ハルヒのおかげかそうでないのか、俺は無事進級できたわけだ
いや、ハルヒがやけにうれしそうに俺に勉強を教えてくれたおかげなのかもな
三月のホワイトデーという難関も無事に突破し、春休みの半分以上はSOS団活動で
終わった。

 

新学期、幸か不幸か俺はまたハルヒと同じクラスになり、席も相変わらずだ
まあ他の面子にはあまり変わりが無く、俺も少しほっとしたわけだ
俺たちは今二年生なわけで当然、新入生も入ってきた
俺は新入生を見て、俺もあんな初々しかったのかな、などと感慨にふけり
でも実際は一年しか経っていないわけで、新入生とあまり変わっていないのだと思う
ハルヒは新入生の調査で忙しいらしく、新学期が始まって一週間はまともに部室には来なかった
またとんでも属性の人を連れてこないのか若干ひやひやしてたが
そんなことはなく結局ハルヒは誰も連れてくることはなかった
もし仮にハルヒがまた変なやつを連れてきても、俺は甘んじてそれを受け入れるがな
そしてSOS団のメンバーに変わりはなく、この五人で活動している
活動と言っても、特に何もしてないのだが

 

 

今は五月、一年生が学校に慣れてきて少々うるさい時期である
俺はそんなことは気にせず、いつもどおりの生活を送っていた
ちょっと刺激が足りない気がするが、ナイフを持った女子に追い掛け回されたり
でかい虫に追いかけられたり、そんなことはもう勘弁してもらいたいからな
今に、ハルヒがまたドアを破るように開け厄介ごとを持って来るさ
今の俺にはそれくらいがちょうどいいのさ

 

 

しかしここ最近ハルヒの様子がおかしい
おかしいと言っても何がおかしいのかよくわからない
授業中は俺を突いてくるし、休み時間になると教室からいなくなる
行動自体はなんら普段と変わりないのだが、おかしい
そのことに気づいてから一週間が経ち、俺は少し心配していた
他の団員は気づいてないのだろうかと思い、あまり気が進まんが古泉あたりに聞いてみよう

 

 

「なあ古泉」
「なんですか」
「ここ最近ハルヒの様子がおかしくないか?」
「おかしいとは、どのようにおかしいんですか?」
「いやうまく説明できないんだが、なんとなくな」
「また何か良からぬ企画を練ってるんじゃないですか?」
「まあそういうことならいいんだが、なんか違う気がするんだよ」
「しかし僕から見た限りいつもの涼宮さんに見受けられましたけど」
「俺の勘違いならそれでいいんだ」
「あなたにしては珍しく涼宮さんの心配ですか?ですが機関からも何も報告は来てませんし
 特に何もないと思いますよ」
「そうか」

 

 

俺の勘違いなのか?だがまだ疑念は拭えない
手っ取り早く長門に聞くとするか、あいつならずばり答えてくれるだろうし

 

 

「長門」
「なに」
「ここ最近ハルヒの様子がおかしくないか?」
「……質問の意図が理解しかねる」
「だからなんていうか、最近どことなくいつもと違くないか?」
「涼宮ハルヒからは異常は感知していない」
「そうか」

 

 

長門がこう言うんだからそうだとは思うんだが
多分同じ答えが返ってくるだろうけど、朝比奈さんにも聞いてみるか

 

 

「朝比奈さん」
「なんでしょう」
「最近ハルヒを見てて、なにか様子がおかしいと感じませんでしたか?」
「え?特に何もおかしいところはなかったと思いますよ。涼宮さんと何かあったんですか?」
「あ、いえ何もないですよ。俺の勘違いでしょう」
「ふふっ変なキョン君」

 

 

期待はしてなかったが同じ答えが返ってきたか
三人とも何も感じないのか?俺にはなんか無理に明るく振舞ってるように見えるんだが
直接聞いてみるか

 

 

次の日
掃除を終わらせた俺はいつものように部室に行った
珍しいこともあるもんだ、部室にはハルヒしかいなかった

 

 

「あれ?ハルヒだけか」
「あたしだけじゃ不都合があるって言うの?」
「いやむしろ好都合だ」
「へ?」
「いや、それより他の連中はどうしたんだ」
「え?ああ有希はコンピ研に行って、みくるちゃんは進路相談、古泉君はなんか急にバイトとか言って帰ってわ。みんな怠けすぎよ、SOS団を第一に考えるべきだわ」
今更、SOS団が最優先事項になったのは初耳だがあえてつっこまないでおこう
「そうか」
「そうよ。そこんところ今度みんなに教えないとだめね」
「ああ、そうしてくれ」
「……あんた、今日はやけに素直じゃない頭でも打ったの?」
「どこも打ってないし、どこもおかしくなってない」
「そう。変な日もあるわね」
と言いパソコンをいじり始めた
「じゃあ帰ろうぜ。みんな時間かかるみたいだしさ」
「あんたまでサボろうとしてるわけ、そんなの認めるわけないじゃない」
「頼むよ。今日だけ、な?」
両手を合わせ頼んでみる
「…仕方ないわね。今日だけよ、そのかわり帰りに何かおごりなさいよ」
「はいはい」
ハルヒは部室のドアに張り紙をして、俺たちは帰ることになったのだが
どう切り出せばいいんだ?『悩みでもあるのか?』こんな直接聞くのもおかしいよな
でも聞かないでイライラするより聞いたほうがいいだろう

 

 

帰り道
坂を下りながら
「なあハルヒ」
「なによ」
「最近悩み事でもあるのか?」
いきなり立ち止まりやがった、またゆっくりと歩き出し
「何でそんなふうに思ったの?」
「なんとなくだが、ここ最近ハルヒと接してて違和感を覚えてな、いつも通りと言われればそうなんだが、なんか引っかかってな」
「……」
この三点リーダはハルヒのだ。俺はさらに続ける
「なんか、無理に元気出して振舞ってるように見えたんだ。いや俺の勘違いならそれでいいんだ」
「……」
否定も肯定もないハルヒを見るのは初めてだが、やっぱりなにかあるんじゃねーか
「悩みがあるなら話してみろよ。話ならいくらでも聞いてやるぞ」
「……」
「無理に聞こうなんて思ってない、ハルヒが話したくないならそれでいい。男の俺に話しづらい事なら朝比奈さんや長門にでも話してみろよ」
「……」
「俺はいつでも話し聞いてやるから、俺に話して解決するかわかんねーけど、誰かに話したら少しでも気が楽になる事だってあるんだ」
「……」
「あんまり一人で抱え込むんじゃねーぞ。らしくないハルヒを見てるのはつらいんだ」
「……」
その後、俺たちは一言もしゃべらないまま坂を下りた
坂がおわった所でハルヒがようやく話してきた
「いつ気づいたの?」
「一週間か十日ぐらい前かな」
「そう」
「あたしこっちだから」
「あれ?奢らなくていいのか」
「今日は帰るわ」
「そうか」
「じゃあね」
そう言って歩いて帰っていった
そのときのハルヒの後姿はとても小さく見えた

 

 

そのまますっきりしないまま家に着き夕飯を食べ、俺にまとわりついてくる妹をスルーし、部屋に着いた
なんだか落ち着かん。何なんだこの感じは?
しかしこれ以上考えてもどうにもならん。話したくなったら話してくれるさ
そう思い、いつもより早くベッドに入った
明日は土曜日、不思議探索があるしな

 

 

深夜、俺もようやく眠りに入った頃に、電話があった
誰なんだこんな夜中に

 


着信 涼宮ハルヒ


いつもならあまり驚かない電話なんだが、昨日あんなこと言っちまったし
眠い目をこすりながらなるべく平静を装いながら電話に出た

 

「もしもし」
「起きてた?」
寝てたに決まってんじゃねーか何時だと思ってんだ、なんて言えるはずもなく
「ああ、なんとなく寝付けなくてな。どうしたんだ?こんな時間に」
「うん。その今日の帰りのことなんだけど」
「なんだそのことか、やっぱりなんか悩んでるのか?」
「そのことなんだけど、明日キョンの家に行っていい?」
おかしすぎる、こんなふうに言われるなんて数えるほどしかないぞ。いや、なかったか
「俺はかまわんが明日は不思議探索じゃなかったか?」
「そうだったんだけど明日は中止にするわ。ほかのみんなにはあたしから連絡しとくから」
「そっか」
「じゃあおやすみ」
「ああ」

 

 

話が終わり、携帯で時間を見てみた。2時15分
ハルヒはこんな時間まで起きてて、電話してきたのか
そういや何時に来るか聞いてなかったな、こんな時間まで起きてたんだ朝来ることはないだろう
話の内容が気になるがさすがに眠い、もう一眠りするか

 

 

翌朝
朝起きる気はこれっぽちもなかったが、いつも通り妹に起こされてしまった
「キョン君おきて、ハルにゃんが来てるよ」
「なに?今何時だ」
「8時だよ」
いくらなんでも早すぎんだろ
「ハルヒは今どこにいるんだ?」
「居間で待ってもらってるよ。早く起きてきてね」
なんだって?これはマズイ。色々とヤバイ。何がマズイかよくわからんが
俺は急いで服を着替えて、寝癖を直さないまま居間に向かった
幸運なことにそこには親の姿はなく、とてもほっとした
動揺を悟られぬように

 

 

「よう、ハルヒ」
「おはよう」

 

 

食卓テーブルに座りながら、お茶を飲んでるハルヒがいた
妹はニコニコしながら俺とハルヒを交互に見ている、何が面白いんだおまえは

 

 

「来るの早かったな」
「ごめんね。早く起きちゃったから」
初めて聞いたぞそんなセリフ、まさかここはもうすでに違う世界とか
ちょっと前の俺ならそんなことも疑うが、昨日のハルヒの様子からしてそうではないだろう
「いや、いいんだ」
こう言うのが精一杯である
「それより他のみんなにはもう連絡したのか?」
「もうしたわ。7時くらいに」
よく起きてたな、まあみんなは不思議探索あると思ってんだし起きてるか
それよりここにハルヒをおいとくわけにもいかんな
「ハルヒ、俺の部屋に行っててくれないか」
「わかったわ。じゃあ先に行ってるね」
「ああ」
ハルヒについていこうとする妹を捕まえ、今日は俺の部屋に入るなと何度も言い聞かせていた
「むぅ~わかったよ。キョン君のイジワル」
何とでも言ってくれ

 

 

俺は手早く寝癖を直し、パンを食べ、部屋に戻った
ノックしたほうがいいよな
「どうぞ」
床に正座で座り、窓の外を見ているハルヒがいた。何を見てるんだ?
「おそかったわね」
「そうか?」
「そうよ」
ハルヒの向かいに座り、テーブルの上に手を置き
「で、どうしたんだ?」
「昨日あんた言ってくれたでしょ?悩みがあるなら聞いてくれるって。本当は話す気なんかなかった。あんたに話してもどうしようもないことだから。でも、もうちょっと疲れたみたい、あんたに頼るなんて。」
「……」
「昨日の帰りに何も言わなかったのは、ビックリしたからなの。何で気づいたの?どこでばれたの?そう思って何も言えなかった。でも嬉しかったの。こういう時だからこそいつも通り明るく振舞おうとしてた。実際いつも通りにしてたと思うわ。でもキョンは気付いてくれた。それが嬉しかったの」
「……」
「だから話そうと思って来たの、あんたは今から言うことを黙って聞いてほしい。聞くだけでいい解決してほしいなんて思わないから」
「わかった。遠慮なく言ってくれ」
「うちの親、離婚しそうなの」
……それは悩むよな。そうか。
「二週間ぐらい前からなんかギクシャクしてたの。夫婦喧嘩なら今まで何回も見てきたけど今回はなんか違ったわ。その何日か後に家に帰ったら怒鳴り声が聞こえたの」
「お母さんがよく怒鳴ってるのは聞くけど、今回は二人そろってデカイ声出して喧嘩してた『おまえは何もわかってない』『あんたこそ何考えてるのかしら』そんなことを言ってたわいつもなら親父がすぐ謝るんだけど、今回それはなかったわ」
「夜になったらまた喧嘩しだすし、あたしも止めるんだけど、うまくいかなくて」
「喧嘩の原因を二人に聞いても、『母さんに聞いてくれ』『お父さんに聞いたら』なんて事しか言わないの。訳わかんないわよ」
「それで一昨日、お母さんが独り言みたいに『離婚しようかしら』なんて言うのよ。今までそんな事聞いた事ないからひどく悩んだの。ここ最近まともに寝てないし。昨日も」
「……そうか」
なんて言ってやればいいかわからない。今に仲直りするさ、こんな無責任な事言えんし
また俺はこんな事しか言えないのか。情けない
「そうよ」
おもむろにハルヒは立ち上がり、俺の横に座って俺の肩をつかみながら
「どうすればいいの?」
そう言って俺の肩を前後にゆすり始めた
涙を流しながら
「ねえ、教えてよ。どうすればいいのよ。教えなさいよ」
俺は下を向いて俯くことしか出来なかった
「どうっうぅすればっいいっの?」
ハルヒは俺の肩から手を離し、俺の胸で泣き始めた。ハルヒの手は俺の背中に回され俺の背中に爪を立ててしがみついている
「うっうっうっ」
声をあまり上げずに苦しみながら泣いているハルヒを見て、俺もとても苦しかった
ハルヒにロックされてない右手でハルヒの頭をそっと撫ぜてやる
これくらいしか出来なくてごめんな

 

 

何十分そうしていただろうか、背中にまわされた手の力が弱くなってる事に気がついた
泣き声も出していない。ハルヒの手をそっと離し顔を見てみる

 

 

寝てる

 

 

涙のあとがくっきりついた顔で寝てる。とても安心した顔で
寝てないって言ってたもんな。出来るだけ衝撃を与えないようにしてハルヒを抱き上げて俺のベットに寝させた
ハルヒを抱き上げてみてとても軽い事に気付いた。やっぱ女の子なんだよな

 

 

ハルヒは体を丸め、こちらを向きながら寝ている
これ以上ハルヒの寝顔を盗み見する趣味はないので、俺は自分の部屋を出て居間に向かった
連絡しときたい相手もいたしな。トイレに入り携帯を見てみる

 

 

着信あり 12件

 

 

やはりな。その内1件は朝比奈さん、残りは古泉
気持ちはわかるんだがちょっとかけすぎじゃないか
俺は着信履歴の三分の一以上を占めてる古泉の名を見て、気分が悪くなった
でも、かけてやるか
便器に座ったまま、古泉に電話した

 

 

「お待ちしてました」
おい、ワンコールで出るなよ。
「おまえに待たれてもうれしくないな」
「まあそう言わないでくださいよ。今朝、涼宮さんから電話がありまして、いきなり今日は中止だから、と言われまして。いつもならただの気まぐれだろうと思うんですけど、どこか様子がおかしかったものですから。あなたに連絡してみたんですけど」
「出なかった、か」
「そこで機関に連絡して、涼宮さんの事について色々調べさせてもらいました」
「あまりいい趣味とは言えんな」
「申し訳ございません。何分、あまりいい事態が起こってるとは思えなかったものですから。今涼宮さんはそちらにいらっしゃるんですよね?」
「俺の部屋で寝てる」
「そうですか」
「おまえはどこまで知ってるんだ?」
「ええ、涼宮さんのご両親の仲が最近あまりよくないことしかわかりませんでした」
「そうか。それで今大変なのか?閉鎖空間だかは」
「いえ、閉鎖空間は発生してませんよ」
「なんだと?」
あんなに不安げにしてたのにどうしてだ?
「あなたがこちらの心配をしてくれるのはうれしいですが、やはり何かあったんですか?」
「いや大丈夫だ。ハルヒが起きたら家まで送っていくよ」
「わかりました。少々心配したんですけどあなたがご一緒してるなら大丈夫そうですね。何かありましたら連絡ください」
「ああ」
「それとあんなに電話して申し訳ありませんでした。それではまた」

 

 

とは言ったものの、どうするべきか
古泉はあまり状況把握が出来てないみたいだし、あいつらしくない
朝比奈さんには今日あった事を伏せて電話しておいた。俺に話してくれたんだ、あまりベラベラしゃべるのはよくないよな
時計を見ると、もう4時を過ぎていた

 

 

そろそろ起きてるかな、そう思い部屋に戻った
まだ寝てるか、俺はベットによしかかり何か言ってやれることはないのか、必死に考えていた
でも他人が夫婦仲に入って、何か言うのもなあ
「はぁ」
何も思い浮かばん。これ以上考えても駄目だな
俺はいつも通り振舞うしかないな。ハルヒに余計な心配かけたくないし
それしかないな

 

 

色々と考えていたが『ガバッ』と音が聞こえるような勢いでハルヒが起きた

 

 

「ようやくお目覚めか」
ハルヒは俺を一瞥し周りをきょろきょろ見て
「あれ?あたし寝ちゃったの?」
「ああ、起こすのもかわいそうなくらいぐっすりな」
「そっか」
急に顔を真っ赤にして、俺から視線をはずした
「今何時?」
「8時ちょい過ぎだ」
「なんですって?……あたし何時間寝てたの?」
「8、9時間ぐらいじゃなのか?」
「そ、そんなに寝てたの?」
「ああ」
それから俺の方に向き直り、何かを決意したのか話し始めた
「今日は話を聞いてくれてありがとう」
なんと?聞いたことないぞそんな言葉
「あんたの言った通りね、全部話したらスッキリしたわ。もう涙が出ない位泣いたし」
「さっきはあんたに話しを聞いてくれるだけでいい、なんて言っといてあんなことしてごめ「そういえば他のみんなも心配してたぞ、いきなり不思議探索が中止になったから」
ハルヒが何を言おうとしてるかわかったから、わざと割り込ませた
これが今俺に出来ることさ、これ以上ハルヒの口からそんなこと言わせたくないからな
「……そっか」
「他のみんなには何も言ってないから心配すんな」
「うん」

 

 

それからしばらくの沈黙が続いた
「あーなんか久々に寝た気がするわ。スッキリしたらお腹へってきちゃった、今日何も食べてない
 もの。そろそろ家に帰るわ」
「そうか。じゃあ送ってくよ」
「いいわよ、そんなことしなくて。一人で帰れるわ」
「駄目だ」
「何が駄目なのよ、でもどうしてもって言うなら許可するわ」
「じゃあどうしてもだ」
「仕方ないわね、じゃあお願いするわ」
少し元気が出たみたいだな
それから家を出て、自転車で二人乗りしてハルヒの家へ向かった
最初の方、後ろに乗っているハルヒはどこも掴まないで黙って後ろに乗っていた
途中から俺の腰に手を回し、頭を背中に預けて、黙って乗っていた
俺はひたすらペダルを漕ぎ続けた
俺とハルヒは自転車に乗ってから、一言も話さなかった

 

 

30分ほど走っただろうか、ようやくハルヒが口を開いた

 

 

「この辺でいいわ。止めて」
「ああ」
「じゃあね」
そう言って走って帰っていった

 



帰り道、ハルヒは後ろに乗っていないのに足が重く、家まで1時間かかった
少し疲れたかな
家についてベットに倒れこむようにして横になり、テレビをつけた

 

もう12時か、そろそろ寝るか
そう思い寝ようとしたら、また電話があった
ハルヒからだった

 

 

「キョン、ちょっと聞いてよ」
随分うれしそうな声だな、いい事でもあったのか
「なんだ?何があったんだ」
「さっき家に着いたら、二人して抱き合ってるのよ。意味わかんないわよ」
「それでね、仲直りしたの?って聞いたのよ。そしたら二人して『喧嘩なんかしてたっけ』なんて言うのよ」
「こんなに悩んだあたしがバカみたいじゃない。でね、どうしても喧嘩の理由が知りたいからしつこく聞いてみたの。そしたら、あたしの進路のことで揉めてたみたいなの」
「進路?」
「そうよ。大学に行かせるだの、なんだのって揉めてたみたいなんだけど、あたしの好きにさせる事で決着がついたみたい。あたしそれを聞いてイライラを通り越して、あきれたわ」
「でも今後こんなことはごめんだから、二人に正座させて今まで説教してたわけ」
俺はハルヒが親に説教してる姿を想像して笑ってしまった。いや親は見たことないけど
「何笑ってんのよ。笑い事じゃないのよ」
「ああ、すまん。それよりおまえは親にまで説教するのか?」
「当たり前じゃない。そんなことに親も子供も関係ないわ」
「おまえらしいな。でもよかったじゃないか、仲直りしてくれて」
「そうね、安心したわ。それより明日、あんた暇?」
「おまえが俺の予定をきくなんて珍しいこともあったもんだな」
「そんなことはどうでもいいじゃない、どっちなのよ。暇なの?」
「暇だが」
「それならもっと素直にはじめから言いなさいよ」
「おまえにだけは、言われたくないね。それで明日なんかあるのか?」
「明日の昼12時にいつもの待ち合わせ場所に来て。じゃあおやすみ」
切りやがった、俺はまだハイもイイエも言っていない気がするのだが
しかし今日は何も文句はないね、良かったじゃないか
いつも通りのハルヒに戻って
俺は心底安心していた

 

 

「はぁよかった」

 

 

次の日
いつもより遅く起き、適当に身支度を済ませ家を出た
15分前には着くだろう、俺にとってはいつもより早めだ
なんとなく早く出たんだ、そこに深い意味などない

 

 

到着
そこにはハルヒしかいなかった、まあ予想はしていたが

 

 

「遅い、でも今日は罰金は無し」
「というか遅刻はしてないんだがな」
「いいからここに座んなさい」
そう言ってハルヒが座ってるベンチに座った
「今日は何なんだ?」
「昨日の話しに決まってんじゃない」
「もうあの話は終わったんじゃないのか?」
「詳しいことは全然話してないわ」
それからハルヒは昨日の出来事を話し始めた
ハルヒは怒りながら笑い、笑いながら怒り、などととても器用なことをしながら話していた
俺は適当に相槌を打っているだけで話は頭に入ってこなかった
とても安心していた、良かった元に戻って、今日はいつもよりさらに元気じゃないか
だが、ここで一生の不覚をしでかしてしまった
ハルヒは話を急にやめ、俺の顔を覗き込むようにして

 

 

「何で泣いてんの?」
「へ?」

 

 

驚いたことに俺の目からは涙が出ていたのである

 

 

「どうしたの?だいじょうぶ?」
「あ、ああ大丈夫だ」
目を軽くこすりながら、何で泣いてんだ俺、と思っていた
「どっか痛いの?」
「いやそういうんじゃない」
「でも、もう大丈夫なんだよね?」
「ああ」

 

 

少し話が途切れ、俺は恥ずかしいことを口にしていた

 

 

「たぶんな、たぶん安心したんだ。今日のハルヒを見て安心したんだ」
「え?」
「いつもの元気なハルヒが見れて、安心したんだ」
「そう、なの?」
「ああ、たぶんな」

 

 

「俺は昨日おまえに何も言ってやれなかった。おまえが苦しんでるのに気の利いたこと何も言えなかった。本当情けねーよ。昨日はごめんな」
「あんたバカじゃないの?」
「は?」
「あたしがあんたに話してどれだけ元気が出たと思ってんのよ。もしあんたに話してないで一人で抱え込んでたら、なんて考えるだけでぞっとするわ。あんたは黙って話しを聞いてくれた、真剣に、いつもなら変につっこむけど、そんなことなかったでしょ?」
「ああ」
「だからあたしに謝らないで。わかった?」
「わかった」
「よろしい」

 

 

「キョンにこの事、相談しなくてもこの問題は解決したと思うの。でもね今はあんたに話してよかったと思ってるの」
「どうしてだ?」
「わかんないの?」
「わからんからきくんだろうが」
「はぁ本当にあんたってあれよね」
「あれってなんだ?」
「教えるわけ無いでしょ」
そう言って勢いよく立ち上がり
「でも、あたし、とても大切なことに気付いたから、今回は辛かったけど、良かったわ」
「何に気付いたって?」
「だーかーら、教えるわけ無いでしょ」
俺の手を取り走り始めた。俺の好きな笑顔で

 

 

やれやれ

 

 

ハルヒが気付いた事は結局わからなかったが

 

 

今回、俺が気付いた事とハルヒが気付いたことが、同じであると

 

 

俺はそう願いたい

 

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最終更新:2020年03月13日 00:07