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~2 はじめての休日~


 ふふふ……うふふふふふ。ついにこの日が来たわ。今日は二人暮らしをして初の土曜日。
 即ち休日。どこに連れて行ってやろうかしら? 足りない物の買い出し? 雰囲気のいい公園探し?
 ふふ、キョンと外出デートなんて久しぶりだわ。楽しみでたまんない!
 あたしは体を起こして隣りに寝るキョンを眺めた。あたし達は一つの布団、一つの枕で寝てる。
 わざと布団を持って来なかったのはあたし。キョンと一緒に寝たかったし、腕枕が気持ちいいんだもん。
 それにしても……起きないわね。出かける時間が無くなっちゃうじゃない。
「こらー、キョン。起きなさーい。食べちゃうわよー」
 あんまり起こす気のない起こし方をしてみる。だって食べちゃいたいから。
「……食われたくないから起きるよ。ふぁ……おはよう、ハルヒ」
 起きちゃったわね……残念だわ。そういえば寝起きのキョンの顔をしっかり見るのは初めてかも。
 なんか……か、かわいい。目を擦る仕草とかが子どもっぽくていいわ。
「どうしたハルヒ? 俺の顔になんか付いてるのか?」
 違うわよ。ちょっとだけあんたのマヌケ面を眺めてただけよ!
「そっか、ならいいか。朝飯はお前の当番だろ? 出来てないのか?」
 げ……忘れてた。どうしよう、ご飯すら炊いて無いわ……。
 ちょっとだけ待たせとけばいいわよね? パンもあるし、おかずは作ればいいし。
「ごめん、まだ作ってないわ。すぐに作るからこれで我慢してなさい」
 あたしはキョンと唇を重ねた。い、言っとくけどおはようのキスじゃないからね! ご飯の代わりなんだから!
 こら、そこ!どっちもバカップルのやることなんて言うなー!
「ふぅ……いきなりだな。それに免じて待っててやるよ」
 よかった。さぁ、急いでご飯作らなきゃ! デートの時間が無くなっちゃ嫌だからね!
 キッチンへと急ぎ……もう目玉焼きとパンでいいわ。それだけを手早く準備しようとフライパンを出した。
「ハルヒー、なんか手伝うことない……か……おぉ?」
「わひゃっ! い、いきなり抱き付かないでよ、キョン! ……そんな全体重かけられると重いんだけど」
 キョンの重みで潰れそう……あ、それもいいかも。潰されてそのままこう……襲われるってのも……。
 うわぁ……あたしメチャクチャ変態チックだわ。あれ、これって初体験よね。
 もうちょっとムードが欲しいかも。
「回る……やべ……」
 キョンはフラフラしながら倒れこんだ。熱でも出したのかしら……って場合じゃないわ! 大丈夫!?
「の、ノープロブレムだ。俺はいつも通りのハルヒ大好きのキョンだぞ……」
 あたしは熱がわかりそうな箇所をいくつも触った。頬とか額とか身体とか。
 いやらしい意味じゃないわよ。そして、その全てが普通じゃない熱さだった。
「キョン、危ないって! あんたの熱は異常よ!」
「バカ。俺は3日間の意識不明も経験した男だぞ、このくらい余裕だ」
 むむむ……強情ね。こうなったら力勝負よ! 布団に押し込んでやるわ!
 と思ってキョンを押したら、フラフラとしながら意外にすぐ布団に納まった。
 体温計、体温計は……っと。
「バカハルヒ……早くデートに行くぞ。飯作れよ」
 バカはあんたよ、バカキョン。今日は中止。……あ、ほら体温計あったわよ。さっさと計りなさい。
 キョンの口に体温計を押し込む。ほんとに大丈夫なのかしら? 入院とかしないわよね?
 入院なんかされたら、あたしは心配と寂しさで死んじゃうわよ。
 まだデートに行くなんてバカなことを言うなら、あたしは大声で叫んでやるわ。
「デートなんかよりあんたのことの方が一億倍心配なのよ!」ってね。
 『ピピッ』っという音が鳴り、キョンは体温計を口から取り出した。
 どれどれ……38度。今日は一日看病プレ……じゃなかった、看病ね。
「ハルヒ。デート楽しみだったか?」
「もちろん楽しみだったわよ。でも、あんたのことの方が心配だからさ」
「俺もすごく楽しみだったんだぞ。いろいろ調べて……ごめんな」
 キョンはそう言うとあたしと逆向きになるように寝返りをうった。
 もう、そんなに悪く思わなくてもいいじゃない。そりゃ楽しみだったけど、これも悪くないわ。
 だって、これならずっとキョンだけ見つめれるじゃない。デートだとそうはいかないけど。
 問題なのはキョンが咳をしたりすると、あたしが心配で不安で苦しいってことね。
 付き合う時にあたしを心配させたら死刑って言ったのに。他にも、悲しませたり、一人にしたりしても死刑よ。
「すー……すー……」
 あたしがそんなバカなことを考えてるうちに、キョンは眠りについていた。
 あ、汗かいてる。拭いてあげなくちゃ。タオルも絞らないと。
 キョンが起きたら食べれるようにお粥でも作っとかなきゃね。薄味で、たくさん食べれるように多めに作っとこうかしら。
 あたしがこれだけ看病してあげるんだから、安心してちゃんと寝ときなさいよ。
 額に乗せているタオルを絞り変えて、あたしはキョンの隣りを離れた。
 またお昼には起こしてあげるから絶対に起きちゃダメなんだからね……。


 ……よし! これくらいの味付けならキョンも食べれるわね。
 時間も12時半、そろそろ起こして食べさせないとね。きっとあたしの料理を食べたら病気も逃げて行くわ。
 再びキョンの隣りに座って顔を覗きこんだ。
 ふふふ、かわいい顔で寝てるわね。ちょっと起こしたくないかも。
 でも、起こしてあげなくちゃご飯食べられないしね。さっさと起こすとしましょ。
 そのとき、あたしの頭の中に一つの本のタイトルが流れ込んできた。
『白雪姫』
 毒リンゴを食べた白雪姫が王子様のキスで目が覚めるあの話。
 あれって逆も大丈夫かしら? あたしがキョンにキスしたら病気がすっかり治って起きちゃわないかしら?
 ……ものは試しってやつね。やったげるわよ。
 顔を近付き、「起きなさい」と一言声をかけてキスをした。
 ん……目を瞑ってるからよくわかんないけど、なんか眩しい。光に照らされてるみたい。
 唇を離して目を開いた。だけど、光は無い。当たり前よ、カーテンしてるもん。
 なんだったのかしらね、さっきの光は。
「んぉ……おはよう」
「起きたみたいね。どう? 王子様の目覚めのキスのお味は」
「王子様の目覚めのキスのおかげかどうかはわからないが、病気は完全によくなったみたいだ」
 そんなわけないじゃない。そんなことが有り得るなら医者なんて存在しないわよ。
 そう思いながらキョンの額に手を当てると、さっきまでの熱さが完全に消え去っていた。
 ……き、きっと偶然よね? アレだけぐっすり寝てたから治っちゃったのよ。
「ハルヒの愛のおかげかもな。さぁ、お粥を食べたらデートに行くか」
 大きく伸びをしながらキョンが口を開く。デートが出来る。うれしい、うれしい、うれしい!
「ね、デートとかご飯の前にもう一回キスさせて。……いや、させなさい!」
 やっぱり元気なキョンを目の前にすると『好き!』の気持ちが爆発しちゃうの。
 しょうがないじゃない、こんなに惚れちゃったあたしが悪い。それでいいわよ。
「寝てる奴にキスしといてまだ言うか。……大歓迎だけどな」
 久しぶりのキョンからのキス。あたしからじゃないキスってのがやっぱりうっとり来るわね。
 ……決めたわ。今日のデートコースはカップルがたくさんいる所にしましょう。
 どうしてかって? そこなら、ずっとキョンにくっついてても違和感無いじゃない。
 今日はもう一瞬も離してあげないんだから!


~2 はじめての休日~おわり


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