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朝、目が覚めるとやっぱりあたしのイライラは消えていた。なんでなのかしら?
 あたしの体内に何かそういう物質が入ってるのかも。今度、解剖して見てもらうのもいいかもしれないわ。
 それにしても……『午前4時』。昨日、早く寝たぶんだけ早く起きちゃったのね。
 どうしようかな……早く行って、部室でダラダラしとくのがベストかも。鞄も取りに行かなきゃいけないし。
 ……決まり! 7時くらいからずっと部室でパソコンでもいじっとくわよ!
 そうと決まれば学校に行く支度をしなくちゃね。
 朝ご飯もたまには自分で作って、身だしなみを整えて、ちゃんと財布を持って、着替えて……。
 それでも余裕で時間が余りすぎた。さすがに早起きしすぎちゃったわ。
 まぁ、いいわよね。ゆっくり歩いて行けばいい時間よ。コンビニとかに寄ってもいいし。
 あたしは家を出て、ゆっくりと歩き出した。そういえばあたし、キョンに告白したのよね……。
 返事、ちゃんとくれるかしら? やっぱりフラれちゃうのかな?
 キョンにフラれたら、きっと悔しいわよね……。悔しいじゃなくて、残念かもしれないけど。
 このことを考えだすと、途端に歩く速さが落ちる。こんなの初めて。
 あたしが嫌いな『普通』が今、あたしの中にある。たぶん、あたしは『普通の片思いに悩む女』になってる。
 はぁ……、不思議に会えるのも当分先送りみたいね。
 その時、見たことのある人物があたしの視界に入ってきた。
「……古泉くん?」
「おや、涼宮さん。お早いですね」
 古泉くんは朝ご飯の買い物の帰りみたいだった。

 それにしても……顔色悪いわね。昨日の罰ゲームが効きすぎたかしら? とりあえず、昨日は途中で帰ってごめんね?
「い、いえ……昨日のは話題に出さないで、忘れさせてください……。実はですね、深夜にバイトが入りましてあまり寝てないのですよ」
 なるほど、だから顔色もよくないと。……古泉くんのバイトってどんな仕事なの?
「ただの力仕事ですよ」
 古泉くんは疲れた顔で笑顔を作りながらそう言った。本当に大丈夫かしら?
「それでは、また」
 そして、あたしに背中を向けて去って行った。けっこう不思議な人間よね、古泉くんも。
 再び学校に向けて歩く。少しだけ足取りは軽くなってるみたい。
 古泉くんと話して、気が紛れたからかな? とりあえず、心の中でお礼を言って、再び学校へと向かった。
 どっかの部活の朝練かしら? 朝っぱらから無駄に元気な声が聞こえてくるわね。
 靴を履き替え、勝手に作った合鍵を取り出しながら部室へと向かう。
 さすがにこの時間の校舎には誰もいない。この世界にあたし一人みたい。
 そういえば、前にも夢でこんな世界があったわね。もっと暗くて、キョンと二人だったけど……。
 あの時、突然キスされた時(夢だけど)あたしは何を思ってたかしら?
 驚きでそれどころじゃなかったし、すぐに夢から醒めちゃったけど……。
 でも、起きた時はこう思ってたはず、『残念だな』って。
 あーもう! 最近のあたしはおかしいわ! 一人の時はずっとあいつのこと考えてる。
 やめ! 返事が来るまでは考えない!
 ……あれ? そういえばあたし、返事をもらってどうしたいんだろう?

 二人でいたいだけ? そしたらSOS団が……。じゃあ、今まで通り? それなら返事はいらないじゃない。
 一番大きな問題を今ごろ思い出しちゃった。キョンと二人でいたい。でも、SOS団はあたしがいないと成り立たない。
 こんなの、悩んでも悩んでも答えが出ない。どうしてって? どっちも大事だからに決まってるじゃない!
 そもそも、あたしはなんで良い返事が返ってくることを前提に悩んでるのよ。
 こんな時ばかりはあたしの前向き思考を呪うわ。
 旧館に入り、階段を登って行く。さてと、鍵を開けなく……ちゃ?
 そこには、鍵がかかっていなかった。まさか、誰かがいるっていうの?
 ゆっくりとドアを開けると……あたしが惚れちゃったバカが眠っていた。しかも、床に横たわって。
 何してんのよ……まったく。幸せそうな顔して。
 横に屈んで、しばらく顔を見てみる。頬をつついたり、鼻を引っ張ったり。
 マヌケ面に拍車がかかるわね。……って、あんた誰の鞄を枕にしてんのよ!
 あたしはキョンの頬をはたいた。こいつの頭の下の枕は、あたしの鞄だったから。
「いてぇ! ……お、ハルヒ。おはよう」
 おはようじゃないわよ! こんなとこで何してんの!? あたしの鞄を枕にするなぁっ!
「一つずつ説明するから落ち着け。やれやれ……朝から元気だな、お前は」
 バカキョン……誰のせいで元気なのかわかってないのかしら? ともかく、話を聞いてやろうじゃないの。
 あたしは内心、ホッとしていた。昨日の話が何かあたし達に亀裂を作るんじゃないかって思ってたから。
 そんな心配は無駄だったわ。キョンがそんな人間なわけないもんね。
 そんな考えをしているあたしをよそに、キョンは話しだした。

「お前は昨日、鞄を忘れて帰ったよな? それで取りに帰って来ると思った。じゃあ来るまで寝とこうと思い、机に突っ伏して寝た。しかし、お前は来なかった。ここまではいいな?」
 えぇ、いいわ。
「次に起きたのは9時過ぎだ。古泉達も俺を起こさなかった。あのバカ野郎め」
 あたしの罰ゲームで、そんな余裕がなくなってたみたいね。
「当然、戸締まりも終わっているはず。だから、部室に泊まろうと思って、床に寝たんだ。机で寝ると腰が痛くなりそうだったからな」
 ……それで?
「で、気付いた。朝早くにお前が鞄を取りに来て、俺が寝てたら勝手に鞄を持って行くはず。ならば枕にしとけば起こさざるを得ないだろう、ってな」
 まぁ、言いたいことはわかった気がするわ。成り行きで部室に泊まったってことね。
 でも、なんであたしが鞄を取りに来た時に起きる必要があったのかしら?
 別に寝てたって構わないはず……。
 ますますわけがわからなくなってきたわね。……どうでもいいかな。鞄もちゃんとあったんだし。
 あたしが鞄を回収し、立ち上がろうとした時、またキョンの声が聞こえてきた。
「お前を待っていた理由は、とびっきりベタだ。出来るだけ早くに伝えたかったんだよ……好きだ、って」
「え……」
 あたしは腕を引っ張られ、キョンの胸に飛び込む形になった。
 それより今、「好き」って言われたわよね? 聞き間違いだった?
「何ボーッとしてんだ。さらにベタな展開を求めてるんなら、その通りにしてやる」
 頭を後ろから押されて、唇を押しつけられた。キョンは目を瞑って、あたしは開いてる。
 あの時の夢の続きみたいだわ。っていうか、柔らかいわね……唇って。

 夢心地って言うのかしら? なんだか、ポーッとして何も考えらんない。
 ずっと……このままでいたいな……。
 キョンと二人で……。


 一瞬、世界が回ったような気がしたあと、あたしとキョンはあの世界にいた。
 まさか……また夢だっていうの?
 ううん、絶対に違う。あたしが抱き締めるキョンの体は本物の感触。
 じゃあ、この世界は何? どうして、外が真っ暗でどっかの部活の朝練の声が聞こえないの?
「ねぇ、キョン……何ここ? どうしてあたし達、こんな所にいるの?」
 不安な気持ちを押し殺し、あたしはキョンに尋ねた。どうしてかわからないけど、キョンが何か知ってるような気がしたから。
「ふぅ……。ハルヒ、多分な、この世界は俺達二人きりだ。いや、間違いなく、な」
 やっぱり、キョンは何か知ってる……? ううん、今はそんなのどうでもいい。
「みくるちゃんは? 有希は? 古泉くんは?」
「……みんないないはずだ」
 そんな……そんなわけないじゃない! ここは学校よ!? 少し時間が経てばみんな来るのよね!?
 キョンは答えず、あたしを軽く抱いて溜息をついた。あたしはキョンに抱かれたまま、ボーッとしていた。
 みんなに会えない? そんなわけないじゃない! 暗くたって、この世には太陽って物があるの!
 絶対に明るくなるんだから! ……そう信じたいわ。
 でも、そんなことを考えてると逆に不安になってくる。あたしだっていつも強気を装ってるけど、まだティーンエイジの女の子なのよ?
 そりゃ、弱いに決まってるわよ。いつもの態度は、そんな自分を隠すための殻。

「あたしが、ずっとキョンと二人きりでいたいなんて思ったから……こんなことに……」
 不意にそんな言葉が口をついて出てきた。
「何を言ってんだ、そんなわけないだろ。そんなことが出来たら、お前は探索なんてしないだろ」
 だって……さっきは二人きりで幸せだったのよ!? ずっとこのままでいたいって思った!
 そう思った直後だったから……ごめん。あたしらしくなかったわ。
 そう、自分の責任にしても無駄。あたしはSOS団の団長だけど、何の力も無いただの一般人なんだもん。
 そんな、あたしが思ったくらいで世界は変わりゃしないわ。
 その時、あたしの頭のちょっと上から声が降ってきた。
「ハルヒ……帰りたいか? みんなと会いたいのか?」
 このままここにいれば、キョンとずっと二人っきり。帰れるかわからないけど、帰ったら二人の時間は長くは取れない。
 あたしはどっちが幸せ? キョンとみんなを巻き込んで暴れるのと、二人っきりで愛を育むの。
 ……二人じゃ、物足りないわね。みくるちゃんをいじめて、有希を引っ張って、古泉くんに手伝ってもらう。
 これが無いと、キョンといても楽しさが半減するわ。
「出来るなら……帰りたいわ」
「じゃあ、目を瞑ってそう強く思ってみろ。俺が魔法をかけてやる」
 真面目な顔でそんなことをサラッと言うキョンを見て、思わず噴き出した。
「ぷっ……くくく……あんた、魔法遣いだったのね。知らなかったわ」
「まぁな。バレたら魔女狩りで殺されちまうからな」
 いいわ、信じてあげる。夢から醒めたら……そうね、朝ご飯を奢ってあげるわ。
 あたしは半信半疑で目を瞑った。これがキョンの気休めで、目を開けてもこのままでも言ってあげようかしら。
『ありがとう』って。
 そして、あたしはキョンに今日二度目、生涯三度目のキスをされた……。


最終部へつづく
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