中三になり立ての春、僕には人生の転機が訪れたんだ。
僕が通っている学習塾に…い、愛しの…き、き、キョンくんがやってきたんだ!
向こうは僕の事なんか知らないだろうけど中学でも同じクラスなんだよ!知ってるの?キョンくん!!
キョンくんが廊下で塾の講師と話してるのを見ただけで僕の心臓は破裂しそうな程の勢いだったんだ。
だってそうだろう?キョンくんは僕の初恋の人なんだからっ!


僕がキョンくんを好きって気付いたのは1年の夏休みだったんだ。
廊下でちらっと見かけるだけの彼。それまで僕は恋愛なんて精神病の一つだと思ってた。
今でも他の人に恋愛について語るときにはそう伝えている。
…話を戻そう。夏休みに入って彼を見かけなくなっただけで僕の心は果てしなく沈んだんだ。同時に気付いたんだ!これは恋なんだって!
僕は驚愕したよ!光エーテルの存在をアインシュタインに否定された物理学者の心境を考えてほしい。それまでの自分の常識を根本から覆されたんだ。
ああ、何てことだ!キョンくん!君には責任を取ってもらうからねっ!


そんな回想をしていたらいつの間にか講義開始が五分前に迫っていた。ダメだ。
キョンくんの事を考えると僕がいつもの僕ではなくなってしまう。…落ち着かないといけないんだろう。
素数を数えるのもありきたりだから歴代内閣総理大臣の名前でも羅列していこう。
伊藤、黒田、山県、松方、伊藤、松方…
「よう、お前もここに来てるのか」
き、キョンくん!なんでここにいるの!同じ講義受けるの?ねぇ!ねぇ!!
…はっ!落ち着かないと!一応学校では「いつも冷静な女の子っ!」で通ってるんだ。
無論キョンくんもそう認識してるはずっ!そういえば返事も返してない…僕!しっかりしなさい!


「そうだよ。君は…同じクラスの『キョン』だね」
「おいおい、お前までそのあだ名で呼ぶのか?」
「まぁ、いいじゃないか。僕としても『キョン』と呼んでいきたいんだ」
そして僕は、どうかな?と問いた。
そ、それにしても僕!よくやった!
まさかいきなりの会話であそこまでスムーズに話せるとは思いもしなかったよ。
そんな僕にご褒美だ!か、隠し撮りしたキョンくんの写真に……ち、ちゅうしてもいいぞ…きゃー!きゃー!やったぁ!!キョンくん!好き!好き!愛してる!!
キョンくんと手を繋ぎたいな…
キョンくんとお食事したいな…
キョンくんと遊びに行きたいな…
キョンくんと一緒の高校に行きたいな…
キョンくんと恋人同士になりたいな…
キョンくんとデートしたいな…
・・・


…どうやら僕は少々妄想に耽っていたようだ。キョンくんの
「大丈夫か?」
の一言がなければ『やったね!愛しの彼との結婚式!』まで妄想が膨らんでいただろう。
『ドキッ?大好きな彼との同棲生活!』までで済んで良かった。でも、まさかキョンくんに「キミと同棲生活したらどうなるのか考証していたところだ」なんて言えるはずもなく…
「キミがここに来るのは初めてだろう?教材もまだ準備できてないだろうし、キミにどの教材を用意すれば事足りるのか考証していただけだよ」
「そうか。すまないな」「気にしないでくれ」
そんな会話で妄想を打ち切った。
はぁ…憂鬱になっちゃう。まさかキョンくんがここまで僕の心中を占めているなんて。
でも、キョンくんが好きなんだもん…彼の一挙一動に僕は心を揺さぶられるんだ!それでいいじゃないか!


…でもここまでは序章に過ぎなかった。
「隣に座るぞ」
と彼がそう言ったとき、僕の心は躍り…
「ここを教えてくれ」
と彼の顔が近づいたとき、僕の心は震え…
「ありがとうな」
と彼が笑顔を見せたとき、僕の心は弾けた。
だから…
「バス停まで乗せてってやる」
と言われたとき、鼻血が出そうだったのは仕方ないだろう?


「二人乗りの経験はあるか?」
「残念ながら今まで一度たりともしたことがないんだ。僕としても少々怖いという気持ちがあるからね」
「そうか。んじゃあ、俺にしっかり掴まっててくれ。何があっても離すんじゃないぞ」
「ああ、わかった。恩に着るよ」
僕は彼の腰に手を回した。意外と腹筋あるな、とか広い背中だな、なんて思う余裕もなく…
正直、死ぬかと思った


END

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最終更新:2007年04月09日 22:46