「あぁ、やっぱりこの環境で勉強するにはキツイものがあるからね、転校していく人もいるみたいね」
「じゃあ、この朝倉って奴も転校したのか?」


       「知らない」

     それは即答だった・・・




     「よく知らないのよ」

   また・・・隠し事か、俺にだけ・・・

「あ、ほらあたし転校してきたって言ったじゃない?だからその時入れ替わりだったらしくて
よく知らないし、その子と話したこともないのよ」
「・・・」
「キ、キョン?」
「そうか・・・」
俺はよそ者、だからってわけか・・・
    ・
    ・
    ・
「キョン?ちょっと、キョンってば!」
「・・・」
気づいたらいつもの帰り道。また隠し事。事件のこと、朝倉って奴のこと。
俺はみんなに仲間って認められてないのか・・・俺が一人で思い込んでただけだったのか?
「ちょっとキョン!」
「ハルヒ」
「!?なによ・・・」
「お前転校してきたんだよな、最初のころはどんな感じだったんだ?」
「え?あぁ、最初のころね、そりゃまぁ最初は慣れないことばかり、わかんないことだらけだったわよ。
でも、みくるちゃんや古泉君、有希たちが接してきてくれて段々と慣れていったってわけよ!」
「・・・」
「それでSOS団を作っt」
「お前さ、みんなに隠し事されなかったか?」
「え?なに言っt」
「ハルヒ、みんなして俺に嘘や隠し事してるよな?」
「は?してないわよ」
「嘘だろ」
「え?」
俺はハルヒの肩をつかんで強引に聞き出そうとしていた。こうでもしなければみんなを、ハルヒを
信じることができなくなりそうだったから・・・
「ッ!?ちょっと・・・痛い・・・」
「正直に言ってくれ!してるんだろ!?・・・俺に・・・嘘や隠し事を!!!」
「キョン痛いってば・・・」
「言えよ!ハルヒッッ!!」


   「じゃあさ」


空気が変わった。その場の空気が。気づくとさっきまで鳴いていたセミの声が聞こえなくなっていた。
「え?」
「あんたはどうなのよ」
「ハ・・・」
ハルヒ・・・?
「キョンのほうこそあたしたちに隠し事してるんじゃないの?嘘をついてるんじゃないの?」
・・・愕然としていた。ハルヒのこんな目は見たことがなかった・・・
いやこんな目をする人間を見たことがなかったと言ったほうが良いだろう。
それはまるで、、、爬虫類が獲物を狙うかのような、そんな目。
正直に言って、怖い。体が震えていた。
「か、隠し・・・ごと・・・?」
隠し事って、新川さんと話していたことか?そんなはず・・・あるわけ、ない。
「し、してねぇよ、嘘も隠し事m」

      「嘘」


「ハ、ハr」
「あたし、知ってるわよ。あんたが昨日知らないおじさんとなんか話してるの」
!?どうして・・・
「あんた教室であたしたちに職員室に行ったなんて言ってたけどその人と話してたんでしょ」
「ッ!?」
「誰よ、誰なのよあのおじさん、誰よ」
どうして?まさか刑事ってことがばれて・・・
「し、知らない人だ!」


      「嘘」


「ッ・・・」
!?俺はみんなとは違う!みんなを怖がらせたくないから・・・隠しているだけなんだ!
やましいことなんて・・・そんなもの!

「ねぇ、なんの話ししてたの?ねぇ?」
「お、おまえらとは関係ない話だよ!」


      「嘘よッ!!」


「・・・」
何も話せなかった。声を発することさえ許されない、そんな気がした。
俺が話せずにいると目の前の奴は俺のあごに手を差し伸べ持ち上げるようにして俺の瞳を覗き込んできた。
囁くかのように、
「・・・ね?キョンに隠し事があるみたいにあたしたちにもあるのよ・・・」
ダレダコイツハ?・・・ダレナンダ・・・
少なくとも俺の知っている涼宮ハルヒでは・・・ない。
じゃあ、俺の目の前にいるこいつは、ハルヒの姿をしたこいつは、ダレ?



「だいぶ涼しくなってきたわね・・・」
そいつは俺から離れると、
「早く帰るわよ!キョン!!」
涼宮ハルヒに、俺の知っているハルヒに戻っていた。拍子抜けしたからだろうか、俺は無様にも両膝を
ヘタリと地面につけていた。
いや違う。拍子抜け?明らかに俺の中には恐怖がまだ宿っていた。
その青い炎はまだ俺の心から抜け出そうとしない。
ハルヒの背中が見える。さっきのあいつは誰?何だったんだ?
さきほど鳴き止んだセミたちの声はいつのまにか夏の暮れを知らせるひぐらしの声へと変わっていた。

 


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