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CALLED(kyon side)のハルヒサイドの話です。

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「お邪魔しまーす。」
「あぁ。」
「あれ? 妹ちゃんは?」
「友達の家に遊びに行ってる。で、だ。親も今日は出かけてる…んだが。」
「ふーん。そう。」
 そうなんだ。みんな出かけてるのね。妹ちゃんと遊びたかったのに残念だわ。
 って待って! ということはキョンと…ふ、ふたりっきりってこと?
 体が熱くなる。なんか悔しい。こんなことくらいで赤面した姿なんてキョンに見られたくないわ。
 あたしはそそくさと靴を脱ぎ揃え、キョンの横を通り過ぎる。
 階段を駆け昇ってる途中で、履いているスカートの短さが気になった。
 キョンはまだ階段の下でぐずぐずしてる。まさかあんた、見たんじゃないでしょうね?
「なにやってんのよ。早く来なさい!」
「あ、あぁ…」
 どうしたのかしら? なんか様子がおかしいわね。気のせいかしら?

 キョンの部屋に入り、着ていたコートとマフラーをハンガーにかけてもらう。
 ふと、キョンの目があたしの胸元にいったのに気がついた。
 ふふん。3日前の付き合って半年記念にあんたがくれたペンダント、ちゃーんと付けてきてあげたのよ。喜びなさい。
 …あれ? 気付かないのかしら。それとも自分があげたもの、忘れてる? 
 なんだか腹立つわね。
 いいわ。今日はこってりしぼってやるんだから。覚悟しなさい。
 あたしはテーブルに教科書やノートを広げた。おーし! 準備万端よ!
 キョンはまだ突っ立ってる。なにやってんのかしら。
「なにぼーっと突っ立てんのよキョン。はじめるわよ。」
「あぁ…」
 キョンはそう言うと、奥さんにお小遣いの値上げを断られたサラリーマンのような表情であたし
の向かい側に座った。


 うーん…。
 本当におかしいわね、今日のキョン。
 テキストを読んでいるつもりみたいだけど、どう見ても読んでないわね。心ここにあらずって感じだわ。何を考えているのかしら。夕食のおかずが気になってるという感じじゃないし。
 まさか他の女のことじゃないでしょうね? もしそうだったら…
 …そうだったら、どうしよう。

 もしキョンがあたし以外の女の子のことを、あたしよりも大事に思うようになってしまったら…
 そんなことになったら、あたしはどうしたらいいんだろう…。
 い、いえ、そんなことありえない! 
 この甲斐性なしに浮気なんて器用なこと、出来るわけないもの!

 あたしはしばらく目の前の朴念仁男に目線でやる気を注入した。どう? 効いてる?
 しかし反応がまったく見られない。
「キョン?」
 返事が無い。ほんっとに腹が立ってきた。キョンの顔を覗き込む。
「…キョン!」
「うわっ」
 やっぱ気付いてなかったのね! あたしと一緒に居ながら自分の世界に入り込むなんて許しがたいわ! この罪は重いわよ!
「なんだよ。びっくりするじゃねぇか。」
「さっきから呼んでたわよ。」
「そうか。悪かった。集中してて気がつかなかったよ。」
「…本当に勉強してたの?」
 どうしたのよ。反論しなさいよ。しないってことは…
「キョン、あんたあたしに隠し事してるでしょ?」
「してねーよ」
 なんでそんな風に面倒くさそうに言うのよ、バカ!
「…ふん。まぁいいわ。とにかく集中してやんなさい。終わんないわよ!」
「あぁ…」
 あたしは優しいから今回だけは許してあげるわ。でも次は許さないんだからね。


 あたしの素晴らしい指導により、予定よりも早くキョンの勉強は終わった。今はふたり並んで足を伸ばして床に座り、次の不思議探索について話をしている。
 でもキョンの反応がおかしい。ツッコミにいつものキレが感じられない。どうしたのよ一体!
「あんたほんと今日おかしいわよ。どうしたの?」
「いや…」
 なんでそこで目を逸らすのよバカ!
「嘘! 絶対へんよ、今日のあんた。やっぱり何か隠してる!」
 思わずキョンのパーカーの首もとを掴み、睨みつける。
「…言いなさい。」
 ぐぐっと力が入る。さぁさぁとっとと洗いざらい白状しなさい!
 何を隠してるの? あたしが知っちゃいけないこと?
 あたしが知ったら怒ること? あたしが知ったら悲しくなること?
 まさか…浮気とかじゃないでしょうね?
 悪いことばかりが浮かんでいることに気付き、一瞬力が緩む。


「っ…!」

 次の瞬間、抱きしめられ唇を奪われていた。


 なによなによなによっ! キスで誤摩化そうったってそうはいかないんだから!
 
 って…ちょっと…な、長いような…気が…。


「…んっ」

 なっ…!


 ありったけの力でキョンを後ろに突き飛ばす。
「な、なにすんだ」
 そそそそれはこっちの台詞よっ!
 あぁうまく声が出ない。
「…い、いきなりなにすんのよっ! バカバカッ! エロキョン!」
「…ハルヒ?」
 あたしは自分の荷物を鞄に放り込んだ。キョンの顔が見られない。どうにか声を出す。
「…帰るっ!」
「お、おい、待てよ。」
「ついて来ないでっ!」
 ドアを勢いよく閉め、階段を駆け降りキョンの家を飛び出した。

 
 なんなのよなんなのよもうっ! せっかく付けたペンダントに気付いてくれないし!
 ボーッとしてるかと思ったらあんないきなり…。ムードってもんが…。
 いやそうじゃなくてっ! そうじゃなくって!



 なんで舌入れてくんのよっ! エロキョン!


 +++
 


 気がついたらあたしは自分の部屋に居た。どうやって家に帰ってきたのか覚えてない。
 
 キョンがあんなキスしてくるなんて…。
 あたしまだそんな心の準備なんてしてないのに…。
 もうっどうしてあんないきなり…。
 体中が熱くて脳みそが沸騰してるみたい。頭ん中がこんがらがってぐちゃぐちゃだわ。


 …も、もう寝よう。そうしよう。

 一晩寝ればこの感触も忘れられるわ。それかこれが夢だったら夢から醒めるかもしれないし。
 あたしはいつもより早めに布団に入った。
 あとは何も考えずに目を瞑っていれば寝られるはずよ。
 


 …寝られない。
 思い出したくないのに何度も蘇ってそのたびに頭も体もおかしくなりそうになる。
 熱い。きっと今熱計ったら体温計が壊れるような気がする。


 あのまま流されてたらどうなってたのかしら…
 …だめっ! あまりにも恥ずかし過ぎて想像出来ない!
 枕の横に置いてあるクッションに右手でパンチを入れる。ぼすぼすぼす。
 あぁもう恥ずかしくて死んじゃう! あたしが死んだらキョンのせいなんだから! 死んだら化けて出てやるんだからっ! 成仏なんてしてあげないんだから!

「キョンのバカ…」

 あたしの呟きに返事をするかのように、携帯電話がキョンからの着信を知らせる音を奏でた。
 反射的に通話ボタンを押す。 
 しまった! 無視すればいいのに何やってんのあたし!
「何よ。」
「ハルヒ…」
 いつもよりも真面目なキョンの声に、なぜか胸が痛む。
「その、昼間はいきなりあんなことして…すまなかった。」
 あ…。
 あたし、自分がされたことしか頭になかったけど、キョンを突き飛ばして逃げ出してきたんだ…。
「本当に悪かった。もうあんなことはしない。」
 なによ、それ。
「…。」
 わかんない。
 悲しくないはずなのに涙が出そうになる。胸の奥が、苦しくて、痛くて、熱い…。
「それから…えーと…。あーあの…ペンダント、ちゃんと付けてくれて…嬉しかったぞ。」
 バカ! そういうことはその場で言いなさい!
 ぽたりとひとつぶ涙が、布団の上に落ちる。なんで?
「…えーと…。聞いてるか、ハルヒ。…あんなことは二度としない。だから…」

 喉を蹴破って出てそうになるものを必死で堪える。
 今泣くわけにはいかない。キョンを困らせてしまう。

 なんであんたが謝るのよ!
 あたしはあんたを突き飛ばしてきたのよ!
 あんたがいきなりあんなことするのが悪いのよ! だから…みんなあんたが悪いんだから! でも、だからって突き飛ばして逃げて帰ってくるなんて…。で、でもキョンがあんなことするからあたし…!
 あぁもうわかんない!

 わかんない、けど…。
 
「…ハルヒ?」
「…もう、いいわよ別に。」
 あ…すっごいそっけない言い方しちゃった。
 いくら泣いてるのを知られたくないからってそんな言い方しなくてもいいのに。あたしのバカ!
「…ハルヒ。」
 やだ…そんな風に弱々しい声出さないでよ。あんたにシリアスなのは似合わないんだから!
「じ、じゃあね。おやすみっ!」
「あっ…」
 キョンは何か言おうとしてたみたいだけど強引に電話を切った。


 泣いちゃだめ! 明日目が腫れちゃうでしょ!
 そう言い聞かせてるのに…どうして? 涙が止まらない…。
 

 キョンはバカだ。
 あたしにいきなりあんなことをしたから。
 でもあたしはもっとバカだ。

 いつもそう。
 悪いのはあたしなのに、いつもいつもいつもあいつが先に謝ってしまう。
 あたしは悪いのは自分かもしれないってわかっているのに、素直に自分から謝ることができない。

 どうしたらいいの?
 こんなことじゃいつかキョンに愛想を尽かされてしまうかもしれない。そんなの耐えられない。
 不安で怖くてどうかなってしまいそうになる。

 …わかってる。ただ素直になればいいんだってことは…。でも…。

 

 うじうじしていても仕方ない。こんなの全然あたしらしくない。
 あたしは姿見の前に立って、髪をかき集めた。まだ長さが足りないことに苛立つ。
 過ぎてしまったことはもうどうにもならない。
 それならば今、あたしに出来るせいいっぱいのことをしよう。
 明日、いつもと同じようにキョンに接すること。
 そして…すこしずつ、そうすこしずつでいいから…。
 

 いつになるかはわからない。
 でもこの髪の毛が、初めて逢った春の日の長さになるまでには…きっと。
 
 今よりもきっと…。


 だからせめてそれまでは、あいつに先に謝らせておくのも悪くないかもね。



   …fin.
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