~3 いつでも繋がってる~


「もう知らないわよ! バカキョン!」
「俺もしらねーよ、バカハルヒ! 文句あるなら出て行け!」
 頭にきた! 出て行ってやるわ!
 あたしは近くにあるコートを掴み、羽織ると外に駆け出した。
 どこに行くんだって? 知らないわ。どっか行くのよ。ここは日本だから言葉も通じるし、お金も使える。
 キョンなんか大ッキライ! 頼まれても戻ってあげないんだから!


 うー……寒い。なんで今日に限ってこんなに寒いのよ。パジャマにコートだけじゃ寒すぎるわ。
 自販機で温かいココアでも買おうっと。……あれ? 財布が無い。
 そっか、あたしはコートしか持ってきてないから……やっぱり。携帯もないわ。
 どーしよ、携帯はともかくお金が無いとどうしようもない。帰……らないわよ。
 絶対に帰らない。あのバカが土下座するまでは絶対に帰ってあげないわ。
 それにしても寒い。……家のドアの前に居ようかな。そしたらあいつが探しに来たらすぐに帰れるもん。
 そう決まったらさっさと移動ね。あー、寒い寒い。
 あたしはゆっくり歩きながら家へと歩いた。
 ……なんだろ、このモヤモヤ。謝らないと気持ち悪い気がする。やっぱりあたしが短気過ぎるのかな?
 キョンは今日のケンカの時も最後まで我慢してくれたもん。やっぱりあたしが悪いのかも……。
 部屋の前に着くと、あたしはドアに手をかけて……下ろした。
 やっぱり、許してもらってから入ろう。あたしが悪いんだもんね。……寒いわね。早く帰って来なさい、バカキョン。


 どこに行きやがった、あんな薄着で財布も携帯も置いたままで!
 ハルヒが家を出てすぐに俺は外に出た。あんな格好だと風邪ひくからな。
 それから30分、未だにあいつは見つからない。どこをほっつき歩いてんだよ、やれやれ。
 そりゃさ、勢いでケンカになることはあっても出て行くことは無いじゃないか。
 俺だって本気であんなことを言うつもりはなかったから謝るつもりだ。
 しかしだな、ケンカと言うのは両者が悪いからケンカになるのであって、俺だけが悪いわけじゃないだろ?
 ……そんな理屈はどうでもいいか。ハルヒに謝って戻って来てもらう。それだけで幸せだ。
 とりあえず家に戻るか。もしかしたらハルヒが部屋でコーヒーとか淹れて待っててくれてるかもしれんからな。
 今来た道を振り向いて、歩き始めた。俺は着込んで出て来たからいいが、あいつはコートだけだからな。
 風邪なんかひかれるのだけは絶対に勘弁だ。……急いで帰ろう。
 小走りに家へ向かう。小走りだと5分くらいでつく。風呂を沸かして一緒に入ろう。背中向きでもいい。
 そして、温かい鍋でも作って二人でつつきながら謝れば許してくれるさ。
 そんな妄想というか都合の良い想像をしてるうちに家に着いた。……何してる?
「ご、ごめん……キョン。やっぱり出て行きたくない」
 ドアの前、ハルヒは膝を抱えながら寒そうに座っていた。鍵は開いているのに。
「あたしから出て行ったんだから、勝手に入ったら犯罪でしょ? それよりさ、寒い……」
「バカ。さっさと上がってコタツに潜り込め」
 本当にバカな奴だ。謝るタイミング逃しちまったじゃねーか……やれやれ。
 ハルヒの背中を押して部屋に入った後、俺は風呂を沸かした。
 凍え死にそうなほど青い顔してやがるからな。一人でゆっくりと浸かってもらうためだ。
 ……ん? さっきの一緒に入るってのはもちろん冗談だ。そんな恥ずかしいことが言えるかって。
 俺は自慢じゃないが、中学生並のピュアボーイだぞ? そんなことをした日には眠れなくなるだろ。
「キョン、寒い……」
 もうすぐ風呂がたまるから準備して待ってろ。
「ためながらでいいからもう入っちゃうわね。うー、寒い寒い」
 ハルヒはそう言うと、風呂場の方に走って行った。じゃあ、俺は鍋の準備でもするか。
 多分、冷蔵庫に肉も野菜も十分に入っていたはずだ。味を付けた水の中にぶち込んで……よし。あとはハルヒを待つだけだ。
 その時だった。耳からではない他のどこからかハルヒの声が聞こえてきた。
 何と言うか……そうだな、心に直接聞こえてきた感じだ。『キョン、ちょっと来なさい!』ってな。
 とりあえず風呂場に行き、ハルヒに尋ねてみた。
「ハルヒ、今さっき俺を呼んだか?」
「呼んでないけど……」
 そりゃそうか。俺の気のせいだよな。
「あ、でもちょうどあんたのことを考えてたわ。い、い……一緒にお風呂に入ってくれないかな……なんて……」
 は?
「は、早く入って来なさい! あたしがのぼせちゃうでしょ!」
 ……まぁ、あれだ。今日は怒らせちまったからなんでも言うことをきく。
 それだけの話だ。決してハルヒの裸を見てみたいとか、その先を期待してるわけじゃないからな。
 手早く衣服をはぎ取り、タオルを腰に巻いてドアを開けた。……おぉ。
 白い。美しい体とはハルヒの体のことを指すのかもな。かなり綺麗だ。
 胸までしっかり手で隠してはいるが、プロポーションの良さがわかる。
 どこにモデルに出しても恥ずかしくないな……。
「み、見てないでさっさと入りなさいよ、エロキョン! ……背中向きだからね」
 正面を向けないのが少し悲しいがしょうがない。
 ハルヒが飛び出す前に風呂に一回入ったから洗わなくていいか。
 数回、軽く湯を体にかけて背中向きで湯船に入った。お邪魔しまーす……っと。
 お互いの背中で支え合うような形になり、沈黙が続いた。……恥ずかしくて喋れるはずがないだろ。
 別に構わないか。背中同士でお互いが繋がってるのがわかるからな。
 もう口に出さなくったっていい気がする。
「ねぇ、キョン?」
「どうした」
「あたしね、あんたを待ってる時にずっとあんたのことが見えてたのよ。公園に行って、コンビニとか何軒も回ってたでしょ?」
 こいつ……まさか『俺の居場所が見える』ようになるように願ったのか? それで能力が発動して、自分の能力に気付いたとか……考えすぎか。
 そう思うとハルヒの能力は厄介だよな。自分の都合のいいように世界を変えられる。一歩間違えばふたりきり、一歩間違えば俺だけ消える……か。
 能力を自覚されるのが一番怖いな。ハルヒに限って妙なことは考えないと信じてるけどな。
「だからね、あたしには凄い能力があるってことに気付いちゃったのよ」
 おいおい……考えてるそばから……。
「きょ、キョンといつでも繋がってられるって能力だと思うの。だから、あたしが寒がってたからキョンが帰ってきてくれた」
「ハルヒ?」
 俺はハルヒの手で首だけ振り向くように回された。もう少し回されたら曲がってはいけない方向に曲がりそうなんだが。
「出て行っちゃってごめんね……」
 そして、キス。いつからこいつはこんなに大人っぽくなったんだよ。
 大学入ってからグッと大人っぽくなりやがった。毎日顔を合わせてるんだが、なかなか気付かないもんだな。
 それにしても暑いな。恥ずかしさのせいか、風呂のせいかわからん。
「……はい、おわり。許してくれるわよね?」
「あぁ。許してやるよ」
 ほんとは俺が謝る所なんだけどな。
「やっぱりね。ちゃんと繋がってるから許してくれるってわかってた」
 はいはい、そうですか。俺もわかってましたよ。一方的に繋がってることなんてないからな。
「背中がほんのり温かいな。メチャクチャ気持ちいい。寝ていいか?」
「ダメよ、風邪ひいちゃうから。あたしが100数えてあげるから、そしたら上がりなさい。いーち、にーい……」
 俺はどこのガキだよ、まったく……。
 ハルヒとこうしてられるのもあと90秒か。個人的にはずっとこのままでもいい。
 幸せすぎるからな。あぁ、もうあと1分を切りやがった。なんだって幸せな時間は早く過ぎていっちまうんだ。
 ほら、もう30秒……って少し早いと思うんだが。……ははーん、読めたぞ、ハルヒの考えが。
 俺がニュータイプなのか、それとも俺とハルヒが繋がってるからなのかは知らん。
 ただ、なかなかうれしいことを考えてるじゃないか。それで数えるのも早いってわけだ。
 さぁ、もう少しか。こっちから迎えてやるぜ。
「きゅーじゅーはち、きゅーじゅーきゅー……ひゃく」

 チュッ。

やっぱりな。繋がってるってうれしいことだ。


~3 いつでも繋がってる~おわり


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