この世界では時が過ぎれば、形あるものも無いものも変わっていく。
 それは仕方ないことであり、怖いことでもあり、……ときには嬉しいことでもある。


 それはあたしが(正確に言えばあたしたちが)高校を卒業して、
 大学に進学しそれぞれの新しい生活を過ごしていたある日のこと――。
「やあ、どうも」
 あたしがとある喫茶店に入るとそこに古泉くんがいた。
 それは別に驚くべきことでもなんでもない。だってあたしは古泉くんに呼ばれてたからね。
「こんにちは。お元気ですか」
 高校から変わらない出来すぎた笑顔。
「同じ大学で時々あってるのにそんな質問するの?」
 笑いながら眉を吊り上げてみる。そんなあたしに一切表情をかえず言う。
「ほんの社交辞令ですよ」
 それから古泉くんとあたしが当たり障りのない話題を繰り広げていると、
 店員さんがよって来たのであたしはアイスコーヒーを、古泉くんは紅茶を頼んだ。


 さて、注文したものも揃ったし本題に入っていいかしら?
「で、今日はどうしたの?」
「ちょっとした噂を聞いたんです」
 古泉くんは、
「今日来るって、話を聞いたんですよ」と主語を省いて言った。
 あたしは飲んでいたアイスコーヒーを吹いた。
「古泉くん、どっからその話聞いたの? それとも調べたのかしら?
言っとくけどあたしにもプライバシーはあるのよ!」
 なんでこんな事を言うかかといえば古泉くんが『機関』って組織の一員で、
 下手な探偵より個人情報の収集にたけているらしいその『機関』にかかれば、
 あたしの事は全て分かってしまうから。
 おまけに古泉くんは超能力者で、有希は宇宙人、
 みくるちゃんは未来人、でも幸か不幸かキョンは一般人。
 それをあたしが卒業するときに、みんなから聞いた。
 聞いた時は馬鹿馬鹿しくて、拍子抜けして、腹が立ったの。
 その時に古泉くんは言った。
『僕たちに事情があったとは言え、隠していてすいません。ですが……』
 その謝罪の言葉から始まったあたし自身についての説明には絶句するしかなかったわ。
 そういえば古泉くんは最後に言ったっけ。あたしのことを恨んでいたけど――。
「いいえ、調べたわけではありません」
 古泉くんの台詞で回想を中断する。
「そんな事はしません。……でも、あなただけの事でもないでしょう?」
 古泉くんは笑顔を崩さず言いきった。
 確かに……確かにこれは私だけの話じゃ無いけど、私だけの話でもあるのよ。
「まあ、そう言われるとそんな気もしますね。
では明日、……いえ、明後日伺いますよ。それでいいですか?」
 明日が一日空く。
「そうね。明後日なら良いわ」
 あたしが頷くと笑顔を幾分柔らかくした古泉くんは、
「それでは、また明後日に」
 どうも今日の古泉くんの用事はこの約束を取りつけるためだったみたいで、
 そそくさと立ち去った。伝票を全く自然な動作で持ち去って。
「そうと決まればあたしも色々やることあるわね」
 それでも二日後の楽しみは一旦忘れて、あたしは家に帰ることにした。
 一人暮らしのために借りたアパートはこの場所からさほど遠くないところにあるから、歩いて帰る。
 高校を卒業してからまた伸ばし始めた髪が歩く度に左右に振れる。
 右、左、右、左、振り子みたいに一定のリズムで揺れる。


 あたし以外に誰もいないアパートに帰り、一息ついてから
 鏡の前に立って、身支度を整える。
 服の組み合わせはこんな感じでいいかしら? 髪型は? それから……。
 十分に時間をかけてもかけすぎにはならないみだしなみの時間。
 ようやく納得がいくようになった頃には丁度いい時間になっていた。


 これからあたしは駅に行く。
 一人だけあたしたちと離れてしまったキョンを出迎えるために。
 高校卒業と同時に雑用からあたしの彼氏になったキョンを迎えに。
 今晩はあたしの手料理でも食べさせてあげよう。明日は二人きりで過ごそう。
 明後日はみんなと再会を祝おう。
 ――でも、まずはその愛すべき間抜け面に言ってやろう。
 髪を後ろで束ねて、指をつきつけて、たった一言いつものように。
「遅い、罰金」って。
FIN.

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