プロローグ

 

キョン「全くハルヒのヤツは……」
古泉「いいじゃないですか。涼宮さんがああして楽しそうにしているのを見るのは
  僕としては安心できる状態です」
キョン「お前はいいのかよ。あんな映画」
古泉「前回と違って出番が減ってしまうのは残念ですね。脇役に降格ですから」
キョン「なんなら俺と主演を変わってやろうか?」
古泉「ふふっ、冗談ですよ。それにしても驚きましたよ。映画の内容を聞かされたときには
  心臓が口から飛び出るかと思いましたよ。顔面の硬直を抑えるのに必死でした。
  まさか涼宮さんがあんなことを考えていたなんて思いもよりませんでしたから」
キョン「ああ、少し設定が違うだけでまさかあれほどとはな……」
古泉「本当に……涼宮さんには話していないんですよね……?」
キョン「……なんだよ。なんで俺の方を見るんだよ」
古泉「しかし、涼宮さんにはいつも本当に驚かされますね。とても偶然とは思えません。
  もしかしたら僕たちは最初から全て涼宮さんの手のひらの上で踊らされているのでしょうか。
  その方が神たる存在の振る舞いにふさわしいとはいえますが」
キョン「とにかく長門にあんな映画を撮らせるわけにはいかないな」
古泉「おっと、僕はその意見には反対ですね。涼宮さんを止めるのでしたらご自分一人の責任でお願いしますよ」
キョン「なんでだよ、お前あんな映画に出たいのかよ」
古泉「僕が出たいか出たくないかの選択肢を選ぶ上で重要なことは、僕自身の感情よりも
  自分の果たすべき役割の方だと思うんです。そういう理由で言えば僕はあの映画には
  ぜひとも参加したいのですよ」
キョン「ダメだ。俺が嫌だ。長門にあんなふざけた役やらせるわけにいかねえだろ」
古泉「おやおや、今回はやたらと長門さんに肩入れしますね。
  二人の間に何か特別な感情でも芽生えているように見えますが」
キョン「殴るぞ……」

 


 ~話は数日前に遡る~

 

………

……

 

喜緑「あ、そうそう最近会長からかうのがマイブームなんだけどさ」
朝倉「んもー、その話13回目よ」
長門「違う。23回目」

 

喜緑「そしたらね、会長ったら顔真っ赤にして逃げ出すの。なんかもうおっかしくて」
長門「朝起きて隣に裸の女が寝ていたら誰でもそうする」
朝倉「そういうときは刺しちゃえばいいのよ」
喜緑「でねでね、会長の寝ている夜中にラブコールをしたの。108回。無言で」
長門「あー、もうこいつウザい」
朝倉「こういうときこそ刺しちゃえばいいのよ」ザクッ
喜緑「いたたっ」

 

朝倉「それにしても有希はバカのくせによく進級できたわね」
喜緑「ほんとね、ランニングでもしたんじゃないの?」
朝倉「カンニングでしょ」
長門「わたしバカじゃないもん」
朝倉「有希はバカでしょ」
喜緑「有希はバカよねー」
長門「わたしバカじゃないってば」
朝倉「バカはみんなそういうわ」
喜緑「あなたもそうだもんね」
朝倉「そうそう。いたっ」ゴツン
喜緑「何やってんのよバカ」

朝倉「なにかにつまづいた……」
長門「よそ見して歩くから……バカ」
朝倉「な、なによー! バカって言った方がバカなんだからねー! だから有希がバカなのー!」
喜緑「そうよバカー」
長門「バカって言った方がバカならあなた達も言ってる。あ……自分も言ってた」
朝倉「バーカ」
喜緑「バーカ」
朝倉「あら、今つまづいたこの石みたいなの。なにかしら。ルービックキューブ?」
喜緑「懐かしいわね。文字が書いてあるみたいだけど……」
長門「これは、世界……ゴニョゴニョ……のである。世界に……ゴニョゴニョをもたらし……」
朝倉「漢字多いわね」

 

 ──これは世界秩序崩壊装置である。
  世界に混沌をもたらし、母なる海を馬鹿なる海に変え、
  大いなる大地をホモいなる大地に変え
  偉大なる天を肥大なる天麩羅に変えよう。

 

  もしこの装置が発動すればたちどころに世界に破滅が訪れるだろう。

 

  (※だからこの装置を使ってはいけません。
  お子様の手の届かないところに大切に保管してください)──

 

長門「…たちどころに……に……が……れるだろう」
朝倉「バカねぇ、有希ったらそんな漢字も読めないわけ?」
長門「バカっていうなー!」
喜緑「じゃあ、あなた読んでみなさいよ」
朝倉「え?わたし? わたしはー、よ、読めるわよ? 最後の方だけだけどね。
  せかいにへいわがおとずれる、よ」
喜緑「なーんだつまんない。すてちゃえ」ポイッ
朝倉「世界平和なんて今はやんないもんねー」
喜緑「ねー」

 

長門「……バカじゃ…ないもん」
朝倉「ほら、バカー。なにやってんのー」
喜緑「バカなんだからちゃんとついてきてよねー」
長門「バカっていうなー!」

 


 ~その1~

 

 それはなんてことのない、りんごが地球の引力で下に地面に落ちるがごとく、
 当然のことが当然として流れていた一日だった。
 至って普通の日のことだった。
 いや、人によっては今日が人生最大の告白をする日かもしれないし、
 人生最後の一日になるかもしれないしで、その一日を抜き出して俺ひとりの主観的な考え方で
 勝手に評価することなどすることはできないのだが、
 そしてあんなことがあったくらいだから全く持って普通の日ではないのは確かだが、
 その事件が起きなければ、俺にとってはごくごく当たり前の一日が過ぎていくべきの普通の日だったはずなのだ。

 

 たしかに、世間一般の常識で語るのであれば、
 わがSOS団は世界に誇る非常識極まりない奴らの集団である。
 その集団の一員の俺が常識を語っても説得力がないこと極まりないのであるが、
 長門有希はバカである。
 これは世界の常識である。
 長門と書いてバカと読むくらい、
 この世界では長門がバカであることは世間の常識としてまかり通っており、
 そのことは北高にいる誰もが知っていることであった。

 

 もしも平行宇宙のパラレルワールドがあったとして、
 そっちの世界にはバカじゃない長門がいるかもしれない。
 だがもしその住人に会うことが出来たとしても、
 異世界の人間にとっては自分の世界の方が正しいと感じるのが当然であり、
 同じようにこの世界にいる俺も、こうして自分の世界を正しいと感じている。

 

 長門はバカっぽいし、そのまんまバカだと思う。
 そして長門がそんなバカであることが至って普通のことに感じるのだ、俺は。

 

 そんな俺が自分のクラスの異変に気づいたのはそういう意味での普通の朝のHRのときだった。

 

 ~~~

 

長門「わたしはバカじゃない!」ドン!!
キョン「ど、どうした、突然うちのクラスに来て」
長門「バカって言われた」
キョン「なにバカなこといってるんだ」
長門「バカっていうなー」
岡部「よーし、みんな~、おっはよー。さあみんなー、席に着けー」ガラガラ
キョン「ほら、自分の教室に戻れよ。話は後で聞いてやるから」
長門「ううぅぅ……」
岡部「よーし出欠の点呼をとるぞー! 国木田ー」
キョン「ほら、早く帰れよ。お前欠席扱いになっちゃうぞ」
長門「もういい! 知らない!」ピュー
岡部「国木田ー。いないのかー?」
国木田「はあぁぁ~、あぁぁんいいん」
岡部「はははは、元気だなー。谷口ー」
キョン「ん?」
谷口「わ、わわ、わはぁ~い」
キョン「お、おい……な、何してんだ」
岡部「おーし、いるな。山根ー」
山根「あぁん、せ、先生! 先生!」
岡部「なんだー?」
山根「さっきから先生が取ってるのは点呼じゃなくてち●こですよ!」
岡部「お、おっとっと。失敬失敬。どおりで女子が誰もいないことになってるわけだな」

 

 どっ。
 あーはっはっは。
 クラスのみんなから笑いが起こった。
 谷口も笑いながら股間を抑えていた。

 

キョン「おい……。い、今何をしていた!?」

 

 誰か、今俺の目の前で起こったことを説明してくれないだろうか!?
 担任がクラスの男子のち●こを揉んでいた!?
 しかもなんでみんな笑ってるの!?
 あれ? ここ笑うとこ?
 い、いやいやいやいやいやいや何かの間違いじゃないのか!?
 俺はあまりの意味不明な出来事に得意のツッコミを入れることもできなかった。
 ただ後ろの席にいたハルヒも同じようにその異常を感じていたようで、
 口を中途半端にだらしなく開けて、両目を大きく見開いたままその様子をただボーゼンと眺めていた。
 おそらく俺も同じ様子だったに違いない。岡部に呼ばれるまでは。

 

岡部「おい、キョーン」
キョン「はっ! ちょ、なんで俺の方に近づいてくるんですか?
  しかもなんで俺のことをあだ名で呼んでるんですか?」
岡部「なんでって……そうしないと取れないだろ? ちんこが」モミッ
キョン「あっ、はぁぁ~ぃ」

 

 どっ。
 あーっはっはっは。

 

キョン「っておい! く、く、く国木田……どうなってるんだこれ……。っておい!!!」
 国木田を見て俺はまた俺は驚愕の色を隠せなかった。
 おかしいなんてもんじゃない。もうヤバイ。信号が黄色や赤じゃない。
 黒だ。真っ黒だった。なんで教室に入った時点で気づかなかったんだ、これに!
国木田「どうしたの?」

 

 国木田の額に『肉』と書かれていた。

 さも当たり前のように。

 よくみると周りの生徒たちの額にも同じようなものが書かれている。

 当然のように担任岡部の額にもだ。

 

国木田「ははーん、わかった。今日学校来る前にトイレを探していたら、
  ベンチに座っていたつなぎを着たカッコイイ男がチャックを下ろし始めたんだね。
  よくあることだよねー」
キョン「あるあr……ねーよ! 国木田、お前……バカになっていないか?」
国木田「なに言ってるんだよ、キョン」

 

 国木田はこちらを見てやれやれと言った表情で溜息つきながらこう漏らした。
国木田「僕は元々バカじゃないか」
キョン「はあ?」
国木田「いや、カバだったかな。カバは英語でヒポポタマスっていうんだよ。知ってたかい?」
キョン「意味がわからん……。それとその額の『肉』はなんだ」
谷口「国木田今日はかっけぇー、額に文字を入れるのかー。へぇーなるほどなー。
 俺もバカだから『肉』って書いたほうがいいのかな」

 

 谷口の額には『肉』の文字はない。
 いや、なかったが今その場で書き始めた。今は『肉』と書いてある。
 鏡文字になっていたが、字の形が左右対称に近いからあまり違いはない。

 

 それにしてもバカすぎる。
 俺の周りでバカといってまず思い当たる人物はあいつしかいない。
 バカの専門家のような人物がいたではないか。

 

 俺は急いで教室を出た。
 とにかくこの場にいられない。
 ハルヒをこの異常な空間に残してきたのが気がかりだが、今はそれどころではないのだ。

 

 まず最初に俺は6組の教室に向かったが、あいつの姿はなかった。
 てっきり教室に帰ったものかと思っていたが。
 なぜこんなときにちゃんと教室にいてくれないんだ……長門!

 仕方ない、こういうときは……9組だ。

 

キョン「はぁ、はぁ、古泉! こ、これはいったいどういうことなんだ!?」
古泉「来ましたか。これはとんでもない異常事態です」
キョン「気づいたか。お前は大丈夫だったんだな」
古泉「時間がないので簡単に言いましょう。みんながバカになってしまったのです」
キョン「みんながバカ?」
古泉「世界がバカになる病気です。そしてこれはどうやら感染するようです」

 

 なんてこった!
 バカが感染する病気だったなんてバカなことがあるか!
 バカにするのも大概しろ!!

 

 ~もし長門がバカだったら 第100話~
   『もし世界がバカだったら』

 

 ~その2~

 

古泉「異常を検知したのは昨日の夜中過ぎだったそうです。その時点でもう既にかなり汚染は進んでいたようです。
  今も懸命に原因の究明を続けていますが、まだはっきりとしたところはわかっていません。
  バカウィルス、とでも名づけましょうか。
  そのバカウィルスのようなものが空中に漂っているようなのですが、
  それを吸うとその人間はバカのようになってしまうようなのです。
  そしてそれは現在の科学ではどうしても検出することができないようです。
  『機関』の人間も数人がもうすでにバカになっています。
  おかがで原因の究明は遅れる一方です」
キョン「いったいどうしたらいいんだ!」
古泉「どうにもならないかもしれませんね」
キョン「そんな」
古泉「なぜならバカの世界に住む住人は世界がバカであることに違和感を感じないからです。
  バカにとってバカな世界は居心地のいい、至って当たり前の世界だからです。
  つまり、僕たちが今この世界を異常だと感じているのはバカになっていないからです。
  全てがバカになればバカにとっての法則で世界はうまく巡航します。
  そうなれば誰も世界を元の姿に戻そうとは思わないでしょう。
  なぜなら世界が改変されていることに、誰も気づかないからです。僕もあなたもです」
キョン「いったい誰がこんなことを……?」
古泉「これはあくまで推測なのですが、うっ!……」
キョン「古泉!? おい、どうした古泉! しっかりしろ!」
古泉「き、気をつけてください……バカ達は僕達をバカ…に……」ガクッ
キョン「おい、古泉! 古泉ー! ん、う、うわぁぁぁー!!」
 一瞬目の前が真っ暗になったと思ったら俺は自分の体が跳躍するのを感じた。

 

キョン「くっ、こ、ここは?」

 

 気がつくといつもの教室にいた。
 だがいつもの教室はいつもの風景ではなかった。
 窓がコンクリで塗り固められ、四角い密閉空間は薄暗い蛍光灯の明かりだけが
 うっすらと辺りを照らしていた。

 

朝倉「気分はどう?」
キョン「朝倉……なぜ、ここに?」
朝倉「さっそくだけどあなたを殺しにきたわ」
キョン「冗談はやめろ。ああ、このセリフどっかで言い忘れていたような気がする」
朝倉「冗談だと思う? なぜかわたしもようやくこのセリフを言えたような気がする」
 キランッ
 朝倉の右手に鈍い光が走った。
キョン「ま、待て! いったいなにがどうなってるのかわからん! 説明してくれ」
朝倉「詳しい話をしている暇はないの。説明とか苦手だし。それにほら……めんどい」
キョン「めんどい言うな」
朝倉「それにあなただけはどうしても死なないと終わらないみたいだから」
キョン「終わる?」
朝倉「じゃあ、死ん……ん?」
キョン「うわぁー! ん、んー?」
朝倉「ナイフとバイブを間違えた……」ウィンウィン
キョン「ある意味そっちの方が100倍ヤバイ」
朝倉「あぁー、うーん……」ウィンウィン
キョン「あー、うーん……まあ、ねぇ……」
朝倉「ま、いいわ。死んで」ウィンウイン
キョン「それで死ねるか!」
朝倉「どうして? これをつっこまれた男はみんなキャー死ぬーって叫ぶわ」
キョン「経験済みかよ!」
朝倉「だからあなたも……」
キョン「キャー!」

 

??「危ない!」ドン!!
朝倉「キャッ!」
キョン「お、お前! いったいどうやってここに!?」
朝倉「あなたは……古泉一樹!」
古泉「彼に危害を加えようとしているのをこのまま黙って見過ごすわけにはいきません」
キョン「古泉、復活したのか」
朝倉「邪魔する気?」
古泉「朝倉さん、あなたは間違っています。
  世界をバカにすることで自分の相対的な地位を向上させても何も意味がありません」
キョン「どういうことだ?」
古泉「この世界をこのようにバカにしてしまったのはおそらくこいつらだったんです。
  彼女たちは自分がバカなのが悔しくて他のみんなをバカにしようと考えたのです。
  『機関』の調査ではTFEIの誰かが今回の騒動の原因を作ったと考えています」
キョン「彼女たち……ということはまさか」
古泉「喜緑江美里や……長門さんも可能性としては含まれます」
キョン「長門まで? そんなバカな……はっ、いやまさか……」
朝倉「あなた達はおとなしくバカになるべきなのよ!」
古泉「手を引くなら今のうちです。ふふ、それにこの空間では……ボゥン!!
  僕も力を使うことが出来るようです」
キョン「そうだ! 古泉は強いんだぞ!」
古泉「あなたにはここは譲れません」
朝倉「くっ……!」
古泉「キョンたんのアナルは僕んだ!」
キョン「そうだ!そうだ! ……って、ちょっと待ておいっ! お前! 額に……」

 

 古泉はバカになっていた。
 見りゃわかる。額に太いマジックで『肉』と書かれていたからだ。

 

古泉「安心してください。あなたのアナルは僕が奪います」ウィンウィン
キョン「ちょ、待て。その右手のバイブ、朝倉のよりエグイんだが……」
古泉「極太サイズ。海外から特注しました」
朝倉「そ、そんな……わたしのより太くてゴツゴツしてるなんて……」
古泉「ふふふ、朝倉涼子さん。彼のアナルは僕の物なんです。諦めてください」
キョン「ちげーよ」
朝倉「彼のアナルは絶対に譲らない……」
キョン「目的変わってるし」
古泉「あなたとは共に天を抱かず。キョンを抱くデス! いざっ!」
朝倉「はぁっ!」
キョン「どんな戦いだよ……」

 

 キーン!!
 バキンバキンガキーン!!

 

古泉「ふんもっふ!」バシューン!!
朝倉「はっ!」ガキーン
古泉「はっ、せいいっやっ!」
朝倉「くぅっ!」バシュゥ

 

キョン「効果音はカッコイイが……バイブで闘うな古泉よ」
朝倉「ちっ、このバイブでは勝ち目がないわ。だってあっちの方が高そうなんだもん。手加減しちゃうよ」
古泉「覚悟してください。これはあなたとキョンたん両方に言えることです」
キョン「ひぃー! どっちが勝ってもダメじゃねーか」

 

朝倉「くそっ、こうなったら!」
キョン「なんだそれは」
朝倉「このぷらすちっく爆弾であなた達は皆殺しなんだから」
キョン「うわー、宇宙人のくせにSFなしかよ」
古泉「ちょ、ちょっとそれは無理ですー! 爆弾とか無理ー!」
キョン「えぇー! そんなぁ!」
朝倉「ふふふ、逃げようとしてももう無駄よ……。残り10秒……」
キョン「うわっ、や、やめろー!」
古泉「キャー!!」
朝倉「あっははは。もうあなた達は終わりよ。5…4…3」
キョン「くっ、この狭い教室じゃ逃げるに逃げられねえ」
朝倉「…2…1…!」

 

 ぼかーん!!

 

朝倉「キャーッ!!」バタッ
キョン「早く投げろよバカ」
朝倉「うかつ……」ガクッ

 

キョン「ふぅ、終わったか……」
古泉「ふふっまだ本当の戦いはこれからですよ。いや、これから全てが始まるのですよ」
キョン「んなっ!」
古泉「おっと、暴れないでください」ガシッ
キョン「くっ、や、やめろ!」
古泉「力を抜いてください」
キョン「やめろお!」
古泉「力を抜かなきゃ入れられません」
キョン「入れるなぁぁ!!」
古泉「ふぅー」
キョン「み、耳に息をかけるなぁ……あ、あ、あぁ!」
古泉「ふぅー」
キョン「あ、あぁぁぁ、あっあ!」
古泉「ふぅー、ふぅー、ふぅー」
キョン「あ、あぁぁぁ、あっあ!」
古泉「ふぅー」
キョン「って早くしろよ」
古泉「していいんですか?」
キョン「あ、いや、ダメだ!」
古泉「それでは!」
キョン「アッー!!」

 

 バリーン!!

 

 盛大な破裂音と共に灰色の空間に小さな影が飛び込んできた。
 これが正常な世界での流れなのだろうか。
 あの長門が古泉の前に立ちはだかり、両手を広げて俺を庇っている。

 

長門「一つ一つのプログラ」
キョン「な、長門! 助けに来てくれたのか!?」
長門「一つ一つの」
古泉「ちっ、邪魔が入りましたか」
長門「ひと」
キョン「やっぱり来てくれたんだな。信じてたぜ!」
長門「……」
キョン「どうした、長門?」
長門「一つ一つ」
古泉「長門さん……。あなたとは分かり合えると思ってたんですが?
  あなたは僕と彼のボーイズラブ小説を書いていたじゃありませんか」
長門「古泉一樹……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
古泉「なんでしょう?」
長門「……」
キョン「どうした、長門。さっきから変だぞ」
長門「あなたは攻めではなく受けの方がいい。古泉×キョンはありきたり。
   これからの時代はキョン×古泉」
キョン「ってなんだそりゃー!」
古泉「なかなか渋いですね。ですが僕は攻め専なんでね。その意見は受け入れられません」
キョン「そんなに違いがあるのか」
古泉「受けと攻めの違いは水と油のようなものです。お料理には欠かせません」
キョン「このバカが」
長門「古泉一樹を敵性と判定……ぐすん」
キョン「泣くな! お前の判定基準はそこか!」
古泉「僕も簡単にやられるわけにはいきません。アナル全開でいかせてもらいます。
  ハァー!! ふん!」ぶりっボワン!!
キョン「くさっ、全開にするな! 締めろ!」

 

古泉「キョンたんのアナルをかけて」
長門「いざ」
古泉「勝負!!」
キョン「かけるな、んなもん」

 俺のアナルをかけた長い戦いが今……始まる

 

 ~その3~

 

 FIGHT!!
  カーン!!
 終わりました。

 

長門「滅・殺!!」
古泉「アッー!!」

 開始一秒で長門の指が見事に古泉の尻をえぐっていた。
古泉「うぐぅ」ドサッ
長門「あなたは普段から受けに回って括約筋を鍛えるべきだった。それとアナルを全開にしたのが敗因」
 そういう問題じゃないと思う。
 だが俺はやるべきことはやっておくことにした。
キョン「こいつめ! こいつめ!」
 俺は古泉の持っていた極太バイブを、これでもかというほど何度もヤツのアナルに突っ込んでやった。
 古泉のアナルは今日バカになったばかりなのに、なぜか極太バイブをすんなりと受け入れていった。
 そもそもこいつはおかしいのだ。なぜ注文したら時間が掛かるはずの海外特注のバイブなんかもっているんだ?
 あとで元に戻ったらじっくり尋問してやらなくてはならない。
長門「助さん格さん、もういいでしょう」
キョン「二人もいねっつの」ペシ
長門「つっこんでる場合じゃない」
キョン「そうだった。長門……」
長門「……」
キョン「古泉はお前も疑っていたけど、今回の騒動、お前が原因じゃないのか?」
長門「違う。わたしは何もしていない」
キョン「そうか。ならいいんだ。てっきりみんなをバカにしてみたかったのかと思って」
長門「……」
キョン「何か思い当たるものはないか? お前らが原因とかそういうことはないか?
  例えばみんながバカになってしまうスイッチのようなものを押してしまったとか」
長門「ない」
キョン「本当か? 少しでも怪しい出来事とかはなかったか?」
長門「神に誓って、……ない……はず」
キョン「そうか……あとは怪しいのはあの人か……まいったな」
長門「ない……かも」

 


長門「……と思う」

 

長門「……だと、いいな」



 ~その4~

 

キョン「さっきまでどこ行ってたんだよ。探したんだぞ」
長門「迷子になってた」
キョン「隣のクラスに戻るのに迷うなバカ」
長門「またバカって言った……」
キョン「ところで喜緑さんのクラスって何組かわかるか?」
長門「奇面組」
キョン「おい、バカなこと言ってる場合じゃないだろ」
長門「バカっていうなー」
キョン「いまのはお前が悪いだろ。知らないのか?」
長門「わたしはバカじゃない」
キョン「そんなことはどうでもいいから喜緑さんを見つけて事情を聞かないと」
長門「どうでもよくない。わたしはバカじゃない」
キョン「わかった。わかった。お前はバカじゃないよ」
長門「……わかってない」プルプル
キョン「三年生の階にいるのかな」
長門「バカじゃないもん!」ダッ!!ピュー!!
キョン「あ、おい! 長門! ……あのバカ何やってんだ。ん? あの人は……」

 

 俺の視線の先に黒山の人だかりが見えた。
 その中心で何かを叫びながらストリップをしている男が知っている男だった。
 話しかけるどころか目線に入れたくもないが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

 

キョン「会長」
会長「脱ぎますから! これからもっと脱ぎますから許してください!」
キョン「今ちょっとお時間いいですか?」
会長「なんだね、私の選挙活動の邪魔をしないでくれたまえ」

 

 額に『肉』と書かれた会長はあられもない姿で周りの群集達と握手していた。
 何の選挙か知らないが俺はこんな投票権などいらない。

 

キョン「喜緑さんを知りませんか?」
会長「無論、知っている」ヌギヌギ
キョン「今どこにいるかわかりますか?」
会長「知っている」ポイポイ
キョン「どこにいるんですか?」
会長「この私に清き一票を! 穢れなきこの体に神聖なる一票を!」
キョン「ちょっと、喜緑さんはどこなんですか?」
会長「なんだね、もっと脱げというのかね? 仕方ないな」
キョン「もうパンツ一丁なのでこれ以上は勘弁してください」

 

 バカになった観衆が会長のパンツに投票用紙を差し込み始めた。

 

会長「ありがとう。ありがとう」
キョン「教えてください」
会長「体で教えよう」
キョン「いりません」
会長「そうか、じゃあ、君もズボンを脱ぎたまえ」

 

 もういい。これ以上は関わり合いたくない。
 それにしてもおかしい。普段の喜緑さんならこんな会長を放っておくはずがない。
 ということは喜緑さんは何か企んでいるに違いないのだ。

 

みくる「キャー、キャー! 投票しますぅ!」
キョン「あ、朝比奈さん! な、何やってるんですか! 無事ですか!?」
みくる「武士?」
キョン「あーあ……まさかあなたもバカになっているのでは……」
みくる「ああ、わたしなら大丈夫ですよ~。未来保険に入ってますから~」
キョン「無事じゃないんですね」
みくる「武士でござる!」
キョン「まあいいや。喜緑さんを見かけませんでしたか?」
みくる「え? あの……ワカ、じゃなくて生徒会の書記の方ですよね?」
キョン「ええ、そうなんですけど」
みくる「わたしはこの時代の人間ではありません。もっと未来から来ました」
キョン「知ってますよそんなの。だいぶ前にその話聞きましたから」
みくる「信じてもらえないでしょうね、こんなこと」
キョン「いや、信じるも何も……。実際時間移動したことあるし……」
みくる「信じてもらえないなら、わたし、脱ぎます!」
観衆「おおおおーー!!」
キョン「ちょ、ちょっと朝比奈さん、な、ななななにをしてるんですか!」
みくる「キャー! こ、ここどこですか? なんでわたし裸なんですか?」
キョン「ちょ、ちょっと朝比奈さんっ! あなたかなりのバカなっていませんか!?」

 

 今度は朝比奈さんの周りに黒山の人だかりが出来始めた。
 ああ、残念なことに俺は朝比奈さんが服を脱ぐのをただじっと見ている事しか出来なかった。

 

??「見てないで止めろよ」
キョン「お、お前は!」
 振り返るといつかの朝比奈さん誘拐事件のときのあの男がいた。

キョン「パンジー!」
パンジー「はぁ? パンジー?」
キョン「いや、名前も聞いてないからなんて呼んでいいかわからなかったし」
パンジー「だからって勝手に人を変な名前で呼ぶな。つけるにしてももう少しまともなあだ名つけろ」
キョン「そうは言うけどな、パンジー。最初に名乗らなかったお前も悪いんだぞ」
パンジー「藤原」
キョン「なあ、パンジー。この騒動はいったいなんなんだ? なにが原因なのかさっぱりわからん」
パンジー「ちょっと待て。藤原でいいから」
キョン「パンジーは大丈夫なのか? バカになっていないのか?」
パンジー「おいっ! 人を変な名前で呼ぶなといってるだろう! お前も相当バカだぞ!」
キョン「ところで何をしにきたんだ」
パンジー「ふんっ、まあいい。今回はお前に協力しに来た」
キョン「そうか、それは助かるよパンジー」
パンジー「……」
キョン「どうしたパンジー?」
パンジー「……今の状況を説明してやる。一度しか言わないからよく聞け。
  今世界がおかしくなっているせいで未来の時空次元にも大きな影響を及ぼし始めている。
  このようなおかしな連中ばかりの世界になった原因は、世界秩序崩壊装置のせいだ。
  これは情報統合思念体の端末が作り出した代物で、
  世界中にバカウィルスをばら撒き、世界の秩序を狂わせるというもの。
  まずはこれを見つけて、暴走しているその装置を止めなくてはいけない」
キョン「やっぱり朝倉とか喜緑さんが原因なのか……」
パンジー「あの二人は真犯人ではない」
キョン「なに!? じゃあ、なんで変な動きを?」
パンジー「あの二人は世界秩序崩壊装置に操られているだけだ。
  そして朝倉がさっき倒れているところを調べたが何も持っていなかった。
  おそらく喜緑江美里がその装置を持っている」
キョン「そうか、でもやっぱり喜緑さんが鍵を握っているのか。
  で、その世界なんとか装置とやらをみつけたとして、俺は何をすればいいんだ?」
パンジー「わからん。あの装置を止める瞬間の世界を俺たちには観測できない。
  世界が狂っているせいで時空間位相の変動が予測不能だ」
キョン「じゃあ、これからどうなるのかもわからないわけか」
パンジー「俺も相当の危険を犯してここに来ている。とにかくお前がなんとかしろ」
キョン「なんとかって……お前は何もしないのか」
パンジー「俺ができることはここまでだ。なぜならこれは既定事項だからだ」
キョン「それと喜緑さん達が犯人じゃないなら、今回の騒動の原因はなんなんだ?」
パンジー「犯人は……ふんっ、これ以上は『金玉事項』だ」
キョン「あっちゃー……この人もバカになっちゃった」
みくる「……どうしましょう」
キョン「どうしましょうかねぇ、朝比奈さん」
みくる「あの人、かっこいい……」
キョン「あ、朝比奈さん?」
みくる「ポワーン……」
キョン「ポワーンじゃないですよ!」
パンジー「朝比奈みくるか」
みくる「はい。ポワーン」
パンジー「『金玉事項』の『金玉事項』が『金玉事項』に『金玉事項』している」
みくる「はい。ポワーン」
パンジー「ここは『金玉事項』だから『金玉事項』してくれるか」
みくる「ひゃーい。きんたまー!」
パンジー「イエス! きんたーま!」
みくる&パンジー「うぅ~、さいたまー!(禁則事項ですぅ)」

 

キョン「一生やってろ」

 

 俺はその場を後にした。

 

 ~その5~

 

ハルヒ「あ、キョン! こんなところにいたのね!」
キョン「あ、ハルヒ……」
ハルヒ「ねえ、このおかしな状況わかる? なんかみんなすんごいバカなんだけど!」
キョン「ああ……わかるよ。お前もわかるんだな」
ハルヒ「みんなが自分がバカな行動していることに気づいていないみたいなの。
  岡部はハンドボールの授業始めちゃうし、
  国木田はその間ずっと山根のお尻触ってるし、
  阪中さんなんかルソーの霊が乗り移っちゃってワンワン鳴いてるの。
  なんか可愛かったから餌付けしたらなついて来ちゃった」
阪中「わん!」
キョン「げぇ……」
ハルヒ「キョン! わかる? この世界の異常な事態。ついに世界の最後の日が訪れたのよ」
キョン「お前、楽しそうだな」
ハルヒ「楽しいに決まってるじゃない!!」
キョン「お前はこんな狂った世界の方がいいっていうのか?
  お前の望んでいる世界はこんな狂った世界だったのか?」
ハルヒ「そうじゃないけどさ……でも前の退屈なときよりずっとマシよ!
  退屈な授業も出なくていいし、将来退屈な仕事に就くこともなさそうね。
  何よりみんな楽しそうじゃない! この方がずっと自然よ!」
阪中「わん!」
キョン「でもそんなことで社会が成り立つと思うのか?
  誰も働かない社会じゃいつか破綻するのは目に見えてるだろ」
ハルヒ「なんとかなるわよ! みんながバカなんだし、欲にかられて暴動が起きたりする様子はないしね
  きっとみんながバカになればうまくいくのよ。世界ってそういうもんじゃない?」
キョン「いや、ダメだ。そんな世界にいるべきではない」
ハルヒ「なんでよ」
キョン「もう戻ろう、ハルヒ」
ハルヒ「戻る? 嫌よ! こんな面白い世界があるのに!」
キョン「こんな狂った世界の何がいいんだ」
ハルヒ「だってこの方が面白いじゃない!」
キョン「俺は元の世界に戻りたいんだ。」
ハルヒ「そう。戻りたければ一人で戻りなさいね。あたしはここにいるから」

 

 ダメだ。こいつに説得しようとしても無駄だった。
 こうなったらいつかの方法をもう一度やってみるしかない。
 だからハルヒの能力にかけてみよう。
 あのときみたいに……

 

キョン「いいか。一緒に元の世界に戻るんだ。もうすぐこれは夢だったと気づく。
  そう、これはお前の夢なんだよ。お前が目を覚ませばそこはベッドの上だ」
ハルヒ「いやよ! 夢なんて嫌! このままでいい! あ……」

 

キョン「いつだったかお前の」
ハルヒ「ふんふーんふーん」
キョン「って、なにをしているんだハルヒ」
ハルヒ「なにって、額に『肉』書いてるに決まっているでしょ!」
キョン「なあ、それはこの世界での常識なのか?」
ハルヒ「どう? わたしのは29(ニク)よ! AKIRAみたいでかっこいいでしょ!」
キョン「アキラは28号だ」
ハルヒ「じゃあ鉄人ね!」
キョン「残念だがそれも28号だ」
ハルヒ「ビューンと飛んでくてーつじん、28号~、グリコグリコグ~リ~コ~♪」
キョン「聞けよ、人の話」
ハルヒ「聞いてるわよ、バラバラにされても再生するんでしょ?」
キョン「ヒトデの話じゃねえよ」
ハルヒ「ねえ、キョン!」
キョン「なんだ」
ハルヒ「……すき」
キョン「んなっ!」
ハルヒ「やき食べたい!」
キョン「……意味わからん。でもこの空間じゃすきやきどころか食べ物なんて一切なさそうだぞ」
ハルヒ「バカね、ニク繋がりの話じゃない。空気読みなさいよ」
キョン「お前が空気読め。今がどういう状況かわかってるのか?」
ハルヒ「空気、元気、安藤美姫の三本の木を植えまーす!」
キョン「植えるな!」
ハルヒ「ねえ、キョン」
キョン「なんだ」
ハルヒ「ちゅっ」
キョン「んなっ!」
ハルヒ「きゃははー、赤くなってるー! まるで女の子にキスされたみたい」
キョン「みたいじゃなくてそのまんまだ。あれ? 元の世界に戻らないぞ……」
ハルヒ「ジャーンジャーン! げぇ!! 孔明の罠だ!」
阪中「わんわん! わおーん!」
キョン「意味わからん」

 

 ハルヒはどうやら完全にバカになってしまったようだ。
 これでは俺がいくらハルヒに説得しても意味が無い。
 ハルヒが元の世界を望む望まない以前に、そもそも現状を認識できないのだから話にならない。
 どうりでキスとかで元にもどらないわけだ。

 

キョン「お前、バカになってもあんま変わらないのな」
ハルヒ「何よ。普段からバカだって言いたいわけ?」
キョン「話が噛みあっていないのはいつものことだからな」
ハルヒ「ふふん、嫉妬してるんだ。わたしに」
キョン「俺の言葉をどうとるそうなるんだ?」
ハルヒ「あんたの額にも「肉」って書いてあげるわ! 明朝体で!」
  そういうとどこから取り出したのか、あるいはハルヒが生み出したのか、
  ハルヒは右手に握っていたマジックで俺の額を狙って襲い掛かってきた。
キョン「バカ!……ってそのとおりか。やめろ! おい! 痛でででぇ」
ハルヒ「ごめん、痛かった? ゴシック体だったら痛くないかな?」
キョン「関係ねえー! 助けてえー!!」

 

長門「はい、それまーでーよ」ゴツン
ハルヒ「げふっ」
キョン「な、長門!?」
長門「おやすみ坊や」
ハルヒ「いったぁー、ちょっと有希! 何するのよ!」
長門「おやすみリターンズ」バコン
ハルヒ「あがっ」ドサッ
阪中「わんわん! わおーん! ぐるるるる!」
長門「おやすみリローデッド」バコン
阪中「きゃいーん! くぅん……」ドサッ
キョン「ひでぇ……」
ハルヒ「ぐぅ……むにゃむにゃ……もうハメられないよ……」
キョン「それを言うなら『もう食べられないよ』だろ」
長門「寝ている人にまでつっこまなくていい」
キョン「すまん……」



 ~その6~

 

長門「ところで……」
 長門は右手に持っていたフライパンを投げ捨て、ハルヒの寝顔にチラッと目をやってから
 こちらを見てはっきりとこうたずねた。
長門「わたしと涼宮ハルヒを比べて、どう思う?」
キョン「どうって何が?」
長門「どう思っているのか。どう考えているのか」
キョン「い、いきなりなんだよ」
長門「答えて」
キョン「今答えなきゃいけないことか?」
長門「今、どっちか選んで」
キョン「選ぶって……」
長門「わたしか、涼宮ハルヒか」
キョン「そんな……」
長門「どっちがバカか」
キョン「そっちかよ!」
長門「他に、何が?」
キョン「う、うん……まあ、今のハルヒと比べたらお前の方がまともだよ」
長門「そう……勝った」
キョン「よかったな」
長門「うん」

 

キョン「いったい誰がこんなことを……?」
長門「今回の黒幕は……あいつ」
キョン「黒幕?」
長門「銀幕だったか……」
キョン「いや、そこは黒幕でいいだろ」
長門「処女膜の可能性も」
キョン「ねえよ! で、誰が黒幕なんだ」
長門「何の話?」
キョン「だから今回の事件の真犯人だよ!」
長門「そう。今回の黒幕は……あいつ」
キョン「だから誰なんだって!」
長門「やっぱり銀幕かも……」
キョン「だから繰り返すなって!」
長門「バカ派の……」
キョン「バカ派?」

 

喜緑「くだらないお話はそこまでよ」

 

長門「ワカメ!?」
喜緑「はい、そこちがーう」
キョン「喜緑さん、やっと出てきたな!」
喜緑「へへへ、やっと出番がきたわ」
キョン「何しにここへ!?」
喜緑「へ?」
キョン「へ? じゃないですよ。そんな登場シーンで出てきて何も考えてないんですか?」
喜緑「あれ、何しに来たんだっけ」
キョン「まさか朝倉みたいに俺のことを殺しに来たんじゃないでしょうね」
喜緑「あ、そうそう、それそれ!」
長門「忘れるな」
喜緑「ってわけで! 空間閉鎖!!」シャキーン!!
キョン「うわっ! 黄緑色!」
長門「目に悪そう」
喜緑「これで外部の人間をシャットアウトよ」
キョン「なんであんた達は俺を殺そうとするんだ!?」
喜緑「だって邪魔なんですもの。世界にバカじゃない人はいらないの」
長門「わたしは?」
喜緑「あなたは元からバカでしょ」
キョン「そうだぞ長門」
長門「……」
喜緑「なぜこうなったのかはよくわかんないけど、わたしはこの世界に納得してます。
  みんながバカになった方がうまく行くと思いますし、みんながバカなら平等なんです。
  未来は元の世界よりずっとすばらしい世界が拓けているはず。
  ねえ、長門さん。あなたもそう思ってるんでしょ?」
長門「……」
喜緑「自分だけみんなバカバカ言われて悔しい思いをするよりも、
  お互いにバカバカ言い合える素敵な世界。
  そういう世界に住みたいって一度でも思わなかった? わたしはそういう世界がいいなぁ」
長門「……思いもよらなかった。なるほど」
キョン「おいおい」
長門「でも……」
喜緑「あら?」
長門「彼がそういう世界を望んでいないし、わたしもそういう彼を望んでいない」
キョン「長門……」
喜緑「そう、残念ね。でも、あなたを殺せば強制的に世界はバカに染まる」
キョン「お、俺ですか?」
喜緑「そう。世界がバカになるためには今までのまともな常識を持った人間がいてはダメなの。
  全ての宇宙法則をバカにするために欠かせない条件だから。
  これからの世界はボケ役だけがいればいい。ツッコミ役はいらないの」
キョン「俺ってやっぱりツッコミキャラなのか……」
喜緑「でも、なぜかあなただけは簡単にバカにならないようだから、殺すしかないのかなって」
長門「それなら仕方ない」
キョン「仕方なくねえ」
長門「……仕方なくない」

 

キョン「ところであなたは世界秩序崩壊装置を持っていないんですか?」
喜緑「何ですそれ? 知りません」
キョン「え、でもパンジーが喜緑さんが持ってるって……」
喜緑「持ってませんよ。なんなら服を全部脱いでお見せしましょうか?」
キョン「えぇ? そ、そんなことまでしなくても。
  あー、でも確認だけでもしとこうかなぁ……なーんて」
長門「じーーー…………」
キョン「あー、い、いや、いいです。そんなこと必要ないですよ、うん」
喜緑「そう、少し残念です」
キョン「ところで喜緑さん、あなたに聞きたい事がもう一つある」
喜緑「死ぬ前に聞いてあげます。何?」
キョン「あなたの額に書かれている文字なんだが」
喜緑「『殺』でしょ。ふふ、わたしは流行に流されないタイプなの。似合ってるかしら?」
キョン「いや、『投』になってる」
喜緑「え!? 嘘! や、やっだー……、恥ずかしい~。ちょろーんと待ってて!
  すぐだから! 今すぐ直すからちょっと待ってて!」

 

キョン「長門」
長門「……」コクリ

 

喜緑「いや~ん、わたしったらおっちょこちょいボンゲなんだから!
  『でも、そんなドジなところもかわいいよ江美里』『会長……』なーんてね! なーんてね!」
長門「三年殺し」ブスッ
喜緑「うっぎゃあぁぁぁぁああ!」
キョン「おいおい……」
喜緑「あ……ラピュタが…見える……バ、バル……」ガクッ
長門「手ごわい相手だった……。あと少しでこっちが死んでいた」
キョン「どこがやねん」

 


 ~その7~

 

長門「あ……あなたに重大な報告をしなくてはいけなくなった」
キョン「ん? どうした長門」
長門「今、喜緑江美里の直腸内に世界秩序崩壊装置を発見した」
キョン「そんなところに隠してたのかよ! どうりで見つかんないわけだよ!」
長門「だが装置は喜緑江美里の肛門深くに入り込み、取り出すことは不可能になっている」
キョン「マジかよ……。あのワカメなにやってんだか」
長門「おそらく落ちていた装置を単なる石と勘違いしてお尻に詰め込んでいた模様」
キョン「どういう勘違いだ」
長門「だが、この指を介してその情報を盗み出すことに成功した」プーン
キョン「浣腸した指を見せんな」
長門「この指の先に(禁則事項)がついている」
キョン「いいから見せんな!」
長門「この装置を解析したところ、この装置はバカウィルスを作成し、自動でバラ撒くように出来ている。
  そして現在、世界にはまともな人間はもうあなたしかいないということが判明した」
キョン「お、俺だけかよ……」
長門「しかし、抽出したウィルスの解析データから世界を元に戻すワクチンの作成に成功した」
キョン「おお! やったな! じゃあ、さっそくそれを」
長門「ダメ」
キョン「なんで!?」
長門「このワクチンを使うには条件がある」
キョン「それはいったいどうすればいいんだ?」
長門「あなたの協力が必要」

 

 なるほどそういえばいつだったかハルヒと二人で閉鎖空間に取り残されたときと同じなのか。
 あのとき……

 

 ハルヒと二人っきりのあの空間で……
 俺はさまざまな自問自答の末、
 長門や朝比奈さんのわかり安すぎるヒントにしたがい、
 ハルヒの唇を奪った。

 

 つまり、今俺が今回すべきことは……。
 もうわかるよな?

 

 俺は長門の肩に手を置いて真剣な目で
 ハルヒと二人の世界から戻ってきたときのように……

 

キョン「長門、俺実は綾波萌えなんだよ。いつだったか──」

 

 パシーンッ!
 痛ーっ!!
 長門の平手が俺の頬を痛打した。
 親父にもぶたれたことないのに!
長門「キスで元に戻るのはあのときの涼宮ハルヒだけ。今回の解除条件はそれとは全く別」
 長門は俺のとんがらせた唇を横に押しやるように、もう一度平手を打ち抜いた。
 パシーンッ!
 痛い。二度もぶった!
 でも、いいじゃねえか、少しくらいちゅーしたって……。

 

長門「ダメ」
 パシーンッ!
 三度もぶった!

 

 それにしてもさっきから長門の反応がおかしい……なんでいつもみたいにボケてくれないんだ?
 そこで長門の顔に異変があるのにいまさらながらに気づいた。
 額に「肉」の文字があるじゃねえか!!

 

長門「さっき喜緑江美里から情報を抽出したときに強力なバカウィルスが侵入してきた。
  だが、わたしは元々バカプログラムがフォーマットになっていた。
  バカにバカをかけたことによって、マイナス同士が打ち消しあい、プラスになった」
キョン「どういう理屈だ……。それにしてもまともな長門か。すげえひさしぶりに見たぜ」
長門「あなたはバカなわたしと一緒にいたおかげでバカに対する抗体ができていた」
キョン「バカの抗体って……」
長門「だがしかし、それも時間の問題。まだなんとか正常な精神を維持してはいるものの、
  あなたにもバカウィルスは確実に感染している。このまま行けばあと一時間もせずあなたは確実にバカになる」
キョン「そんな……。もう俺もバカになるのは止められないってか。
  そうすると俺もあのさっきのハルヒのように、意味のわからないことを言い出すようになっちゃうのか」
長門「なっちゃう」
キョン「なっちゃうって、そんなあっさり……」
長門「でもあなたのこれからの行動次第で止められるかもしれない」
キョン「どうすれば?」
長門「謝って」
キョン「本当にお前のバカ直ってるのか? ふざけるなよ」
長門「ふざけてなどいない。わたしに謝って」
キョン「なにをだよ」
長門「わたしのことをバカにしたことを」
キョン「……根に持っていたのか」
長門「少し違う。わたしはこの世界を元に戻したいと思っている。
  だが、もう一つのわたし。つまり、バカな方のわたしはもうあなたにバカにされたくないと思っている」
キョン「お前、二重人格だったのか」
長門「便宜的に言えばそう、バカじゃない方のわたしと、バカなわたしは記憶は共有しているものの、
  人格としては別に扱われている考えていい。そして本来の人格はこの正常なわたし」
キョン「そうだったのか……本当の長門はバカじゃないのか。
  で、どうして俺が謝らないとワクチンが使えないんだ?」
長門「それはもう一人のわたしがそのまま世界を元に戻すことを拒んでいるから」
キョン「お前はそっちを説得することは出来ないのか?」
長門「出来ない。互いに別の人格ではあるが、元は一つのため二つが同時に存在することはないから。
  だから直接互いの意思を交換することは不可能。
  でもわたしという個体もあなたに謝ってほしいと感じている。
  わたしは本当はバカじゃないのに、今まで不当な扱いを受けていた。
  そういうことも含めて謝罪してほしい」
キョン「たしかにそうだな」

 

谷口「うぃーっす、WAWAWAわすれものー」
キョン「た、谷口ぃ!?」



 ~その8~

 

谷口「うぉわっ! キョン!? それに長門有希!?」
キョン「お前はここに何しに来たんだ。ってかどうやってこの空間に入り込んだんだ!?」
谷口「いや、俺は忘れ物を取りに……」
キョン「忘れ物なんかこんな空間にあるか!」
谷口「い、いや、あるんだって……。あー、それそれ」
長門「!?」
谷口「その喜緑江美里の尻に入ってる世界秩序崩壊装置。あれ俺のなんだよ。取ってくれ」
キョン「お前がバカ派のTFEIかよー!!」
谷口「な、なぜそれをおおーー!?」
長門「バカ」
キョン「バカ」
谷口「なぜバレたんだろ……。俺のどこがバカに見えたんだろう……」
キョン「お前みたいなバカがほんとに情報端末なのか? 信じられねえよ」
谷口「そんなこと俺に聞かれても……」
キョン「お前のことだろ」
長門「谷口は対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイス。それは本当」
谷口「マジかよ……嘘だろ……」
キョン「それは俺のセリフだ!」
谷口「あ、わりぃ」
キョン「お前がこのおかしな状況を作り出したのか……」
谷口「うーん、直接的には俺じゃないんだけど、俺の親玉ってところだな。
  まあ、俺とあんまし変わらんけどさ。ってわけで、ごゆっくりー」
キョン「待て」
谷口「なんだよ」
キョン「ただで帰すと思ったのか」
谷口「え!? 金くれんの!? やりぃ!」
キョン「やらねーよ」
谷口「なんだよもう、気を持たせやがってキョンのくせに」
長門「谷口……あなたは自分が情報端末である自覚すらないバカだったはず。それがなぜ」
谷口「ああ、それもこれも世界秩序崩壊装置のおかげだぜ。
  あれが起動すると全部思い出すような仕掛けになってたらしいんだ」
長門「あなたの今回のクーデターは決して許されるものではない」
谷口「プレデター? 懐かしい映画だな、おい」
キョン「クーデターだ」
長門「あなたは下がってて。谷口のバカごとき、わたしの力で三秒で終わらせる」
谷口「そうか。できるものならやってみな! へへーん、べろべろばぁー。
  お尻ぺんぺーん! にゃにゃにゃにゃにゃーにゃ、はははははーは!」
長門「パーソナルネーム谷口を敵性と判定。当該対象の有機情報連結を解除する」ゴゴゴゴ
キョン「谷口の下の名前は?」
長門「"谷口"でフルネーム」
キョン「あいつ下の名前がなかったのか……気づかなかったぜ……」
長門「……ブツブツブツ」
谷口「う、うわぁー!」
長門「……あれ?」
谷口「うぎゃぁぁぁぁ!」
長門「当該対象の有機情報連結の解除を申請する」
谷口「やめろおぉぉぉぉ!」
キョン「うるせえ谷口」
谷口「いや、なんとなくふいんき出さないといけないかなって」
長門「……??」
キョン「……谷口には何も起きないぞ長門。どうしたんだ?」
長門「そんな、バカな……」
谷口「はっはっは。無駄だぜ、長門有希! もう世界のほとんどの法則はバカになった。
  今までの方法ではお前の能力も使えないのだ。
  有機なんとかかんとかのかいじょだっけ? まあ、そういうのは無理なんだよーだ。
  べろべろばぁー! うひゃひゃひゃひゃ!」
キョン「でも、長門の身体能力なら谷口くらいぶっとばせるんじゃないか?」
谷口「それも残念。胸囲80センチ未満の女は赤ん坊のごとく無力になるように情報設定した」
長門「……」ペタペタ
キョン「……」
長門「80…センチ……」ペタペタ
キョン「……ああ、その……長門……なんだ、えーと、気にするな」
長門「……殺 す」
キョン「……長門には無理っぽいから俺が相手だ」
長門「いや、わたしがやる。わたしにやらせて」
谷口「やるまでもないな。目算でも明らかにお前は75以下だ」
キョン.。oO(俺も無駄だと思う)
長門「えいっ! えいっ!」ポカポカ
谷口「うんうん。効かない効かない」
長門「くっそーーー! なんでぇー!」ポカポカポカポカ
谷口「はいはい、無駄無駄ー。バカじゃない攻撃なんて痛くも痒くもねーぜ」
キョン「少しバカっぽいけどな」

 

谷口「さあ、キョン。俺とお前、どちらがバカかで勝負だ!」
長門「何をバカなことを……」
キョン「いや、このバカ空間ではおそらくバカの方が勝つ。だんだん俺にもわかってきた。
  今のお前にバカとの戦いは無理だ」
谷口「そういうこと。Aマイナーは下がってな」
長門「やっぱりヤツはわたしが殴り殺す!」
キョン「まあまあ」

 

キョン「さあ、谷口、かかってこい」
谷口「よし、こうなったら服を脱ぐしかない!」バッ
長門「『こうなったら』の使い方がおかしい」
キョン「俺も脱ぐ!」バッ
長門「なぜ?」

 

 俺は上着を脱ぎ捨て、谷口と向かい合った。
長門「あなたもだんだんバカになりつつある。急いで」
キョン「ああ、昨日俺コンソメスープ飲んだしな」
長門「関係ない」

 

谷口「じゃあ俺からいくぜ! まずは俺からいくぜ!」
キョン「二回言うな」
谷口「に、二回攻撃できるんだよ。俺は!」
キョン「えぇー、そうなの?」
谷口「そうなんだよ。そして、さらにここから、あと三回変身できるってことにしておこう」
キョン「ズルいなぁ」
谷口「まずは一回目の変身だ! シャキーン! シュゴー!! ドドドドドドド!!」
キョン「うわっ、す、すごいオーラだ! とても立っていられない!」
長門「オーラなど出ていない。地面も揺れていない。単に口でしゃべっているだけ。
  それより無防御で隙だらけの今のうちに攻撃するべき」
谷口「おいおい、部外者は黙っててくれないかな」
キョン「そうだぞ、今がいいところなんだからよ~」
長門「……イラッ」

 

谷口「変身完了! 見ろ! このパワーを! 岩をも砕き、岩をも壊すこの力を!」
長門「……前と何も変わっていない。そもそも谷口には変身能力などない」
キョン「いや、変わってるって! なんか腕が盛り上がってるし超強そうだ!」
谷口「ふはははー! 俺は谷口から超谷口に生まれ変わったのだー!
  これからは忘れ物することが少なくなるのだー!」
キョン「まだするんかい」
谷口「うん、忘れ物は何度変身してもなくならない」
キョン「そうか」

 

谷口「さっそくくらええぃ! エターナルフォースブリザード!」
キョン「なんだその攻撃は」
谷口「超強い魔法。敵全体に約150のダメージを与える」
長門「それイオナズン」
キョン「ちょっと待てよ! お前はパワーファイターって設定じゃないのかよ」
谷口「いいんだよ! 俺は最強のラスボスって設定なんだから魔法も使えるの!
  ほら、150のダメージだよ! 早く食らえよ!」
キョン「わかったよ……ぐわぁぁ! やられたぁぁ!!」
谷口「さらに二回攻撃だぁー! じゃきんじゃきん!」
キョン「ぐわー! やられたぁ!」
谷口「がっはっはっは。どうした。お前の力はこんなものか」
長門「大丈夫。あなたは何もダメージを受けていない。さっさと谷口を殺して」
キョン「な、なにぃ!? 聖なる剣が……輝いている! 俺にパワーを与えてくれるんだ!」
長門「剣などない」
谷口「ちっ、小ざかしいやつめ! そんな剣など打ち砕いてくれるわぁー!」
キョン「ジャキーン! ピカーン!」
谷口「ぐわぁぁ! ま、まぶしいぃ!」
キョン「これがこの剣の本当のぱわぁか!」
谷口「ぐ、ぐわわあぁぁ! こ、これは予想以上のパワーだ!」
キョン「さあ、谷口! これでも食らえ! アバーン●●●●ー●ュ!」
谷口「ぎゃぁぁぁぁ!!」
キョン「や、やったか?」
長門「……お願いだからせめてちゃんと殴りあって」

 

谷口「くっそう、このままでは負ける……仕方ない。第二形態だ! 超・変・身!」
キョン「ま、また変身するのかぁ!」
谷口「シュゴーシュゴー! ドドドドドド!」
キョン「どんどん谷口が巨大化していく……いったいどこまで強くなるんだ!」

 

谷口「ぷしゅー、ぷしゅー」
キョン「で、でけぇ……。なんてでかさだ……」
長門「何度も言うけど変わっていない。早く倒して」
谷口「まさかここまで俺を追い詰めるとは思わなかった。さすが勇者の血を引く者よ」
長門「引いていない」
谷口「だがこの超スーパー谷口の姿を見て死ななかったものはいない。お前もあの世で悔いるがいい!」
キョン「そうはさせるか!」

 

<以下あまりにも同じ展開が続くので中略なのですっ!>

 

キョン「かーーめーーーはーーーめーーー波ーーーー!!」
谷口「ぎ、ぎゃぁぁぁーー!!」
キョン「はぁ、はぁ……どうだ!? 効いたか!?」
谷口「……今のは痛かった……痛かったぞー!」
長門「もう別の意味でイタい」
谷口「だが……この程度ではわたしを怒らせただけにすぎん!」
キョン「くそおぉー! まだたおせねーのか!」

 

谷口「人間のくせによくここまでわたしを追い詰めましたね。褒めてあげます」
キョン「さすがは究極生命体だ……まだ余裕があるような顔しやがって!」
谷口「仕方ないですね。最終形態に変身するしかないようです」
キョン「くっそー! まだこれ以上強くなるのかよ!」
谷口「ハァァァァーー!! ボウン! ドゥインドゥイン! シュゴゴゴーー!
  ギュインギュインギュイン! ブババババ! ゲホッゲホッ バババババ!!」
キョン「うわぁぁぁ! ふ、ふきとばされそうだー!」
長門「……ハァ」

 

谷口「……ふう。これがわたしの最終形態です」
キョン「な、なんて醜い姿なんだ! この世のものとは思えない!」
谷口「えぇ!? そんなことないって。よ、よく見ろよほら!
  スマートになってかっこよくなったんだって。その分すばやく動けるんだって」
キョン「う……本当だ! よく見るといつもの5倍増しでハンサムになってやがる!」
長門「それはない」
谷口「この姿を見たのはあなた達が初めてですよ。そしてこれが最後でしょう」
キョン「口調まで変わってやがる! こいつは強そうだ!」

 

谷口「それでは食らえ! とどめだキョーン! 超スーパーウルトラ滅殺破壊ギャラクティカ光線!びびびびびび!」
キョン「ぐわあぁぁー!!」
谷口「ひゃーははは! キョン! あっけない最後だったな!
  これからは俺の時代。バカの時代なのだー!!」

 

キョン「……何勘違いしているんだ」
谷口「何!?」
キョン「まだ俺のバトルフェイズは終了してないぜ! きらーん!」
長門「今度は遊戯か……」
キョン「まず一枚目! ドロー! モンスターカ-ド!(古泉) 追加攻撃!」
谷口「ぐあぁぁぁー!!」
長門「なぜカードゲームで痛がる」
キョン「二枚目ドロー! モンスターカード!(国木田)」
谷口「ぐあぁぁぁぁぁー!!」
キョン「ドロー! モンスターカード!(新川) ドロー! モンスターカード!(岡部)」
谷口「ぎゃぁぁー! うわあぁぁー!」
長門「……」
キョン「おい長門、見てないでそろそろ俺を止めてくれよ」
長門「なに?」
谷口「……ほら、あのセリフだよあのセリフぅ」
キョン「早くぅ!」
長門「……もうやめて。とっくに谷口のライフは0よ」
谷口「HA☆NA☆SE!」
長門「それはあなたのセリフではない」
キョン「ドロー! モンスターカード! ドロー! モンスターカード!」
谷口「ちょ、ちょまて! まだやるんかい!」
キョン「あー、楽しい。ドロー! ドロー!」
谷口「ぐわぁぁー! ぐわぁぁー!」
長門「……」

 

谷口「はぁ、はぁ……今のは効いたぜ。効いたけどよ……」
キョン「な、何!? あの攻撃を食らってまだ動けるだと!?」
長門「ねえ、これいつまでやるの」
谷口「ふふふ、お遊びはここまでだ。これ以上何をやってもこの空間では今の俺を倒すことは出来ないぜ」
キョン「な、どういうことだ!?」
谷口「なぜならこのバカ空間では、俺は決して敗れることがないからだ。
  なんせここは俺のためにあるような空間だからな。俺の都合に合わせて変えられるのだ。
  特別な攻撃方法をもってしか俺にはダメージを与えることは出来ない。
  そう、唯一の弱点であるケツにカンチョウをしない限り俺を倒すことできないんだよ。
  そしてそのことを知らないお前には絶対に俺を倒すことはできないのだー! ふははははー」
キョン「教えてくれてありがとNE!」ドスッ
谷口「うっぎゃぁぁーーー!! なぜだぁー!!」
キョン「お前は永遠に眠れ、谷口」
長門「死ね! 死ね!」ドスッドスッ

 

 

 ~その9~ 

 

 空間がひどく捻じ曲がって見える。
 いや、幻覚ではなくこれは現実に空間が捻じ曲がっているんだ。
 宇宙法則がバカになっているってのは本当みたいだな。

 

キョン「よし、谷口を倒したぞ。これであとはバカワクチンを使えば元に戻るんだな?」
長門「そう。……だけど、まだもう一人のわたしがあなたの謝罪を欲しがっている」
キョン「なあ、それなんだが……俺はもうまともな言動は取れそうにない。
  自分でも自分がかなりバカになってきていることがわかるんだ」
長門「それでも、お願い。バカなわたしに謝ってあげて。
  あなたの謝罪がないともう一人のわたしはあなたを許さないと言ってる」
キョン「そうか、わかった……。
  えー、長門、今までバカにしてすまなかった。反省している」
長門「……採点する。反省の言葉に信憑性がない。……0点」
キョン「えぇー」
長門「言葉だけで簡単に済まそうとしているのが見え見え。もう少し誠意を見せて」

 

キョン「長門さん! ごめんなさい! あなたはバカじゃありません」
長門「……採点する。心の中と違うことを言っている。……0点」
キョン「うそぉーん」
長門「あなたはまだわたしをバカだと思っている」

 

キョン「いや~、長門っち。ごめんよう!」
長門「……採点する。ふざけているだけ。……マイナス100点」
キョン「今回はマジですまん」
長門「……1点」

 

 さっきから俺はこれでも精一杯頑張っている。バカにしてて悪かったと思っているのも本当だ。
 さらに自分の理性が狂いそうなのを必死になって止めているところだ。
 もうそろそろ努力を認めてくれてもいいんじゃないか?

 

キョン「嘘でもいいからちょっとぐらい認めてくれよ! 長門!」
長門「無理。もう一人のわたしはあなたからの謝罪がなければ絶対にワクチンを使用する気はない」
キョン「形だけでもダメなのか?」
長門「ダメ。おそらく心のそこから謝罪する行為を求めている」
キョン「俺は心から謝っているつもりだ。わかるだろ? それに世界がバカになったら、
  それすらも出来ないんだぞ?」
長門「このわたしが認めても、もう一人のわたしが認めなければダメ。
  わたしもこのまま世界が終わることはなんとしても避けたい。
  だけどあなたの謝罪がわたしの心に届かない。だから無理」
キョン「なんでそんなことにこだわるんだよ……。
  それにバカな方のお前はどうやったってバカだろ?
  お前だってバカの方のわたしって自分で言ってるじゃないか。
  テストで毎回0点を取る人のことを一般的にはバカっていうんだから仕方ないだろ。
  な? だから今回はお前の独断でワクチンを使ってくれよ。
  その後でバカの方の長門に謝っておくからさ」
長門「……あなたはまだわかっていない」
キョン「え?」
長門「そういう安易な考え方がバカなわたしを傷つけていることに。
  バカなわたしなら簡単にごまかせるのではないか。
  あなたは結局バカなわたしをそうやって軽く見ている。
  ここにいるわたしは独断でバカなわたしの意見を無視することは出来ない。
  なぜならバカな方のわたしもわたしの立派な一つの人格。
  あなたはそのわたしと親しいのなら、もっとその人格を尊重すべき。
  いくら別人格とはいえわたしに向かってその様なことを言うのは、あまりにわたしをバカにしている。
  そのような態度だからわたしもあなたの謝罪を受け入れることが出来ない」
キョン「そうだったのか……。すまなかった」
長門「……10点」
キョン「相変わらず低いな、その点数」
長門「あなたの誠意がその程度だから」
キョン「何点満点なんだそれ」
長門「900点満点のうちの10点」
キョン「うわっ、センター試験かよっ!」
長門「どちらにしてもあなたにはバカなわたしの説得は不可能かもしれない。
  なぜならわたしのもう一つの人格は、さっきから完全に沈黙している。
  わたしにもそれを呼び戻す手段が見つからない。音信不通状態」
キョン「それってつまり……」
長門「あなたがいくら謝ってもバカな方のわたしにはおそらくその声が届かなくなった」
キョン「どうすりゃいいんだよ」
長門「でも0ではない。可能な限り呼びかけてみるしかない。時間が無い。
  あなたがバカになったとき、世界を取り戻す方法は失われる。全てはバカになり、終焉を迎える。
  そうなれば宇宙の法則も、未来の行方も、全てが闇に包まれる。自立進化の可能性どころか、
  情報統合思念体はまともに存在することも出来ないだろう」

 

 俺は地面にひれ伏し、長門に土下座した。

 

キョン「もうこれが最後だ! 頼む! もう許してくれ!
  ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! もうあなたをバカにはしません!」
長門「……採点する。自分が助かりたいだけ。謝罪の中に自己意識が感じられない。……0点」
キョン「……あは、あははは…」
長門「……」

 

 この時点で俺の脳は90%までバカに染まっていた。
 まともな理性など吹けば飛ぶような将棋の駒だ。
 おそらく谷口との戦いで時間を使いすぎたせいでもう手遅れになっていたのだ。

 

 理性が一つずつプチプチと音を上げて崩壊していくのを感じる。
 そして代わりにふつふつと新しい感情が浮かび上がってくるのを抑え切れなかった。
 なぜだか無性に……無性に額に『肉』と書きたい!
 書きたくて書きたくてしょうがない!
 最後の理性のかけらが砂のように崩れ落ちる音がしていた。

 

 あー、難しいこと俺にはもう……

 

 

 ~その10~

 

 も・う・だ・め・ぽwww
 うはww
 gdgdになってきた。

 

 やべえwwなんでだろうww
 こんなにヤバイ状況なのに、
 オラわくわくしてきたぞ!
 おっす!オラキョンたん!
 いっちょやってみるか!

 

キョン「と、いうわけなんだ! 長門! すまん!」
長門「……なにが?」

 

 俺はいきなり、谷口よろしくズボンのチャックを下ろし、
 おもむろに長門の元へと歩み寄った。

 

長門「何を……」
 呆然として動かなくなった長門の前で俺は自分のイチモツが大きくなっていくのを感じた。
長門「やめて」
 ハァハァ……嫌がる顔がまたソソります!
 ソソリ立つエッフェル塔。俺の脳は司令塔。
 でももう司令を出せない中田英寿。
 第3の足でロングシュートを決めてやるぜ!

 

キョン「いやか? yearか? たしかに耳まで真っ赤だぞ? HAHAHA!」
長門「耳はear。チャックを戻して」
キョン「ゾウさんは耳が大きい、でも鼻も長いんだぞぉ~!パオーン!パオーン!」
長門「ゾウと比較するほどあなたの性器は大きくない。年齢、人種、体格などの観点から見ても平均的」
キョン「かわいそうなゾウ……(´・ω・`)」
長門「わたしの置かれているこの状況の方が、よっぽどかわいそう」

 

キョン「長門、俺の股間にはゾウ以外の動物も飼っている。紹介してやろうか?」
長門「やめて。だいたい予測できる」
キョン「へへ、じゃあ紹介するぜ」
長門「話を聞いて。あなたはもうすでにかなりバカウィルスの」
キョン「じゃっじゃじゃーん、亀さんでーすヽ(´▽`)ノ」
長門「……」
キョン「亀仙人でごわす(・`ω´・)」
長門「武天老師はそんなこといわない」

 

 俺のゾウさんがパンツをグイグイと押し上げる。
 チャックの間から覗いたそれはクッキリと俺のブツの形が見えていた。

 

キョン「どんどんデカくなりやがる……。ピピピ!ボカン!ぐはぁ!スカウターが!」
長門「勃起してる場合ではない。早くわたしに謝罪を……」
キョン「勃起じゃない。まだ半勃ちってところだ。長門、男のブツはここからが違うんだぜ( ̄ー ̄)」
長門「あなたはとんでもないバカ。そんなことでは世界を救うことはできない」
キョン「えへへ……ヽ(´ω`)>」
長門「なぜ罵られてまたさらに大きくなる?」
キョン「罵られること、生きること、人生すなわちそれゲーム( ´ー`)」
長門「はぁ?」
キョン「翔丸組に入るんだ!(`・ω・´)」

 

 俺はかっこよくポーズを決めると、一気にパンツごとズボンを脱ぎ捨てた!
キョン「ファイトォー! いっぱぁぁつ!( ´Д`)ノ」
長門「キィャアァァー!!」
 おお、長門ぉ、お前そんないい表情できるんじゃないかぁ~。
 なんで今まであんなに無表情だったんじょ~?

 

キョン「いい声吐き出すじゃねえか。もっとはいてみろよ……(;゚∀゚)=3」
長門「パンツをはいてから言って」

キョン「長門、今まで黙ってたけど俺……」
長門「な、なに?」
キョン「改造人間なんだ!(・∀・)」
長門「いいえ、あなたは普通の人間」
キョン「仮面ライダー! 変・チン!」
長門「変・態!」
キョン「ほらほら、長門。変形してきた。仮面を被ってるのは許せよ。大きくなれば仮面も脱げるさ」
 おいおい、顔をそらしても無・駄・だ・ぜw
 すばやく長門の顔面へブツを近づけた。

 

 長門は 逃げ出した!
 しかし まわりこまれてしまった!

 

キョン「はぁはぁ……逃げるなって。森の中で会った熊さんだって、
  逃げたら思わず追いかけてしまうのがサガってもんだぜ」
長門「……正気に戻って。お願い」
キョン「俺は古泉にはずいぶん勝ち越してるが」
長門「将棋じゃなくて正気。バカな真似はやめて」
キョン「うん、それブリッ」
 勢いよく俺の尻からメタンガスが放出された。
キョン「うはwちょっと身がもれた。パンツはいてなくてよかったぜ」
長門「く、くさっ」
キョン「長門、そういえばお前カレー好きだったよな……」
長門「こんなときにその話をしないで」
キョン「俺のカレーの味を」
長門「いやぁ!」
 長門のキックが俺の股間にめり込んだ。
キョン「ぐほぉぁぁ!?」

 

  ~~~

 

長門「はぁ……はぁ……」
キョン「まぁぁーてぇぇぇい」
長門「……ここも空間封鎖されてる。情報操作機能もダメ……死んでいる」
キョン「はぁ、はぁ、長門w もうわかってるだろw この空間ではバカの方が強い。ダムなんだよ」
長門「『無駄』じゃない。まだあなたは完全にバカになっていないはず。
  抵抗して。世界がまだ形あるうちに心を取り戻して」
キョン「長門、世界はもうバカになっちまったんだよ。このチ●ポに例えると」
長門「例えないで」
キョン「いいか。この根元が今までの世界。そしてこの先っぽがこれからの世界。
  世界は今大きく右に曲がろうとしている。時代が進むにつれ大きく硬くなって、
  ……何言ってるか俺にもさっぱりわかんねーよ!(ノ`□´)ノ⌒┻━┻」
長門「目を覚まして」
キョン「ザラキ?(・ω・`)」
長門「ザメハでしょ」
キョン「とにかくもう俺は終わらせたいんだ。股間も寒くなってきたし(;^,⊇,^;)」
長門「じゃあ、ズボンはいて」

 


 ペチペチ。
 半勃ちした俺のイチモツが歩くたびにふとももに当たり、ペチペチと音を立てていた。
 風も吹かないこの空間ではこの音と俺達の会話しか聞こえない。ペチペチ。

 

キョン「見ろ、長門( ゚Д゚)」ペチペチ
長門「や、やめて」
キョン「ヘリコプター( ゚д゚ )」プルプルプル
長門「顔に近づけないで、こっちを見ないで」

 

 俺は自分の棒をプルンプルンと回した。
 先っぽから少しだけしぶきが飛んでいるのはご愛嬌というものだ。
 調子に乗った俺は長門の顔の前でどんどんブツを高速回転させた。
 ビュンビュンと元気な音がしていますね~。
 いやぁ、この子はとっても寂しがりやでね~、お~よしよしよし。
 先っぽから出るしぶきが、長門の無表情な顔に何粒も付着していた。

キョン「空を自由に飛びたいな? はい、ちんこぷたー!( ^ω^)」
長門「下品。変態。痴漢。最低。下劣。愚者。馬鹿」

 

 バカ?
 俺のどこがバカだっていうんだ!
 その言葉に逆に俺の息子はドンドンカチカチ山。
 あれ? あらら、ついに回らなくなっちゃった。
 上方向へのベクトルが限界に達したからな。
 あはははは。
 ごめん、もうそろそろ臨界点だわ。

 

長門「うぅ……」
 長門は俺のことを見てすっかりと腰を抜かしてしまったらしい。
 脚がガクガクと震えながらその場に座り込んじゃった。
 少しちびっちゃったのかなぁ? 足元に水溜りができてないかい?
 バカだなぁw
 かわいいやつめ!
 これからその腰がさらに立たなくなるくらい、激しくしてやるから覚悟しとけよ。
長門「な、なんかすごく大きくなってるしぃ……」
 長門の怯える顔がなんともいとおしい。

 

 たまんねえww
 よっしゃ!
 みwなwぎwっwてwきwたwww
 エネルギー充填完了!波動砲発射10秒前!
 エンジン全開!前方視界良し!
キョン「キュインキュイーーーン!! シュゴゴゴーーー!! ギュイーーン!!」
長門「……」

 

キョン「長門、実は俺バカッ娘萌えなんだよ。いつだったか、
   お前がやっていたボケは、反則的なまでに似合っていたぞ」
長門「な、なにを言って──」

 

 俺は長門の背後に素早く回り込み、長門の両肩を抑えてブツを固定した。
 そして……叫んだ。

 

キョン「 ち ょ ん ま げ ! 」
長門「いやあぁぁぁぁーーーー!!!」

 

 その瞬間──。
 でんででんでれでーん♪
 世界がものすごい勢いでゆがんでいき、
 光を放出しながら崩れていく。
 いつかのときみたく、俺は吸い込まれるように意識が薄れていき──。

 

 

 ~その11~

 

 ──次の日、
 世界はあんなことになってしまったことが嘘のように何事もなく運行していた。
 世界はバカではなく、りんごは木の上から引力に従い、地面に転がる普通の世界だ。
 なぜか俺にはわかる。
 常識がまた常識として通用している。
 今、世界はまともな状態だ。

 

 ハルヒと閉鎖空間から戻ってきたあのときと同じだ。
 俺はさっきのやたらとリアルな夢を見ていた。いや、あれはきっと夢ではなかったのだろう。

 

 ……ってことはなんつーことをしちまったんだ。
 夢の中とはいえ、いや、たぶん夢なんかじゃないんだろうけど、
 あー、もー、わすれてえぇ!

 

キョン「はぁー……」

 

 俺はあそこでいったい何をした?
 長門の頭の上にテドドンを乗せた。
 はい、正解。

 

 ぎゃぁぁぁ! ……なんつーわけのわからん夢見ちまったんだ!
 植草先生も大爆笑だっぜ!
 いや、おそらく夢じゃない。夢じゃないだけにたちが悪い!

 

キョン「長門……本当にごめん……」

 

 それにしてもなぜあれで世界が元に戻ったのかわからない。
 俺が長門に謝らないと終わらないんじゃなかったのか?
 あれが俺の謝罪なのか?
 それとも実はまだ世界はバカなままだったりするのか?

 

 それともう一つ気になった。長門のバカはどうなったんだ?
 直ったのか?

 長門に会うのが怖い。
 だけど、長門にあって話さなきゃいけないことがたくさんある。
 いままでのこと……そしてこれからのこと。

 


 ~~~

 

古泉「やあ、どうも」
キョン「よう、朝から俺の家の前で出迎えとは結構なこった」
古泉「昨日はいろいろとご迷惑をおかけしたようで」
キョン「やっぱりあの夢は現実だったのか」
古泉「ええ、残念ながらそのようです。僕も完全にバカになっていたようなのでほとんど覚えていませんが」
キョン「お前はどこまで覚えているんだ?」
古泉「朝倉涼子を追って閉鎖空間に入ったところまでは覚えているんですが……それ以上は……」
キョン「そうか……あの後の地獄を知らないのか。ある意味幸せだな」
古泉「そうなんですか?」
キョン「ああ、ひどかった……。思い出したくもない」
古泉「あなたが最後まで頑張ってくれたようですね。おかげで世界が元に戻りました。
  いつも以上に感謝しますよ。本当にありがとうございました」
キョン「ああ、でも本当に世界を元に戻せたのかどうかはわからないがな」
古泉「たしかにそれははっきりとは言い切れませんね。今こうして僕たちが会話していることも、
  実はバカの世界で無茶苦茶な会話をしていることに気づいていないだけかもしれませんし」
キョン「よくわからないことだらけだな」
古泉「バカになった僕はどこかおかしなことはありませんでしたか?」
キョン「いや、とてもよく似合ってたと思うぞ」
古泉「どういう意味ですか?」
キョン「さあな」
古泉「それと、なぜでしょうか……朝起きたらお尻の穴がものすごく痛いんです」
キョン「気のせいだ」
古泉「そうでしょうか? まるで何か太い棒のような物でお尻をえぐられたような痛さなんですが」
キョン「ああ、気のせいだ」
谷口「あー、くっそー、いっててててぇー」
古泉「ああ、谷口くん。おはようございます」
谷口「なんかしらねーけど、朝から尻が痛くてかなわねえよ。しかも変な夢まで見るしよ」
キョン「変な夢?」
谷口「ああ、なんか俺が宇宙人なんだけどよ。すっげーバカな役なんだよ。
  ふざけんなだよ。どうせ宇宙人ならもっと女にモテる宇宙人になれってんだ」
キョン「なあ、谷口」
谷口「なんだよ、キョン」
キョン「三年殺し」ドスッ
谷口「うっぎゃぁぁー! なにすんだてめえぇぇー!」

 


 昼休み、部室に行くと、
 そこにはいつものように一人で本を読みながら座っている少女がいた。
 どうせ字も読めないのに、そういうスタイルを取るところだけは文学少女だ。

 

キョン「長門、俺は今までずっとお前のことをバカにしてた」
長門「……」
キョン「だけど、今回バカになってみてわかったよ。バカの苦労ってやつがな。
  なってみなきゃわからないもんだな、バカって。
  お前はいつもこんな大変なものを抱えて生きていたんだな。すげえよ。
  お前が俺に対して怒っていたのは、バカだと思われることではなくて、
  バカだからといって扱いが変わる、つまり差別されることが嫌だったんだな。
  バカにされたくないって気持ちはそういうことだったんじゃないのか」

 

 この長門がバカな長門か、それともバカじゃないほうの長門か。
 そんなことは俺には一目見てわかっている。
 だが、俺は両方の長門に話しかけるように語った。

 

キョン「ごめんな、長門。お前の複雑な気持ちに気づいてやれなくて。
  お前はバカだからうまく自分の気持ちが伝えられなかったんだな」
長門「……」

キョン「それと」

 

 本から視線を外さないない長門に、俺は言ってやった。

 

キョン「そのちょんまげ、似合ってねえぞ」
長門「……うそ」

 

 

なっなっながとと、なっが㌧㌧♪

 

 

超監督:涼宮ハルヒ

 

主演:長門有希

 

   キョン

 

脇役:涼宮ハルヒ
   朝比奈みくる
   古泉一樹

 

   朝倉涼子
   喜緑江美里
   生徒会会長

 

   コンピ研部長
   山根
   阪中
   谷口
   国木田
   キョンの妹
   岡部
   パンジー藤原
   多丸圭一

 

   シャミセン   
   ルソー

 

ナレーション:鶴屋さん

 

 

 最終話に出てきた「バカ」の回数 192回

 

 

 ~エピローグ~

 

ハルヒ「っていう話なのよ! どう? これなら封切から満員御礼感謝祭は間違いなしよ!」
キョン「ん? あ、ああ、やっと終わったか……ふぁ~あ」
ハルヒ「ちょっと! ちゃんと人の話聞いてたの!?
  あんたが予めこれから撮る映画のストーリーを聞かせろ聞かせろって、
  何度も何度もしつこいからあたしが1話から全部聞かせてやったんじゃないの! ねえ、古泉君!」
古泉「え、ええ、ええ……」
ハルヒ「あれ? 古泉君、なんかあった? 目の焦点がズレてるけど」
古泉「あ、い、いえなんでもありません。なんでも」
キョン「結論から言おう。無理だ。まず話が長すぎだ。全100話もある話、誰が観るか」
ハルヒ「面白いから100話もあるんじゃない。ファンサービスよ!」
キョン「誰へのファンサービスだ」
ハルヒ「もう、わかってないわねえ。せっかくの面白い映画がそれ一作で終わったら何か物足りないでしょ?
  だからそういう需要があると後から続編が作られていくわけじゃない。
  でも、そういう後付けで作った続編で面白かった話は聞いたことがないわ。
  巨人の星もロッキーもバックトゥザフューチャーもみんな後付けだからだめなのよ!
  だから予め続編も作っておくわけ。後で人気が出たから無理矢理続編作って、
  話の辻褄が合わなくなった小説見たいな事にはならないのよ! あたしはね!
  それに100話もあればさすがに物足りないっていう観客はいないでしょ?」
キョン「バックトゥーザフューチャー続編はフツーに面白いと思うが……。それに巨人の星は映画じゃな」
ハルヒ「あんたの映画評なんて誰も聞いてないわよ」
キョン「くっ、まあ、それはいいが……それにしてもこんなバカなストーリーがあるか。
  そもそもなんだこの配役は。
  長門が宇宙人で、朝比奈さんが未来人、古泉は超能力者で、お前が神だと?」
ハルヒ「そうよ。あんたは普通の人間だけどね」
古泉「いやはや、涼宮さんの考えることはいつも突拍子もなくて驚かされます。
  僕が特殊な超能力者っていうのは以前撮った映画と似てますが、
  長門さんが情報統合思念体のインターフェイスとか誰に聞いた話なんですか?」
ハルヒ「なんかね、突然ピーンと頭に浮かんだのよ。
  せっかくだからみんなの意見も聞いておこうかしら。どう思う今の話?」
古泉「大変……い、いえ、大変面白い話、いえ物語だと思いますよ。
  いいのではないでしょうか、ええ」
みくる「えーと、えーと……、こ、これ、フィクション……ですよね?」
長門「……ユニーク」
ハルヒ「なによ、みんな。変な反応ばっかり」

キョン「それとな、長門が泣き虫で下ネタ好きで万引きもする、テストで毎回0点とって、 
  さらに人の家の窓から侵入してくるようなとんでもないバカな人物だと?
  無茶な設定にもほどがあるぞ」
ハルヒ「そうよ! 無茶苦茶な設定だからいいんじゃない!
  一見すると賢そうなこの有希がとんでもないバカだったら……、
  なーんて、そういう意外性が観客の好奇心を煽るのよ! ねえ、有希?」
長門「……」
ハルヒ「映画はまずそれを観ようという好奇心がなければ誰も観てくれないのよ。
  それがどんなに名作の映画だとしても、陽の元に晒されなければ光は当たらないのよ!
  名作としての評価は人によってくだされるの。だから名作の一歩は意外性から始まるのよ!
  ローマの休日だって、大脱走だって、ゴッドファーザーも戦場にかける橋もエクソシストも、
  みーんな名作映画といわれるものは設定や物語にかなりの意外性があるものなのよ!」
キョン「今列挙された映画もさすがにここまで無茶苦茶じゃないぞ」
ハルヒ「でしょ? だからこれが史上最高の名作映画になるわけ。わかるわね?」
キョン「なわけないだろ……それに喜緑さんの役はなんなんだ……。こっちはもっとひでえ。
  会長にぞっこんで人前でエロイことも堂々としてのけるほどの恥知らず。
  引き算が出来ない、漢字の読み書きもできなければ話もまともに通じない。
  そして前科7犯のサド女。超危険人物。
  こんなバカな配役頼んでOKもらうことなんて出来たのか?
  一応先輩だぞ? そんな人にワカメとか……まずいだろこれ」
ハルヒ「してないわよ」
キョン「ハァ?」
ハルヒ「だからぁ、まだ依頼なんてしてない。そういうのはヒラのあんたの仕事でしょ。
  第6話の撮影までにちゃんとお願いして連れてくるのよ」
キョン「ま、待て、一番の問題は朝倉だ。朝倉はどうすんだ?
  役柄はともかくカナダに行ってるんだぞ!?(一応な)
  まさか呼び寄せるのか!? 初登場は第2話だぞ!?」
ハルヒ「そうよ。なんだ、あんたちゃんとあたしの話の内容聞けてるじゃない」
キョン「それも俺の仕事か?」
ハルヒ「さあ、わかったらこれからさっそく第1話を撮るわよ! 有希もスタンバイして!」
キョン「ちょ、ちょっと待てよ! 人の話を最後まで聞け! それに長門にこんな演技できるのか!?
  バカっぽく演技しろっていってもさすがに無理がないか!? それにお前こんな無茶苦茶な……」
長門「情報の伝達にそごうが発生した。……もうすでに発生したが無視できるラベル」
キョン「な、長門さん……!?」
ハルヒ「ほら、有希はもうセリフの練習までしてやる気マンマンじゃない。さすがいい子ね。
  あんたも、さっさと、位置につく!」バシッ
キョン「長門、お前わかってるのか!? 最終話で俺はお前の頭に……」
長門「すばやく後ろに回りこんで、ちょんまげ……って何?」
キョン「あー、もう! どーなってもしらねーぞ!」
ハルヒ「はいっ! 本番10秒前! 9、8、2、1」
キョン「ちょ、飛ばしすぎ!」
ハルヒ「スタート!!」

 


 もし長門がバカだったら
   ~ザ・エンド~

 

 

 

  目次

.

最終更新:2007年04月11日 02:38