「…寒い」
鮮やかなイルミネーションで彩られた街並みによって、本格的な冬の到来を感じるととも
に俺の口から漏れた言葉はそんな一言だった。

 


『オレとおまえと聖夜』

 


「いいかいキョン。暑い、寒い等と逐一言葉として発せられてしまうと周りの人間まで影
響を受けてしまう。できれば寒い等と発言する事を控えるよう検討してくれないかい?」
仕方ないだろ。勝手に漏れただけだ。そこまで自分の口に責任は持てん。
「まあ僕は君とずっと付き合ってきたからいずれ言うだろうとは思ってはいたよ」
そういえば夏場も暑い暑いとぼやいていたからね、等と隣にいる佐々木の声を聞きながら
家路へと向かっていた。
周りを見渡すとすっかりクリスマス一色だ。俺の口から勝手に漏れたクリスマスという単
語聞きつけた佐々木はいきなりこんな話を切りだしてきた。
「日本人の大半はキリシタンでもないのになぜ彼の生誕を祝うのか疑問に思ったことはな
いかい?」
自分はキリシタンでも、ましてや仏教徒ですらない無神論者だが、思えばクリスマスって
だけで毎年家族でケーキを食べていた気がする。
「さあ?なんでだろうな。企業戦略かなんかじゃないのか?」
「まったく、キョンらしい意見で安心したよ」
くっくっくっ、と佐々木は笑う。夢が無くて悪かったな。
「そういう事ではないよ。君の現実主義的なの見解を聞くとすごく安心するだけさ」
「同じ事じゃないか」
まあ、口では悪態ぶってる俺も佐々木の小難しい喋りを聞いているとすごく安心するが…
口には絶対に出さないがな。
そんな事を考えていたら唐突に佐々木が語り出した。
「僕はね、キョン」
なんだ?
「誰かと共に過ごしたいと思う日、なんだと思うんだ。相手が愛する人なのか、家族又は
友人なのかそれは人それぞれなのだろうけど、この時期特有の寂しさを紛らわす日…なん
だろうね」
そう言う佐々木の目線の先には派手に装飾された木があった。
それにしても…
「おまえ、いったいどうしたんだ?」
佐々木が感情論を展開したりするのは珍しいが…
「なんでもないさ。ただ帰宅しても両親が不在で今夜は一人で過ごすだけなんだ」
なんでもないわけねえじゃねえか。「寂しい」んだろ?こんな時くらい俺を頼れよ。
…そうだな、まずは家に電話だ。
「キョン、いきなりどうしたんだい?」
おそらく仏頂面、のまま携帯を取り出した俺に対し佐々木は怪訝な顔をしつつそう訪ねて
きた。
「まあなんだ?少し待っててくれ」
なおも不思議そうな顔をする佐々木を置いといて自宅へと電話をかける。
幸いにして母親がすぐに出てくれた。
「ああ、俺だ…うん……そのつもりだったけど帰れなくなったん
だ……ああ……大丈夫…わかった。そのうち帰るから」
それじゃあ、と電話を切り佐々木を見る。何がおかしいのか知らないがどうやら笑ってい
るようだ。
「なあ、佐々木?」
「なんだい、キョン?」
このやりとりも何度してきた事か…
「今夜は暇なんだ。良かったら少し付き合ってくれないか?」
「ああ、喜んでご一緒させてもらおう」
くっくっくっ、と佐々木はまた笑う。おまえ、今日だけで笑い死にするんじゃないのか?
笑うときはもっと口を開けて笑った方が良いぜ。
「検討しとくよ。この歳で死ぬのは御免被りたいからね」
どうやらいつもの佐々木に戻ったみたいだ。まあ、今はそれどころじゃないんだ。
前から目を付けていた店が混んでしまう。そう思ったオレは佐々木の手を掴み走り出した。
「あっ!」
驚愕の音が佐々木の口からこぼれ出た。
「ま、待ってくれキョン、今から何処へ向かうのかご教授願いたいのだが…」
「良い店を知ってる。そこに行く。早くしないと混む」
一度立ち止まり要点だけ伝えた俺はまた佐々木の手を握り締め走り出した。


しばらく走っただろう。
目的地も目と鼻の先に迫った頃に、佐々木にもうすぐ着くという事を伝え今は普通に歩い
ていた。
未だに佐々木の手は握ったままだが…まあ今日くらいはいいだろ?


「ねえ、キョン」
「なんだ、佐々木」
「まあ、これからもよろしく頼むよ」
「任せとけ。なんたって俺はおまえの『親友』なんだからな」


END


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