~4 ふたり~


 あたし達は久しぶりに電車に乗っていた。あたしの家とキョンの家からの帰り道。
 なんでそんな所に行っていたのかって? それはね……バレちゃったのよ。
 あたしとキョンの同居が。どんなルートで伝わったかは分かんないわ。でもバレちゃった。
 だから、事情の説明と挨拶に行ったってわけよ。


「本当に悪かった。だけど、ハルヒと住むって言ったら絶対に許さなかっただろ?」
 あたしはキョンの横でただ俯くしか出来なかった。ここはキョンの家。
 目の前にはキョンの両親が座っている。そしてキョンが必死に説得している真っ最中。
「とにかく、俺は何を言われてもこの生活をやめる気はないぞ。大学だって学費を払ってくれないならやめるだけだ。……行くぞ、ハルヒ」
 こうなっちゃうと思ってたわ。キョンの性格からして、きちんと許可を取る気はないってわかってた。
 だからあたしは決めてたのよ。代わりにあたしが頭を下げるって。
「……おい、ハルヒ。何してんだよ」
 キョンに何を言われても構わないわ。許可が出るまで帰らないって決めたのよ。
「本当にすみませんでした。でも、あたし達は本気なんです。許してもらえるまで動きません」
 ……猫を被りながら喋るのって疲れるわね。でも気持ちだけはほんと。
 だから本当に許してくれるまで土下座でもなんでもし続けてあげるわ。
「やめろって。もういいからお前の家に行くぞ」
 あんたは黙ってなさい。久しぶりに妹ちゃんの相手でもしてあげたら?
「……やれやれ。言い出したら聞かないよな、団長様」
 『団長様』。懐かしいフレーズを聞いたかと思うと、隣りでキョンも頭を下げた。
 よく我慢してるじゃない。こういうのはね、根気よく謝り続けるのが一番なのよ。
 絶対に許してくれなくても、許してもらえるまで謝りなさい! ……って親に習ってきたから。
 さーて、あと何時間で許してくれるかしらね。キョンのパパママは。


「思った以上に簡単に許してくれたな。お前のおかげだよ」
 頭を下げてすぐにキョンの両親は許してくれた。……って言うより、そんなに怒ってなかったみたい。
 すぐにご飯とか作ってくれちゃったし、キョンに生活費とか言ってお金もくれたみたいだし。
 とりあえずはよかったわ。でも、次はあたしの……。
「次はハルヒの家だな。少し急ぐとするか」
 正直な話で帰りたくないわ。母さんはともかく親父がいたら殴られちゃうかも。
 そして、嫌だと思ってたら早く着いちゃうのよね。ほら、もう着いちゃった。
「じゃあハルヒから行ってくれ」
 しょうがないか。なるようになるわ。ただいま……。
 ドアを開けると、玄関で両親に迎えられ、そのまま奥へと連れて行かれた。
 メチャクチャ怒ってるわ……どうしよう、やっぱり謝るしかないわよね。
「ごめんなさい。だけどね、わかってよ。あたしはキョンが好きなの!」
 ……まぁ、こんな理由じゃ許しちゃくれないわよね。親父は冷たい目であたしを睨んでる。
 ほんとはあたしは家に許可を得ようなんて思っちゃいなかったけど、キョンがどうしてもって言うから……。
 ちょっと待ちなさい。今、親父はなんて言った? キョンの悪口を言ったわよね?
 あたしならなんて言われようと、殴られようと構わないわ。でもね、キョンを悪く言うのは許せないわね。
「もう頭に来た! 二度と帰ってこないわよ、それなら文句ないでしょ!?」
 あたしはテーブルを叩き、外に出て行った。やっぱりあんな親に許しを得ようとしたのが間違いだったわ。
 さっさと帰ってキョンとイチャつきたいわ。……あら、キョンはどこに行ったのかしら?
 辺りを見回して見ても、誰もいない。キョンがついて来てない? ということは……。
 あたしはゆっくりと家のドアを開けて、さっきまで話をしていた部屋にこっそりと向かった。
「本当にすみません。ただ俺達はずっと一緒に居たいだけだったんです」
 さっきまでキョンの家であたしがやっていたように、キョンは頭を下げていた。
「……はい。いつかは結婚も考えてます。本気です」
 ちょっとちょっと! それは話が飛躍し過ぎなんじゃない!?
「とりあえず、今日はハルヒも顔を出したくないでしょうし、また日を改めて来ます。……はい、ありがとうございました」
 いけない、キョンが出て来ちゃう。急いで距離を取らないと。
 あたしは再び走った。家から飛び出して歩き続けたらだいたいこのくらいの距離よね。
 あとはキョンが追いつけるようにゆっくりと歩くだけ。疲れたわ。
 結婚かぁ……。確かに、一緒に住んでるならそんなことも考えちゃってもいいわよね。
 幸せになれたらいいなぁ。誰もに認められて幸せなのが一番いいわ。
 あれ……キョンが来ないうちに駅に着いちゃったわね。どうしようかしら?
 あたしは辺りを眺めた。この景色も懐かしいわね。半年ぶりくらいかな。
「ハルヒ。待たせたな……じゃない。勝手に出て行くなよ!」
「あ、キョン。ごめん。あんたの悪口言われたから、ついカッとなっちゃったのよ」
「バカだな、あれくらいで。……サンキュ」
 照れくさそうに笑ってんじゃないわよ。かわいいわね、バカ。
 ん~、でもこんな所にふたりでいると思いだすわね。市内探索のことをさ。
「……そうだ! 今から最後の電車まで探索するわよ!」
「なんだと? 俺は疲れて……」
「問答無用ぉ! さ、行くわよ!」
 今日は高校生に戻ったつもりで歩き回るわよ!


 おぉ……疲れた。ひたすら歩き回らせられた上に、最後は高校へのハイキングコースだからな。
「満足満足! さ、帰りは指定席で帰るわよ!」
 特急の指定席か。疲れを考慮してくれてるんだろうな。ありがたいことだ。
 ハルヒと隣り合わせのチケットを買い、ホームへと向かった。
 いくら最終だからなのかは知らんが人が少ないな。少ない方が伸び伸び出来ていいんだが。
 とりあえず疲れたから早く電車のヤツに来て欲しいもんだ。
 何分か待っていると、ようやくホームに電車が入ってきた。やれやれ、やっと寝れる……?
 なんか人が少ないな。つーか……人がいない? 目の前に広がる光景はガラガラの指定席だった。
 さすがにあり得ないだろ。この光景ってのはさ。
「あら、誰もいないじゃない。ラッキーね!」
 いや、ラッキーで済ませれるレベルじゃないだろ。普通に考えてこんなことはあり得ないから。
 ハルヒは俺の方を見つめてニヤニヤ笑いを浮かべている。なんか上機嫌だな、ハルヒの家から帰った辺りから。
「キョン、お疲れ様。うふふふふふ……さ、ここに来なさい」
 膝まくらですか。確かに人が少ないし、疲れを取るのには最高かもしれん。
 しかしな、車掌さんも回って来るし途中駅で人が入って来るかもしれないんだぞ?
「あたしは構わないわ」
「俺が構うんだが」
「つべこべ言わずに早く来なさい!」
 結局こうなるんだよな……やれやれ。
 座席に横になり、ハルヒの太股あたりに頭を乗せた。おぉ、これは気持ちいい。
 しかし異常に恥ずかしい。こんな時に俺が取る行為はただ一つ、『寝たフリ』だ。
「本当によかったわ。他の客がいたらこんなこと出来ないもんね」
 えぇい、本当に疲れてるから返事はしないぞ。俺は寝てるんだ。
「……もう寝ちゃった。今日は疲れちゃったもんね。人がいないからゆっくりと休みなさい」
 ……もしかして、ハルヒが望んだから誰もいないのか? そんな迷惑をかけちまってもいいのか?
 いや、俺がそんなことを感じるのはやめよう。ハルヒがよかれと思って考えたことだ。
 素直に休んでおこう。眠いしな。
「あんたがあたしの親父に結婚も考えてるって言った時、本気でうれしかった」
 おいおい、盗み聞きしてたのかよ。趣味悪いし恥ずかしいな。
「あたしもあんたと結婚したいわ。だから、これからもずっとふたりで……ね?」
 ハルヒが俺の頭を撫でている。俺が寝てる時はこんなに優しいんだな、こいつは。
 電車の揺れる音だけの世界でハルヒとふたりきり。その中で俺は誓った。
 これからもずっと愛し続けてやると。
 手始めに……明日、市役所でも行ってみるか。


~4 ふたり~おわり


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