恒例のベッドの横での目覚め。
どうやら俺は無事にこの世界まで帰ってこれたようだ。
それにしても、俺は何をした?
ハルヒにまたキスしたような気がするんだが、これは夢か?
夢であってくれ。というか、夢でも嫌だ。フロイト先生も相手にしてくれない。
手の届くところに消火器かコンバットマグナムがあったら躊躇うことなく俺は自決しているだろう。
……まあ、躊躇わないってことは無いか。


人間が夢を見るのは基本的にレム睡眠のときだけだ。
平均八時間の睡眠時間の中でも、レム睡眠はごくわずか、一、二時間程度だ。
レム睡眠の世界最長記録は3時間8分。気になる方は2000年版のギネスブックを見るといい。
俺は何時間の間、この恐怖の体験をしただろうか。
答えは76時間と14分。俺は三日間も寝てたのか?
いや、レム睡眠だけで3日だから睡眠時間は8倍の24日か?
どうやら俺の名がギネスブックに記される日はそう遠くはないようだ。



四日目 午後五時二十分。部室にて。


オセロの白い石を裏返しながら、古泉は言った。
「大変でしたね。こちらもお陰さまで、仕事がだいぶ楽になりましたよ。一体、どうやってあそこから出たんです?」
思い出したくない。長門のお陰とだけ、言っておこう。
「今回の件で、いくつかわかったことがあります」
なんだ?
「まず、涼宮さん自身がこの世界を作ったのではないという点。
二つ目に、彼女はこの世界の内側に、もう一つ自分だけの世界を作ることができるという点。
三つ目に、彼女によってこの世界が崩壊することは無いという点」
「……説明してくれ」
「彼女がこの世界を作ったなら、すべてが彼女の思い通りに動くはずです。
しかし、この世界では彼女の思い通りになるのはごく一部だけ。これでは神とはいえません。
では、誰か他の者が作ったと考えるしかないんです。よって、彼女が機嫌を損ねることで閉鎖空間が発生しても、
世界が崩壊することはありません。
次に、彼女はすべてが自分の思い通りになる世界を、この世界の内側に作ることができます。
その世界の中に入った者は、すべて彼女の意のままに操られます。普通は入れませんけどね。
しかし、それには例外があります。それは、その世界の外側の世界を作った人間。
つまり、この世界での神はそこで操られることはありません。彼女の世界はこの世界の内側に位置するため、
この世界の神の管轄内なんです。なので、神の意思は神のものであり、神は涼宮さんの影響を受けません」
相変わらず信じがたい話だな。
俺は白石を盤に置いた。
「貴方がその世界に巻き込まれた原因は、その世界の力がこちら側の世界をわずかな時間ですが上回ったからです。
しかし、こちら側の神はすぐに力を取り戻しました。お陰で神は彼女に操られることもなく、無事にこの世界まで帰還できました」
で、結局その神様は誰なんだ?





「鏡でも見ればわかりますよ」


……馬鹿な。
じゃあ、俺がここでドアが外れろ、と念じれば外れるのか?
「どうでしょうね」
俺はオセロ盤の上の黒い石を裏返し、その説を鼻で笑って否定した。
「馬鹿馬鹿しい」
それから三秒と経たないうちに偉大なる団長様がドアの蝶つがいが吹っ飛ぶ勢いで部屋に入ってきた。
蝶つがいは空中で三回転してから俺の湯飲みの中にダイブし、熱いお茶が長机の上に跳ねる。
ちなみに修理費を払うのは俺だ。
古泉は俺の顔を見ていつものように微笑み、俺は大きく溜め息をついた。
「やれやれ……」




-fin-


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