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「ここね!ここを軸にして、この地球は回ってる訳ね」
在校生でないにも関わらず、北高のセーラー服を着ても全く違和感が無い森さんは、
部室の入口でそう言うと、
持っていた子ども服ブランドのロゴが印刷された紙袋を僕に放り投げた。
地球の中心軸はここ、か。
確かにそれは過言ではないどころか、やろうと思えば地球を飛び出して、
宇宙の中心軸にさえも影響を及ぼしてしまえることだって可能だ。
「高っ」
紙袋の中にきれいに畳まれた色鮮やかな衣服数枚。
その間に挟まれていたレシートを見て、僕は思わず呟いた。
「マジであるのね、これ!ウサミミ!あんた達ほんとにこんな事してんのね」
森さんが、朝比奈さんの赤いウサギの耳を手に取る。
「そーか、これが『朝比奈みくるの冒険』の衣装か…あの大根古泉が出張ってた」
しげしげと眺めて、装着。大根で悪う御座いました。
「皆さん、お好きなのをどうぞ。このままその格好でいては寒いでしょうから」
ウサミミを付けてきゃいきゃい喜んでいる森さんを尻目に、
僕は、恐らく経費として落としてくれたであろう袋の中身を床に広げた。
「はーい!」

涼宮さんが元気良く返事して、服で出来た小山を崩そうと手を伸ばし――
「はるひ、まて」
――彼がその手をぎゅっ、と押さえた。うわ、普段では考えられない光景だ。
可愛らしい。写メって永久保存したい。
「なによう」
「しらないひとに、ものもらっちゃだめ、っていったのいつきだろ」
いや言ってない。言ってないけど、言ったことになっているんだろう。
「この服は、あそこで年甲斐も恥じらいも無くウサギさんの耳を付けている、
僕の知り合いのおばさ」
「お姉様!!」
「………おねーさまがくれた物なので、知らない人から貰った物にはなりませんよ」
「そーよ!いつきせんせーのものになったんだから、
しらないひとにもらったんじゃないもん」
すぐに飲み込んだ涼宮さんが腰に手を当てて、彼に凄む。
う、と彼が口を噤むのを見て、朝比奈さんがくすくすと笑う。
長門さんは相変わらず無表情だけど、たまにはこんなのもいいかもしれない、癒される。
「えいっ」
「!?」
背後から飛び掛かって来た森さんに、頭の側面を押さえ付けられた。
「何を!?」
何された?
慌てて頭部に手を伸ばす。

「んー、キモカワは無理でも、キモキモキモキモカワくらいにならなれるかな、
って思ったんだけど」
森さんはそう言って、僕の頭の更に上にある何かを指で弾いた。
「やっぱキモいだけね」
……ウサミミ!?
はっ、と閃いて頭上に両手を伸ばす。案の定、ふにっとした物が二本手に触れた。
間髪入れずに、それを引っ張って外す。涼宮さん用の黒い耳。
「何してんですか!」
「それにしても懐かしいわー、セーラー服。いえ、たかだか数か月振りなんだけどね」
「…もう突っ込みませんよ、今からスルーしますからね」
「あら、別に構わないわよ。あんたの突っ込みなんて私には必要ないわ」
「……皆さん、服選びましたか?」
「そーねー、体育館裏には呼び出したり呼び出されたりしたわ…
まあ全員、私が保健室送りにしたけど」
「あ、すず…ハルヒちゃん、カチューシャ取らないと襟に引っ掛かりますよ」
「はーい」
「卒業式ではハジケたもんだわ…一番やんちゃしたんじゃないのかしら。
あ、私達じゃなくて教頭がね」
「あさひ、みくるちゃん、スカート踏まないように気をつけて下さい」
「はあい」

「『テメェ、いつまでも俺が影に霞んで、
お前の尻拭いばっか黙ってしてると思ったら大間違いだ!!』」
「キョンくん、トレーナー前後ろ逆ですよ」
「え、あ、ほんとだ」
「『今ここにぃ!この俺がコイツから八代目校長の座を奪い取る事を宣言する!!』
『きょ、教頭!!止めなさい!落ち着いて話し合えば解る筈だ!』」
「長門さん、着替え終えたのなら、そろそろブレザーを返して頂けませんか?」
「………」
「『ね、ね、この学校の教頭ってあんなんだったっけ。もっとハゲてなかった?』
『園生ちゃーん、あんたみたいな生徒が殆どだから、教頭もキレたんでしょーよ。
まあ、私も今初めてまともに教頭の顔見たんだけどね。
いやーまさか、あそこまで脂ギッシュだとは思わなかったわ…』」
「ああ…えー…有希ちゃん」
「かえしゅ。あいあと」
「……どう致しまして」
「その後は、ほんとにもーめっちゃ凄かったわ。
教頭の暴挙が、じゃなくて、PTA会長の対処がね。
あん時の会長さあ、空手に合気道に柔道に剣道にモダンバレエにと、
とにかく武道を一通り極めた玄人だったのよ」

「はい、では、脱いだ制服を畳みましょうか」
「で、そのおっさんがアンドゥドロワで教頭を校長共々地獄送りにして、
その場は収まった訳よ。
教頭に触発されて、生徒会長と首席が答辞で職員を下剋上してたけど。
あれ?収まった事になってたのかしら、それって」
「ハルヒちゃん、そんな乱暴にしたら、しわくちゃになりますよ。
キョンくんも、ネクタイ頭に巻いて遊ばない。
宴会後のリーマンだって今時そんなことしないから」
「でもまあ、そんなおっさん共や、
先生のお気に入りの良い子ちゃん達の見苦しい戦いより、
式が終わった後の、私の先公へのお礼参りの方がよっぽど迫力あったけどね」
「みくるちゃん、出来ないからって泣かないで……
なが、じゃない有希ちゃん、終わったのなら、みくるちゃんを手伝って頂けませんか?
僕は皆さんの鞄を持って来ます」
「卒業式の日に中庭の桜の木の下で告白してOKされたら、
その二人は永遠に結ばれるとか言う、
今時寒すぎる学園伝説を信じてやってる馬鹿達の所に、
お礼の済んだ教師共を突っ込んだりね」
「あ、皆さん出来たみたいですね。良かった」
「ねえ」
「………」
「…………こいずみぃ」

「……………」
「………ごめ、やっぱあんたの突っ込み要るわ……
独りボケ独りツッコミならまだしも、独りでボケてばっかは辛い、辛すぎるわ……」
「……………」
「こいずみぃ……スルーなんて言わないで………」
「……はあー…………仕方ありませんね…」
「古泉ぃ!礼を言うわ!早く!早くツッコミツッコミ!!」
「あー、はいはい。解りました解りました。せーの、
あんたいつまでウサミミ付けてんだーっ!!!!」
「そこー!?そこなの古泉!?流石、神に選ばれし神童!!
レベルどころか、立ってるステージからして私とは違うわね!!」
「神童の使い方違いますよ」
「古泉古泉っ!!
さっきのテンションはどこに消えたのか、
って思わずボケ側の私がツッコミたくなる程冷静なツッコミね!」
………うおお頭痛い…めっちゃ頭痛い……
僕と、子ども服に着替え終えた四人で突っ立って、
まだウサミミを付けている森さんのはしゃぎ様を黙って見ていた。
どうやってこの人止めよう…
と、うんざりして考えていると、ズボンが引っ張られた。
下を見ると朝比奈さんが、真っ赤な顔で瞳を涙で潤ませ、こっちを見上げている。
「どうかしましたか?」

そう聞いてみても、朝比奈さんは無言だった。
それどころか、すぐに僕から目を逸らすように下を向いて、
薄いピンク色のスカートの裾を空いた手の方で握り締め、
足をぎゅっ、と閉じて内股になり、
更に体全体をもじもじと、揺らし……え…これ、これって、これって、
「あさ、ちが、み、みくるちゃん、もしかして」
「ふう、うぇ、おし、おしっ」
「森さぁああぁあん!!トイレ!トイレ連れてってぇえ!!」
「え!?何考えてんの古泉!?
そーゆーのは体育館倉庫とか保健室とかって決まってんのよ!」
「どーゆーのだよ!!あんたが何考えてんだ!
僕じゃなくて、この子です!!」
「そういえば、職員用トイレの個室に先公が入ってる時に、
バケツいっぱいの墨汁を上からこう、どぱーんと……」
「うぇえ、ぱぱ、ぱぱあ」
「もおぉおぉ!!」
牛かよ、と在り来たりな突っ込みを自分でして、僕は森さんを頼る選択肢を放棄し、
朝比奈さんを抱え上げて部室を飛び出した。
「ううぅ」
「もうすぐです!もうすぐですから!!」
だから頼む、間に合ってくれ!!

誰もいないことをいいことに、朝比奈さんを隠しもせずに、
部室から一番近い所にある男子トイレに直行する。
個室の手前で朝比奈さんを下ろし、
僕はもしものために、ポケットからハンカチを取り出した。
が、その必要は無く、無事に個室から出て来た朝比奈さんは、
二人で手を洗った後も、まだ鼻をぐすぐすと言わせ、僕の手を強く握った。
仕方が無いので、そのままでトイレを出る。
左右確認。よし、誰もいな……
「おおっ、そこにいる坊やっ、もしや!いよーう古泉くん!」
「は、えええ!?つ、つ…」
いた!!ちょ、間が悪いにも程がある!そりゃないだろ!!
実は、隠れてタイミングを見計らってたとかしてないか!?
「ハルにゃん達と元気にやってるかいっ?
君達の名誉顧問は、たまにはSOS団アジトに遊びに行こう、
って企んでる真っ最中だから、そん時はよろしくにょろん。
いやー、だって、みくるのメイド姿はあそこくらいでしか見れないからねぃ。
ちょいと目の保養ってやつさ!視覚による癒し。解ってくれっかな?
ありっ?どーしたんだい古泉くん、さっきからずっと黙ってて、真っ青にょ…

んん!?そのちみっこいのは一体全体なーにっか……な~…あ……」
「いや、別に、何も…」
「……み、みく…?みくるかい??」
「い、いえ、これはそのあの、この子はみくるちゃ、違、朝比奈さんの妹さんでして、
ええと、みく…みちる…も駄目か、えええ、みちるみちるみち……あ!!
ちるちる!ちるちるさんです!ちるちるとみちるのちるちる!
朝比奈ちるちる、朝比奈ちるちるさんですよ!」
「にょろにょろーー!!!」
「えええっ、何何!?何っ!?」
「にょろ!?にょろにょろにょろんにょりにょりにょ!?」
「ち、ちる!?ちるちるちーちるちーちるち………ってやってられるか!!
ちょっと鶴屋さん、落ち着いて下さい!」
「めがっさめっさめっさめさめーがっさ!!」
「ほぐあー!?」
「ちみっこいみくるを、わーたーしーのみくるを男子便所に連れ込んで、
君ってば何やらかしてたんだい!?答えようによっては、
お姉さん君のお首を締めちゃうよ!」
「ぐは、もう既に、締めてぐへっ、てか、首締めるって、ごふっ髪の毛でかよ、
かは、そういえばそんなトリックが、げほっあったな。確か、コ、ナ…ン……」

「ちょめちょめかい!?ちょめちょめしてたのかいっ!?それともほにゃららかい!?
まさか、ばってんばってんじゃないだろうね!?!?
私だってみくるとはまだ、うにゃららまでしかした事ないってのに!!」
「『とは』って何、けふ、てか、それ、全ぶへっ全部」
「全部、伏せ字ではありませんか」
「ややっ!君は!?」
おおお!崇めよ!救世主喜緑江美里様のご光臨だ!!
ははーっ。逆光眩しっ。
「デコパンチ!」
ゴッ!!
「なぬっ!?」
デコパンチ…ネコパンチに聞こえなくもないけど、どう見てもめっちゃ痛い頭突きだ。
喜緑さんの頭突きを食らった鶴屋さんがよろめいた事によって、
魔の手、いや魔の毛から解放された僕は、縛られていた喉を押さえて廊下に跪いた。
げほごほ咳込んでいると、今までずっと、
かちこちに固まっていた朝比奈さんがますます震えた。
恐怖で声も出せないらしい。
てか護身術はどうした。なんで使わないんだよ、やられっぱなしじゃないか。
と思うが、実際口にしたら、えーだってそれじゃギャグにならないし、
等と身も蓋も無い言葉が百人中百人から返って来そうだ。止めとこう。

「いたた…何するんだい、デコ友の会・会員ナンバー003・喜緑江美里ちゃん!
会長に喧嘩売るにしても、デコは丁寧に扱わないと!
江美里嬢ちゃんの可愛い可愛いデコに傷でも付いたら、お嫁にいけないにょろよ!
ま、そん時は私が貰ったげるけどねぃ」
「いえ、結構です。
私にはもう、心とデコに決めたお方がいるので」
うん、ツッコミどころ満載なのは解ってる。解ってるけど、咳が止まらないんだよ!
なんか、視界も目薬した時みたいに、じわーって滲んでるし。
痛みに呻いて手を喉にやり、一際大きく咳込むと、
遂に朝比奈さんは声を上げて泣き出した。
「ぱぱ、ぱぱあ!!しなないで!」
死にかけだけど、まだ生きてます……
「パァーーパァーーー!?
なんてこったい!ちみっこいみくるじゃなくて、君とみくるの娘だったのかい!!」
ちげぇよ!!
「許すまじ古泉一樹っ。君んとこの組織に、
うっとこの鉄砲玉を送った上で投資を止めさせるにょろ!」
だーかーらー!違うってば!
「ちるちる、泣かないでおくれ!
君と君の母上は、君の父上をヌッ殺した後で、ちゃーんと鶴屋家で…」
「や!こないで、さわらないでぇ!ふわあああ!」

鶴屋さんが伸ばした手を弾くように、
涙を流した朝比奈さんは、両手を胸の前に持って行って、いやいやと首を振った。
当然の反応だと思う。
が、それを当然だとは思わなかった人がいるようで、
その人は、目の前の子どもの行動が信じられないとでも言うように、
目を見開くと、全身の力が抜けたように、へなへなと廊下にへたり込んだ。
「嘘だろう、ちるちる……君の、君の母上は、この鶴屋さんが、
あのダイナマイトボディに何を求めても、
絶対にそんな風に拒絶は………いや、したけどさ、
そこはほら、鶴屋さんパワーで、こう、ね……」
ね、って言われても……
「…けど、けどさ……」
「鶴屋会長、あなたは誤解をなさっています」
喜緑さんが優しくそう言い、鶴屋さんの前に膝を立てた。
そのまま、ゆっくりと顔を近付け、鶴屋さんの額に自分の額をくっつける。
二人とも、お互いの目の奥まで見えそうな程の至近距離にまで近寄り、
それから全く同時に瞼を下ろした。
そうして三十秒程、喜緑さんと鶴屋さんがぴったり揃えて呼吸する息と、
僕の今だ止まらない咳と、朝比奈さんの嗚咽だけが寒い廊下を占拠していた。
なかなか異常な光景だ。

「そうかい…そーゆーことかい……」
「ええ、そういう事です。解って頂けた様で何よりです」
「うん、あんがと。喜緑ちゃん」
鶴屋さんが瞼を開けて呟くと、喜緑さんは頷きながら顔を離した。
で、
「すまないっ、ほんっとーにすまないっ!ごめんよごめんよごめんよ!!
謝って済む問題じゃないってのは良っく解ってるにょろ!
けど、ほんっとーに申し訳無いっさ!!」
「……へ?え、あなたはさっきのあれで、何をどこまで知……
いやあの、それより先に、どうか頭を上げて下さい」
「……許してくれるのかい?」
「ええ、はい」
正直に言うと、あんまりあっさりと許すのは自分でもどうかと思うのだけど。
機関への投資とかの問題があるにしても、甘過ぎるかもしれない。
「ちるちるもごめんよっ。うん、この子はみくるの妹君なんだね!そっくりさ」
ふるふると体を震わせる朝比奈さんに、鶴屋さんが少し遠慮気味に笑い掛ける。
いまいち事態が飲み込めないが、喜緑さんが鶴屋さんに、
人間離れした何かをしたという事だけは解った。
ぎこちなく、朝比奈さんの様子を伺う鶴屋さんには聞こえないように、
ひそひそ声で喜緑さんに尋ねる。

「すみません、ありがとうございます。
ですがあの、あなたは彼女に何を…情報操作ですか?」
「安心して下さい。彼女の記憶には一切細工をしていません。
あなたや、そちらの朝比奈みくる…さん?の不利益に繋がる事もありません」
「…では、あなたは一体何を……?」
しかし喜緑さんは、瞼を伏せ気味にして、ゆるゆると首を左右に振っただけだった。
「では、私はこれで失礼致します」
「んじゃ、私もおさらばするっさ。
ちるちるをいじめちゃダメにょろよー!
もしそんな事があったら、私の舎弟達が君を大層可愛がりに、
君んとこに行くことになっからね!!
鶴屋組次期組長をなめてちゃ、めがっさ痛い目に合うにょろろーん」
鶴屋さんは両手をぶん回して、喜緑さんはお淑やかに会釈をしてから、
並んで廊下を歩き出した。
あれの替え歌を歌いながら。
「デコとデコ合わせたらー解り合える変でしょう?」
「輝いたOh!デコは不可能を全反射」
「…………いいのか?いいのかこれで??……」
「……ぱぱ?あ…いつきせんせ?」
「いえ、独り言です………帰りましょうか」
涙を袖で拭っている朝比奈さんに言うと、彼女は肩を揺らして頷いた。

が、
「こーいずみー。なかなか帰って来ないもんだから、
この園生お姉様が心配して来ていらしてよ」
森さんがおかしな言葉で喋りながら、
事務用のでかいカートを押してこちらにやって来た。
その台には、変な形に膨らんだカーテンが被せてある。
「新川を校門前に待たせたままなのよね。さっさと移動するわよ」
目の前に止まったカートの上のカーテンが動く。
「ばーっ!」
と、カモフラージュ用の白いカーテンを頭から被った涼宮さんが、
朝比奈さんを驚かせた。
「きゃああ!おばけぇ」
……ん?おばけ、って。
涼宮さんと彼のクラスメイトが持ち込んだ幽霊という単語に、
朝比奈さんは確か、全く聞き覚えが無いというような態度だった筈だ。
これも涼宮さんの力が関係して…?
「それいけ!もりそのーっ!!」
「ふぁいとーっ!」
「……いっぱーちゅ」
森さんに彼と長門さんが続き、
彼女はカートの後ろに足を掛け、階段に向かってまっしぐら――
「うそぉおおぉおぉお!?!?」
――僕の叫びに重なるように、一回ぶわっと浮いてから、
階段をがたがたと滑り落ち始めたカートの音と、

きゃはー、と無邪気な涼宮さんと彼と森さん
(……いや、あの森さんに邪気が無いなんてことは、
銀のエンゼルが五枚集まるより先に紛失してしまう確率くらいに有り得ないんだけど)
の声が、ご都合主義によって全く人のいない校舎に木霊した。
森さん、あなたの方がよっぽど園児達よりも子どもだという事が、
今回の件で良く、良っく、良おーっく解りました。
そして、あなたの場合『それいけ』じゃなくて『そらやれ』かと。
てーか、
「そのウサミミいつまで付けてんのー!?
……え!?なんでナースキャップ鞄からはみ出てんの、まさか持って帰るつもり!?」

踊り場でUターンするたびに、森さんがカートに乗ったまま壁を蹴っ飛ばし、
僕は今更ながらブレザーを掛けてカモフラージュした朝比奈さんを抱え、
その後を追い掛けるはめになった。
「新川、お待たせ」
森さんが地面を蹴って進ませていたカートから飛び下り、
踵に全体重を掛けて停止させた。
「おちびちゃんのご登場よ」
「これはこれは……皆さんますますお若くなられて」
若いを通り越して幼いのですが……

園児四人と対面しても、これっぽっちも驚かない新川さんは、
カートに乗っていた五人分の鞄をトランクに入れて、
後部座席のドアを開けた。
「どうぞお乗りください。お嬢様、お坊ちゃま」
しかし、森さんの時と同じく、やっぱり誰も動かない。
「大丈夫です。
このお方は僕の知り合いの運転手さんですので、
怖い所に連れて行かれるなんてことはありませんよ」
と、しゃがんで四人に目線を合わせて言いながら、僕は疑問点を見つけた。
「どこに行くんですか?本部……は、駄目ですよね」
「ええ。涼宮ハルヒは勿論、他の三人だって、
過激派のアホ共に誘拐のターゲットにされる可能性だって十分あるからね」
「では一体…」
「ったく鈍いわね。行くとこなんて一つしか無いでしょ」
「?幼稚園でも作ったんですか?」
「あんた馬鹿?いえ、疑って悪かったわ、あんた馬鹿ね」
…いや、僕だって言いながら、流石にこの短時間で幼稚園は作れないな、
って気付いたんだけどな…
まあ、口に出した時点で馬鹿だったとは思うけど。
森さんは、膝に手を置いて屈んだ。
四人に、お姉さんと呼ぶのに相応しい微笑みを向ける。

「君達はちょっとの間、一樹先生のお家にお泊まりします」
「えー!ほんとー!?みんなでおとまりー!?」
「えー!?ほんとー!?ちょっと、何勝手に決めて…マジですか!?」
「マジも大マジよ。
だって涼宮ハルヒは、あんたを保父に望んだんでしょ?
一番妥当じゃないの」
……平穏で静かで穏やかな一人暮らしが、モーター全開で逃げて行く音が聞こえた。
それはもう、長門さんの花嫁修行なんて目じゃない程に。
あ、花嫁修行といえば、
「なが…有希ちゃん、ここには居ない誰かがついこの間、
『あれ、もしかして修行って誤字?正しくは修業…??え、自分恥ずかしっ!!』
と己の凡ミスに漸く気付いたようですが」
「……きづくのが、おしょしゅぎりゅ」
「全くです」
いや、いっそ誤字さえもネタにしてしまえば……駄目か。
本編中に「あれ、このタイトル誤字じゃない?」
とでも台詞として言えばまだ間に合っていたけど、完璧に手遅れだよな…と溜息をつく僕
(と、先程のここには居ない誰か)の横を、
朝比奈さんと彼の手を引っ張る涼宮さんが駆け抜けた。
「はやくいこーっ!」
車内に二人を押し上げて、彼女自身も後部座席に飛び乗る。
「ほら、乗り気の涼宮ハルヒは、

だあれにも止められないんでしょ?」
森さんは屈んだ姿勢を元に戻して僕を見下ろし、にやんと笑った。
さっきまでの教育番組・歌のおば…お姉さんスマイルはいずこ。
「私の一存での決定じゃないわよ。
ここに来るまでに、新川と多丸ツインズに相談して決めたんだから」
四人ぽっちで……いや、まあ、確実に信頼できる機関員だけに話そうと思ったら、
それ位の少数しかいないんだろうけど。
……毎回毎回、わざわざ上司を疲れさせるような決定をしてくれるものだ。
「やっぱし中止ーなんてあんたが言ったら、あれがドカンよ。ドッカーン」
「あ、そのことなんですけど、森さんがいらっしゃる前に、
涼宮ハルヒがそれを発生させても当然な出来事があったんです。
ですが、僕はそれを感知しませんでした。
森さん、あなたはどう思われますか」
僕がそう言うと、にやん笑いを引っ込め、森さんは顎に手を当てて黙り込んだ。
しかし、彼女が何か言うより先に、
「はあやーくー!」
涼宮さんが、座席に膝立ちで僕達に手招きした。
いつの間にか、長門さんも席に行儀良く座っている。
「ま、そこまで腹立たなかったんじゃない?」
楽観主義なのは森さんだけでは無いようで、僕も、

「そうかもしれませんね」
と立ち上がり、余り深く考えようとしなかった。
平和ボケだろうか。
今回の件は誰かの生死に関わったり、
世界の存続が危ぶまれたりする展開になる可能性は低いだろうし、
閉鎖空間が発生しないのは単純に有り難い。
今発生したら、保父さんの仕事と掛け持たなくてはならないだろうから。
……こうして油断していなかったら、後々起こる大変なことを防ぐのは無理でも、
心の準備くらいは出来ていたと言うのに。
ああもう、この自分を鼻穴爆竹の刑に処すべきだ。あれってどこに売ってるんだろ。
「そだ、古泉」
助手席に乗り込みながら森さんが、カートを指差した。
「あれ返して来て」
「パシらせるおつもりで?」
「うん」
「はああ………ウサミミ、天井にぶつかって折れ曲がってますよ…」
「あ、ほんとだわ」
……だからってナースキャップに付け替えろとは言ってない。
爆竹はやり過ぎだろうけど、
水風船ピンポイント爆撃くらいなら許されてもいいんじゃないのか。

パシられるがままカートを職員玄関まで戻し、
六秒程カーテンをどうしようか迷い、結局傘立ての下に畳んで押し込んだ。

ごめんなさい。と小声で一応は言ってみるが、責任の一切は森さんにあり、
僕は言わば尻拭い役を押し付けられた被害者側の人間なので、
あまり言葉に気持ちがこもらない。
「おやっ!?そこにいるのは!デコ友の会・会員ナンバー002、谷口君じゃないかっ!」
「あら、こんな所で寝ていては風邪を引いてしまいますよ」
鶴屋さんと喜緑さんの声が遠くから聞こえる。
「返事が無い。ただの屍のようだ」
「鶴屋会長、今こそチャンスです。
彼のこの、デコっぱちには相応しくない垂れた前髪を残らず切ってしまいましょう」
「おおっ!ナーイスアイディーア、喜緑ちゃん。いやー、ずっと前から、
この前髪の存在は、デコが秘めた無限の可能性を潰してると思ってたのさ!」
「ええ、その通りです。どうぞ」
「用意周到だねっ」
チキチキ、と音が聞こえた。
どうもインターフェイスは刃物を持ち歩く癖があるみたいだ…
それから谷口君、ごめんなさいごめんなさいごーめんなさーい!!

姿こそ見えないが恐らくはあの、ちらちらした前髪が無くなり、
晴れてデコ友の会会長プラス会員ナンバー003に認められた谷口君に合掌して、
僕は新川さんの車が鎮座する校門前に戻った。

運転席に新川さん、助手席に森さん、後部座席に涼宮さんと彼と朝比奈さんと長門さん。
「…あの、僕が座るスペースはいずこに」
「ちゃーんと考えてあるわよ。新川、トランク開けて」
「畏まりました」
こいつらこいつらこいつら!いつかシメる!!
それが上司への態度か!?
「あにゃたには、ふたちゅのしぇんたくがかのー」
新川さんがトランクを開け(他人のこと言えないけど、この人どんだけ言いなりなんだ)
もう泣き寝入りするしかないのか、
車の屋根に縛り付けられなかっただけましだと思わなくてはならないのか、
いや、そんな風に思ったらその瞬間負けだろ、色々と、
なんてうだうだ考えていると、窓ガラスに両手を当てて、長門さんが僕に話しかけた。
「もりしょのーの、ゆーとーりに、とりゃんくにのりゅか、しょれとも、
わたちをひじゃにのちぇて、こーぶじゃしぇきにおちゃまるか」
「………ええ?」
「ほきゃのよんめーにくりゃべ、わたちはあにゃたのひじゃに、ふたんをかけにきゅい」
そりゃ、長門さんは一番軽いけど。けどさ、それって…
「早くしないと出発するわよー。新川、エンジンかけて」
「畏まりました」

「森さんの膝に長門さんが乗るという選択肢は…」
「嫌よ。警察に見つかったらめんどくさいでしょ」
「そこは、森園生☆必殺毒針吹矢でなんとか……」
「やあよ、警察官なんぞにあれをやる価値は無いわ。新川、出して」
「え、ちょっと、待ってくだ」
「しょうがないわね。二秒だけよ」
にびょ…あああああもう!!
開いたトランクを叩き付けるようにして閉めて、後部座席のドアを開ける。
正座をしてこちらに体ごと向けている長門さんを抱き上げて、席に落ち着く。
ええもちろん乗せましたよ乗せました。膝の上に。
……………
かっ、勘違いしないで下さい!
トランクに乗るくらいならこちらの方が幾何かはましだと思っただけなんですからね!
別に、それ以外の意味なんてある訳ありません!
………………
………気持ち悪っ!
ちょっと現実逃避のためにキャラ変えてみたけど!なにこれ気持ち悪!悪悪!!
あと自分で自分に言った場合でも、
キモいキショいより気持ち悪い気色悪いの方が倍傷つく!
大発見!
「出発致します」
「ごーごー!」
新川さんが発車させ、涼宮さんが運転席の背中に手を置いて身を乗り出す。
いいなあ楽しそうで。いいなあ。

「要る物は多丸ツインズに運ばせてるから。新しい着替えとかね」
「そうですか…」
僕の膝の上で大人しくしている長門さんの横で涼宮さんは、うきうきと足をばたつかせ、
彼と朝比奈さんと一緒にアルプス一万尺を歌っていた。
こやりをこやぎと歌ってしまうのはお約束だ。
子山羊だか小山羊だか知らないけど、潰れるって。

「お帰り、一樹くん」
「ただい………あの、なんですかこれ、ちょっと裕さん、これなんですか」
「やあ、お帰り。おや、ほんとに皆子どもになってる。流石は神だ」
「けい、圭一さん、これ、これってあの…
てかもう少しくらい驚いたって罰は当たりませんよ。
二人ともリアクション薄過ぎる。
いや、じゃなくて、これ、何勝手にこんな……なんだここ、どこだここ」
「見て解らないの?」

最後に家に入った森さんが、玄関扉を閉めながら鼻で笑う。
解る。見たら解る。けど、けど!
「これはこれは。あの味気無い部屋が見事に化けましたな」
新川さんが、傍らに備え付けられている棚を見てにこやかに笑う。
その棚には、小さな靴がいくつも並んでいて、
『ハルヒちゃん』『みくるちゃん』『有希ちゃん』『キョンくん』
と、お名前シールが貼ってある。
部屋には、薄いピンク色のふわふわした絨毯が敷かれていて、
壁に掛かっていた、日付を確認するのみの白いカレンダーが、
あの有名な黒いネズミがでかでかと描かれた物になっていた。
その真横に、あいうえお表が貼り付けてある。
テーブルの上には、折り紙やらクレヨンやら画用紙やらお手玉やらが積まれている。
ソファーには、カラフル過ぎて目が痛くなってくるクッションと、動物のぬいぐるみ。
おもちゃ箱、とマジックで書かれたダンボールがみっつ。
プラスチック製の衣装ケースもみっつ。
ピアニカはいつつ。
「ご苦労様、多丸ツインズ」
「森さん、礼はいいから早くこの前貸した二万返してくれないかな」
極め付けは、部屋の扉に掲げられたコルクボード。

『ひよこぐみ』
………機関はアホばっかりか!?いや疑って悪かった訂正、アホばっかりだ!!!
こんな奴等に世界の方だって守られたくないだろう!ごめんね世界!!
「古泉、あんたも着替えんのよ。はいこれ」
畳まれた衣服数枚を放り投げられる。
一番上の青色を広げると、
「エプロン…?」
「ただのエプロンじゃないわよ」
あ、ほんとだー。胸の所に『いつきせんせい』って白いフェルトで縫い付けられた、
黄色いフェルトでひよこ型に切られた名札が………ごめんなさい、世界。

白いトレーナー、黒い三本ラインの入ったスラックス、青いエプロンを着ると、
いつきせんせーだー!いつものいつきだー!ぱぱー!と三人に足に抱き付かれた。
君達は先生の家が幼稚園もどきでも何の疑問も持たないのか。
もう知らない。
「っぶふぅ!ぶはははははははは!!!」
多丸ツインズと森さんが無遠慮に僕を指差して爆笑する。
「い、いつ、一樹先生!一樹先生だってー!良かったじゃない古泉!
あんためっちゃ好かれてるじゃないの!!」
「ふは、そう言えば、いたなあ、先生をお母さんって呼んじゃう子。つか森金返せ」
「はーっはっはっは!!いや、全く、板に付いてるよ一樹くん!」

そろそろプッチンしそうだ。いやプリンじゃなくて。
いやプリンだけど。違う、そーゆー意味のプリンじゃない。
ほら、あたしのプリン食べたでしょ!のプリンがプッチンとかじゃなくて。
で、さっきのいやプリンだけど、っていうのは、ほらここってプリン……
ああ、何言ってんだ僕は。
まだ園児三人は僕にしがみついたままだし、
機関の三人は笑い過ぎてひーひー言ってるし、
新川さんは微笑を浮かべて立ってるだけだし、
長門さんはこちらなんて見向きもせずに、あいうえお表を見上げいる。
くそう、森さんも多丸さんズも新川さんも、僕が上司だってこと忘れてないか。
いや、普段から忘れられてるけどさ。でも、これはちょっと酷過ぎだろう。
深呼吸をひとつして、僕は眉を少し吊り上げた。
プッチン(否プリン。いやプリンだけど。違う、そーゆー以下略)
「園っち!!」
「はっ!」
「圭ちゃん!!」
「はっ!」
「裕ぽん!!」
「はっ!」
「新ピー!!」
「サー!イエッサー!!!」

鋭く呼ぶと、四人は爆笑や微笑の表情を一気に険しい物へと豹変させ、
短く応答し、びしっ!と僕の前に直列する。
「僕を愚弄するのはそこまでだ」
「は!申し訳御座いません!!」
全くずれずに、ぴったり揃った声。
人はこれを上司モード一樹と呼ぶ。
…ごめん嘘。そう呼んでるのは今の所僕だけ。
彼には、僕は機関では下っ端だと言っているし、
それは嘘では無いけれど、超能力者あってこその組織なのだから、
部下が一人もいないような地位にいるという訳でもない。
「いつきせんせー…?」
きょとんとする涼宮さん達に、僕は自分の口の前に人差し指を持って行って、
しーっ、と片目を閉じて笑いかける。
それから、また四人を見やって、冷たく目を細める。
「幼稚園児に戻りたいというのがすずみ…ハルヒちゃんの望みならば、
確かに、こちらでそれを叶える事でこの問題が解決する可能性も見えてくるだろう。
その点では、圭ちゃんも裕ぽんも短時間で良くここまで揃えてくれた。礼を言う」
僕の言葉に、深々と頭を下げる多丸さんズを、長門さんが離れた所から凝視している。
「新ピーも、いつも足にしてばかりで済まない。

園っち、君がいなくてはハルヒちゃん達に風邪を引かせる所だった。感謝する」
「は、恐縮です。…………まあ、服代は今月のあんたの給料から出したんだけどね」
「そうか。…………え、経費じゃなくて!?
ちょ、こら、なにしてんの森さん!!」
「だって、あんたが私達の中で一番給料いいんだもの、
これくらいどーってこと無いでしょ!
ここだって、家賃は機関持ちだし」
「それとこれは話が別!」
森さん、と僕が呼んだ瞬間から、
張り詰めた空気を一気に緩めた多丸さんズは、
「それにしても、久々に出たね。一樹くんのあれ」
「ああ。前はいつだったかな?」
「多分、子どもの日に皆で菖蒲風呂に突っ込んだ時が最後だったと思う」
「ああああれは!
だってあれはアンメルツ塗りたくられた後に風呂に放り投げられたから!!
うぉおぉおー!!燃えるぜぇええぇ!!!
って体燃え尽きるかと思ったんですから!」
ぽかんとしたままの園児三人を無視して、先程のメリハリがどんどん無くなっていく。
「じゃ、私達は緊急会議を兼ねたカラオケに行くから。後はよろしく」
「どーやったら会議とカラオケを兼ねられるんですか!
あんた等絶対僕のこと忘れるだろ!!」

「と言われてもね。
今日カラオケ大会を開くことは前々から決まっていたしね」
「聞いてませんが!?てか中止しろよ!!」
「今更中止するのは酷だなあ。
君を誘うことを僕達四人とも失念していたから、
聞かせていないと言うより言うのを忘れていたんだよ。
その点を踏まえると、これはもう致し方無いだろう?」
「何が致し方ないのー!?開き直り!?!?」
「全ては影の薄い君自身が問題なんだ」
「うるさっうるさいなあもう!!
存在感については、大分前から気にしてるんです、って、何を言わせ……!
どう考えても悪いのはそっちでしょうが!」
「あら?私達が悪いの?
私達が悪いと思う人、挙手」
「はいっ!
………あれぇ僕だけえぇ!?
ちょ、ハルヒちゃんキョンくんみくるちゃん有希ちゃん!!」
「てをあげるのは、みちをわたるときだけだもん」
「きょしゅってなんだ?」
「みくるがおなまえをよばれたときだけだよぉ」
「たった今、全員呼びましたけど…!?
はーいって、ほらみんな、はーいって」
……………
「なんでノーリアクション!?」
「しゃんにんとも、はんこーき」
「反抗…な、なんて厄介な……」
「しょしてわたちも、いまかりゃはんこーき」

「わざわざ余計にこじれるようなことをしないで下さい!」
「………」
「聞いてます?」
「ちぇんちぇーごちょきが、うるちぇーんだよ」
「反抗って言うかグレてる!!」
と、独りで大騒ぎをするという痛い行動を取る僕に、
あだ名呼びしないと上司を上司として見做さない部下達は、
「じゃあねー、あんたのこっ恥ずかしいキャラソン歌って来てあげるわ」
「じゃあ僕は朝比奈みくるの台詞を」
「では私は長門有希を」
と手を振って部屋を出て行く。
「多丸さーん、そんな事してもキモいだけだって!
誰にとは言わないけど、叩かれるから止めといた方がいいですよ!!」
「………」
「聞いてないなあいつ等……」
「………」
「…………新ピー」
「サーイエッサー!!!」
「……もういいですよ、新川さん」
「それでは私もそろそろ失礼して」
おい、変わり身早過ぎ早過ぎ!!
「新川さんも帰ってしまうんですか…」
「そうさせて頂こうかと。私もカラオ……緊急会議に出席しないとなりませんので」
「一番頼りにしてたのに!!あんたもカラオケか!」
「よろしいですかな?」

「よろしいですかな?
ってお伺い立ててる割には、もう靴履いて玄関のドア開けてるし!
帰る気満々じゃん!!」
「では、ご機嫌よう」
「あ、まっ………もぉおおぉお!!部下に恵まれないなほんっとーにーー!!!」
オーバーリアクションでもなんでも無く、期待外れもいいところだったので、
頭を抱えてのけ反る。
「さっきのおじさんも、いつきせんせーのおともだち?」
「いえ、あんな人達と交友関係なんて結んでいません。部下ですらありません。
知り合いだなんて以ての外です。
てかあんな、ナースキャップとセーラー服コスプレおばさんとか、
メタボリックシンドローム患者の代表者とか、
近々若禿げしそうなのとか、あと他一名。
誰だあれ、不法侵入者?警察に届けないと」
姿勢を戻して、改めて不法侵入者達にがらりと変えられてしまった部屋を見渡す。
暖色をふんだんにちりばめられた、元・僕の家は、
今日から五歳児三人と三歳児一人の学び舎になる、んだってさ。
認めたくないけど。
僕は四人の園児を見下ろした。
古泉幼稚園、開園。


(古泉のネーミングセンスの無さを露呈したまま)続く
「う、うるさいなあ…このかっこの中、要らないって……」


「いやでも、あんたマジでセンス無いわよ。
ちるちるは無いわ、ちるちるは…新ピーもだけど……シャミツーより酷いわ…」
「さっさとカラオケ行くなりボーリング行くなりして下さい!」
「………」
「………」
「時に閉鎖空間でーの僕はー♪」
「ああああ今歌わないで止めてぇえぇえぇ!」


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