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 それはある日曜日のこと。
 特に何の予定も無い貴重なその休日を、僕は一人のんびり自室で過ごしていた。
 何時も何時も涼宮さんに振り回されたり『機関』の用事に振り回されたりしているせいだからか、たまにこうして休みがあると、どこかへ出かけるよりも一人でのんびりしていたくなる。
 適当な時間に目を覚まし適当に朝食を済ませた僕は、一人テレビの前に向かっていた。別に見たい番組が有るわけでもないので、適当にチャンネルを回すだけだ。
 何か面白いものが有れば良いかもなあと思っている程度なので、テレビ欄さえチェックしていない。
 そんな風に何十秒毎かにチャンネルを変えていた僕は、とある番組のところで手を止めた。
「……ユキ」
 それは『魔法少女フェアリーユキ』というタイトルの、子供向けらしい朝のアニメ番組だった。こんな年齢不相応とも言える番組に目を吸い寄せられてしまったのは、そのタイトルがちょうど画面に表示されたところだったのと、主人公らしい少女の名前と、その少女の外見のせいだろう。
 画面の中の少女は、魔法少女という肩書きの持ち主の癖に、オープニングテーマ中殆ど無表情という、ちょっとそれだけでこのアニメが異色なもので有るのを窺わせるような少女だった。何だか、僕が知っている同じ名前の人物を連想させる。
 そのまま、何となく番組を見てしまう。
 突然見た番組だから展開は全く分からなかったけれども、子供向けだからなのか、初見の僕でもある程度話についていけた。
 主人公であるユキは、実は魔法の国の王子から力を与えられ、日々ご近所の平和を守っているという設定だった。ありがちと言えば、まあ、ありがちかな。そういえば、この王子とやらの外見は何となく僕に似ている気がする……、気のせいだと思うけど。
 けど、長門さんと同じ名前の人物が出てくるアニメか。
 何だか不思議な感じだなあ……、いや、『ユキ』って発音する名前自体は別に有り触れたものだけれども、このユキって少女の外見や性格は、何だか凄く長門さんを髣髴とさせるし。
 こんな女の子が子供向けの魔法少女アニメの主人公で良いのかなって気はするけど……、内容的には、作画も展開も声も悪くないと思うんだけど。
 魔法少女フェアリーユキ、かあ。
 こんなアニメを見る趣味はないし、見ていることを人様に言いたいとも思えないけど、来週も、時間が有ったら見てみようかな。


 ……なんて風に、そんなちょっとした出来事だけが印象に残っているという比較的平和な日曜日が過ぎ、月曜がやって来た。今日からまた五日間学校、授業もあるしSOS団の活動もある。おまけに、土曜日や日曜日に予定を入れられる可能性もあるけれども。
 まあ、何はともあれ騒がしい日々の幕開けだ。


 無事に何事も無い月曜の授業を終えた僕は、何時ものように部室に向かった。
 何時ものようにノックをし何時ものように先に入っていた団員の内誰か(と言っても長門さんは省かれるけれども)から返事を貰い、僕は部室に入った。
「……」
 その瞬間、僕は思わず目を点にしてしまった。
「……」
 無言の僕に対抗するかのように、無言のまま長門さんが僕を見詰め返してくる。
 部室には、僕以外の全員が全て集合していた。
「どうどう古泉くん、似合うと思わない? 魔法少女仕様の有希!」
 そんな僕らの間の空気を一切読まず、いや、この場合は読んでくれても寧ろ困るとしか言いようがない気もするけれども、コスプレ衣装を身に纏った長門さんの横から顔を出した涼宮さんが、僕に同意を求めてきた。
「えっと、これは……」
 涼宮さんのご機嫌取りがその役目の、常日頃からイエスマンが当たり前の僕でも、この状況であっさりはいそうですねと頷けるほどの神経は持ち合わせていない。
 何せ、僕の前の長門さんは……フェアリーユキの衣装を身に纏っていたのだから。
 これが、巫女さんとかメイドさんとかナースとか、コスプレはコスプレでも、所謂お遊び系のコスプレならば、頷けなくは無いのだけれど……、何故、魔法少女なのだろう。
 それに、これは、
「魔法少女フェアリーユキよ! 古泉くん、知らないの? 結構高校生以上でも見ている子が居るみたいでね。この間鶴屋さんに教えてもらったのよ。この子有希に似ているって!」
「は、はあ……」
「でねでね、借りたビデオを見てたらあたしも似ている気がしてきて、有希に着せたいなあって思ったんだけど、既成のコスプレ衣装って結構高いじゃない? 二万とか三万とかするんだもの」
「はあ……」
「だからあたしね、ちょっと考えたのよ。もっと安くて、でも、ちゃんとしたものは無いかって……、で、思いついたのよ。こういうのって、玩具屋さんとかでもっと安く変身セットとか売っているでしょう? 有希だったら、小柄で細身だから、そういうのでもいけるかって思って買ってみたわけ。……試着できないからちょっとした冒険だったけど、入ってよかったわ」
 呆然とする僕に対して、涼宮さんがすらすらと説明をしてくれた。。
 そう、今長門さんが着ているのは……、涼宮さんの言葉どおり、明らかに子供用といった感じの衣装だったのだ。確かにサイズ的には入っているようだけれども、色々ギリギリのような気が……。
 スカートとか、胸元とか……。
 いや、その、あの……、思いっきり目のやり場に困るんですが。
 ああ、今気づいたけれども、涼宮さんと長門さんの頭越しに見える彼と朝比奈さんも、困惑顔だ。普段だったら彼が止めるところなんだろうけれど……、この場合、彼も着替えが終わった後に来たと考えるべきだろうか。
「ね、ね? 良いでしょ?」
「は、はあ……、悪くは無いと思いますが」
 言葉を濁すようで濁しきれていない僕。
 すみません、長門さん……。何だか色々申し訳ないです。色々と。
「でしょでしょ? いっそ今年はこの路線で映画を撮ろうかしら! あ、その場合古泉くんは王子様の役よ!」
 うわ、何か勝手に計画が持ち上がっているし!
 映画撮影……、蘇る去年の悪夢。 
 勘弁してください……。何て、言えるわけも無いけれど。
「ねえねえ、有希も良いと思うでしょ? 実写版フェアリーユキ! あ、でもその場合は主役交代かしら? ううん、どうしようかしら、ライバル役の子はみくるちゃんって雰囲気じゃないし……」
 涼宮さんが、勝手に色々考え始めている。
 こうなったらもう止められないんだろうなあ。一応彼に助けを求めるべく視線を送ってみたりはしてみたけれども、微妙な表情が帰ってきただけだし。
 ああ、しかし、なんでこんな、
「……少し、きつい」
 不意に、無言だったはずの長門さんがぽつりと呟いた。
「え、あ、そう? ううん、やっぱりさすがに無理が有ったかしら……」

「……合うサイズのが、良い」

 ……長門さんのその一言で、僕と彼と朝比奈さんの三人が、完全に固まった。
 長門さん、あなた今なんて……、
「合うサイズねえ……」
「そう」
「有希が気に入ったなら、買ってあげたいけど、予算がねえ……」
「……」
 長門さん、何で僕を無言で見上げるんですか……。
 はあ、仕方ないか。
 涼宮さんだけが乗り気というのならともかく、長門さんもそれに異を唱える気が無いというのなら……。魔法少女なんてものがこの世界に降臨したらどうなるかなんて考えたくないけれども、しょうがない、後のことは後で考えよう。
「……あの、僕の知り合いに舞台の衣装関係の仕事をしている人がいるんで、多少時間がかかっても良いのでしたら、安く頼めるかもしれませんよ」
「え、本当?」
「ええ、本当です。詳しい相場とかは知りませんが、ある程度融通は利かせて貰えると思いますから、一万くらいで何とかなるかと」
 コスプレ衣装の相場なんて僕もよく知らないけれど、さっき二万とか三万とか言っていたから、このくらいの額を提示すれば大丈夫だろう。
「一万円ね、それなら何とかなりそうだわ! 良かったわね有希、これでちゃんとしたサイズのフェアリーユキの衣装が手に入るわよ!」
「……」
 長門さんは無言で首を僅かに動かしてから、勝手に妄想なのか構想なのか分からないことを喋り始めた涼宮さんから視線を外し、僕を見上げた。
 えっと……、これって一応、感謝しているってことなのかな?
 何となく、そういう風に見えるし……。ううん、こんなことで感謝されても、あんまり嬉しくは……、無いわけじゃないけど、何だか微妙な感じだ。 
 後ろの二人は……、う、硬直からは抜け出しているみたいだけど、完全に静観モードだ。
 あー、そうか、本気で実写版フェアリーユキになるとしたら、一番被害をこうむるのが自分達じゃないからか……、うう、何だか理不尽だ。
 このままだと僕は、王子の衣装も用意する羽目になりそうな気がするし……。何だか、自分で自分を追い詰めている気がしてならないなあ。

 とりあえず時間はかかるって言っておいたから、その間に涼宮さんの説得……は、無理でも、何とか方向転換できると良いんだけれど。

 なんて風に気楽に構えていたのがよくなかったんだろうか。
 事件は、割とすぐにやって来た……。


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