「ふふふ、やはりあなたと食べるアイスは美味しいですね」
「誰と食べても味は変わらんはずだ」
 俺は今、古泉とデート中だ。理由は罰ゲーム。
 ハルヒにゲームで負けた俺達は、「一日バカップルになりなさい!」の一言でこんなことをする羽目に……やれやれ。
 貴重な休日をなくした上に、探索も中止だ。そこまで価値は無いだろう……。
 いや、あいつの事だ。どこかで朝比奈さんと長門を連れて尾行てるに違いない。
「本当に美味しいですよ? どうぞ、口を開けてください」
 こいつはこいつで真面目にやりやがるしな。
「自分で食ってろ!」
 手を押し返し、古泉の鼻にアイスをつけてやった。
「な、何をするんですか!?」
「こっちのセリフだ。ハルヒに従わなきゃならない奴は辛いな」
 古泉はハンカチで鼻を拭いながら苦笑いを浮かべた。
「まったくです。あなたが正直になって涼宮さんと付き合ってくれればどんなに楽なことでしょう」
「何の事だ? ニヤけ面」
 俺がハルヒのことを好きなのはバレバレらしい。だけど、あいつに告白してむざむざ主導権を渡すのは嫌だ。
 どうにかして向こうに告白させたいんだが……ハルヒの俺に対する気持ちがわからないから問題外だ。
「スキ有りですよ」
 熱を持った頭を冷やすようにアイスが額に当てられた。
「……ありがとよ、古泉。頭が冷えたぜ」
「いえいえ、お安いご用です」
 今度は俺がハンカチで顔を拭いていると、あぁ、やっぱりな。ハルヒが二人を引きずりながら駆け寄って来た。

「ちょっと! 全然バカップルっぽくないわ! 最低でももう少し仲良さそうにしなさいよ!」
「男同士な上に、バカップルの定義がわからん。具体的にどういう事をすればいいんだよ」
 ハルヒは少しだけ考えた後、100Wの笑顔で言い放った。
「そうよ、あんた達キスしなさい! 食べさせあいも捨てがたいけど……カップルと言ったらやっぱりキスよ!」
 こいつはバカか? 男同士で、しかも公衆の面前でキスだと?
 古泉は知らんが俺にそんな趣味はない。断言してもいいね。
「ふむ……仕方がありませんね」
 おいコラ、イエスマン。仕方がないじゃねーだろう。お前はホモか?
「ホモではありませんが、あなたとならなんとか……」
 ダメだ、このガチホモは話にならん。かと言って、朝比奈さんと長門にも期待できん。
 ……逃げられん。後ろからハルヒが喜々として眺め、前からはガチホモが渋々と苦笑いで近付いてくる。
 古泉の奴、絶対に喜んでやがる。あぁ、肩まで掴まれた。
 グッバイ俺の人生。後で長門に記憶を弄ってもらうとするか。
「では行きますよ……」
 こいつ、手慣れてやがる。いつもの相手は男か女かはわからないけどな。
 まぁ、なんにせよ言う事は一つ。さようなら、俺の青春……。

「やっぱりダメ!!」

 へ? 誰か知らんが古泉を突き飛ばしてくれたのか……助かった。
「いたた……涼宮さん、何を?」
「あ……ご、ごめん……」
 おいおい、言い出しっぺのハルヒか、古泉を突き飛ばしてくれたのは。
 確かに助かったが……理由を聞かなくちゃな。だから逃げるんじゃない。
「は、離しなさいよキョン!」
 俺はハルヒの首根っこをひっつかんで引き寄せた。

「さてさて、団長様よ。自分から言っといてどういうわけだ? まぁ、おかげで助かったんだけどな」
「な、何でもないわよ! やっぱり男同士のキスなんて気色悪いだけだから……」
 ハルヒにしてはなかなかまともな意見だな。だけどな、今回は俺と古泉はそれじゃ納得行かないな。
 無駄に時間を取られた上にキス未遂だ。今回は隠しごとなく全て白状してもらおうか。なぁ、古泉?
「そうですね。僕が手首を捻ってしまったので、その治療費の代わりにでも……」
 さぁ逃がしゃしないぜ。ここら辺で弱みを握っておいてやる。
「………………」
「あくまでもだんまりか。ならばこっちにも策があるぜ、ハルヒ」
「な、何よ……」
 俺は少し歩き、アイスを一つ買い、自分で食べた。うん、なかなか美味い。
 そしてハルヒに近付いて……アイスを食わせた。
「……っ!? ちょ……キョン、つめた……」
「えーと、古泉。食べさせあいと何だっけか?」
 古泉は理解したという風に笑い、答えた。
「確か、公衆の面前でキスだったかと」
 OK、任せろ。
「え!? ちょ、ちょっとキョン……待って、待ちなさい!」
「だが断る」
 ハルヒが抵抗を始める前に唇を奪った。当たり前だが、アイスの味だ。
 そして蹴られる前に距離を置く。これがハルヒ対策の一番手さ。
 茫然とする女三人、笑う古泉。さてと、仕上げだ。
「もう一度聞く。何故、お前は割って入ったんだ?」
 実は、俺は聞いていたんだよ。ハルヒは俺に好意があるとな。……古泉からの情報だから確実じゃないが。
 んで、俺はハルヒが好きだが、自分から告白はしたくない。「なら自分から気があるという素振りだけを見せれば良いでしょう」だそうだ。

 これで充分に気のある素振りは見せた。あとはハルヒがどう出るかだけさ。
「……やっぱりイヤだったのよ。キョンがキスするとこを見るのが」
 なぜだ?
「あ、あたしがキョンを好きだからよ、バカ! 文句あるの!?」
 古泉情報は確かだったらしい。あとは上手くまとまるかどうかだな。
「文句ない。それでどうしてほしいんだ?」
 ハルヒは顔を真っ赤にして俺を睨みつけている。全然怖くないな、むしろかわいいくらいだ。
 俺はと言うと、余裕の笑みでハルヒの視線を受け止めているわけさ。気持ちいいくらいの完全勝利だしな。
「あたしと……つ、つきあいなさい」
「つきあいなさい? 電話での告白に文句を言うお前が、告白で命令口調か?」
「う……つきあって……くだ……さい……」
 おそらく、相当恥ずかしいんだろうな。顔が見えなくなるくらい俯いてやがる。
 それが見方によっては俺に頭を下げているように見えなくもない。
 やはりハルヒはいじめがいがあるな。はねっかえりにいじわるするのって楽しいんだよ。
「わかった、お前がそこまで言うならつきあってやる」
 俺がハルヒを好きだったって知られるといじわるするのに都合が悪いからな。
 だから内心はかなりうれしいが外には出さん。
「まさかあたしが告白することになるなんて……」
 無念そうな顔をしてハルヒはそう言った。
「いいことじゃないか、『普通の』女の子っぽくて」
 ハルヒは『普通の女』なんて言われたくないだろう。だからこそ言うのさ。
 せっかく掴んだ上の立場だ。しばらくは遊ばせてもらうぜ。
 あまりにショックだったのか知らんが、頭を抱えて呻いているハルヒの腕を取り、古泉達に声をかけた。
「それじゃあ、今から『普通の』デートに行ってくる」
「わかりました、頑張ってください」

 何を頑張れと言うのだ。ごく普通のデートをするだけだというのに。……そしてハルヒ、うるさい。
「やだ、絶対にやだ! 普通のデートなんて嫌! ……そうだわ、みんな揃ってるし探索に行くわよ!」
 無理矢理にハルヒの腕を引き歩いていく俺。それに呼応するかのように反対側に歩きだす三人。
 アイコンタクトだけで素晴らしいコンビネーションだ。今度、みんなにジュースくらい奢ってやろう。
「ちょっと聞きなさいよ。みくるちゃん、古泉くん? 有希まで……あ、あんた達、覚えてなさいよ!」
 ハルヒの断末魔の叫びを聞きながら俺は考えていた。今日は普通人のデートコースを堪能させてやるぞってな。
 そしていつかはバカップルと呼ばれるくらいの仲になりたいもんだ。
 何故かだと? そんなの決まってるだろ。
 それくらいにハルヒのことが好きだからさ。


おわり

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最終更新:2007年02月19日 19:15