もしハルヒが日記帳、もしくはブログなんかを日々つけていたとしたらどんな文章を書いているのか、まぁ確かめる術はどれだけ権謀術数を極めてもゲーデル命題の如く不確定の問題として終わりを告げてしまうのだろうが、まぁここは読者の特権、言論の自由がブラウン運動並みに行き交うこのブログ空間に、徒然なるままに載せてみようかとか考えた末の、結実した成果がこれである。

 キョンなら何と言うだろうか?全く悪趣味なことを考えやがる、とこれを唾棄するのかもしれないが、本当にあるなら見てみたい気がする、と彼の中で悪魔の囁きが首をもたげかけたあたりで、古泉にその心情を見抜かれ、「あなたが見せて欲しいと言えば、見せてくれるんじゃないですか?あなたがたは理想形といっても良いくらいの信頼感で、結ばれているのですから」などと保険会社の営業担当者並みの笑顔を浮かべながら訳知り口調で口走り、タダほど怖いものは無いということの証明となりそうなスマイルだなと、キョンが感想を心の中で一人ごちることだろう。
 
 そんなこんなで、キョン口調を真似た一読者のお送りする『涼宮ハルヒの回想』。挿絵も全く無く更に横書きなため読みづらいことこの上ない感じで、誰にも気取られずにスタート!


『涼宮ハルヒの回想』


 あたしはよく、寝る前にふと見慣れた天井を見つめながら考え込む癖があった。最近はもうないけれど、去年の今ごろ、北高に塾に行かず独力で合格してから、周りの本当につまらないクラスメイトたちのお別れ会とかいう互いの思い出作りに奔走する、本当にくだらない集まりに行くのも当然断って、ただ、ひたすら何も起きずに中学生が終わっちゃったことへの後悔と、これからあの北高に行くことへの少しの期待感とが混じり合った、感傷にも似た感情を抱いていた三月の下旬頃は、よく、こんなことを考えてた。ていってもそれは、その時まで考え通しだったことをまた、同じように繰り返していただけだったんだけど。

 このまま何も起きずに、変な出来事、宇宙人、異世界人、未来人、幽霊、妖怪、なんでもいいのよ、面白そうなものと何も出会わずに、それなりに人生を歩んで、つまり大人になって、定番の家族ドラマみたいに安定した家庭を築かされて、やることと言えば誰かの世話、日常の人間関係の保全、公私問わず社会が押し付けてくるその他諸々の義務、普通の人が普通にやらなきゃいけないこと・・そういった本当につまらないこと、別にあたしでなくても良いような物事しか経験しないで人生を終えるようなことがあったらどうしようって、ほんと、いつものように焦ってた。焦りの気持ちが心の中で一定量を越えると、あたしは布団の中にうずくまって、早く眠りにつこうとした。夢の中くらいでしか、あたしが触れ得る非日常らしい世界が待っていないことを、どこかで知っていたからなのかもしれない。早く寝てしまおう、寝て起きたら、いつのまにか現実が夢に置き換わっていて、もしかしたらあたしのところにも変な出来事が訪れるかもしれないって。今日も何も無かったことの苛立ちを、夢の中で晴らそうって、考えるようになっていたのかもしれない。

 そうした夜はいつものようにやってくるし、朝はまた相変わらずの顔で今日も元気に人生を過ごそうと励ましてくる。外へ出ても拡がっているのは、次元断層の隙間なんて1ミクロンもない当たり前の世界、平凡な日常。空を見てもアダムスキー型UFOの群体なんて飛んでないし、ただ、どこかの唱歌の歌詞にありそうな「雲ひとつなく晴れ渡る青空」が、のっぺりとした顔で眼前に広がっているだけ・・。あたしじゃない誰かの元に、ちっとも普通じゃない、とっても面白い出来事が天賦人権のように与えられている代わりに、あたしのところには安全で、安定した、時間の相対性なんて微塵も感じさせないような絶対的で堅牢な平和が、要りもしないのに日々あたしの上に降り注いでくる。あたしの中学生活の三年間は、そうした絶対的秩序と言う刑務所からの大脱走のために、そのほとんどを費やされてきたって言っても、ほんと、言い過ぎじゃないわね。それくらいに、あたしは「いろんなこと」をやっていたから。ネットで評判になってた、一枚ウン千円もする霊験あらたかなお札を、親父に小遣い前借りして三ダースほど購入して、教室の窓全てに貼ってまわったり、七夕の日に校庭で、「あたしはここにいる」って意味の、地球外生命体にも見えるくらい大きな絵文字を石灰で描いてみせたり・・。そう、このとき、校庭にやってきた男・・あれ、何て名前だったっけ?・・北高の制服を着た、あたしの絵文字製作事業を手伝ってくれた男が、あたしの中で唯一の「おもしろいこと」への鍵だった。あいつは未来人、宇宙人、超能力者、異世界人について、何故だか知らないけれど知っているように思えた。ただ、あたしみたいな中学生のくだらないたわ言を、そこらへんのくだらない大人やクラスメイト達みたいに言葉面の上で同意しておいてあたしのことを避けるような態度には、少なくとも思えなかった。

 なにより、あたしの本当に端から見たらばかげてる絵文字製作を、あの男は無駄口叩きながら、でも、真剣に手伝ってくれた。あたしは最初、手伝ってくれるとは思っていなかった。当然でしょ?いきなり誰だかわからない女の子に、そんなことを手伝えっていわれたら、普通は親御さんを探すか、家は何処かとか、聞いてくるはずよね。もしくはあたしの言葉に苦笑いして、じゃあねと手を振るか、そんなことしても変わるわけない、宇宙人なんて、NASAの丁稚上げで、未来人に至っては、ネタ的に面白いから、小説の物語を進めるためのファクターとして流行しただけなんだよって、日常的な言説を持ち出して説教したりするのが、考えうる一般の人の対応だと思うの。

 あの男は、あたしの言葉を受け止めるのでもなく、説教するわけでも、話題をそらすわけでもなくて、ただ一緒に、世界を変える行動を手伝ってくれた。それがあたしにとっては、一番嬉しかったことだった。

 あたしは、世界が面白くなる行動を起こすんだって思っていた。世界に、あたしはここにいるんだって、訴えたかったのよ。でも・・もしかしたら、世界に訴えたかったんじゃなくて、ただ、誰かと一緒に、「何か」をしたかっただけなのかもしれない。「あたしの世界」は、あたしだけじゃ変わらない、誰かと一緒に、何かをやることで面白くなるのかもしれないって、あの数十分間の間に、少し思った。

 それが、SOS団を作る素地になっていたのかも・・しれないけど、
 よくは分からないわ、北京で蝶が羽ばたいたからなのかも、しれないしね。

 あのときの感じを、信頼してよかったなって、ほんと、今なら言える。あのときの感触を信じて、わざわざ山の上にある県立の普通レベルの北高にいったからこそ、あたしは萌え記号の塊みたいなみくるちゃんに会えたし、無口キャラで眼鏡っ娘の有希とも会えた。入学してまもなくの五月に転校してきた謎の転校生の古泉くんとも、北高に行ってなかったら会えるわけも無かっただろうしね。まぁ、キョンは別になんでもないんだけど、あいつがぐだぐだ垂れた説教が無かったら創部っていう手段を考え付かなかったかもしれないし、SOS団結成も無かったのかもしれない・・なんていうのは、ちょっと、いえ、かなり誉め過ぎね、キョンはただの団員、それ以上でも以下でもないんだから。SOS団が結成されたのは必然なのよ、シュレーディンガーの猫みたいに観測者の存在なんかで確率論に堕さない、これだけは変わらない、唯一つの真実なの!神様がサイコロを振ろうともね!

 

――三月下旬、SOS団団長涼宮ハルヒ、記す。



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