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○七章

 俺たちはまず校舎内をざっと走り回って、様子を確認した。
 思った通りというか、全校生徒及び教師その他の連中含め、どこもかしこももぬけのカラだった。
 学校が閉鎖空間になるのは、これで四回目か?
 うち二回は古泉と話しただけで終わったが、今回はそんな余裕こいていられる状況じゃない。
 最初の一回、ハルヒが世界に失望した時と同等か、ヘタすりゃそれ以上にヤバい。

「ダメです! やはり誰もいないようです」
「はぁっ、こっちも……はぁっ、だ、誰もいませぇん!」
「こちらも。他に誰一人発見することができなかった」
 古泉、朝比奈さん、長門の報告を聞いて、これ以上ここにいても無意味だと思った俺は言った。
「外に出よう。閉鎖空間がどこまで広がってるかも確認したい」

 ハルヒと二人で閉じ込められたあの時は、学校の敷地から外には出られなかった。それじゃ今回はどうだろうか。

 急いで校舎から出た俺たちは校門にさしかかる。
「だめですね。ここが『壁』になっています。少なくとも今現在、学校の敷地から脱出することは不可能のようです」
 この空間にもっとも精通しているだろう古泉が言った。
「長門。お前にもここを突破することはできないか?」
 俺が訊くと、長門は寒天のような壁を片手で押して、
「この障壁は構成情報そのものを持たない。わたしが知る限りの方法では取り除けない」
 ムリか。くそ、さっそく行き止まりかよ。
「屋上に上がって、周囲の様子を確かめた方がよさそうです。『神人』と機関の能力者がここに来ているのかも気になります」
 古泉の提案で、俺たちは屋上目指して校舎へと引き返すことにした。

 外階段から最上階に登り、校舎内に入ってさらに上を目指す。
 その時だった。

「お久しぶり」

 声がかかった。……後ろか?
 一斉に振り向くと、そこにいたのはあの時の誘拐犯一味の少女だった。
「あなたは……!!」
 最初に反応したのは古泉だった。もしかして知ってるのか?
「ええ、ちょっとね」
 古泉と一瞬顔を見合わせた俺は、すぐにその少女に向き直る。着ているのは北高の制服で間違いない。
 少女は朝比奈さんを誘拐したあの時と変わらぬ薄笑いを浮かべ、「ねぇ、もう少し待ってくれないかしら? あなたたちが必死で守っているあの威勢のいいお姫様が、もう少しだけこの世界にがっかりするまで」
 とろっとした視線を俺たちに向ける。
「お前、どうしてここにいることができるんだ」
 俺はつとめて冷静に言った。
 他の生徒は一人もいなかった。普通ならばそれに倣って消えてしまっていてもおかしくはない。なのに誘拐少女は確かにそこにいる。もちろん半透明でもない。
 少女は口の端をひん曲げて笑い、
「さぁ? わたしにも分かりません。それに、ここにいるのはわたしたちだけじゃないと思いますが?」
「どういう意味だ」
「だから、もう少し待っていただければ分かります。たぶんね」
 俺の脳髄がピリピリと黄色信号を点している。何にしろ、ここで時間を奪われることがいいわけがない。
 古泉の袖にしがみついてかたかた震えている朝比奈さんと、俺の隣で油断なき視線を目の前の相手に送っている長門をちらと見て、俺は続ける。
「お前。世界が終わっちまってもいいのかよ」
 そう言うと少女はふっと息を吐いて肩をすくめ、
「ねぇ。あなたはこれまで舞台で決められた振り付けを踊ってきた主人公なのかもしれないけれど。はたしてちゃんと世界全体に目を向けられているのでしょうか? あなたに見えているものだけがすべてだと錯覚していたりは、しない?」
 何だ、揺動作戦か。それともただの時間稼ぎか。
 少女は無表情なのか笑みなのか、境界が曖昧な表情で、
「あなたはそれで楽しいのかもしれないけれど。世の中にはそうじゃない人だっているのです。ご存知かしら?」
 いちいち疑問形で言葉を区切るのが癇に障る。このしゃべりがこいつのクセなのか?
 少女は一度壁を見て、また向き直る。
「それをあなたのヒロインさまは塗り替えてくれるかもしれない。……ねぇ。それって素敵なことだと思わない? 仮にわたしたちがいなくなってしまうのだとしても、その先に今よりもっと居心地のいい世界が待っているのよ?」
 両手を広げて力なく垂らした。芝居のような所作はしかし熱がこもっているとは言えない。
 俺は四方八方に警戒の念を飛ばしつつ、
「それだってお前の都合だろうが。そんなもんでやすやすと他の人の人生まで奪うんじゃねぇ」
 俺は片方の手を拳にして言った。そうだ。そんな打ち切り終了みたいな終わり方。エンディングすら知らないまま終わらされるなんて、たまったもんじゃない。俺なら全力で拒否する。
 少女はまたふっと息を吐いて遠い目になり、
「だから、それがキレイごとなんです。あなたは自分の見えている範囲で世界を作り上げているにすぎないの。知ってるかしら、世界って広いのよ? こんな学校や街中を行き来しているだけじゃ何も分からないくらいに。その中にはもうどうしようもないくらいに困って、身動きすら取れない人だっているの。わかる?」
 言わんとすることは何となく見えてきた。確かに、俺は今何もしなくたって毎日がやって来る。そうでない人だって世の中にはいるはずで、もっと苦しんでいる人だって大勢いる。つまりそういうことを言いたいのだろう。
「屋上へ向かいましょう。構っているだけ時間の無駄です」
 ささやいた古泉を俺は目の端で見やる。
「まぁ、もう十分な時間が経っているとわたしは思うのだけど。上の人が慎重なんです。それはわたしのところでもおんなじ。行くならどうぞ、ご自由に」
 少女はひらひらと片手を振った。それなら止めるなよな。
「みんな、行こう」
 俺は団員三名に呼びかけた。先に古泉が朝比奈さんの手を引いて先陣を切り、続いて俺、最後まで警戒の目を向けていた長門が二拍ほど置いて後を追う。後ろから足を引っ張るような真似をするかと思いきや、本当に何も止められなかった。
 ……階段を登る間だけ、俺は少女が今言ったことについて考えていた。


 上りきった先。屋上への扉には鍵がかかっていたが、追いついた長門が触れると開錠され、バタンという大きな音と共に俺たちは真っ暗な空の下へと飛び出した。
「!」
 はるか遠くの方。
 いつも市内探索のたびに集合場所に指定されている駅のあたりに、それはいた。

「神人……」

 三体。
 青白い光はここからだと本当に豆粒レベルの点でしかない。しかし何とかそれが三つに分かれていることは視認できる。
「それだけではない」
 長門が俺の肩口で呟いた。一歩前に出て、
「古泉一樹が持っていた能力と同様の力を持った者の存在も確認できる。四名」
 そう言われて目を凝らしたが、さすがに遠すぎて俺には分からない。あのいまいましい巨人と戦ってるのか?
「おそらく」
 長門はわずかに顎を引いて言った。
 それに続いて、
「距離が相当に離れています。おそらくこことあそこには隔たりがあるのでしょう。二つの透明なお椀が離して逆さに置いてある、と考えてください」
 珍しく簡潔な比喩で古泉が言った。
「うぅぅ……キョンくん。すっ、涼宮さんはどこ……?」
 朝比奈さんが立っているのが不思議なくらいに力なく震えたまま言う。
 そうだ。あいつはどこにいる。あっちのドームか、それともこっちか? そもそもこの空の下のどこかにあいつはいるのか?
「以前同じように世界を作り変えようとした時、涼宮さんはあなたと共に元いた世界から自らが発生させた閉鎖空間へと消えました。今回も同様に、彼女はこの空間のどこかにいるものと思われます」
 口を手で覆って推理するような構えで古泉は言った。

「きゃぁっ! きょっ、キョンくん!」
 後ろから朝比奈さんの声がして裾を引っ張られた。振り向く。
「ああああああれぇっ!」
 朝比奈さんが指差した先。さっきよりずっと近いところに、別の神人がのっぺりと立っていた。
 今度は一体だけだが、さっきのものより明らかに近い。一キロも離れてないんじゃないだろうか。
神人は思うままに手足を振り回して一帯をなぎ払い、攻撃を受けた家屋はたちまち粉塵と化す。もうもうとした煙幕が柱のように立ち昇る。
 その周囲を二つの赤い光点が飛び回っている。腕に絡み付いて切り落とそうとするが、反対の腕に阻止されてうまく行かない。
「思ったよりも進行しているみたいですね。このままだと、あれがここにも現れるのは時間の問題でしょう」
 古泉が鋭く言った。
「せめて僕も戦うことができればいいのですが……」
 そうか。今のこいつは力を消失しているんだった。あの赤い光の玉になって防衛することは、現在の古泉には叶わない。
 俺が他に閉鎖空間と神人の発生している場所がないか、辺りを見渡そうとした時、

「下がって」

 長門が俺を押しのけた。
 直後――、

「長門!」
 炸裂音と共に、長門の目の前で何かが数回弾かれた。

 ……何だ!?

「三人とも逃げて」
 長門がいつもより大きめの声で言った。
「逃げろったってお前!」
「いいから」
 長門の声は熟練工が研いだ刀のように鋭かった。反射的に俺は古泉とアイコンタクトし、震えっぱなしの朝比奈さんを古泉が背負って、俺たちは元来た階段へと取って返す。
「わわっ、きゃぁ! ひょえぇ!」
 朝比奈さんの叫びをBGMにして屋上入口まで戻った時、半瞬振り返った俺は長門に対峙する存在をかいま見た。
「な……」
 北高の女子セーラーを着た見慣れぬ生徒だった。これまでに面識がないことだけは間違いがない。
「何者だ!?」
「早く!」
 古泉が呼びかけた。
 俺は振り向くと、肯いて階段へ向かう。
 長門、無事でいてくれよ……!


 段差を一段飛ばしで駆け下りながら思う。
 何だ、あいつは?
 長めの黒髪をなびかせて片手を振り、かつての朝倉のような攻撃を繰り出していた。
 朝倉……。
「そうか」
 俺は三階踊り場の古泉朝比奈さんと合流したところで納得した。

 広域帯宇宙存在。
 情報統合思念体とは別の銀河規模の意識体。雪山で俺たちを遭難させたらしい連中。
 そのインターフェースがあいつじゃないのか。
 長門が言っていた。同様のコミュニケート手段をはかってくる可能性は高い、と。
 それがこれか? 挨拶にしちゃ無礼がすぎる。無口のまま窓辺に座って本読んでる方が一億倍マシだ。
「僕も同意見です」
 平行して階段を駆け下りつつ、古泉が言った。
「先ほど、我々『機関』のライバルに当たる組織の手の者が現れましたよね」
「ああ」
 一人背負って階段を駆け下りる時でも冷静な副団長は、
「おそらく同様にして我々を足止めしたいのでしょう。明確な目的は分かりませんが、涼宮さんの力をこれ以上観測できる機会もそうないでしょうからね」
 階段を降り切った俺たちは昇降口から飛び出す。
「あっ、あのっ! わたしもう大丈夫っ! じ、自分で走りますっ!」
 言い出すタイミングを探していたように、朝比奈さんが慌てて言った。
「えっ、でも」
「もう足手まといはいやなんです! せめて自分の足で走りたいです!」
 愛らしい先輩は必死に訴えた。俺はやや困惑げの古泉に肯いた。


 校門前の障壁はなくなっていた。
 喜んでいいのかは分からない。閉鎖空間が拡大している何よりの証だ。俺、古泉と手を引かれた朝比奈さんは、半ば無意識のうちに通学路になっている坂道を駆け下りていた。
「しかしっ、はぁっ。何であいつらは……ここにいることができるんだ?」
 息が上がりそうになりながら俺は言った。
 古泉はこんな状況でも冷静な顔色を変えず、
「これは僕の推測にすぎませんが、彼らもまた非日常の存在です。立場は別ですが、有する力や性質は涼宮さんが望んでいる種類のものに他なりません。だから消されずに存在できているのでしょう」
 あんな連中まで次の世界に連れて行きたいのか。
 俺が酸素を取り込む間に言うと、古泉はわずかに顔を上向けてからまたこちらを見て、
「そうは言いますが、彼らにとっては僕らの方が『あんな連中』にあたるのではないですか。もしかしたら、まったく逆の立場になっていたということだってあり得ますよ」
 こんな時まで優等生発言をする古泉だった。そんなの考えたくもない。だがお前がいつだか言っていた「たまたま誰かに当たったクジ」の説明からすれば、そうなるな。
 駆け下り続ける古泉はふっと笑って、
「おや、覚えていてくださったんですね。これは光栄」
 冗談言ってる場合か。よそ見してると転ぶぜ。お前は朝比奈さんという宇宙規模で貴重なかたの手を引いてるんだからな。何かあったら賠償請求ものだ。

 などと息を荒げて話しているうちにやがて坂道は終わり、駅前に到着する。
 一番一杯一杯なのは他ならぬ朝比奈さんで、
「ぜー、はーっ。はぁ、ひぃ。ふぅ……へぇぇ」
 などとハ行を順に吐息に変えている。
「しかし……はぁっ。ハルヒはどこにいるんだ」
 息を整えつつ俺は言った。
 またも置き去りにしてしまった長門ももちろん心配だが、それもこれもあの団長を見つけるがためである。
「心当たりのある場所はありませんか」
 古泉が言った。そんなん俺が聞きたいくらいだぞ。
 そう言うと副団長はにっとして、
「あなたなら彼女の向かいそうな場所に検討のひとつもつけられるかと思ったのですが」
 ハルヒが行きそうな場所? それが俺に分かるって? 
 いくらなんでも無茶――、

「ジョン=スミスだったのね」

 不意にあの別の時間軸でのハルヒの言葉が蘇る。

 あいつがこれまでもっとも重要に思っていたことはふたつある。
 去年五月の閉鎖空間。
 それと、あいつにとって本当の始まりだった、あの七夕……。
 ならば、

「東中か」
 俺は呟いた。見ると、古泉が満足そうに笑い、朝比奈さんはまだ呼吸を整えている。
 古泉は一言だけ言った。
「僕はあなたを信じますよ」


 東中へはタイムトラベルした七夕の日以来行っていない。
 ハルヒの出身中学。短冊にベガとアルタイルへの願いを記したあの日、朝比奈さんと共に人生初の時間旅行をして当時から三年の時を遡り、朝比奈さん(大)の指示の元、俺は既定事項を満たすためにその校門前にやって来た。
 そこで会ったのが当時中学一年生だった、まだあどけなく、しかし今と変わらず生意気な未来のSOS団団長、涼宮ハルヒだった。
 谷口が言っていた校庭落書き事件とやらの実行犯がまさか俺がだったなどと思いもしなかった。しかしその出会いによって、ハルヒは北高にやって来てSOS団を設立する遠因と、俺は昨年末の世界改変の時に時空を元に戻すための唯一のつながりを得たのだった。

 朝比奈さんをふたたび古泉が背負い、なおもマラソンを続行した俺たち三人はやがて東中の校門前にたどり着いた。
 門は固く閉ざされていて、そこに人の気配はない。
「いないのか?」
 俺は外から敷地内の様子を窺うが、ここからでは校庭が見えない。
 乗り越えて中に入ろうと手をかけた時、背後から切迫したような声がかかる。

「……現れたようです!」
 古泉が言った。俺もつられてそちらを見る。すると、数百メートル向こうの山腹、青白い輪郭を纏った巨人が一体、初めからそこにいたかのようにして突っ立っていた。……北高にそう遠くない位置だ。
「長門が危ない!」
 叫ぶ俺に古泉が、
「今は涼宮さんを探すことが最優先です。あなたと朝比奈さんは先を急いでください」
 鋭い口調だった。
「お前はどうするんだよ」
「引き返します。長門さんを助けないと」
 古泉はあくまでも真面目に言った。
「お前、今超能力ないんだろ。戻って何ができるんだよ」
 興奮しつつある俺に古泉は顔色を変えず、
「あなたが僕だったら、どうしますか?」
 その言葉に、俺は何も言えなくなった。古泉はそれを合図と受け取ったのか、
「涼宮さんのことは頼みましたよ」
 と言って走り出した。どんどん小さくなる背中を、俺は数秒見つめていた。


「あの、キョンくん……」
 残ったのは俺と朝比奈さんだけだ。
「行きましょう。これでハルヒを見つけなきゃ、古泉と長門に礼も言えません」
 俺は鉄製の門扉をよじ登って乗り越えた。朝比奈さんが同様にするのを手を取って支持する。
「涼宮さん、この中にいるんでしょうか……」
「だといいんですけどね」
 くしくもあの七夕と同じ組での東中再来となった。

 ――ゴオオオオオン!

 神人が山の上で何かを破壊した音が暗い空に響き渡った。それを合図に俺は朝比奈さんの手を引いて走リ出す。

「待て」

 聞き覚えのある不快な声がかかった。振り向く前に誰か分かる。こんなタイミングで呼びかけてくる人物に、他の心当たりはない。
 振り向くと、案の定いけすかない未来人野郎が立っていた。
 校門の外ではなく、東中の敷地内に入り込んでいる。朝比奈さんがびくっと飛び上がるのが分かった。
「何しに来た」
 俺は朝比奈さんを半分かばうようにして言った。これでこいつと会ったのは三度目だ。
 未来人野郎は腕組みをして、しばしの間歪んだ笑みでこちらを睨んでいたが、やがて、
「そうだな。あえて言えば、別れの挨拶か」
「別れの挨拶?」
 そのまま聞き返す俺に、野郎は笑って、
「ああ。そこにいる朝比奈みくるの属していた未来は消滅した。そして僕は元いた時間へ帰る。我ながら首尾よくやった。実に愉快だ」
 そいつは首を横向けて高笑いした。それが紛れもない嘲笑であることは誰が見たって明らかだ。
「お前が元いた時間は朝比奈さんと同じじゃないのか」
 俺が半ば叫ぶように問い詰めると、野郎はふんと鼻を鳴らして、
「それをあんたに教える必要があるのか? よく言うだろ。謎は謎のままだから面白い」
 つまり明かすつもりはないってことか。
「そんな義理も筋合いもないからな、ふ」
 用が済んだならさっさと消えやがれ。
 そう言うと野郎は暗く光る目を横へと移し、
「まだだ。そっちの女と話をしていない」
 吐き捨てるように言う。朝比奈さんはぴくっと反応した。
「朝比奈さん、こんな奴と話す必要はありませんよ」
 こうしている間にも、数百メートルの背後では神人が破壊活動を行っている。一秒の足止めも惜しい。
 だが、意外にも朝比奈さんは、
「キョンくんごめんなさい。わたし……この人と話さないと」
 そう言うと朝比奈さんはゆっくりと俺の前に出た。
 未来人野郎は歪んだ笑みから憎しみのこもった睨みへと表情を変化させ、
「朝比奈みくる。お前はもうどこへも帰れない」
 ぶつけるようにして言葉を吐いた。朝比奈さんは小刻みに震えて、小動物のように首をひっこめた。
「朝比奈さん、行きましょう!」
 俺は彼女に戻るよう促した。しかしいつだって優しい部室の天使様は首を振って、
「キョンくん、先に行ってください。わたしなら大丈夫」
 長門や古泉ならまだしも、あなたまで置いて先に行くわけにはいきませんよ。
「行ってくださいっ!」
 朝比奈さんはあらん限りの力をこめて、半分声を裏返しながら言った。
「ここはわたしが引き受けますっ! お願いだから」
 朝比奈さんは一度だけ俺を振り向いた。目尻に微かに光る雫。
 彼女は微笑んで、
「涼宮さんを絶対に見つけ出して……。もう離しちゃだめ」
 急に大人びたような雰囲気を混ぜて言った。俺は口をあけてぽかんとする。
「早くしてくださいっ!」
「は、はいっ!」

 俺は振り向いて走り出す。くそ、何でだ。今すぐ引き返して朝比奈さんごと抱きかかえて戻って来るべきじゃないのか。戻れ俺の身体。先輩を放っといていいのかよ。ちくしょう……。

 ズガァァァアン!

 俺は神人のいる山頂の方角を見上げた。手前の建物に隠れて見えないが、足許と思しき場所から煙幕が上がっている。あのあたりにあるのは北高じゃないのか……?
 全力で走る俺は、間もなく校庭にさしかかる。ど真ん中目指して脚をめちゃめちゃに動かしつつ、

「ハルヒ! 出てきてくれ! ハルヒ!」

 声の限りに叫んだ。
 こんなに大声で叫んだのは生まれて初めてだ。

 ……しかし返事はない。人の気配もない。
 校庭は闇の中で静まり返っていて、俺の声はその中に飲み込まれる。

「頼む……ハルヒ。返事してくれ」

 だだっ広い校庭の真ん中。
 四年前の七夕の日、俺と中学生だったハルヒはここで邂逅を果たし、ただひたすら生意気だったあいつの指示のもと、駆けずり回って宇宙に向けた挨拶を書いたんだ。

 ハルヒはそれから北高に進学し、俺と再会した。

 本当言うと、最初から気になってたんだ。
 口ではさんざん悪態ついたり憎まれ口叩いたりしたけどな、俺はお前がうらやましかった。

 だって、普通ならとっくにあきらめてるような不思議なんて夢物語を、今も大真面目に探してる奴なんているかよ。

 SOS団をお前が作った時だってそうさ。
 俺だって本当は、無意識とも呼べる心の底では、わくわくしてたのさ。

 もう秘密基地で遊ぶような年じゃないと思ってても、お前はそんなの無関係にただ前進した。俺の手を引っ張って。それだけじゃなく、探していた宇宙人に未来人に超能力者なんてものをマジで集めちまった。
 ドラマだのマンガだのゲームだのの空想にしかないような出来事を、実際に探そうとした。
 そりゃ思ったさ。横断歩道歩いただけでミステリースポットに出くわしたりするかよってな。
 でも、そんなことは問題じゃなかった。

 俺はお前と一緒で、SOS団っていう集まりの中で何でもないような放課後を過ごし、見つからなくても不思議を探してるような、そんな行為自体を楽しんでた。

 そして、不思議な出来事は実在したんだ。

 しかもそれを巻き起こしてるのは他ならぬお前、涼宮ハルヒ自身だって言うじゃねぇか。
 お前は誰よりもこの世に存在する謎のような現象を探していたのに、その力のおかげで、これまで一番遠いところに置かれていた。
 それは誰のせいでもないし、仕方なくなんかない。お前が今までずっと真実から遠ざけられていたことを知って、それでなお何も話してもらえずに腹を立てるのは無理もないさ。
 むしろ、それで収まるならいくらだって当り散らしてくれ。何回バツゲーム課したっていいし、奢り一年分だってかまわない。財布はすっからかんになっちまうかもしれないけどな。ネクタイつるし上げや今期絶望の刑に処されようと、何発引っぱたかれようと、お前の怒りに比べりゃ何でもない。
 だがな、代わりに俺にも言わせてほしいことがあるんだ。ひとつだけでいい。それは最後の最後になってようやく出てきた、言葉の形をしてなかった、そもそも見えてたのかも分からんシロモノだ。
 もっとずっと早くに気がついてれば、こんなたわけた茶番状態にもならなかった。あれから一年以上経って、懲りもせず世界はまた危機に瀕してる。
 誰のせいか? そんなことを言い出すつもりはない。俺のせいだとか悲劇の主人公ぶって茶を濁したりもしない。謝るのは全部が終わっちまってどうにもならなかった時でいい。

 俺はもう逃げない。遅すぎるって後ろ指さされても、傍目から見てどんなに滑稽でも、それでいいんだ。
 だから……

「ハルヒ! 出てきてくれ!」

 俺は声がかすれて声帯がぶっ壊れるんじゃないかってくらいに叫んだ。
 立っているのは、あいつが俺に初めて会って、共に宇宙へグリーティングカードを書いた場所。 

 あの時必死に駆けずり回って書いた真っ白なメッセージは、今はもうない。


 わたしは、ここにいる。


 全宇宙へ自己紹介するかのような、デタラメにも見えるうねった文字。
「ハルヒ!」
 俺はその文字を思い浮かべて、強く強く叫んだ。


「俺はここにいる! 聞こえたら出てきてくれ! ハルヒ!」


 ……。
 何も反応はない。


 静まり返った灰色空間の中。全ての色を奪い去ったかのような空の下。初めて会ったグランドの上。


「……ダメか」

 俺は拳を握りしめて息を吐く。
 遅すぎたのか?

 やっと、分かったってのに。





「……遅刻。罰金」


 背後から声がかかった。



「ハルヒ!」

 俺は振り向いた。
 涼宮ハルヒは、俺の覚えている通りの、今までさんざん引っ張り回してくれた団長様の姿で、確かにそこにいた。

「どんだけ待ったと思ってんのよ……」

 ハルヒは声を不安定にして言う。破けそうなくらい唇をかみしめ、両手を拳の形にして握りしめている。怒ってるんだか嬉しいんだか悲しいんだか、分かったもんじゃない。ひょっとしたら全部かもしれない。

「すまん。遅刻しすぎた」
 思いもよらず、俺の声が震えた。

「……バカキョン」

「ほんとに、バカだ」

 俺はハルヒに近付いて抱きしめた。
 今まで俺にあれやこれやの命令を出しまくってきた団長は、両腕の中で肩を小刻みに揺らせていた。
「バツゲームじゃ利かないわ」
 黄色いリボンの小さな頭が、わずかに下がる。

「ハルヒ」
 俺は夏服セーラーの肩を一度離して、



「俺、お前が好きだ」



 さんざん言い尽くされていて、嘆息してはバカにして、理解できないと心中で呟いては遠ざけ、俺には無縁だととっくの昔に決めつけて、しかしどこかで見て見ぬフリをして、本当に気がつかなかった、ただ一つの定型句。一年以上経つのに、俺はちっとも成長してねぇ。

 でも、ようやく言うことができた。

 言葉が何であるかは重要じゃないんだ。それこそ「やれやれ」だろうが、「またか」だろうが、「もうちょっと落ち着け」だろうが、何だっていい。


「似合ってるぞ」
 あの時だ。俺がハルヒを好きになったのは。
 そんな昔に起こった感情を、ほったらかしでこれまで毎日過ごしてきて、やれ非日常だいつもの部室だ何だと忙しい素振りをしては、見えてるのに何も考えないでいて、いつしかどこに置いてあったかも忘れてしまい、やがて本当にそんなものがあったのかも分からなくなりそうになり、しまいには真実自分の中から過ぎ去ってしまう……。

 ページの間に挟んでおいたその写真を、窓から吹いた風で飛んで行くのに気づいてから、指先だけでつかもうとした。間に合わないって思ってても、身体が勝手に動いてた。

 どうしてか?
 ……あまりに簡単だ。


「ずっと好きだった」


 はっきりと言葉にした。けれどまだ頼りない。

 写真をつまめても、まだ風は吹き続けている。たとえこの部屋が高層ビルの頂上に位置していようが、他のどんなものが吹き飛ぼうとしてようが、これをなくしちまったら俺は何をなくしても同じだ。

 向き合った大きな瞳は、これまでに見たどの時とも違う光を宿し、俺はそこに広がる宇宙をどこまでも遠く、遠く、見た。


 ごく自然に、どちらともなく口と口を重ねた。


 俺は今までに起きた全ての出来事を思い起こした。
 今さら列挙するまでもなく、それらすべては今この時ここにいるハルヒと俺につながっている。



 時間そのものがまるごとなくなったかのような……時。



 そこでそれは発生した。

「!」

『神人』が咆哮した。
 鈍く、低く、大きな声。
 あの巨人に声帯があるかなんて分からんが、ともかく船の出向合図のような音が、俺たちの街に木霊した。
 離れた俺とハルヒは、音の主たる神人のいる山の上を見た。
「ねぇキョン。あれって」
 ハルヒが指をさして言った。
「あぁそうさ。俺もお前も、すでにあれを一度見てる」
 俺は一度じゃないけどな。ハルヒは立ちつくして山の上の青白い影を見上げている。前回と違って笑みはないが、その顔は別段悲しんでいるわけでもない。
「夢じゃ、なかったのね」
 振り向くハルヒの視線を受け止めて、俺は深く肯いた。

「ハルヒ。本当に力を持ってるのは俺じゃないんだ」
「えっ」
 表情を作りかねているハルヒ。俺はその瞳を見たまま、

「今まで不思議な現象を起こしてきたのは、お前だ。ハルヒ」

「あたし……?」
 ハルヒはさらにぽかんとした表情になって、自分を指差した。
「あぁ。この空間も、あの巨人も、すべてお前が作り出したものなんだ」
 いまさら明かして何になるのか。それは俺にも分からない。ハルヒが信じてくれるかだって定かじゃない。が、


「ハルヒ。俺はジョン=スミスだ」


 ハルヒの双眸が大きく開かれた。
 相変わらず背後では神人が暴れているが、一時的に無音になったかのような心理的静寂が辺りを包む。

「あんた……が……!?」
 俺はハルヒに深く肯いた。
「全てが元に戻ったら、お前に説明してやる。約束だ。俺はもうかどわかしもはぐらかしもしない。無論、逃げも隠れもだ」
 猶予はもうわずかだ。今度はキスで世界が元に戻るようなことにはなっていない。

 むしろ、ここからがスタートだ。

「行くぞハルヒ。あいつらを助けに」

 俺はハルヒの手を引いた。ハルヒは抵抗せず、はじめはゆっくりと。だんだん気持ちを切り替えて、やがて足取りも確かに走り出す。

「みんな……って。みくるちゃんや有希、古泉くんもここにいるの?」
 ハルヒは俺の少し後ろから声をかける。
「あぁ。全員そこそこにピンチなんだ。お前の助けがいるかもしれん」
 まずは朝比奈さんだ。校庭を出て、正門に向かう途中にいるはずだ。
 俺はさんざん走って音をあげそうになる身体にムチ打ってさらに走った。
 ハルヒの手を離さないよう、しっかりと握りしめて。


 角を曲がるとそこにはすでに未来人野郎の姿はなく、朝比奈さんがぺたんと座り込んでいた。
「朝比奈さん!」
 俺とハルヒは正面に回り込んでかがんだ。
「大丈夫ですか?」
「あ……キョンくん。あぁっ! 涼宮さん!」
 その表情がぱぁっと明るくなった。
「あの野郎はどこに行ったんです?」
 その問いに朝比奈さんは、
「わたしと話をして、それから時間ち――」
 そこまで言ってひゃっと口をつぐみ、ハルヒをちろっと見た。
「時間跳躍したんですね?」
「えっ? キョンくん? あの……」
「大丈夫ですよ」
 おどおどしっぱなしの朝比奈さんに、俺は言った。
「ハルヒならもう大丈夫。俺はそう信じてます」
「……えっと。あの…………はい。そうです。その」
「時間がありません、立てますか?」
 俺は手を差し出す。が、

「さ、みくるちゃん。よく分かんないけどグズグズしてる暇はないらしい……わよっ!」
「ひゃぁあっ!」
 ハルヒが朝比奈さんを脇から抱えて起こした。こちらにくるっと振り向くと片眉を吊り上げて、
「あ、ごめんねキョン。役割奪っちゃったかしら?」
 こいつ。いくらなんでもスイッチ切り替えが早過ぎんだろ。
「目の前に目標がある時は常にエンジン全開にするって決めてるのよ。あたしは」
 昼休みの爆発っぷりとさっきまでのしおらしさがウソのようにハルヒはみるみる調子を取り戻していく。
「それに。こんな状況滅多にに味わえないからね! 一大スペクタクルってやつ?」
 ここで片眉をつり上げて、
「ねぇキョン、次はどこへ行くの? 案内なさい」
 いや、それならむしろお前が先陣切ってくれ。次の目的地は北高だ。
「あら、よく分かってるじゃない」
 そう言うとハルヒは腰に手を当て、
「それじゃみくるちゃん、キョン! あたしに続きなさいっ!」
 早速と先頭に回る。……朝比奈さんの追いつけるスピードで走ってくれよ。頼むからさ。


 俺たちはダッシュで来た道を駆け戻る。
 空は依然として真っ暗で、遠くには神人が青白い光をまとって佇んでいる姿が見える。古泉と長門が心配だ。急がないといかん。

 だが、
「はぁっ、はぁぁ……ひぃ」
 朝比奈さんはすぐに息が上がってしまい、間もなく足取りがおぼつかなくなってくる。いや、これまで走っただけでも十分に彼女は頑張っている。もうそれだけで拍手してあげたい。
 するとハルヒが、
「みくるちゃん。乗って」
 古泉に続き朝比奈さんをおぶろうとする。
「えっ? はぁ……で、でもっ……ふぅっ、はぁぁ……」
 上気した顔が色っぽいが、そんな感慨に浸っている場合ではない。
「朝比奈さん。団長命令ですし、ここはひとつ従ってやってくれませんか?」
 俺が片手で詫びのジェスチャー。朝比奈さんは呼吸を整えつつハルヒを見る。ハルヒはむっとして、
「何よその言い草。ほんっと腹立つわね、あんた」
 腹は立てんでくれ。これ以上神人が増えたらたまらん。
「はいぃ……ふぅ。それじゃぁ……す、すみませぇん」
 朝比奈さんはそう言うとうやうやしくも申し訳なさそうにハルヒに背負われた。
「さぁ行くわよっ! キョン、遅れたら承知しないんだから!」
 さすがにそれはないだろう、などと言っているのが甘かった。
 走り出したハルヒはありえないくらいの馬力を見せ、つうか俺が背負った時より明らか速いだろそれといったスピードで斜面を駆け上がる。油断していると引き離されそうになり、一体その原動力は
何だと問い詰めたくなった。
 その間、どんどん近くなる神人を見上げると、驚くべきことに破壊活動を一端休止していた。のっぺりした巨大な立ち姿がまったく動かないというのもまた相応に不気味な光景だ。

 朝比奈さんを背負って借り物競争状態のハルヒとそれに続く俺は緊急登山レースを終えて校門に到着する。
 北高は半分ほどが粉々だった。そりゃもう見事なくらいに。
 が、部室棟と普通クラスのない校舎だけが今だその原形を止めていた。
 到着して周囲の状態を確認している最中、
「あれ! 何かしら?」
 朝比奈さんを下ろしたハルヒが指差したのは、のっぺりとした神人の周囲を飛ぶ一つの赤い光点だった。高速で動き、くるりと腕の周囲を旋回、見る間に片腕を消滅させ、他の部位に取り掛かる。

「古泉だ」
 俺はためらいなく言った。あいつだという確信はなかったが、まず間違いないだろう。
「え!? あれが?」
 ハルヒはたまげたと言わんばかりに赤vs青の光明合戦を見た。いや、信じる信じないはお前の勝手だがな。
 そう言うとハルヒは半瞬ぽかんとして、それからまた赤い光点に目を戻す。動体視力も常人離れしたハルヒは、高速で動く赤い点の動きをその大きな瞳で正確に追っているらしかった。

 もはや下半身だけになっていた神人は、間もなく赤い光によるとどめの一撃を受けて淡い輪郭と共に消滅した。
 光点は上空で整理体操するように数度円を描き、すぐさまこちらに向かって飛んで来る。

 が、
「うわ! 涼宮さん!?」
 やっぱり古泉だった。地上数メートルのところで露骨に驚いた顔をして、まだ赤い光を出している。こら、引き返さんでいいぞ。つか今もろに決定的瞬間を見られただろうが。空飛んでどこに行く気だ。
 俺が大声で呼びかけると、間もなく古泉はくるりと飛んで戻ってきた。音もなく着地。纏っていた赤い光がすっと消滅する。
「古泉くん!? 何なの今の!」
 ハルヒの詰問に古泉は過去最大級の当惑を見せ、苦笑してはいやぁといって頭をかくばかりだった。
 さっきの驚愕顔といい、脳内写真館に保存する価値のある一幕である。
「残るは一人か」
 古泉とハルヒの一方的な押し問答を眺めつつ俺は言った。

 数秒して辺りが静まってくると、それを待っていたかのように轟音が響いた。
「ひえぇぇっっ!」
 朝比奈さんが身をかがめたのを俺は目の端で捕らえ、同時に目線はたった今開いた穴に向いていた。

 舞い上がる噴煙と共に、誰かが近付いてくる。
 小柄な人影――。

 演出より演出のような煙を気にもしないように、解けた氷の中に恐竜がいたらといった風情で、そいつは淡々と歩いてくる。制服が際どい感じに破けているが……。気づいてるか? 長門。

 そう、長門有希が俺たちの元に戻ってきた。

「有希! どうしたのよそれ!」
 ハルヒが泥遊びして帰ってきたわが子を見た母親そのまんまな風に言った。長門はこちらへそろそろと歩いてくると、

「ころんだ」

 嘘おっしゃい! どう考えても転んだだけでそんな服の破け方しないでしょっ! パパは許しませんよ! ……というツッコミを思わず心中で完了してしまうほど誤魔化しようがない。つか、ホントに転んだんだとしてもたった今壁をぶち破って登場したのはどう説明するつもりでしょうか長門さん。

「うかつ」
 と言って頭をかく長門には、もはやかける言葉もない。今日からお前はSOS団のギャグ担当だ。その無表情でドリフめいたリアクションをすれば、それだけで学内にコアなファンが三十人はつくぜ。何なら俺がその第一号になってやってもいい。
「あの相手はどうしたんだ?」
 俺が長髪の敵インターフェースらしい女子生徒を思い浮かべつつぼそっと訊くと、
「わたしが単独で情報結合解除した」
 と恐ろしいことを同音程で言ってのけた。
「つまり、独断専行」
 処分されないよな……?
「たぶん」
 言い忘れていたのでここで一服。

 やれやれ。
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