「涼宮ハルヒ」

 SOS団員2号にして読書好きの無口系キャラでこの銀河を統括するなんたらかんたらに作られた宇宙人、という
 普通に書き並べても長文になってしまうまこと複雑なプロフィールを持った少女、長門有希が
 同じく詳細に語ったりするとそれだけで文庫本1冊ぐらいにはなりそうなこれまた面倒くさいプロフィールを持つ
 唯我独尊、傍若無人でSOS団団長の女、涼宮ハルヒに問い掛けたのは、
 SOS団員全員が部室に揃っている、特に何も起きていない平和なとある日の事である。

 その言葉を聞いた時、俺は「珍しい」と思った。
 なんせこいつが自分から意思表明をすることなんか殆ど無いからな。
 明日は家を出る前に傘を持っていった方がいいかもしれん。
 
 にしても何を言うつもりなんだろうな。あまりハルヒにヘタな事を言ってほしくはないのだが、
 長門がこうやって自主的な意思表明を行うことなど、今ではともかく
 初顔合わせの時には考えられなかったからな。邪魔をしたくはないね。
 ふと前を見ると古泉の奴も会話の行方が気になっているらしく、
 オセロは自分の番である筈だが手を止めている。時間稼ぎしたところで戦局は火を見るより明らかだぜ。
 まあいい、俺もハルヒと長門の会話の行方が気になるところだからな。

 朝比奈さんもそうであるらしく、マフラーを編みながら、ちらちらと二人の方を伺っている。
 うーんこの人の行動は本当和むね。

「なに、有希?」
 微笑を浮かべたハルヒが答える。普段の俺の話もそれくらいの態度で聞いてくれないものかね。


 話は変わるが、ハルヒは最近前にも増して長門の事を気遣っている。
 雪山で長門がぶっ倒れた時から特にだ。
 無理も無い気はするけどな。長門がどっか行くかも知れないという事も言ったし。勿論その時に黙って見てる気なんてないが。
 どうもハルヒは団員の事情や健康に敏感な性質である。
 映画の時に調子こいたりもしたが、基本的にこいつは団員の事を無下にする事はない。
 朝比奈さんに対するイタズラは、お姉さんに対する甘え、みたいなもんだろ。多分。
 …ホント、俺の事も少しは気遣ってくれないもんかね?

 で、長門にそんなハルヒの事を言ってみたところ、長門は
「そう」
 と言っただけだった。わかってるのかねあいつは。


 そんな事を考えていた時に長門が口を開いた。
「前から実行したい事があった」
 前から実行したい事?なんだそりゃ長門、そんなのは初耳だぞ俺は。
 って別に俺に言う意味なんぞ小学生の時に作った俺の自由工作の価値ほどもないか。

「あなたを」
 あなたを?う、いかん。嫌な事を思い出してしまった。
 まさか「あなたを殺して涼宮ハルヒの出方を見る」とか言わないだろうな。いや出方見れないかそれじゃ。



「これから“団長”と呼称したい。許可を」




 ………………………今なんつった長門?
 見ると、古泉は笑顔のまま目を見開いて驚くという芸当をやって見せ、
 朝比奈さんは口を開けてほえーとか言ってらっしゃる。
 そして言われたハルヒは、まるで洞窟に閉じ込められて必死で穴を掘ったところ光が見えたような表情と
 目の前で大魔神が海を割き現れたのを見たような表情が混ざってよく分からないことになっていた。
 いやこいつの場合大魔神が現れたら狂喜乱舞か?
 ちなみに長門が無表情であることは言うまでも無い。


「ゆ…有希?どうしたの急に?」
 突然の提案にハルヒは困惑しながら長門に問い掛ける。
「返答を」
 長門はその問いには答えずハルヒの返事を待った。
「えー、ああ、その、うん」
 なにがうんなのだろう。ハルヒはいつもの態度からは考えられないしどろもどろなレアな顔をしている。
 あーとカメラはどこにやったっけ?


「だめ?」
 長門が少し、ほんの少しだけ表情に不安な色を浮かべた。
 ハルヒもそれを察知したのか、慌てて手を前に出してブンブン振って否定する。

「あ!いや、違う、違うのよ有希!なんで急にそんな事言いだしたのかちょっと気になったっていうかね!だから気にしないで!」
 長門はそれを聞いてなるほどといった風に話し出した。


「あなたは冬の合宿の際、倒れたわたしの看病をわたしが就寝するまで行った。
しかしわたしはその時は通常はそうするものなのだと認識していた。
だが実際の統計上、あなたの行った看病は明らかに平均のレベルを逸脱しており、
単なる義務行為以外に重大な理由がある事を推測させた。
だがわたしにはそれがなんであるかまではその時は正確に掴めなかった。
あなたが時折わたしの方を確認している事も知っていた。
それは「心配」という感情に似たものを感じさせたが、
わたしがあなたに心配される理由があるとは思っていなかった。
だが彼があなたがわたしの事を心配しているのだと教えてくれた。
あなたがわたしを友人だと思っていてくれている事も。
友人関係に当たる者はお互いの事をフルネームでなく名前単独や渾名やそれと分かる特別な名称で呼ぶ。
故にわたしはあなたの事を“団長”と呼びたい。許」

 許可を。と言いたかったんだろうな。しかしその言葉が発される事はなかった。
 なぜかって?見りゃ分かるだろ。ハルヒが長門を鯖折りでもしてんのかというぐらいに強く抱きしめてやがるからだよ。
 抱きしめられる長門の顔を見ながら俺は思った。


 …長門は、もしかしたら、いやもしかしなくとも、ハルヒのやつに罪悪感を感じていたんじゃないのか、と。
 おかしくなって、世界を変えちまったことに対して。

 なあ長門、別に気に病むことはないんだぜ、結果的に皆元に戻ったじゃないか。
 それに、俺はあの世界で認識したんだよ、この日常の大切さを。
 あの事件が無きゃ俺はこの思いを認めないまま過ごしていただろう。だから、だから長門。



 …そんな泣きそうな顔しないでくれよ。

 やがてハルヒは長門を抱きしめるのをやめて、長門の肩に手を置き、言った。
「大丈夫よ有希。有希がどっかに行っちゃうなんてあたしは絶対許さない。何があっても守ってあげる。
だからなにかあったらあたしに絶対言いなさい、…あたしはSOS団団長で、あんたの友達なんだから」
 少しだけ目を見開く長門。全く今日はレアなシーンばかり見れるな。

 ハルヒは、長門の肩を左手で抱き寄せて、右手で握り拳を作り、正面を向いて仁王立ちしながらこう言った。
「ううん、有希だけじゃない。みくるちゃんも、古泉君も、ついでにキョンも、
全員SOS団の仲間なんだから。みんな何か困った事になったら遠慮なくあたしに言いなさい。
何が来ようとも全部ぶっ飛ばしてやるんだから!!」
 お前に本気でぶっ飛ばされたら、多分相手は地球の引力を振り切って二度と落ちて来ないぞ。

「分かった!?みくるちゃん!」
「は、はいっ!」
 いきなり自分に声が向けられて思わずビクッとする朝比奈さん。が、
 その顔は神話の全神々が出て来ても一蹴しそうな優美な微笑みだ。

「古泉君!」
「肝に銘じておきます」
 いつも通りに見えるスマイルで答える古泉。
 しかし若干柔らかめだ。


 まあ実際はこいつの行動で俺達が困った事になり解決しているのだが。
 それにこいつに全てを言うとそれこそ世界は崩壊の危機なのだが。
 だがまあ、
「…キョン!分かった!?」
「…分かったよ」
 …そんな事よりも、こいつがちゃんと俺らの事を考えててくれたって方がよっぽど重要だろ?
 最後にハルヒは、もう一回長門と向き合って、言った。
「…わかった?有希」
「………わかった、団長。ありがとう」
 その言葉を聞いた途端、ハルヒはもう一回長門を抱きしめた。



 そんな傍から見たら異様な光景は俺からは何故だかとても微笑ましく見えた。

 長門。心配なんかしなくてもいいさ。
 無敵のSOS団は全員おまえの味方だからよ。


 ハルヒ、何も一人で背負い込まなくたっていいぞ。



 お前に荷物持たされる準備なら、俺はいつでもOKだぜ?


終わり





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