※この作品は春の宴、幸せな日々の続編に当たる作品です。


早いもので俺とハルヒが付き合いだして2年が経とうとしていた。
今は3月、本日は卒業式を盛大に執り行っているのである。
例によって我らがSOS団はどでかいイベントを仕掛けたんだが…その話はまた今度だ。
2年も付き合ってたらそりゃ喧嘩だってするし、その分仲直りだってする。
当然、いろんな場所にも出掛けた訳で…とまぁいろいろあったわけだ。
しかしあの時は本当にヤバかったが…長門さまさまだな。一応、古泉にも感謝してやらんでもない。
詳しいことは省略するが、月並みな言葉で表すとより愛し合うようになったってことだな。
俺もハルヒもいろんな意味で成長できたと思う。特にハルヒ、あいつの変化は有名企業も驚きの株価上昇率だぜ。
その変化のおかげで俺の高校生活は常に前年度を上回る楽しさだったんだが…。
まあ実際どんなことがあったのか聞いてもらった方が早いだろう。
これは俺達が付き合い始めて1ヶ月が過ぎた頃の話、2年になった頃の話である。

 

みんなで遊びつくした春休みも終わり、いよいよ新学期が始まった。いや、始まってしまったというべきか。
当然のことだが俺たちは全員揃ってめでたく進級に成功した。
俺はというとギリギリではあったんだがなんとか進級できた。それというのもハルヒ達のおかげだな、ありがたやありがたや。
あれだけ勉強したのに進級できないなんていうのは割に合わないからな。
地獄絵図とはあのようなことをいうのではないだろうかと本気で思う。
何が悲しくて進級のために勉強なんぞせねばならんのか。
ハルヒ曰く「あんたの物覚えが悪いからよ、バカキョン!」だそうだが
将来役にも立ちそうにない歴史や数学なんかをやってどうしろというのだ。まだ美術や音楽をやってる方が何倍もマシだぜ。
ああ、そうそう。クラス替えなんかもあったんだが何の因果かほぼそのまま上に持ち上がった結果となった。担任も変わってない。
また今年も一年間ハンドボール馬鹿に付き合うことになるのかよ、新学期早々憂鬱だぜ…。

 

 

「…というわけで今年もよろしく頼む」今日の岡部は機嫌が良いのか張り切って挨拶している。
今年のハンドボール部員に10年に1人の逸材でも入るんだろうか。去年はスカウトまがいなこともやってたみたいだしな。
「ねえ、キョン」いつものように後ろの席から声をかけられる。
なんだハルヒ?新しい不思議でも見つけたのか?
「そうじゃないわよ。あのね、あたし学級委員になろうと思うの!」
そうか、それは大変だな。がんばってくれ。ってちょっと待て!ハルヒ、お前今なんつった?
「何よ、聞こえなかったの?学級委員よ、学級委員!
去年は朝倉が転校しちゃってからは結局誰もやらなかったじゃない。
それでね、折角だからあたしがやろうと思って!なんだか面白そうじゃない?」
あー誰かこいつの暴走を止めてくれ。大体ハルヒ、SOS団はどうするんだよ、SOS団は。
お前が来なけりゃつまんないぜ。そ、それにお前と一緒に居られないのは寂しいしな…。
「どしたのキョン?熱でもあるの?」
これである。俺の勇気を振り絞った発言はものの見事に玉砕した。泣いてもいいかな。
そんなことより、それはこっちのセリフだ。面白そうだからって飽きても途中で辞められないんだぞ。
大体ハルヒ一人に任せてたらこのクラスが崩壊しかねん。
「誰があたし一人でやるって言ったのよ?」
わけの分からんことを言う女である。何、お前の彼女だろうって?ほっといてくれ。
「キョン。あんたも一緒にやるのよ。」
何を言い出すかと思えば俺も一緒にやるらしい。
なるほどそれなら暴走も止められて一石二鳥っておい!どう考えてもおかしいだろ!
どうして俺までそんなことをしなきゃいけないんだ。
「あんた、2ヶ月前のこと覚えてる?」
2ヶ月前って言うと俺とハルヒが付き合う前だよな。えーと、確か長門が生徒会に呼び出されて、会誌を作ったあのことか?
「そうよ!」瞳を輝かせながらハルヒは続ける。
「二度とあんなことさせないためにも、この学校の生徒会をSOS団の手中に収める必要があるわ!来年度の生徒会長はこのあたしよ!!」
話が飛躍しすぎである。つまりなんだ、簡単にまとめるとこういうことか?

「SOS団の邪魔をする生徒会は許せない」→「なら支配下に置いてしまえば手出しできないはず」→「生徒会長に、あたしはなる!」

なんて単純な女だろう。何、お前の彼女だろうって?それはもういい。

 

 

なあハルヒ、生徒会の仕事って知ってるのか?
「あの高そうな椅子に座って、書類にハンコ押すんでしょ?あんなの誰だってできるわよ」
本気で言っているのだろうか、それとも春休みボケだろうか。後者であることを切実に祈る。
それだけなはずないだろう、学校行事とか集会だとか予算に関する事だって山ほどあるに違いないぜ。一人でできるのか?
「だからSOS団の活動内容に生徒会の仕事を加えるのよ。
みくるちゃんはお茶くみ、有希は書記ね。古泉くんは秘書かしら。うん、いけるわよね!」
なるほど、確かにっていつもやってることとほとんど変わらないじゃないか。大体俺は何をすればいいんだよ。
「雑用・その他」
一蹴である。ここまではっきり言われると清々しいぜ。
「そ、それと…」
ん?なんだ、まだあるのか。
「あたしの隣にいること…。キョンしか出来ない仕事なんだからねっ」
今すぐ抱きしめたい衝動に駆られたが、ここは教室だということを思い出しなんとか踏みとどまった。
突然こんなことを言い出すもんだから気の休まるときがないぜ。ここが教室じゃなきゃ絶対に…ん、教室?
周りを見渡してみるとクラス全員がこちらを向いていた。まさか全部聞かれていたというのか、人生最大の失態だ。
先ほどまでの機嫌の良さはどこへやら。こめかみを痙攣させながら岡部が言う。
「お前らの仲がいいのは分かったから、俺の話を聞いてくれると有り難いと思うんだが…」
それは失礼しました、どうぞお話をお続けくださいませ。
すごすごと引き下がる俺。ヘタレなわけじゃないぞ。
まったく、ハルヒのせいで怒られたじゃないか。新学期早々内申が下がるのは勘弁して欲しいぜ。
「何よ、あたしのせいだっていうの?」
他に誰がいる。とりあえずこの話はまた放課後だ。今は大人しくしとこうぜ。
「…わかったわよ」
ブツブツ言いながら座るハルヒを横目に、俺は今の会話のことを考えていた。
ハルヒが生徒会長か…確かに少し考えたことはあったが、まさか本当に言い出すとは思わなかったぜ。
あとで古泉に相談してみるか。俺一人の手には負えん。

 

 

窓の外には満開の桜並木が新入生を歓迎するように咲き誇っていた。
まさかハルヒの考えを歓迎しているわけじゃないよな。
そう自分に言い聞かせながら、俺は無意識に生徒会員って何すればいいんだろうな。などど考え始めていたのである。

 

 

 

その日の放課後、俺は掃除当番だというハルヒを置いて部室へと向かった。
ハルヒが居ないのは都合がいいな。今のうちに古泉たちに話しておくとするか。

 

 

 

─コンコン

 

 

久しぶりだからといってノックは欠かさない。
わざと忘れて至福の時を得るというのも捨てがたいが、後でハルヒに何言われるかわからんからな。
「はぁ~い」
エンジェルボイスが俺を呼ぶので早く入ることにする。
扉を開けると既に全員揃っていた。
「お待ちしていましたよ」
「…待っていた」
「いらっしゃい、キョン君。お茶入れますから座っててくださいね。」
三者三様のお出迎え。ありがとうございます、朝比奈さん。
どうやら長門と古泉は俺が話したいことがあるのをわかっているみたいだ。
読んでいた本をパタンと閉じるとこちらへ向かって歩いてきた。
待たせたみたいだな。早速だが話がある。朝比奈さんも聞いてください。
「ふぇっ?私もですかぁ?」
ご丁寧に全員分のお茶を運んできてくださった。やはりこのお方が現代に現れた女神なのではなかろうか。
いや、今はそんなことはどうでもいい。早速だが本題に入る。
どうもハルヒが生徒会長に立候補するらしい。
「これはこれは」
「……」
「え、えぇ~っ!す、涼宮さんがですかぁ~?」
またしても三者三様、だが長門と小泉は知っていたに違いない。
朝比奈さんはいつも通り、何故か安心する。
俺は話を続ける。
ハルヒは前回の生徒会とのやりとりを未だ根に持ってるみたいでな、
やられるくらいならやり返せってわけじゃないが
その相手を自分の支配下においてしまえは
こんな心配しなくてもいいだろうとそう思っているらしい。
朝の会話の内容をまとめて3人に話す。
かいつまんで説明したが最初の一言で全て伝わるだろうし、細かい内容までは言わなかったが。
古泉は終始笑顔で微笑んでいた。長門は相変わらず微動だにしないな。
朝比奈さんは「ひょえ~」とか「ほえ~」とか言いながら聞いていた。

 

 

…そんなわけで俺達SOS団は生徒会役員となるわけだ。
ん、何だ古泉。何かおかしなこと言ったか?
最後の一言を言った瞬間に古泉が笑い出したので聞いてみることにする。
「いや、失礼。ただあなたが既にやる気なのが妙に嬉しくてですね、つい」
おいおい、誰がやる気だっていうんだ。
どう考えてもいつもみたいに俺が疲れるだけじゃないか。
「…楽しそう」
なんだ長門までそんなことを言うのか。
俺なんか朝からずっとどうすればいいのか考えて疲れてるんだぜ。
「あなたが考えているのはどうすれば涼宮さんが諦めてくれるか、
ではなくどうすれば生徒会役員が務まるか、
どんな楽しいことが起こるんだろう、と言った内容ではないですか?」
…言われてみればそうかもしれない。
俺は朝から授業中、昼休みまでずっとそんなことを考えていた。
だってそうだろう。あのハルヒが生徒会長だぜ?
どう考えたって楽しいに決まってる。古泉だってそう思うだろ?
「それはもちろん。ただアルバイトの回数は増えそうですが」
肩をすくめながら古泉は言う。
長門だってそうさ。この話をする前から目を輝かせているのを俺は見逃しちゃいない。
「…気のせい」
隠しきれてないぜ長門。俺はお前の表情を見抜く能力で言えばSOS団No2だ。
No1の座は古泉に奪われてしまったからな。
「…そう」
そういって読書に戻ってしまった。
…それにしても古泉と一緒になって長門もいい表情をするようになった。
今まで以上に感情豊かになった証拠だな。
古泉の方を見るとやさしく微笑みながら長門のことを見つめていた。
この二人なら大丈夫、そう思える何かを感じさせた。
朝比奈さんはどう思います?ハルヒの思い付きについて。
「え、え、私ですかぁ?うーんと、、そうですね」
カチューシャをつけた長い髪を揺らしながら考える様はとても絵になる。
脳内mikuruフォルダに即保存だぜ。
ちなみにパソコン内のmikuruフォルダはハルヒの手によって削除されてしまった。
ハルヒに言わせて見れば「キョンはあたしだけを見てればいいのよっ!」だそうだ。
もちろんその通りだと思うので何も言わなかったのだが
こうして楽しむくらい別に構わないだろ、ハルヒ。
「あのー、お茶くみって何をすればいいんでしょうか?」
いつも通りおいしいお茶を入れていただければいいんですよ。
朝比奈さんのお茶さえあればこの地上から飲み物がなくなったとしても生きていけます。
「そ、そんなことないですよ~。あ、でもお水がなくなっちゃったらお茶も入れられなくなっちゃいますね」
…ボケにボケで返されると非常に辛くなるのはきっと万国共通だろう。
いや、朝比奈さんの場合ボケではなく天然なのだが。

 

 

そうこうしているうちに廊下の方から足音が聞こえてきた。ハルヒに違いない。
バンッ!!
「やっほーみんな元気ー!」
そういいながら元気よく(扉を壊しそうな勢いで)入ってきたハルヒは団長席に座るや否や腕章を作り始めた。
ハルヒよ、元気があるのはいいがいい加減扉が壊れそうだからゆっくり入ってくれないか。
「大丈夫よ、それに壊れるようならもっと頑丈なのに作り変えればいいのよ」
どうせその作業は俺や古泉でやることになるのだろう。やれやれだぜ。
「できたわっ!!」
そう言って腕章をはめながら立ち上がったハルヒは開口一番こう言った。
「さあみんな、生徒会を手に入れるわよっ!わたしについてきなさいっ!」

 

 

こうして俺たちSOS団は生徒会選挙に向けて活動し始めることになったわけだ。
実際、生徒会長になるまで…いや、なってからの話の方が多いのだがハルヒの勢いは留まることを知らないようだ。
苦労するのは目に見えているが、正直な話楽しみだったがな。

 

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最終更新:2020年03月13日 00:17