今朝、いつも通りの上り坂を歩いて学校に着き、疲弊したところで俺の席に誰かが座っているのを開いた扉の向こうから確認する。
あのロングヘアーは数ヶ月前に俺を殺しかけた朝倉涼子のものでしかなく、俺はまた誰かが消えたのか、と懸念する。
しかし教室内はサウナのような暑さで俺は眩暈がする。目の前が黒い。
俺はばたりと倒れる。頭をぶつけたかもしれない。意識が空にあるような感覚だ。ハルヒが珍しく「おはよう」と陽気な声で俺の頭を踏みつけていく。
駄目だハルヒ。行っちゃいけない。そこには朝倉がいる。
俺には伝える術がなかった。

「…意識の回復を確認」
いつの間にか保健室に運ばれていたらしい俺のすぐ耳元に長門の息を感じて飛び起きた。
長門はくっついたまま離れない。お願いだからやめてくれ。顔を近づけるな。俺はお前を気持ち悪いとは思わないが
それにしたってこの状況には少し問題があるぞ。
「なぜ」
「そりゃあ決まってる。ここが保健室だからだ」
「…何を言ってるの」
「はあ?」
そこで俺は気がつく。周りが真っ白なので気が付かなかったがここは箱の中だ。
ベッドのすぐ傍にあるはずのカーテンが取り払われている。窓はどこだ。俺はここから出なきゃならん。
「あなたはここから出られない。わたしにはできる」
おい長門、何とかしてくれ。
「それは無理。雪が降っている。早く行かなければまた体温が過度に上昇し、身体に異常をきたす。わたしが」
それは俺のことだ。お前がそんなことになるのはよっぽどの異常事態の時だけだろう。だから早く何とかしてくれ。
「…また、放課後に」
ところで今は何時なんだ。

長門が唐突に消えてから俺の体は熱くなってきた。ほらみたことか。
「今が何時かは知りません。知ってても私には言えない。禁則事項ですから」
おお、マイエンジェル、朝比奈さん(大)光臨!後光が冗談でなく見えた。
「あ…朝比奈さん、俺は一体どこに?長門は?そういえば今朝、朝倉が…」
「落ち着いてキョン君。それに厳密に言うと貴方がここに来たのは今日じゃなくって3日前なの…あ、これは禁則にかからないっけ、ごめんなさい」
「何で謝るんですか」
「私が嘘をついていたからよ」
朝比奈さん(大)はそう言ってウインクすると左手にしていた腕時計を見て慌てはじめる。
「いけない…そろそろ来ちゃう」
何が?
「禁則事項です。それよりも早く私を隠して」
そう言うと朝比奈さん(大)は俺が先ほどまで寝ていたベッドの下を漁りはじめ、たかと思うと「見つけた」と言い
「重たいから引っ張って、これ」
と頼んでくる。俺は逆らえない。しかし指差したものはとんでもなく大きなトレーの中に入った水だった。
「一滴も零しちゃ駄目よ」
俺は逆らえない。何とか半分ほどをベッドの下から出すと、
「またね」
人魚のごとく飛び込んでいってしまった。
俺の体も最高潮に熱くなってきたので朝比奈さん(大)の真似をして俺も飛び込もうとする。
すると今度は強い力で引っ張られた。
「お前…!」
「いけませんよそれは。あなたにまた時間移動をしてもらう訳にはいかない。時間の軸が狂ってしまうからです」
今度はお前か。っていうか時間の進行を守るのは朝比奈さん(小)であり朝比奈さん(大)ではなかったのか。
「朝比奈さんは大きくも小さくもないですよ?何を言ってるんです?」
「そういう事じゃない。っていうかお前まで、何をしに来た。早く俺をここから出せ」
「この世界がいやなんですか?」
「そうじゃないけど俺は元のSOS団で、ハルヒや宇宙的未来的超能力的な何かに巻き込まれる日常がそれなりに楽しいんだ」
「じゃあ今の状況も楽しいんじゃありませんか?今僕は全然楽しくないんですけど」
「何だと?」
「だって僕は、任務でしか動けない…機関の人形ですからね」
俺にはお前の気持ちは量りかねるよ。
「僕にもあなたの気持ちは分かりかねます。しょうがないでしょう、あなたは生きてるんですから」
「…お前も行きてるだろ」
「生かされてるんですよ、神に」
またそれか。
「うんざりしてくださって大いに結構です。それではこれで」
いつか見た赤い光が神人でもないなんでもない、一介の超能力者の腕や頭や腰やらをバラバラに切断していく。その先からあいつの体も消滅していく。
「俺も消してくれ!この世界から!」
叫んだけれど赤い光はもういない。

暗転する。

「…あなたのデータ、なかなか面白かったわ」
誰だ。
「まだ分からないの?あなたの席に座ってたのは誰でしょう?」
…朝倉!?
「ううん、それは違うわ。でも私は朝倉涼子なの」
どういう事だよ、これは。
「あなたを壊そうと思ったけど、簡単にはいかないのね。人間ってどうやったら内部から破壊できるのかしら」
爆弾でもしかけてみたらどうだ。ナイフなんか使ってしまうお前には似合ってるだろうよ。
「…そう。でももう無理みたい。本当はあなたともっと遊びたかったのに」

俺は瞬きをする。目の前にいたのは何故か…生徒会書記の…えーと…
「喜緑です。こんにちは」
そうそう、それそれ。って何であなたがここに?
「禁則事項です。ごめんなさい」
「ところで一つ、聞いてもいいですか」
「…答えられることなら」
「ハルヒは今回の件に絡んでるんですか」
「ハルヒ?人の名前ですか、それ。…それが何か?」
俺は頭を抱えた。


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