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「お待たせ!」
そう言って、あたしがいきおいよく部室のドアを開けると、そこには髪の長い先輩がひとり座っていた。
神聖なるSOS団の名誉顧問、鶴屋さんだ。
「ハルにゃん、今日も元気だねえ」
「あれ、鶴屋さんひとり?」
そう言って、あたしは部室を見回すが、鶴屋さん以外に誰もいなかった。
「みくると有希っこならさっきキョンくんと買い物に出かけたにょろよ。古泉くんは急用だって言ってたさ」
なによあいつ、あたしが来るまで待ってろって言ったのに。
どうせ、有希やみくるちゃんと三人でデレデレしているに違いないわ。帰ったら罰ゲームね。
あたしはひとつため息をついてから、団長席に座って、日課のネットサーフィンを始めた。
そんなあたしの様子を見ていた鶴屋さんが声をかけてきた。
「おんや~、ハルにゃんキョンくんと一緒にお出かけできず、ご機嫌斜めだねえ」
「な、あ、あたしは別に」
あたしが否定しようと鶴屋さんの方を向くと、悪戯っぽい笑顔で微笑みかけてくる。
「ハルにゃんは分かり易いっさ。顔が真っ赤にょろよ」
そう言われて、反論しようと喉元まで出てきた言葉を飲み込み、思いとどまって、
あたしは鶴屋さんからディスプレイに視線を移した。
勘の鋭い先輩に無理に反論して、自ら墓穴を掘るようなことは避けなければ。
その後、しばらくあたしはネットサーフィンをしていたが、
ふと、前々からあたしが疑問に感じていたことを鶴屋さんに聞いてみることにした。
「ねえ、鶴屋さん。ちょっと聞きたいんだけど」
「なんだい」
「みくるちゃんのことなんだけどね」
「みくるがどうかしたのかい」
「うん」
あたしはちょっと躊躇ってから軽い感じで聞き始めた。
「みくるちゃんってさ、ちょっとなんか普通じゃない感じがするんだけど、鶴屋さんはどう思う」


鶴屋さんは最初キョトンとした感じの表情だったが、何かに気づいたように「ふ~ん」と笑顔になって聞き返してきた。
「それは、みくるだけかい」
「うっ」
正直、この返答は予想していなかった。流石に鋭い。
咄嗟に言葉に詰まったものの、この機会にあたしが普段感じている違和感を聞いてもらおうと、意を決して心の内を打ち明ける事にした。
「実は、有希や古泉くんにも普通じゃないような雰囲気を感じていたのよ。でも、そんなこと他の人に聞けないじゃない。
だからいままで黙ってたんだけど………鶴屋さんはどう思う」
鶴屋さんはあたしの告白を聞いて、多少シリアスな表情で考えるような仕草をした後、あたしの方に視線を向けて聞いてきた。
「ハルにゃんは、有希っこやみくるや古泉くんのどういうところに違和感を感じるんだい」
あたしは腕を組んで、SOS団でのいままでの活動を思い返しながら答えた。
「そうねえ、有希は……なんかあまりにも何でもできすぎるって言うか……
人間ですらないような感じがするの。あまりにも完璧過ぎて。普段から無口で何考えてるかわからないし……
なんかあたしたちを観察してるような感じを受けるのよね」
「ふ~ん」
鶴屋さんはあたしの有希への印象を聞いた後、少々考え込んでから、
「でも、有希っこ以外にも、そんな印象の生徒はたくさんいることないかい」
鶴屋さんの言葉を聞いて、あたしはクラスメートやその他の知っている北高生の顔を順番に思い浮かべる。
確かに、言われてみればカナダに引っ越した朝倉もそんな雰囲気だった気がするし、
生徒会にも同じような印象の生徒がいたような感じがするわ。じゃあ、あたしの思い過ごしかしら。
「みくるのことはどう思ってるんだい」
鶴屋さんにそう言われ、あたしは普段メイド姿でお茶を運んでいるみくるちゃんの姿を思い浮かべる。
「みくるちゃんは常識が無いって言うか、なんか別の時代の人間みたいな印象を受けるのよ。
あたしたちが知ってて当たり前の事を知らなかったりとか……
この間もキョンに『船はどうして浮いてるの』なんて聞いてたし……」
あたしの言葉を聞いて、鶴屋さんはげらげら笑いながら失礼なことを言い出した。
「常識が無いって言うなら、ハルにゃんだってそうにょろよ。中学時代の武勇伝をいっぱい聞いてるさ」
くっ、谷口ね。あいつ鶴屋さんにまで変なこと言ってるのかしら。一回シメといた方がいいわね。
顔を赤くしながら、あたしがそう思っていると、鶴屋さんが聞いてきた。

「古泉くんはどう思うんだい」
いつも笑顔の古泉くんの顔を思い浮かべながら、あたしは答える。
「う~ん、古泉くんは知り合いが多すぎるような気がするわね。本当にみんなただの知り合い?って思うわけよ。
もしかしたら、みんな大きな組織のメンバーなんじゃないのってね。
後、たまにだけど、心の中を覗かれてるような感じがするのよね。
特にあたしの機嫌が悪い時とかは、あたしのことをちらちら見てる気がするの」
あたしがそう言うと、鶴屋さんは意外そうな顔をしながら
「へえ~、あたしはハルにゃんはキョンくんLOVEかと思っていたのに、古泉くんにも気があったなんて……
浮気してるとキョンくんがめがっさ悲しむにょろよ」
なななんでそっちに話が飛ぶわけ。あたしはキョンのことなんか……
って言うか、あたしは本気で言ってるのにそんなからかうなんてひどいわ。
あたしが頬を膨らませて怒った表情をつくると、鶴屋さんは笑いながら
「ははは、ごめん、ごめん、ついハルにゃんが可愛かったから、からかっちゃったさ。悪気は無いにょろよ」
と謝ってきた。あたしはそんな鶴屋さんを見ながら、多少真剣な表情で訊ねる。
「で、鶴屋さんはどう思う」
あたしの問い掛けに、鶴屋さんはシリアススパイスのきいた表情で返答してきた。
「あたしはみんなの正体を知ってるにょろよ」
「本当!」
思わず、あたしが叫ぶと、鶴屋さんが声を潜めて
「これは、他の人には内緒にょろよ」
「うんうん」
あたしは団長机から乗り出して、鶴屋さんに顔を近づける。
「実は有希っこは宇宙人で、みくるは未来人、古泉くんは超能力者なんだにょろ」
「えーっ」
あたしは思わず叫んでしまった。
以前、キョンが明かしてくれたみんなの正体と同じことを鶴屋さんが言っているのだ。
キョンでは信用なら無いが、鶴屋さん情報なら信用できる。まさか、あたしの探していた物がこんな身近にあったなんて……

「ってキョンくんが言ってた」
ガクッ
あの馬鹿、鶴屋さんにまでなにアホなこと言ってんのよ。帰ってきたら、とびっきりの罰ゲームを与えてやるわ。
「鶴屋さん! あたしは真剣に聞いてるのよ」
あたしが多少声を荒げて言うと、鶴屋さんは予想外のことを言い出した。
「ははは、ごめんごめん。ハルにゃんの疑問に答えてあげてもいいにょろよ。ただし、条件があるっさ」
まさか条件を提示されるなんて思わなかったわ。いったいなんだろう。
「いったいなにかしら」
「ハルにゃんが中学の頃から書いている日記を見せて欲しいっさ、みんなに」
「えーっ、だめよそんなの」
あたしが咄嗟に否定すると、鶴屋さんは流し目であたしを見ながら聞いてきた。
「どうして駄目にょろか。ハルにゃんはみんなの隠したいことをことを知ろうとしているのに、
ハルにゃんが隠し事をするのは不公平にょろよ」
「でも、あれにはあたしのキョンに、いえ、みんなに対する想い、じゃなくてみんなの事も書いてるから、
そんなのをキョ、みんなに見せたら、キョンとの、いえ、SOS団の人間関係が変になっちゃうじゃない。
とにかく、その条件は呑めないわ。あたしはいまのみんなとの関係が好きだから」
「そういうことさ」
しどろもどろになりながら言い訳するあたしに、鶴屋さんは笑顔で答えた。
「同じように、ハルにゃんがみんなの隠していることを知ってしまったら、SOS団の関係は壊れてしまうにょろよ。
もし、それでもいいとハルにゃんが言うなら、あたしは教えてあげないこともないっさ。
でも、ハルにゃんがみんなといまのままの関係を続けたいなら、そういう事を聞くべきではないにょろよ」
鶴屋さんの顔は笑っていたが、言葉には真剣さが感じられた。
確かに、あたしの知らないみんなの顔を知ってしまうことで、いまのSOS団が壊れてしまうのは嫌だわ。
あたしは深く考えること無く、踏み越えてはならない一線を越えてしまうところだった。反省しなきゃね。
「うん、わかった。じゃあ、いまの話は聞かなかったことにして」
あたしがそう言うと、鶴屋さんはうんうんと笑顔で頷きながら
「それがいいっさ。今日のことはあたしとハルにゃんだけの秘密にしとくよ」
と、言ってくれた。

あたしが、軽はずみな自分の言動を反省しながら、湯飲みにお茶をすすいで一服しようとしていると、
鶴屋さんがニヤニヤと笑いながらあたしに話し掛けてくる。ヤバイ。なんだかわからないけど嫌な予感がする。
「それよりも、ハルにゃんにはもっと知らなきゃならない人が他にいるんじゃないのかな」
「な、なに、あたしは別にキョンのことなんか―――」
「おんや~、あたしは一言もキョンくんのことだなんて言ってないにょろよ」
しまった、墓穴を掘ってしまった。そんなあたしを見ながら鶴屋さんはさらに追い討ちをかけてくる。
「この際だから、キョンくんの秘密をハルにゃんに教えてあげるにょろよ」
「そ、そう、あ、あたしは別に興味は無いけど、鶴屋さんがどうしてもって言うのなら、聞いてあげなくもないわ」
あたしは平静を装おうと、お茶をすすりながら答えた。
すると、鶴屋さんはいままで見たこともないような真剣な顔をしてとんでもないことを言い出した。
「実は、あたし、キョンくんと男女の関係なの」
ブ――――ッ
あたしは口に含んでいたお茶を盛大にディスプレイに吹きかけて、鶴屋さんの方に顔を向ける。
このとき、あたしがどんな表情をしていたかは、鏡がなかったのでわからない。
「ごめん、いまのは本当に悪かったさ。あたしとキョンくんは何にもないにょろよ。だから、そんな泣きそうな顔をしないで」
鶴屋さんは本当に申し訳ないといった表情で謝ってくる。
ガラッ
そんなやりとりの最中、キョンが帰ってきた。それを見るや否や鶴屋さんは
「キョンくん、後はよろしくにょろ」
と言って、逃げ出すように部室から出て行った。

キョンは怪訝そうな顔で鶴屋さんが走り去る様子を見送ってからこちらを向く。
あたしはやり場のない怒りを発散しようとキョンの頭に湯飲みをぶつけて叫んだ。
「キョン! あんたのせいであたしのパソコンがビショビショじゃない!
だいたい、あたしが来るまで待ってろって言ったのにどうして待ってなかったのよ!」
キョンは手で頭を押さえて反論する。
「な、いったい何のことだ。俺はお前のパソコンのことなんか知らんぞ。だいたいお前がなかなか来ないから………
ハ、ハルヒ……」
キョンが驚いた表情でこちらを見ている。何、どうしたの。
ポトッ
涙が団長机に落ちる。それを見て初めて気がついた。あたし泣いてる。人前で泣いたことなんてないのに。
なんであたし泣いてるの……そうか、さっき鶴屋さんがキョンと関係があるって言ったから……
このとき、いままで自分が思っていた以上にキョンのことが好きだってことに、やっと気がついた。
あたしは咄嗟に後ろを向いた。泣いているところを見られたくないから。
「ハルヒ」
心配そうにキョンがあたしに声をかけてくる。そんなキョンのやさしさがすごく嬉しい。でも……
「は、はやく、あたしのパソコンを綺麗にしなさい」
こう言うと、キョンはあたしの言葉に従って、パソコンを拭き始めた。
そんなあたしたちの様子を見ながら、みくるちゃんはやかんを抱きしめておろおろしている。
有希はこんな状況にも関わらず、我関せずと言った様子で、部屋の隅で本を読んでいる。
これがあたしのSOS団。まだ、みんなとの関係を壊したくないから素直になれない。
いつか、いつか素直になってあんたに告白するから、そのときまで待っていて欲しい。
あたしはそう願いながら、いとおしいキョンを横目で眺めていた。

~FIN~

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