「キョン、桜よ、桜!」
 何の因果か不思議探索でハルヒとペアになってしまった俺であるが、
「今年は何時もより早いんじゃない? やっぱりあれかしら、地球温暖化?」
 ハルヒに引っ張られつつ来たのはこの桜舞う何時かの川辺であり、
「あたし、思うんだけどさ、地球温暖化って宇宙人の陰謀っぽいのよ!」
 この異常に高いテンションに振り回された俺に風流を解する心なぞ一片も残っておらず、
「海水面の上昇で人の住める場所が少なくなるでしょ、そしたら人は無限の宇宙に目を向け始めるの」
 必然的に目の前に咲き誇る桜の花は単なるピンクと茶色と緑の混合物にしか見えないわけで、
「で、ついに宇宙へ飛びだした地球人にこう言うのよ」
 視覚がダメなら次は聴覚なわけだが、聞いての通り延々とハルヒが自説をぶちまけてだな、
「『ようこそ、宇宙へ。我々は貴方たちを歓迎します』って何食わぬ顔してね」
 味覚は論外、触覚なぞこの眠くなりそうな暖かさしか感じるものは無し、
「きっと宇宙人はあたし達と仲良くしたいのに、面識がないから招待できなくて
悶々とする引っ込みじあんなのよ!」
 嗅覚は残念ながら……かどうかはともかく鼻詰まりで働いてない。
「……ねえ、ねえってば! 聞いてんの、アホキョン!」
 要するに俺が何を言いたいかといえばだな、
「人の話を聞けっ!」
 実に良い音をたてる俺の――ハルヒのでも、花見客のでもないぞ――頭。
「痛えな」
 ……要するに俺が言いたかったのは時間の無駄だって事だ。
「本っ当ーに、抜けてる奴ね。桜の肥やしにするわよ」
 頭だけ地面から出てる自分を想像して軽くゲンナリ。
「で?」
 俺を睨みながらハルヒは言う。
「で、とは?」
 いい感じにハルヒの眉が釣り上がる。
「あたしの話を聞いてたの?」
 あのな、さっきも言ったように俺の五感は自主休業だったのさ。
 ――つまり、聞いてない。
 精々コッテリ絞ってくれ、と思いつつ渋々口を開く。
「ああ、地球温暖化は宇宙人のせい、だっけか?」
 ……あれ? ちょっと待てよ、俺。おかしくないか、俺?
「なんだ、マヌケ面さらしてる割にはちゃんと聞いてるじゃない。感心、感心」
 腕を組んで実に綺麗に笑うハルヒ。


 不意に一陣の風が吹き、気の早い花びらが舞い散る――桜吹雪。
 まるで世界から俺達を隔絶するような桜色のカーテン。
 目の前にいるとても可愛いハルヒ。
 やべ。心臓が二倍速だ。
 口の中が意味もなく乾く。俺は二度三度口を開いては閉じ、意を決してもう一度開く。
「ハ……」
 と、一際強く風が吹き、俺の開いた口に大量の桜の花びらをご案内。
「げえっ」
 ハルヒから顔を背けて異物を始末。……少し飲んじまった。
「あんた、バカでしょ」
 そんな呆れた顔をするな。これは完全に事故だ。
 理由は忘れたが、お前の名前を呼ぼうとした丁度その時に無粋な風が吹いたんだよ。
「ふーん……。あ、キョンたこ焼き屋よ!」
 叫ぶや否や、と言うか叫びながら走るハルヒ。
 ……っとに切り替えの早い。どうせお代は俺持ちなんだろ?


 なあ、ハルヒ、と後ろ姿を追い掛けながら小さく呼び掛ける。
 似合ってるぞ、俺とペアになった瞬間につくったその髪型が、さ。
FIN.

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