第7章・結論の前に
 
 朝比奈さんが喫茶店にユラユラと入っていくのを見届けてから、俺はその場を離れロビーから外に出た。
 朝比奈さんを一人にするのは非常に心苦しいが、彼女を目の前にしては考えがまとまりそうにもない、どうしても一人の時間が欲しかった。本当に申し訳ないのだが…。
近くの目についた漫画喫茶に入ると個室を確保して、コーラを注文して籠もる。そろそろ夕食の時間だが腹は減ってない。それ以上にショッキングなことでお腹一杯だ。
よく冷えたコーラを少し口に含むと、シュワシュワとした強い炭酸の刺激が頭の中をクリアにしてくれる。
 
 俺が本当に好きなのは誰だろうか。朝比奈さんの顔、ハルヒの顔、長門の顔、次々と浮かぶ。
無論、朝比奈さんの告白は両手を挙げて喜ぶべきことであり、一般的に一般的で一般的な性格と生活をおくっていたならば返事に困ることもない。即答していることだろう。
ハルヒは、相変わらずのツンツン光線を放っているものの、最近はだいぶ性格も丸くなり、普通の人間相手でも近づいて話しかけられる程度の社交性は持ち合わせるようになった。
アヒル口をした不機嫌な表情を見せることも少なくなり、中学時代のハルヒを知る人間に言わせると、まあ主に谷口なんだが、とても同一人物とは思えない程変わったらしい。
他人への配慮なんてそんな言葉は出会った頃のハルヒの辞書には一字もなかったが、毎年改訂されるハルヒ辞書第16改訂版あたりから、そんな言葉も収録されるようになり他人への優しさも垣間見せるようになった。
はっきり言って今のハルヒは正直かなりかわいい。
ハルヒのことは…確かにキスはした。閉鎖空間に二人だけのときな。ただ、あれ一回きりだ。その後は特に目立った進展はない。
お互い何もアクションを起こせぬまま、ぬるま湯のような関係を続けているうちに、あいつのことは…そうだな、息の合った相方とでも言おうか、愛すべき女(ひと)ではなく、愛すべき友人になってしまったように感じる。俺にとっては愛情よりも友情の方が遙かに強い。
長門のことは、恋愛感情というよりも妹か自分の子供と接している感じと言えば解ってもらえるだろうか、感情が少し少し芽生えていき人間らしく変わっていく様子を近くでみることができるのがなんとも嬉しい、父性的感覚というか表現というべきか。
そこにあるのは、女性への愛というよりも子供への愛情、いわば父性愛というほうがふさわしいかもしれない。好きだということは確かだが、男と女のそれとは違うように思う。
 さて、朝比奈さんについてだ。
彼女は一目会ったときから恋に堕ちたとは言わないが、その優しさ、かわいさ、粗忽なところが魅力的であり、抱きしめたり連れて掠ったりしたくなる衝動を抑制し、夜の妄想にもさんざんご利用させていただいたものだ。
この人が彼女であればと願ったことは数知れない。
だが、それならただの庇護欲によるものかアイドルへの羨望のようなものと変わりない。
ミスキャンパスとなった直後くらいからだろうか、朝比奈さんに近づく男が一気に増えた…らしい。これは鶴屋さんから聞いたことだが、なかなか自己主張ができずはっきり断れない朝比奈さんに、しつこくつきまとう男も少なくなかったそうだ。
鶴屋さんのその洞察力とすっぱりとした物言いを持って、高校の時と同様、彼女のガード役を果たしてくれていたのだが、学部が違ったり女性で最低学年ということもあり、なかなか一筋縄ではいかないことも多かったという。
入学後、その実情を見たハルヒが「あんた、学内では一番近くにいる安心して任せられる男子なんだから、みくるちゃんをしっかりガードなさい」と俺に命令したぐらいである。
そんなこともあり、俺は学内ではできるだけ鶴屋さんに加わって、朝比奈さんと一緒に行動するようにしていた。その結果、男である俺が加わっただけでずいぶんと近づく男は減った。
そうやって彼女と一緒の時間が増えるにつれ、俺の中で朝比奈みくるという女性の存在がじわじわと大きくなっていた。
身近な女性には心が惹かれやすい。間近でいろんな表情を見てしまうからだ、良くも悪くも。
深く知るほど、心は近づくか嫌になって離れるか。それが自然なことだろう。俺の場合は彼女へと近づいていったのだ。
意外としっかりしていたり、誰にでも気配りを忘れないとか、自分の能力が普段あまり力にならないことを自覚していて、誰も知らないところでいろいろ頑張っていたりとか…部室の掃除なんかはその例だ。お茶淹れも本人の趣味もあっただろうが、少しでも皆の力になれるようにという、そんな彼女なりの思いからの行動からである。
会う時間が減ったからといって、ハルヒや長門のことが俺の中で小さくなったわけじゃない。
古泉や鶴屋さんも含めてもいい、大事な仲間であり友人であることは何一つ変わってないが、ともに歩き、ともに遊び、ときには険悪になったりもしながら、それでもやっぱり最後はともに助け合う。
そうやって3年以上過ごしているうちに、俺から相手へと向かう関係線の脚注が変わってしまったのだ。対抗する線にはどういう脚注がついてるかはわからないけどね。
 気がつけば彼女のことを見ているし、彼女が側にいてくれると心が安らぐ。それはハルヒや長門からは感じないものだ。
 だから好きな嫌いかなんて、考えることでもなかったな。
 
次に考えたのは朝比奈さんが説明してくれたことだ。
禁則事項、規定事項。
おそらく、朝比奈さんの知る俺の未来の規定事項は、俺と朝比奈さん以外の誰かとの未来なのだろう。俺と朝比奈さんが築く未来は規定事項ではないということだろう。
記憶操作か未来へ帰還か…というのは、朝比奈さんの勝手な行動を問われてということなのだろうが、なぜ時間的猶予が存在するのか。未来からのことだから、過去へはどの時間ポイントにも干渉できると思うのだが…。
その理由はほとんどが禁則事項に該当するため判らなかったが、とりあえず24時までは猶予されている。だから告白したと。
しかし、ただ告白しただけではいずれ処分を受けるだろうから、OKでもNOにしても結論がでないといけない。結果的に未来が守られるか、新たな未来を作るかすれば処分はないだろうということだ。
ようわからん。
朝比奈さんは禁則でしゃべれんし、わかるんなら説明してくださいよ朝比奈さん(大)、あなたは間違いなく一枚噛んでいるはずでしょう?
そんなこと言っても出てきてはくれないのでしょうけどね。
 未来人組織にとって規定事項は絶対であり、自ら破るような行為はできないはず。
実は今の朝比奈さんに嘘の情報が知らされていて、この告白も実は規定事項である可能性も否定できないが、そこまで考えるとキリがない。
ここは彼女の言葉を信じることにしよう。朝比奈さん(小)は基本的に何も知らないはずだし、嘘を言うような人ではない。
つまりだ、規定事項を変えてしまってでも、その結果いろいろな物を捨てることになるかもしれないことを覚悟の上で朝比奈さんは俺に告白してくれた。任務から一時的に解き放たれた今のわずかな時間にかけて。
その気持ちで十分だろう。これ以上何が必要だ?
 最後に考えるのはあいつのこと。
涼宮ハルヒが持つ力だ。
朝比奈さんとふざけてじゃれあっただけでこれまでの世界を否定して新しい世界を構築しかけたやつだ。勝つまでやめようとしない子供みたいなもんだからな。
もし、付き合い始めたなんてことを知れば今回も同じことを起こす可能性は大きい。
だからこそ、朝比奈さんはずっと我慢していた。そして命令でもあった。
今度閉鎖空間が発生したときに俺がその中いるとは限らない。
いなければ何もできずにこの世界はジ・エンドとなり、世界はハルヒの望む世界に構築される。
新しい世界には俺がいるかどうかわからないが、いたとしても今ここにいる通りの俺ではあるまい。
そしてそれは未来にとっても宇宙人にとっても超能力者にとっても良くないことなのだ。
 ふーっ、と大きく息をつきながら、ハルヒに関わると自由意志すらもてあそばれるのかと憂鬱になる。
 
 三つのことを天秤にかけてみる。ハルヒがかなり重い。
哀れかな、か細い天秤棒はハルヒの重さに耐えかねてハルヒ側に傾きそうな感じだ。やはり断るべきなのか。
未来と彼女、おれがガキの頃待ち望んだヒーローならどちらも選択して丸く収めてしまうのだろうが、俺はハルヒに選ばれただけの一般人だ。
彼女でなく、世界をとって誰が責めようか。
俺なら似たような境遇のやつが世界をとっても責めはしない。そんな資格もない。
何の力もない人間はヒーローになりたくてもなれはしない。
大義名分に流されるか、現実から逃げるのがせいぜいだ。俺だってそうだ。
想いや努力だけではどうしようもないこともあるのだ。
断ることによって、彼女と俺には壁のようなものができてしまうかもしれないが、彼女は心にしまい込んでそれを見せないようにするだろう。
でも、そこで彼女を癒してあげられるのは俺ではない。親兄弟もいないこの時間でそれができるのは、彼女の親友しかいない。
心の中で断る側が優勢となり、これから返事を聞いた後の彼女へのフォローをしていただきたく、あの人に電話をかけた。
その人はまるで待っていたかのように2コール目で電話に出た。
「はいはい、鶴にゃんです、どうかなーよろしくやってるかなー?」
 脳天気な鶴屋さんの声、今だけは嬉しくない。
「…鶴屋さん、朝比奈さんが今日俺に何を言うか知ってましたね?」
 ストレートに聞いた。
「ほいさっ、知ってたよ。みくるの背中を押してあげたのはあたしっさ。そうじゃなかったら、あの子は言えないままどこかへ行ってしまうだろうからねっ」
「…言ってしまったらもっと辛くなることもあるんじゃないかと思うんですが?」
「言わない方が辛いこともあるんじゃないかいっ? キョンくんがどう返事するかは聞かないよ。あたしの役目はね、嬉しいときは一緒になって喜んであげる、泣いたときは泣きやんで立ち直るまでずっと慰めてあげる。それだけさっ。みくるが泣くような返事でも、あたしはキョンくんのこと嫌いになったりとかはしないよ。今まで通りだから、そっちの方は気にしなくていいっさ。それが君がよっく考えて出した答えならね」
「ありがとうございます。朝比奈さんのことお願いします。力になってあげられるのはあなたしかいないと思いますから…」
「あれあれ? あたしはキョンくんから何をお願いされるのかな? あたしがするのはキョンくんのためじゃないよっ、みくるのためだよっ」
「はい、そうですね…」
「ほいほい、っじゃねーって、忘れてたよっ。キョンくんもね、何かに遠慮する必要はないと思うよ? 自分に正直になろうぜっ! キョンくんの心の中には今誰がいるんだい? 今ならまだ魔法は解けてないかなっ。 それから、必要なら鶴屋グループのホテル格安で紹介してあげるよー。今からでもオーケーさっ! はっはっはっは。じゃねー、おやすみっ」
 この人はテレパスでもあるのか?
なにか神ががり的な勘の良さを感じる。すごい人を友人に持ったと改めて認識した。
普段から楽天的な雰囲気を放出しているからだろうか、鶴屋さんの言葉を聞いていると、なんとかなりそうな気がしてきた。悩んだり落ち込んだりしているのが、ちっぽけなことに思えてくる。
彼女のことを信じてみてもいいんじゃないか。
ああ、親父がいつか言ってたっけ、お袋と結婚したときのことを。
恋愛なんて勢いだ、二人の絆が本物なら、後はなんとかなるもんだってな。
 どうやら俺も今の一言で鶴屋さんに後押しされたらしい。まあホテルは冗談だろうが。
 
 そうと決まればすぐにでも彼女に会いたいところだが、もしハルヒが機嫌を悪くしたとき、迷惑をかける知り合いがまだ二人ほどいる。世界が終わったら冬休み中だけにもう会えないままかもしれん。
それに事前に知っておけば対策もとれるかもしれない。一応連絡だけはしておくか。
そう思って、携帯電話をコールした。
「…いくら考える時間が欲しいとはいえ、あの状態の女性を一人にするのは関心しませんねぇ」
 俺は個室から慌てて顔を出すと、周囲を見回した。
「どこにいる古泉!」
「ああ、心配されなくても、僕はそこにはいませんよ」
「ならどこから見てる?」
 こいつなら監視カメラの映像を横取りするなりしても不思議じゃない。
「はっきり申しますと、あなたや涼宮さん、朝比奈さんは、機関にとって最重要監視対象となっています。外出時されるときは、ほぼ間違いなく監視がついていると思って頂いて結構です。一応弁解しておきますが、電話の盗聴や盗聴器の設置など反社会的手法での監視しておりません。上層部の一部にはそこまですべきという声もありますがね。もしそこまでするようになれば、僕は機関と決別する覚悟もあります。余談ですが、長門さんは監視してもすぐにバレますから監視はしていません。どうせバレるのだから、TFEI端末とは大っぴらに接触して情報収集していますから」
 時々、偶然とは思えないタイミングで現れたりすると思ってたが、どうりで。
「ああ、そこまでやったら俺もだまっちゃおれん。機関とおまえが繋がっている限りは付き合えなくなるな。で、どこまで知っている?」
「今日、あなたと朝比奈さんが会ったところから…ですね。別に知るつもりはなかったのですが。涼宮さん以外の方については、自分から監視記録を閲覧するようなことはしていませんよ。必要なときに必要な事項だけを知るだけです」
「じゃあなぜ今日のことを知ってるんだ?」
「機関の大半はあなたが朝比奈みくると恋人関係になることを恐れています。正確には、それを知った後の涼宮ハルヒの行動をね。機関としては現状維持を是としていますから、彼女の心に悪影響を与える可能性があるこの行為を好ましく思いません。涼宮ハルヒを取り巻く人間との関係、特にあなたとは今のところ、現在の関係が最も影響が少ないであろうと考えています。進展も衰退もなく、ましてや周囲からやぶ蛇を突くようなこともない状態をね。そこで、あなたを説得するように言われたのですよ。状況説明とともに」
「で、おまえは俺を説得する気か?」
「ふふ、僕は今日あなたに直接何かしましたか? していないでしょう? それが答えです。僕は機関の主流派の見解とは違う考えを持っています。だから上層部がどう言おうと今回のことで特に動くつもりはありません。少数ですが僕の意見に賛同してくれる人もいます。ほとんどはあなたたちと直接的に接触を持った事がある人間ですが」
「それは静観すると受け取っていいんだな?」
「まあそう思っていただいて結構ですよ。僕は、今回のことで涼宮さんが以前のような閉鎖空間を生み出すことはないと考えています。機関の能力者で対処できる程度のものはあるかもしれませんがね。以前、僕は涼宮ハルヒの心理分析の専門家だと言ったことを覚えていますか? 涼宮さんと付き合って4年、彼女の内面は大きく変化しています。心の成長というべきでしょうか」
 それはなんとなくは判るが…確かに不機嫌さも少なくなったな。丸くなったと言うか。
「特に彼女が周囲にいる人達の気持ちを考えることができるようになった、これは実に大きい。だから彼女は気づいてしまったんですよ。それが意識下か無意識下のことなのかは判りませんが、彼女があなたを好きなように、朝比奈さんや長門さんもそうだということにね。それなりに彼女自身の心の葛藤はあったと思いますが、しかしあなたを独占しようとはしなかった。彼女達の気持ちが理解できたからこそです」
「ハルヒはともかく長門も俺のことが好き? 冗談も休み休み言えよ」
こんな時に冗談を言うな。
こいつはマジな話の中に冗談を交ぜるからどうしても俺の中から軽薄なイメージが消えないんだ。
「ふふふふ、あなたを囲む3人の女性が描く円。そのわずか外側にいる僕から見れば、判らない方がおかしいでしょう。いえ、判ってないのはあなただけでしょうね。相当、円から離れた人でも気づいてる人は多いはずですよ。あなたは果報者の上に罪作りな人です。僕はあなたから伺っただけですが、以前長門さんの暴走事件がありましたね。あれは、彼女が人間でありたい、そしてあなたが側にいて欲しい。そう彼女に発生した感情がもたらした結果ですよ。まだ判りませんか?」
 …驚いた。単純に驚いた。
あれは長門が人として普通の人としての生活を送りたいという望みが爆発しただけではなかったのか?
 判らなかった。いや、判ってて知らない振りをしていただけだったのかもしれない。
「気がついたら長門さんに目移りしましたか? もしその程度で変わる気持ちなら朝比奈さんを受け止める資格はありませんから、即刻断ってください。ええ、長門さん本人もそう思っているでしょうね。今、長門さんが何をしているか解りますか?」
「家でハードカバー読んでるか飯食ってるかじゃないのか? 今日の件に長門は関係ないだろう?」
「それもそうは言っていられないのですよ。先ほども言いましたように、機関はあなたと朝比奈みくるが関係を持つことに反対する意見が大半です。世界を喪失する恐怖のあまり、独断してあなたに対して直接的な干渉を行う可能性もあります。実力行使というわけです。恐怖にかられた人間の行動ですから、何をしでかすか解りません。最悪の場合、あなたや朝比奈さんに危害を及ぼす可能性も考えられます。それについては未来組織も同様であり、思念体組織の主流派もです。敵対組織についても同じ事が言えます。だから、長門さんは今、あなた達を守るために動いています。彼女の持つ攻撃力や防衛力もさることながら、存在するだけで十分すぎる抑止力となりますからね」
「もし長門が俺のことを好きなんだったら、俺のことを積極的に守る必要はないんじゃないか? 朝比奈さんと俺がくっつくことは長門にとって不利益なことだろう?」
「くくっ、長門さんには隠し事はできませんよ。彼女はお見通しの上であなたを守護しています。まあ、今はこれ以上説明することでもないでしょう、あなたが今するべきことに関係はありませんから」
「じゃあ、一つだけ訊かせてくれ?」
「なんでしょう?」
 こいつなら、鶴屋さんの言う“魔法”の正体が何かわかるかもしれない。未来に何があったのか。彼女は何かに感づいているみたいだ。ただの勘かもしれないがね。
「鶴屋さんの行動は把握しているのか?」
「昨日は涼宮さんと朝比奈さん、今日は涼宮さんとコンタクトしたということぐらいです。我々機関は鶴屋家には手は出せませんからそれ以上は解りかねます。しかし、彼女が僕たちにとって、どういう影響を及ぼしているのかは、個人的見解ではありますが、概ね推測はしています。けど、言いません。これも今からあなたがすべきことには関係しないでしょうから」
 やはりわからんか。もし知ってても口は割らんだろう。
「最後に僕個人としてあなたに意見しますが、よろしいですか?」
「なんだ?」
 こいつの意見は回りくどいからな、簡単に頼むぜ。
「もし今回はどんな結果になろうとも、僕たち…僕と長門さんですね、は、それを受け入れることに決めました。まあ、僕は最初からあなたに下駄を預ければいいと言っていましたからね。そんな深刻な事態にはならないと思ってますし。だから、
『とっとと朝比奈さんに会って言ってこい! このドアホッ!』
 失敬、今のはあなたの友人としての発言です。ご健闘をお祈りしてますよ。僕も引き続きあなたと朝比奈さんのためにできることはさせていただきます。もしかしたらこれがこの世界でのあなたとの最後の会話となる可能性もゼロではありませんが、うまくいきましたら、僕が知っていることもお教えすることもできるでしょう。それじゃあ」
 古泉の初めての罵声を耳に残して、電話は切れた。ペルソナを外した古泉を垣間見た気がした。
 ありがとな、古泉。
いつか機関の方針と相反する状況になったときは、一度だけ俺たちの味方をすると言ってくれたよな。今がその時なのか?
すべてが終わってまだ世界が続いているなら、俺はおまえ達にどうお礼を言えばいい?

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