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はぁ……何かしら。ダルいわね。顔が熱くてポーッとする。
 全部、こいつが来てからね。朝は特に何もなかったのに。……あー、イライラするわ! ペンでつついてやる!
「痛ぇ! 何しやがる!」
 ちょっとした憂さ晴らしよ。
「人に迷惑をかけるような憂さ晴らしはするな。わかったか?」
 顔が近い。あ、また熱くなってきた。……まさか、このバカキョン、風邪ひいてるとかじゃないわよね?
 バカは風邪ひかないからそれは無いと思うけど。……まぁ、いいわ。
 今日はずっと眠って過ごそう。そうすれば放課後までには治るわよね?
 キョンの言葉を無視しながら、あたしは顔を伏せた。もう……なによ。


 放課後になっても取れない顔の熱。これは病気かもしれないわね……。
 あたしは部室へと歩を進めていた。キョンは掃除当番だから、今は一人。
 そして、あたしが普通にドアを開けると、古泉くんだけがそこにいた。
「おや、元気がありませんね。どうなされました?」
 あたしの体調を気にかけてくれるなんて、さすが古泉くんね。わかってるじゃない。

「実はね、顔が熱くてポーッとするのよ。測っても熱は無いみたいだから病気じゃないとは思うけど……」
 古泉くんは少し考えたあと、表情を崩して再び質問をしてきた。
「昨日の夜、何をしていましたか?」
 ……何の関係があるのかしら? 古泉くんなら頼りになるし、答えないわけにはいかないけど。
「昨日はドラマを見て、お風呂に入って、課題を終わらせて寝たわ」
 ドラマ……ベタベタの恋愛物だったわ。昨日の山場は鈍感な男が女の気持ちに気付く所だったわね。
 あたしが気に入らないのは、最近の高校生に大人気だって所ね。周りと同じ物を見てるってのが嫌。
 それでも、なんでかわからないけど見ちゃうのよね……。
「わかりましたよ、涼宮さん。あなたはそのドラマに憧れています」
 へ? そんな訳ないでしょ。あれは作り物なのよ?
「その作り物の物語と自分の境遇を照らし合わせたのでしょう。そしたら、ピッタリだった。
 あなたの気持ちに気付かない、どっかの鈍感な男の人がいる。それに気付いてしまった」
 ……古泉くん、回りくどい言い方はしないで。あたしはね、今は何故か頭が回らないの。
「これは失敬。単刀直入に申しますと、あなたは彼に恋心を抱いている。それに気付いてしまった。
 それを必死で否定しているから顔が熱いと感じる。一種の知恵熱ですよ」
 そ、そんなわけ……無いじゃない! なんであたしがキョンを好きにならなきゃいけないのよ!
 そうよ、あたしがキョンを好きになるなんてあり得ないわ。恋愛なんて精神病よ。
 そんな物にかまけてたら、不思議だって去って行くわ。きっとそうに違いない。

 だから、あたしに限って絶対にキョンが好きなんてあり得ない!
「じゃあ、試してみましょう。彼を大嫌いだと言葉にしてみてください」
 古泉くんはあたしをバカにして遊んでるのかしら?
「か、簡単よ! キョンのことなんて大っ……?」
 口が……声が出ない? 何でよ。そんな、超能力でも使われない限り、物理的にあり得ないわ。
「……コホン。キョンのことなんて大っ……」
 なんでなんでなんで!? なんで声が出ないのよ! まさか、宇宙人の策略!?
「ふふふ……、本当に好きなら、嫌いだなんて言葉には出来ないものですよ。誰だってそうです」
 嘘……あたしがキョンを? あり得ないわよ。そりゃね、夢の中であんなことしたわよ。
 あいつが死にかけた時も泊まり込んだりしちゃったわよ。でもね、それは団長としてよ。
 別に、好きだなんて微塵も……。
「どうやら悩ませたみたいですね、すみません。僕はアルバイトがあるのでこれで。……あぁ、朝比奈さんと長門さんも来れないと言っていましたよ」
 古泉くんは鞄を抱えて、部室を後にした。この部室に、あたし一人。
 椅子に座って、膝を抱えて悩んでみる。あたしがキョンを好き? 認めないわよ。事実でもないし。
「キョンが……好き」
 簡単に言える。
「キョンが……」
 嫌いっていう言葉が出ない。なんで? まさか、本当に好きだっていうの?
 あたしは恋愛なんてしないって思ってたのも勘違い? ……全部わかんない。
――コンコン――
 ノックの音が聞こえる。古泉くんは帰ったから……キョン!?
――ガチャ――
「あれ、ハルヒだけか? みんな帰ったのか……って、なんで今ごろパソコンを立ち上げてるんだよ」

 咄嗟にパソコンをつけたのはいいけど……起動までに時間がかかるじゃない! あたしはバカ!?
「ちょ、ちょっと調べものがあるから立ち上げたのよ、悪い!?」
「いや、悪くはないけどな。早く終わらせろよ、待っとくから」
「へ?」
「一緒に帰るだろ? 早くしろよ」
 そ、そうよね。いつも途中までは一緒に帰るじゃない。あたしは何を意識してるのよ。
 キョンなんかに心を乱されちゃダメ。あたしは崇高にして不可侵なSOS団の団長なんだから。
 とりあえず今日は……帰りましょう。家に帰ってお風呂に入って全てを洗い流すのよ!
 あたしは立ち上げたばかりのパソコンの電源をすぐに落として、キョンに声をかけた。
「キョン、帰るわよ!」
「調べものはいいのかよ……。まったく、わけのわからない団長様だ」
 その通りね。今日のあたしはわけがわからないわ。一刻も早く元のあたしに戻らないと、みんなに迷惑をかけるわね。
 団長がおかしかったら団は成り立たないんだから。


 キョンと一緒に途中まで帰った後、家についてからみくるちゃんから電話がかかってきた。
「あの~……す、涼宮さんですかぁ?」
 あたしの携帯だからあたし以外出るわけないじゃない。
「そ、それもそうですよね! ごめんなさい……」
 ふふふ、電話の向こうでみくるちゃんが情けない顔をしてるのが頭に浮かぶわ。やっぱりみくるちゃんはいいわね。
 っていうか、話はなんなのよ。珍しく電話なんてかけてきちゃって。
「あ、はい。え~と……お、おお男の人の温もりっていいですよね!? じ、実は、今日告白されちゃって……だだだ抱き締められちゃいました!」

 いきなり何を言い出すのよ、この子は。……ってちょっと! どこのバカよ、あたしの許可を得らずにみくるちゃんに手を出す男は!
「あ、あの……悪く言わないでくださいよぅ。わたしの……その……彼氏、なんですよ……」
 部室に来なかったと思ったら、どこぞの妙な男とイチャイチャしてたって言うの!? 信じらんない……。
「えっと……じ、自分の気持ちに素直になると楽しいことばっかりですよ?」
 ……みくるちゃん、あんた罰ゲームだから。あたしを本気で怒らせたからね。
「ひぃっ! すすすすいません! で、でもキョンくんへの気持ちに素直になってくださいね、わたし応援してます!」
 なんでキョンが出てくるのよ! いい加減にしなさいっ!
「えぇっ!? す、涼宮さんはキョンくんのことが好きじゃなかったんですかぁ!? ずっとそう思ってたんですけど……」
 ば、バカ言いなさい! あたしはね……。
「うんと……あ、そろそろ時間なのでおやすみなさい! しっかりと自分の気持ちを考えくださいね」
 ちょ、ちょっと……。
――プツッ――
 音がして、電話が切れた。なんなのよ……もう!
 絶対にいじめてやるわ! みくるちゃんが泣いて謝っても絶対に許さないくらい!
 ……男の人の温もり、ねぇ。そういえば、あの時のキョンの唇は温かかったかも。夢だったけどさ。
 なんでだろ、男の人って聞いてあいつの顔が出てくるのは。
 知り合ってからの時間は谷口の方が長いし、頼りになると思うのは古泉くんの方。
 だけど、なんでキョンなのよ。夢でキスなんかされちゃったから? 頼りにならなくて、あたしの母性本能が働いちゃうから?
 違うわね。……やっぱり、好きなのかしら。

『自分の気持ちに正直に』なんて言われても、それがわからないのよ。
 でも……キョンが起きなかった三日間、心配だったけど少しうれしかったのよね。
 ずっと一緒にいれたことが。喋れなかったのは辛かったけどさ。
 ずっと一緒にいたいって思うことは好きと同義なのかしら? それなら……。
 ウダウダ悩むのは性に合わない! もうはっきりさせようじゃない!
「あたしはキョンが好き! それでいいわ! 寝る!」
 誰にでもなく口に出して、あたしは布団を被った。そう思うだけじゃ何も変わりゃしないわよ!
 明日からもいつも通りするわ。手始めにみくるちゃんをいじめるわよ!


~みくるの電話の真相~


 うんと……あ、そろそろ時間なのでおやすみなさい! しっかりと自分の気持ちを考えくださいね。
「ちょ、ちょっと……」
――プツッ――
 電話……切っちゃいましたけど、これでいいんですよね?
「はい、ありがとうございました」
 でも、古泉くん。わたし……明日涼宮さんに……。た、助けてくださいよ? 嘘をつかせたのは古泉くんですからね?
「わかってますよ。これも、涼宮さんに彼への気持ちを自覚させるためですから」
 ほ、ほんとにわかってますかぁ? わたしが明日いじめられるって言われたんですよ?
「ふふふ、どうにかなりますよ。それでは今日はこの辺で。また明日」
 古泉くんは黒塗りの車に乗って行っちゃいました。
 ほんとに助けてくれるのかなぁ? 心配だなぁ。なんだか、返事を濁してたみたいだし……。
 演技とはいえ、涼宮さんにあんなこと言っちゃったんだもん。規定事項だってことで諦めよう……。
 それにしても……涼宮さん、頑張って幸せになって欲しいなぁ。わたしも、出来る限り応援しようっと。


2部へつづく

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