長門と二人きりの部室でふと視線を感じた。となると相手は長門しかいないはずで、
そちらに目を向けると案の定その真っ黒な目と視線がぶつか――らなかった。
長門の目は俺の手元に注がれている。
「その本は何?」
「これか?ジャンプだよ。週間刊行の漫画雑誌だ」
そういえばジャンプを部室に持ち込んだのは今日が初めてだったかもしれないな。
ジャンプを知らなかったようだがはたして長門は漫画を読むことがあるのだろうか。
「読んでみるか」
何ならそれやるよ、俺はもう全部読んだからな。
こくりと頷いた長門に渡してやるとなぜかじっと表紙を見続けていてなかなかページをめくろうとしない。
「手前のキャラクターはともかく後ろのキャラクターの眉毛は不自然」
ああ、そんなことが気になっていたのか。
それは手前のキャラクターの登場する作品が連載30周年を迎えた記念企画なのさ。
表紙を開いてみろよ。他にも色々なキャラクターに眉毛がついているだろう?
「このようなことをするのはなぜ?」
「あー、まあそうだな。最近話の質が落ちたとか色々言われてるけど、
やっぱりここまで続くってのはすごいことだからな」
「……それほどすごい漫画なの」
「日本を代表する漫画のひとつと言っても過言じゃないだろうよ」
まあ俺は読んでないんだけどな。

「……そう」
いつもの一言を呟いた長門はようやく一ページ目を開き、その後はいつものごとく黙々と読み続けた。
鶴屋さんの爆笑小説でも無表情だった長門がギャグマンガで派手に噴きだしたりしたら面白いのだが。
初めての漫画はどうだったか、読み終わったらぜひとも感想を聞いてみよう。
 
もちろんこの感情起伏に乏しい宇宙人が噴きだしたりすることはなかったのだが、
巻末ページの作者コメントまで熱心に読んでいたところを見ると
それなりに興味深いものではあったのだろう。
「どうだった?」
「理解した」
何をだ。それがお前の初めて漫画を読んだ感想のすべてなのか?
「私は私のすべきことをする」
……何かの漫画に影響されてしまったのだろうか。
俺が戸惑っているうちに長門は部室を出て行ってしまった。
ジャンプを両手で大事そうに抱え込んで。

    * * *

この件がその後長門が起こした惨劇に繋がったことは間違いないわけだが、
その事件は俺が見ていないところで起こったため俺が事細かな解説を加えることはできない。
よって以降は会話文のみで進行させていただく。
まあなんというか……被害者に合掌だな。

    * * *

「ちょちょちょちょちょちょ有希これ何!!?!??!!!?!?」
「両津勘吉の眉毛」
「鏡で見て似てると思ったらその物か!って、何で私に両さんの眉毛が生えているの!?」
「……彼の名をニックネームで呼んだ。あなたは一体……?」
「両さんあだ名で呼ぶ人間なんか腐るほどいるわよ!眉毛よ眉毛、眉毛の話してるのよ」
「さっきからどうしたの、涼子」
「江美里ぃぃぃぃ!ちょっと聞いてよ有希がね――」
「あら、眉毛どうしたの?両子」
「頭に浮かべた字が違うよ!統合体の電波通じてわかっちゃったわよ!」
「両さん……」
「ここぞとばかりに呼ぶな!有希も両津をあだ名で呼べばいいでしょうが!」
「彼は日本漫画界の重鎮。軽んじた扱いはできない」
「私は軽んじていいわけ!?」
「あなたは私のバックアップのはず。裏切ったけれど」
「あのときは本当に申し訳なかったけど今この状況と何の関係もないでしょう!?
あ、何?あの時のことを根に持っていて、今さらその仕返しってわけなの?」
「違う」

「じゃあ何よ」
「30周年アニバーサリーだから。
一作品につき一キャラクターに彼と同じ形状の眉毛を生やす必要があった」
「私たちジャンプキャラクターじゃないから必要ないわよ!?」
「違う作品のキャラクターにも敬意を持つことは重要だと判断した」
「そうだね、有希はいい子だね」
「人の眉毛の情報を許可なく書き換えるような子がいい子なわけないでしょ!?
自分の眉毛でやればよかったじゃない!!」
「私の眉毛は細く、この状態から両津勘吉の眉毛の形状に持っていくには
膨大な情報の書き換えが必要になる。しかしあなたの眉ならほんの僅かな情報操作で十分」
「無駄にエネルギーを使わない有希は、この星に優しい子だね」
「太くない!太くないもん!そんなに……太くないもん……おっおっおっ」
「気にすることはない。今日は私が両子のためにカレーを作る」
「ちゃんとフォローもできる有希は素敵な子だね」
「できてないでしょそれ有希の好物でしょうが!もうやだ私宇宙に帰るううううううぅぅ」
おわり

|