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 最近の俺は何かがおかしい。妙にイライラするというか……。
 それもこれも、古泉の奴が朝比奈さんと付き合いだしてからだ。
 理由は、そういう関係になっておくとお互いに任務が楽だから、とかなんとからしい。
 しばらくはなんともなかったんだよ。俺自身、俺が好きなのはハルヒだと思ってたしな。
 それがしばらく時間が経つごとに、少しずつ気付いていったんだよな。……朝比奈さんのことが好きだってことに。
 だけど、俺は今のSOS団が好きで、これを壊したくはない。
 だから古泉と朝比奈さんの関係だって黙って見てるつもりだったし、長門と図書館も行って、ハルヒのバカなアイデアを聞いたりするつもりだったんだけどな……。
 そういう今まで通りの生活を楽しみたかったけど、現実はそう上手くは行かないってか。
 まぁ、じきにこのイライラも消えるだろう。俺も彼女とか作ってみたらいいかもしれん。……なんてな。


 そして、そんなことを考えた後の数日後、俺は昼休みにブラブラと校舎を歩き回っていた。
 そして出会った。俺が淡い恋心を抱く相手、朝比奈みくるさんに。
「朝比奈さん!」
 出来るだけ普通に振る舞わないとな。
「あ……キョンくん……」
 どうしたんですか? 元気ないですね。
 俺がそう言うと、朝比奈さんは両手で拳を握って天使のように微笑んだ。
「そ、そんなことないですよ! わたしはいつも元気です!」
 俺にはわかる。朝比奈さんを大好きな俺にはわかってしまう。この笑顔は強がってる笑顔だってことが。
 だけど、これを追及するけとは許されない。なぜかって?
 それは彼女にとっての『禁則事項』であると共に、彼女の気持ちを落ち込ませたくない、俺の『禁則事項』だからだ。
「……そうですか。あまり一人で抱え込まないでくださいね」
 俺にはそう言ってやることしか出来ない。それ以上のことをやる権利は俺にはないからな。
 朝比奈さんは少し涙ぐんで「ありがとう」と言って去って行った。……ダメな奴だな、俺は。
 再び校内をブラブラしてみたが、やはりさっきの朝比奈さんの様子が気になる。
 あんな顔をした朝比奈さんを見たのは初めてだ。
 古泉の奴……何のための彼氏なんだよ、バカ野郎。


 そして、放課後。ハルヒは掃除当番だから一人で部室へと向かう。
 その間もずっと朝比奈さんの表情を思いだしては、悩み、溜息をついた。何か俺に出来ることはないのか?
 はぁ……俺はなんて無力なんだ。長門やハルヒのように何でもできるわけじゃないし、古泉のように頭が回ることもない。
 こんな時は凡人な俺が恨めしいぜ……。
「あ、あの……えっと……キョン……くん?」
 ん? 何でほぼ半裸の朝比奈さんが……すいません!
 しまった。俺としたことがノックもせずに入るとは。……しかし良い物を見させてもらったな。
 ふくよかな胸に、白い肌。腰の辺りについた……傷?
「朝比奈さん!」
 俺はすぐさまドアを開け、ほぼ半裸の朝比奈さんの肩を掴んだ。
「ふえぇっ!? キョキョキョキョンくん!? ダメ、ダメですよぅ!」
 何を勘違いしてるんですか! その腰の傷は何なんですか!?
 朝比奈さんは慌てて腰の傷を隠したが、俺は背中の傷を見てしまった。
「あ、ダメ……見ないで! お願い……キョンくん」
 その場にうずくまる朝比奈さんと一緒に、俺も肩を掴んだまましゃがんだ。
「朝比奈さん、何があったか話してください。こんな物を見たら俺はほっとけないです」
 当たり前だ。これを見てほっとける奴がいたら連れてこい。俺がこの世のあらん限りの苦しみを与えてやろう。
 そして、耳に届いてきたのはしゃくり上げながら泣きだす声だった。
「ひっく……わたしが失敗したら、古泉くんの機関の人に罰を受けちゃうから……」
 なんだと? 森さんや新川さんか? ……いや、違う。あの人達はそうでないと信じたい。
 それより問題なのは……古泉は自分の彼女がひどい目にあわされて何も言わないのか?
「ぐすっ……古泉くんは、見てるだけで……でも、仕方がないんです。これも仕事だろうし……」
 あー、これはヤバいな。映画撮影の時、ハルヒにキレた以上に理性が飛んだ。
 今、古泉の顔を見たら何するかわからん。
「ぐすっ……キョンくん、ダメだよ? わたしは大丈夫です……ぐすっ。だから、落ち着いてください」
 健気だ。ただひたすらに、俺に向かって泣き笑いを見せながら俺を諫めている。
 じゃあどうすりゃいいんだ? 多分、またハルヒの機嫌を損ねたら朝比奈さんは傷つけられる。
 そんなのが許せるのか? いや、無理だね。世界中全てが許しても俺は許さん。
 古泉の機関と接点を無くす。つまり古泉と別れさせた上で、ハルヒの力を使うぞと脅迫する。これしかないか。
 朝比奈さん、古泉と別れてください。そしたらいくつか作戦があります。
 すっかり……というより無理矢理に落ち着いた朝比奈さんは首を横に振った。
「出来ない、です。だって……わたし、古泉くんが好きなんです。だから……」
 その時の表情は、どこか悲しげだった。……そう言わないと、今度は未来人から制裁を受けるのか?
 それは俺の勝手な思い込みだ。だけどな、目の前の朝比奈さんは救いを求めてるようにしか見えない。
「どんだけ罰を受け、それでも古泉を選ぶなら部室を出る俺をそのまま見ててください」
 俺はそう言い残し、立ち上がってドアに向かって歩いた。
 沈黙のまま、俺の足音だけが部室に残る。……朝比奈さんがそれで幸せなら、俺は口出し出来ない。
 そして、ドアに手をかけ開けようと俺は力を入れた。
「キョンくん、助けて……。嫌だよぅ、こんな生活嫌だよぅ……」
 シャツの裾に加わる小さな小さな力。この力を、どんなことをしても守ってやる。
「だって、わたしはキョンくんが好き……なんです。言いなりになって、痛めつけられるなんてもう嫌……」
 わかりました。とりあえず、古泉が来る前に……。
「僕がどうかしましたか?」
 背後から忍び寄る黒い影……なんて場合じゃない。いつからここにいやがった?
「来たのは今ですが……話は全て聞かせてもらいました。盗聴器って便利ですね」
 プチッ……って来たね。悪い、こいつを殺させてもらう。こんな奴死んで当然だ。
 俺は古泉の胸倉を掴み、制服に手を突っ込んだ。こいつのことだ、内ポケットに護身用武器でも仕込んでるんだろう。
 ……まさかこんな物を持つとはな。出てきたのはアレだ、いわゆる『拳銃』だ。
「ちょ、ちょっと落ち着いてください。いきなり人の物を取るのはどうでしょう。それに、素人がそんな……」
 素人でも、安全装置くらいわかる。
「あ、あなたが人を殺したとなると涼宮さんがどうなるかわかりませんよ?」
 知ったことか。
 あー、母さん、父さん、妹よ。すまん。俺は今から殺人者になる。
 もう二度と家には戻らないだろう。じゃあな……古泉!


 指に力を込めた瞬間、左胸に激痛が……激痛ってレベルじゃないな、これは。
 目が霞むし、何で仰向けだ? 朝比奈さん、何で泣いてるんですか?
「死なないで! ダメ、キョンくん死なないで!」
 俺は死ぬのか? なんか、背中とか手に液体の感触って……あ、これは血か。
「新川さんは腕の立つスナイパーでして。僕が危なくなったらやってください、と」
 嫌な予感的中か。森さんとか新川さんとか多丸兄弟が朝比奈さんを傷つけてたんだな。
「血が、血が止まらないよぅ! どうして!? 古泉くんどうしてですか!?」
 助からない……な。そろそろこの世とサヨナラか。最期に、朝比奈さんを助けてやらないとな。
「その理由は機関の車の中で聞かせます。さぁ、行きましょう」
「嫌だ! 離してください!」
 朝比奈さん嫌がってるだろ。離せ……クソ古泉!
 指に力を込めると、古泉の背中から血が出た。これでゆっくり寝れ……ハルヒ?
 階段から、ハルヒが上がってきたのが見えた。タイミング悪いな……っていうかもう無理だ。真っ暗だ。
 悪い、ハルヒ。SOS団は任せた……三人になるけどな。
 そして朝比奈さん……俺もずっと好きでした。


おわり
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