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『ハルヒ……俺、ずっと前からお前のことが……』
 あ、あたし……も。
『目、瞑れよ……ハルヒ。力を抜いて……な?』
 うん……。


 ……うわぁっ! なんて夢を見てんのよあたしはっ!
 キョンが出てきただけならまだしも、夢の中とはいえ何してんのよっ! キスなんて……あたしのバカッ!
 そんな夢からあたしの1日は始まった。昨日、中途半端な気持ちを変えるために発した言葉。
『あたしはキョンが好き! それでいいわ!』
 この言葉のせいかしら。わけのわからない夢を見たのは。
 これがあたしの願望だっていうの? まさか! そんなはずは……無いとは言えないけど……。
 それでも! あたしは今の生活に満足してるの。変えたくないのよ!
 あぁもう! 朝から気分悪いわね……って、もうこんな時間!?
 学校行かなきゃ! ご飯食べる時間……より、髪とか整えなくちゃ!
 あたしは朝ご飯を食べる時間を削って身だしなみを整え、鞄を持って家を出て走り出した。
 全部、キョンとみくるちゃんのせいね。二人とも罰ゲームにしてやるわ!
 頭の中に罰ゲームを考えつつ学校へと向かい、遅刻ギリギリで教室に入ると、夢で見た男の後ろに座った。
 バカキョン、呑気な顔して……。どんな罰ゲームを与えてやろうかしら?
「よう、ハルヒ。珍しく遅かったな」
 あたしが遅くちゃ悪いって言うの? 悪夢を見たのよ、悪夢を!
「そうか。そりゃ災難だったな」
 災難を与えたのはどこの誰よ! まったくムカつくわね、朝から何も考えてないようなバカ面しちゃって。
 なんであたしはこんなのを好きになったのよ。顔……普通。成績……悪い。運動神経……普通。

 平凡に次ぐ平凡さ。まともなのは性格くらい? 性格も悪いじゃないのよ。
 良い所まるで無し。妹ちゃんがかわいいくらい。成績表で言うならオール2ね。
 じゃあなんで? 崇高なる団長のこのあたしが、雑用クラスの団員その1なんかを好きだっていうのは何故?
 くやしいけど、好きだっていうのは認めてあげようじゃない。じゃあ、どこに惹かれたかが問題よ。
 ……全っ然わかんない! 古泉くんの方が百倍いい男よね。性格も、顔も。
 そもそも! なんであたしがこいつなんかのために悩まなくちゃなんないのよ!
 あーもう! やめやめ! 授業はなんだっていいから寝るわ!
 重ねた両腕の上に顎を乗せて、しばらくキョンの背中を見てた後、ゆっくりと目を瞑った。
 岡部の入ってくる音、みんなが立ち上がる音、全てを無視して、あたしは暗闇の中に居座った。
 このまま深い眠りについて、昼ご飯前まで起きなかったら最高ね……。
「おい!」
 うるっさいわね……無視よ、無視!
「おい、ハルヒ!」
 なによ、バカキョン! 人が気持ちよく寝てるのに起こすんじゃないわよ!
「移動教室だ」
「……へ?」
 辺りを見渡すと、あたしとキョンの二人だけになってた。それどころか、授業が始まって10分が経ってる。
 そんなに長い時間を寝たつもりはなかったのに……。それより、なんでもっと早く起こさなかったのよ!
「無防備な団長様の寝顔、なかなか良いもんだったぞ」
 キョンの手に握られた携帯には、あたしの顔が写っていた。へー……あたしってこんな顔で寝てたのね。
 ……じゃないっ! さっさとその携帯を渡すか画像を消すかしなさいっ!
「何言ってんだ。ほら、さっさと授業に行くぞ。俺も一緒に怒られてやるから」

 なんなのよ、このバカは。優しかったり、ふざけたり……。なによ、その笑顔は。
 なんで最近あたしに対して強気なのよ。
 言いたいことはたくさんある。たくさんあるけど……。
「早くしないと置いてくわよ、キョン!」
 今は何を言うより、一緒にいたい。……違うわね、いてあげる。
「やれやれ。今まで寝てた奴が仕切るなってんだ」
 文句を言うキョンの腕を掴んで、移動を始めた。去年は腕を掴むのもなんともなかったのにね。
 今はドキドキしちゃったりしてるわ。まさか、聞こえたりしないわよね?
 まぁ、どーせキョンからすれば、いつものあたしと変わらないのよ。
 ただ、強引でうるさくてメチャクチャなことを言う涼宮ハルヒって思ってるはず。
 あたしだってね、自分でわかっちゃいるのよ。人に好かれるようなことはしてないって。
 でも、普通じゃダメなのよ。やっぱりあたしが求めるのは、特別で刺激のある生活なの。
 だから、いまさらキョンに好かれるような性格に変わろうなんて思わないわ。
 有りのままでいい。この性格でフラれたらしょうがないわ。……って、ちょっと待った。
 フラれたら……って、あたしもしかして告白するなんて考えちゃった?
 ダメよダメ! あたしは告白される側の人間よ? いや、自分で言うのもなんだけどさ……。
「ハルヒ、何処まで行く気だ? 授業はここだぞ」
 3歩程、教室を過ぎた所であたしはキョンに止められた。最近、考えごとが多いわね。しっかりしなくちゃ。
 キョンと同時に教室に入ると、クラスの人間からは妙な目で見られ、教師には止められた。
 まぁ、昔のイメージが残ってるみたいだし、こういう場合の対処法は心得てるわ。

 生徒達に一睨み、教師に一睨みして、あたしは席についた。
 キョンには悪いけど、あたしだけは無罪放免でいかせてもらうわね。
 そして、キョンが怒られてる様を窓の外を見ながら、耳だけで聞いていた。
 あたしの寝顔を勝手に撮った罰よ。まったく……お金も取ろうかしら? 肖像権とか言ってさ。
 それから授業も終わり、元の教室に戻るとすぐにあたしは眠りについた。今度こそ、昼ご飯まで誰も来るんじゃないわよ……。


「ハルヒ。……ハルヒ! おい、ハルヒ!」
 なによキョン……。もうお昼の時間?
「あぁ。あまりにも熟睡してるから起こさないどこうとも思ったけどな」
 時計を見ると、昼休みが始まった直後。さすがに今回は「寝顔が……」なんてバカなことは言わなかったみたいね。
 とりあえず、今はそんなことどうでもいいわ。さっさとお昼を食べに行かないと。
 財布を持って立ち上がろうとした。財布を……財布を……無い!?
 まさか、朝からは急いでたから財布を忘れたっていうの? あたしとしたことが……。
 こうなったら借りるしかないわね。場合によっては踏み倒しも有りで。
 キョン! 財布忘れたからお金貸しなさい!
「無理だな。ほら」
 キョンの開いた財布には、30円くらいしか入っていなかった。そんな財布を持ってくるんじゃないわよ!
 じゃあ、谷口!
「勘弁しろよ。お前に貸したら返ってきそうにない」
 む……なかなか鋭い。じゃあ、国木田!
「ダメだよ。参考書買わなくちゃいけないから」
 揃いも揃って使えない奴等ね……。あ、もうダメ。今日は休みにして帰って食べるしかないわね。
 諦めて、あたしはまた机に突っ伏した。人以上に食べるあたしにとって、空腹との格闘は辛い。

 あぅ……やっぱり、早退しようかしら? ちょっと限界かも、朝ご飯も食べてないし。
「ほら、大丈夫かハルヒ」
 ペシペシと何かで叩かれて、あたしは顔を上げた。……千円札?
「俺が谷口から借りて、お前に貸す。これなら問題はないだろ、谷口」
「おーおー、お熱いことだ。ちゃんと返ってくりゃ、もう何も言わねえよ」
「ということだ。ほら」
 千円を手渡され、キョンは谷口達との会話に戻っていった。また優しい……。
 この優しさは気紛れ? うれしいんだけどさ。マズい、ドキドキする。
 もう、中途半端に優しくしないでよバカ! うー……とりあえず昼ご飯!
 学食に向けて、あたしは走り出した。お腹いっぱい食べてやるんだから!

 食事を済ませ、午後の授業もあたしは睡眠で過ごした。だって、お腹いっぱいになったら眠くなるじゃない。
 そして、どれくらい経ったかわからないけど、あたしを現実世界に連れ戻したのは、またもこの声だった。
「ハルヒ、団活の時間だ。掃除の邪魔になるし早く行くぞ」
 はいはい、わかってるわよ。今日はなんだかあんたに引きずり回されてるみたい。
 やっぱり主導権はあたしが持っとかなくちゃ。調子に乗らせちゃ団長の威厳が無くなるからね。
「あんたが仕切るな! いい、キョン……あたしについてきなさいっ!」
 うん! やっぱりこうでなくちゃね! あたしが前でキョンが後ろ。
 これが主従関係よ! あたしは絶対に何者にも屈しないわ!
 気分の良くなったあたしの後ろを渋々とキョンが歩き、部室に入った。
「ひえぇっ、す、涼宮さんとキョンくん……こ、こんにちは……」

 出迎えてくれたのは、有希、古泉くんと、笑顔じゃなくてガタガタと震えてるみくるちゃん。そういえばこの子、昨日なめたことをしてくれたわね……。
 ふふふ……みくるちゃん、お着替えの時間よ。覚悟は出来てるわね?
「ひえぇ~、ごごごごめんなさいぃっ!」
 許すわけないじゃない! ほらほらさっさと脱ぎなさーい!
 目の前のみくるちゃんを脱がしつつ、視界の端に部室を出る男二人を確認して、みくるちゃんを離してやった。
 今からやるのは着替えじゃないわ。女の子の秘密の話し合いよ。
 さてと……みくるちゃん、昨日の話はほんとなの?
「ふぇ? あ、あれは……えっと……その……」
 なぜか口ごもるみくるちゃんを庇うように、有希が口を開いてきた。
「わたしは彼が好き。あなたは?」
 え? 有希、あんた何言ってんのよ! 有希が……?
「もう一度言う。わたしは彼が好き。あなたは?」
 ……嫌いじゃないわよ。
「わたしは『好き』。あなたは『嫌いじゃない』。わたしの勝ち。わたしが彼をもらう」
 あー……落ち着いて、落ち着くのよ、あたし。まず、有希がこんな性格だとは思わなかったわ。
 ただの無口キャラかと思ってたら、まさかこんなことを言い出すとはね。
 しかも、表情からして本気。……いつもと変わらない顔なんだけどね。
 そして、キョンが好きだってのはわかるわ。誰を好きになるかは人の勝手よ。
 あたしだって恋愛は精神病なんて言ってるくせに、キョンを好きになってるもの。
 ……ただ、最後のは何?
『好き』と『嫌いじゃない』であたしの負け? キョンは有希がもらう?
「ダメ! あたしだって……く、悔しいけどキョンが好きなのよ!」

 うわ……どこの恋愛小説よ。漫画とか映画みたいなワンシーンじゃない。……っていうか、外にキョンがいるんじゃないのよ!
 あたしは急いでドアを開いた。……けど、古泉くんとキョンはどこにも見当たらなかった。
「彼らには遠くに言ってもらうように指示をしていた」
 背後から聞こえる有希の声。……なんですって?
「これは、あなたの本音を聞き出す作戦。みんな、あなたの煮え切らない態度にイライラしていた」
 な、な……なによそれ!? みんなしてあたしを、団長のこのあたしを嵌めたの?
「簡単に言うと、そう。……でも、これであなたの気持ちはわかった。後は告白するだけ」
「ごめんなさい、涼宮さん。実はわたしの昨日の話も嘘で……あ、全部古泉くんの計画ですからね?」
 ふふふふふ……みんなには後できっつい罰ゲームをくれてやろうかしら。あたしはね、人に謀られるのは大っ嫌いなの。
 だからね、いくら冗談だからって許しはしないわ。
 あたしはその場でみくるちゃんと有希を脱がし、みくるちゃんをバニーガール、有希をナースへと変身させた。
「すすす涼宮さん……? こんな格好にして、いいいったい何させる気なんですかぁ?」
 黙りなさい。二人が帰って来るまで大人しくしてなさい。
「ひ、ひえぇ……」
 青ざめながらチョコンと椅子に座るみくるちゃんと、着替えさせたのが意味無いくらい落ち着いて本を読む有希を眺めて二人を待った。
 そろそろ……かしらね。
――ガチャ――
「朝比奈さ……」
 この状況を見たら普通は絶句よね。有希まで着替えちゃってるわけだし。
 あたしは古泉くんに視線を合わせ、可能な限り冷酷な顔で微笑んだ。
 さぁ、罰ゲームの時間よ。

「古泉くん、あなたにはお菓子の買い出しに行ってもらうわ。もちろん自腹で」
 特に食べたいわけでもないけどね。
「……わかりました、しょうがないでしょう」
 再び部室を出ようとした古泉くんを、あたしは呼び止めた。これだけじゃ、ただのパシりだからね。
「あなたの右手はみくるちゃん、左手は有希よ。3人で仲良く手を繋いで行ってちょうだいね」
 その瞬間、みくるちゃんと古泉くんの表情が固まったのがわかった。有希は……いつも通りね。
「おいおい……ハルヒ。それはあんまりじゃないか?」
 あんたも行く?
「……いーや、遠慮しておくよ」
 古泉くん、異論は?
「……仕方がありません」
 3人に手を繋がせて、その手をしっかりとテープで巻き付けた。これなら離せないわよね。
 カッコいい男の子がコスプレ美少女2人と手を繋いでお買い物。
 これじゃ罰ゲームにならないかも。まぁいいわ、さっさと行ってきなさい!
 3人が手を繋いで歩いて行く様を廊下まで見送り、あたしは部室に入った。
 ……実は、みんなを外に出したのはあたしの気持ちが決まったからなの。
 今、ここでキョンに告白する。
 ……え? 主導権はどうしたですって?
 そんなの関係無いわ。何がどうなってもあたしが上、キョンは下よ。
 たとえフラれちゃっても……ね。
 それにしても……タイミングを逃したわ。あたしは今、団長席でパソコン。キョンは柄に似合わない読書。
 二人きりっていう状況は相手を意識しちゃう。キョンは意識しないのかしら?
「……なぁ、ハルヒ」
 本を読んでいた視線がこっちに向いて、ちょうどあたしの視線とぶつかった。
「な、なによ」
「お前、あの3人に対して何を怒ってるんだ? 今回の仕打ちはひどくないか?」

 そういえば、キョンは何も知らないのよね。……あら、もしかしてこれってチャンス?
 この話からなら簡単に持って行けそうね、告白まで。
 あたしは悩むのは多いけど、やると決めたらやる女なんだから!
 椅子から立ち上がり、キョンの隣りの席に座る。いつもは前後だから違和感を感じるわね。
「なんだよ。何か気にさわることでも言ったか?」
 無視よ無視。次はキョンの顔をジーッと見つめてみようかしら。
 ……面白い顔よね。どこがってわけじゃないんだけどね、なんとなくよ。
「ほっとけ」
 あー……でも、もう結構な時間になるのよね。自己紹介でこのバカが振り向いた時からだから。
 なんでこんなのに惚れたのかしら? やっぱり思うのはいつからかってことよ。
 自己紹介……は無いわ。夢のキス? 野球大会? 夏合宿に夏休み? 映画撮影に文化祭? まさか、入院した時じゃないわよね?
「ハルヒ? いきなり黙りこんでどうし「好き」
 いろいろ考えていたら、頭の中が真っ白になって、こんな言葉が出てきた。
 告白の言葉、何個も考えたのに何も言えなくなっちゃった。
 かけがえのない思い出が、頭の中に走馬灯のように巡る。あたしって、こんな感情的な人間だったかしら?
「す、好きって……。おいおい、しかも涙ってなんだよ。全然似合わないぞ……」
 キョンが霞んで見える。涙を流したのも何年ぶりかしら? っていうか、あたしはなんで泣いてるのよ。
 もうダメ。何も考えらんない。
「あんたが……好き」
 あぁ……やっぱりダメ!
 あたしは部室を飛び出した。これ以上ここにいたら号泣しそうだったから。

 これを『感極まった』って言うのかしら? キョンとの思い出が頭を巡って涙が出る。それに連れて言葉が出なくなる。
 『感極まる』なんて初めてだわ。不思議な現象ね、今度調べてみようかしら?
 あたし、女々しい。強がっても所詮あたしは弱かったのよ。自分にイライラする。
 今の自分の行動全てがあたしのイライラを促進させてる。
 告白一つまともに出来ない女なんて、キョンが好きになってくれるはずないよね……。
 あーあ、鞄忘れちゃった。……いいわ、明日の朝一番に取りに行こう。
 とりあえず、落ち着くために帰って寝ようかしら。
 どうしてかわからないけど、あたしって眠るとイライラがスッキリしたりして、妙に落ち着くのよ。……帰ろ。
 学校内も坂道も通学路も全てを走り抜けて、あたしは家に帰り自分の部屋に駆け込んだ。
 着替えもしないで制服のまま布団を被って、あたしは目を閉じた。
「今日だけは……幸せな夢、見たいな」
 ……あはは、普通の女の子みたい……。


3部へつづく
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