「長門……」
俺はハルヒに脅されて縮こまった朝比奈さんのような弱々しい声で呟く。我ながら情けない声出しちまったもんだ全く。
「……」
長門は只その液体ヘリウムのような瞳を俺に向けていた。
「辛かったな」
頭を撫でてやる。この場合抱きしめてやるのが漫画界やドラマの世界でいえば常識と言っても過言ではないのだがハルヒに見つかったらタダでは済まないしそれ以前に長門にそんなことするのははばかられた。ハルヒに見つかる可能性は限りなく0に近い場所なんだが。
「……」
その冷たい目はただ俺の顔を見つめている。ハルヒよりデカくはないが俺からみたら十分大きい目は俺だけを映し出している。
「お前はずっと耐えていたんだな」
俺は長門が持っている閉じられた本に目をやる。タイトルを見る限りじゃ恋愛物だな。カバーに描かれたハートをモチーフにしたキャラを見るに間違いなさそうだ。
「……」
長門の微かな表情変化。長門と長く接してないと決して感じ取ることのできない微細な変化。
「今日は俺がついてるからゆっくり休め」
今までずっと俺達のために色々やって来てくれたんだからな、1日ゆっくり休んだって罰は当たらん。
今までの功績から見るに3ヶ月休暇させても俺は大いに納得するぞ。
「……」
長門は本を自分の横に置き自分は仰向けになりこう呟いた。
「ありがとう」
しばらく経って長門が目を閉じる動作を見て、やはり宇宙人に造られた人造人間も目を閉じて寝るんだなぁなどと考えながら俺も囁く。
「どういたしまして」

夜はふけていく。
寒くもなく暑くもなく心地よい夜だ。
「ふふっ、やはりあなたに来てもらって正解でしたね。こんな安心した顔の長門さん初めて見ます。思わずほっぺたつつきたくなりますね」
あなたはいつからそんなキャラにイメチェンしたんですか?
「上も一応安心しているようです。長門さんはもはや我々にとってなくてはならない存在ですからね」
上品な笑顔を振りまきつつ長門のデコを撫でていた。
「今回の長門のコレの原因はなんなんですか?」
俺は長門の貴重なスリーピングモードを目に焼き付けつつ質問する。
「原因はあなたです。キョンさん」
初めてあだ名にさん付けされた。俺が本名で呼ばれる日はいつ来るのだろうか? 下手したら卒業式までキョンと呼ばれそうな気がする。
「どういうことですか喜緑さん?」
長門のお目付役の美少女アンドロイドが液体窒素のような目で俺を見ていた。
「あなたはわかっていた筈ですよ」

夜の街はまだまだ眠りにつくことはないらしい。俺もまた今日は眠ることはないだろうなと悲観しつつ喜緑さんと対峙した。


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