「いっやー! めがっさ待たせちゃったみたいだねっ、ごめんっさ!」
 待ち合わせ時間の30分後か。ようやく鶴屋さんは現れた。
「遅すぎです……」
「ほんとごめんねっ! ……あれれ? 本気で怒っちゃったかな?」
 今の俺の顔は相当、不機嫌顔になっているだろうな。ここは一つ、面白そうだから怒ったフリをしておくか。
「当たり前です。今日のデートはやめにしましょう」
 さぁ、どう出るかな。もちろんデートを中止にするつもりなど毛頭ない。
「ごめんなさい……」
 なんと! 真面目に謝る時はしゃべり方が普通だ。これは新鮮だな。
「……なんてねっ! キョンくんも怒ってないのが丸分かりさっ。お姉さんを騙すならもっと演技の練習をするにょろよっ!」
 ……やられた、一枚も二枚も向こうが上手か。
 そういうことなら……今日のデートの中で絶対に一泡吹かせてやる。
 驚いた顔か、やられたって顔を見たら俺の勝ちだ、いいな?
「何を一人でニヤニヤしてるにょろ? 早く遊びに行くっさ!」
 手を……っつーか腕を掴まれて引っ張られる。ハルヒと似たようなことをするお方だ。
 俺は腕から手を引き剥がし、手のひら同士を重ね合わせた。柔らかくて、温かくて……湿ってる?
 緊張してんのか。黙ってるなんてかわいい所あるよな、鶴屋さんも。
「ふふーん、キョンくんもなかなかやるじゃないかっ。優しい男の人って感じだね」
「当たり前じゃないですか、俺は鶴屋さんの彼氏ですよ。少しでも長く触れ合ってたいんですよ」
 この自然に出て来たセリフが意外と効いたようで、鶴屋さんは顔を真っ赤にした。
「なっ、なな何言ってるんさっ! そんな……あ、ほらご飯食べに行くにょろっ!」

 ほほう。普段は明るいこの人でもクサいセリフには弱いのか。これは遊べそうだな……。
 手を繋いだまま店に入り、テーブルに着くわけだが、ここでも何かするか。
「な、なんで隣りに座るにょろ?」
「そっちの方が距離が近くていいでしょう?」
 敢えて鶴屋さんの隣りに座り、椅子の上で手を重ねてみる。
 鶴屋さーん、顔が赤いですよー。
「そ、そんなことないっさ! キョンくん性格が悪いにょろっ!」
 性格が悪いなんて言われても気にしない。
 鶴屋さんが純情だってことがわかって俺はすごく楽しいからな。
 なんて言うんだ? 先輩ってことで少し距離があった気がするんだが……一気に縮まったみたいな感じだ。
「じゃあ向こうに行きましょうか?」
「こ、こっちでいい……にょろ」
 あぁ、かわいいな、おい。鶴屋さん萌えとハルヒにからかわれても、「その通りだ」って言い返せるくらいだ。
 横を向けばかわいい彼女がいる。幸せな時間だ。
 思わず笑みが浮かぶし、話もはずむ。食事も進むってもんだ。
 まぁ、恥ずかしさを紛らわすためなのかはわからないが、鶴屋さんは俺の倍の量を食べてるみたいだ。
 そんな横顔を眺めてるだけでも意外に満足だけどな。
 ちょくちょく話しながら食事をして、一時間程度してから店から出た。
 さて、何も考えて無いがどこに行こうか。
「キョンくん、今日は頼みがあるっさ」
「なんですか? どこでも行きたい所を言って下さい」
 鶴屋さんとはあまりいろんな所に出かけたりとかしてないからな。
 今日はちゃんと金も用意してる。俺の財布はSOS団に食われるだけじゃないぞ。
「もっとキョンくんのことを知りたいから散歩とかしたいにょろ」
 散歩? 全然構わないが……それで満足なのか?

「いいですけど……どこ行きましょうか?」
「うーん、いつもみくるやハルにゃん達と行ってるような所がいいかなっ」
「じゃあ、川沿いでも行きましょうか」
 というわけで手を繋いで二人で歩きだした。
 よく考えると付き合って日が浅いからな。お互いのことを話したことも少ない。
 それに鶴屋さんはSOS団に入ってるわけじゃないから、毎日会うわけでもない。
 ほぼ毎週やってる探索にも参加しないからな。
 そういうことをやりたかったのかもな。散歩して雑談、いいじゃないか。
 飽きるまで話して、足が棒になるまで歩こうじゃないか。
 そうやってお互いを知って仲を深めていく。そしてどんどん仲の良いカップルになってやる。
 初めて出来た彼女なんだ。とことん尽くして大事にさせてもらうぜ。


 川沿いに来たのはよかったが、意外にも早くベンチに座ることになった。
 なぜかって? 飯食った後にそんなに歩いてられるか。足が棒になるまでってのは前言撤回しておこう。
「けっこう疲れるもんだねー。あたしゃ運動不足だからすんごく疲れたさっ!」
 運動不足とかの前に食べた量の問題じゃないんですか? ……とは言えないな。
「さってと! 何から話すにょろ? 聞きたいこととか無いのかい?」
 聞きたいことか。親父さんの職業、小遣いの量、そのしゃべり方の由来とかいろいろあるが……。
「俺なんかのどこに惚れたんですか」
 これに勝る聞きたいことはあるまい。
 俺達の関係の始まりはある日突然告白されたことだった。
 本当に突然だった。俺が優しくしたとか、二人きりで話したとかそういうこともなく、いきなり呼び出されて告白された。

 今では鶴屋さんがメチャクチャ好きだが、告白された時はクエスチョンマークが頭の中に大量発生していたんだよ。
 俺みたいなキングオブ一般人のどこがよかったんだ?
「最初はみくるから話を聞いて興味を持ったのさっ。『とっても優しくて頼りになる人がいるんですぅ~』ってねっ!」
 鶴屋さんは笑いながら似てない朝比奈さんのものまねをした。本当に楽しそうにしゃべる人だ。
「そして野球大会の時に初めて会ったよねっ。あの時にちょっといいかもって思ったのさ」
 ちょっと待て。あの時、俺は何かしたか? ハルヒと長門が二人でいろいろしてた気がするんだが。
「俺の汗をかく姿でちょっといいって思ったんですか?」
 と、苦笑いしながら皮肉っぽく言ってみたら見事に笑われた。
「あっはははは! その通りにょろ……ってのは冗談さっ!」
 まぁ、野球大会のあれで惚れられたら困るよな。
「本気になっちゃったのは映画撮影の時かなー。みくるのために本気で怒った時の男らしさに惹かれちゃったのさっ! もうメロメロだよ!」
 メロメロって死語だよな? あー、でもうれしいな。こんなに語ってくれるとは。
 ハルヒにキレたのは忘れたい過去ではあるんだが……それが引き金になったんなら結果オーライか。
「じゃあさ、次はあたしからっ! どうしてオッケーしてくれたんだい? ハルにゃんとかみくるじゃなくて、どうしてあたしなのさっ?」
 ハルヒとか朝比奈さんは何か……違うんだよな。『仲間』なんだ。
 だから恋愛対象なんて見れやしない。
 でもここではっきり言うわけがない。俺のセリフは決まっているからな。

「それはですね、誰よりも鶴屋さんのことが好きだからですよ」
 不意をついて頬にキスすると、鶴屋さんは飛び退いてベンチから落ちた。
「あたたっ! もう……いきなり何するにょろっ!」
「あははは、恋人同士だから別にいいじゃないですか」
「ドキドキしちゃうにょろ……」
 ベンチから落ちた状態で頭と頬を手で押さえ、顔を赤くする鶴屋さんはとてもかわいかった。
 しばらく眺めとくべきか、手を貸すべきか……って決まってるよな。
「さぁ、そろそろ行きましょうか」
 手を差し延べ、体を引き起こしてやりながら抱き寄せた。
「ま、まままた! 体が近いにょろっ!」
 鶴屋さんの体の温かさが心地良い。俺は今、過去最大級に幸せだ。
「鶴屋さんは……幸せですか?」
 これが今日の俺の最後の質問だ。気分が乗ってる時くらい構わないだろ?
 こんなにキザな質問をしたってさ。
「……めがっさ幸せにょろっ」
 うむ。このしゃべり方、鶴屋さんらしいぜ。
「よし、帰りましょうか。家まで送ります」
 驚いた顔も見れたし満足だ。これからはゆっくりと長く愛を育んでいくとするか。
 あぁ、最後に一言言わなくちゃ。俺が幸せだってことを伝えてなかった。
「鶴屋さん、俺もめがっさ幸せです」
 ……なんてな。


おわり


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