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パラレルワールズ

第二章 ミーティング

長門有希@キョンの世界からキョン@キョンの世界への通信:
本日。19:00、長門有希のマンションに集合されたし

長門有希@みくるの世界からみくる@みくるの世界への通信:
本日。19:00、長門有希のマンションに集合されたし

長門有希@古泉の世界から古泉@古泉の世界への通信:
本日。19:00、長門有希のマンションに......


事態の収拾は困難を極めていた。同時に動き出した5つのパラレルワールドはそれ自身の
慣性を持って自ら展開を始めていた。この状況をどう収束させるのか?とりあえず、
長門にできることは改変主達を一堂に会させて議論を戦わさせることくらいだった。

第一節 古泉一樹の場合[II]

「もしもし、長門さんですか?...」
永遠かと思われる程、長い呼び出し音の後(実際には1分ですら無かっただろう)、
ようやく長門が電話に出た。
「....。」
電話に出ても何か声を発するわけでは無いのだが。
「長門さん、事態を説明して頂けますか?理解しておられるのでしょう?」
「している」
や、助かった。長門が語ったのは衝撃の事実だった。
「現在、改変世界は5つ存在する。それぞれは...」
長門の説明が進むうち、古泉の顔面は徐々に蒼白になり始めた。予想をはるかに越えた
事態である。しかも、この事態の収拾にあたれる人間(改変があったことを実感している
人間)の数は、ごくわずかだ。改変世界は5つもあるというのに。
「で、長門さん、今、僕達がいるこの世界は?誰の願望の具現化ですか?」
そう尋ねながら古泉は嫌な予感がしていた。長門の解答は古泉の予感を裏打していた。
「それは...あなた」
さすがの長門も口ごもっていた。
「そうですか。では、これは僕の潜在的な願望と言うわけですか?」
「そう」
「驚きましたね。僕にこの様な願望があるとは全く気づきませんでした」
「あなたの願望は強く抑圧されている。意識下のもの。意識的にはむしろ、この状況に
嫌悪感を感じるはず」
まったくその通りだ。
「で、この事態を早急に収拾したいと思いますが。どうすれば?」
「各改変世界の改変主による合議が必要」
「どうすれば?」
「わたしのマンションの時空に穴をあける試みを続けている。成功すれば
全改変世界の改変主が一堂に会することが可能」
「それにはいつまで時間がかかりますか?」
「今日の夜。19:00くらいまでかかる」
「では、改変主達をそれぞれの世界の長門さんの部屋に招集して頂けますか?
各改変世界の長門さんに頼めば可能でしょう?」
「努力する」
「それでは、今日、19:00にマンションで」
さて、とりあえず、家に戻るとするか。懸案事項を片付ける必要がある。
家に戻ると彼は起きていた。
「ああ、戻って来たのか。早かったな」
と彼は近付いてこようとした。
「ちょっと待ってください」
「待つって何を?」
「お話したいことがあります」
「何だ?」
それから僕は長門さんから聞いたことをかいつまんで話して聞かせた。
「そんな話しを信じろと?」
「僕が嘘をいうことによってどういう利益があると思いますか?」
「遠回しの別れ話」
「誓いましょう。事態が収拾されれば、問題はなくなります。
どの様に収拾されるかはわかりません。僕がこの状況に違和感を
抱かなくなるのかも知れません。あるいは、あなたが僕に対する『興味』
を失うのかも知れません。これはけっして別れ話などではありません」
「どうやったら信じられる?」
「必要なら長門さんに電話してください。彼女が保証します。実際、僕も殆ど
長門さんから伺った話しですから」
彼は不満そうに携帯を取り出すと、僕の方を見ながら、携帯の履歴から長門さんの
電話番号を見つけ出すと、コールボタンを押した。が、僕が全く動じないのを、見ると
電話を切った。
「本当のようだな」
「はい。長門さんを煩わせる必要はありません」
「いつまで待てばいい?」
「おそらく、2、3日ではないかと」
「それまで俺はどうすればいい?」
「別に、何も。あなたと僕の特殊な関係を封印して頂ければ結構です。
今現在、僕はあなたに深い友情以外の愛情を抱くことは困難です。
それ以上の関係を強要されても、対応はできません」
彼はしばらく考えていたが、
「わかった」
と答えた。
「残念だよ、一樹。せっかくこういう関係になれたのにな」
「その言葉はそっくりそのままお返ししますよ。まだ諦める必要はありません。
今のままの世界が維持され、僕が違和感を感じなくなるかも知れません」
「それを期待しているよ」
彼はおとなしく、玄関にいくとドアを開けた。
「一樹」
「なんですか?」
「愛しているよ」
「解ってますよ」
それから彼はドアを締めて出ていった。彼は僕が思っていたより、よっぽど
しっかりしているようだな。もっと修羅場が演じられるかと思っていたが。
さあ、これから夜までに出来ることをしなくては...。

第二節 朝比奈みくるの場合[II]

その日は、全く何ごともなく過ぎた。一端、キョン君と別れてしまえば、
いままでとなんら変わらない日常が展開するだけだった。
授業を受け、休み時間には友達と会話し、昼休みには鶴屋さんとお弁当を食べ、
午後の授業を受け、部室にいき、メイド服に着替え、涼宮さんの無理難題に振り回され、
キョン君に庇われ、一日は終わった。いつもとの違いは、単に、家まで戻ってもキョン君と
別れていない、ということだけだった。キョン君は当り前のようにわたしといっしょに階段をあがり、
鍵を開けて部屋に入った。部屋に入るといきなり、キョン君はわたしをだきしめてキスしてきた。
とっさのことで、避けることも出来ない。みくるは緊張でこちこちだった。これはみくるの
ファーストキスなのだ。
「どうした?」
反応が硬かったので疑念を呼んでしまったようだ。
「あ、あの、まだ心の準備が...」
キョン君は吹き出した。
「心の準備ってなんだよ?どんな準備が必要なんだ?」
「あの、その...」
「ああ、アレの日なのか?」
「あ、はい、そうです」
「そんならそうと言えばいいのに」
「え、なんか照れくさくって。今、お茶、入れますね」
みくるとキョンは向かい合って仲良くお茶を飲んだ。
キョン君はじっとわたしを見つめた。
「あの、顔になんかついてますか?」
「いや、みくるはいつみても本当に可愛いなって思ってさ」
みくるは耳まで真っ赤になった。でも、なぜか、こみ上げて来る幸福感。
なぜ?なんでこんな状況なのにわたしはしあわせなの?
その時、携帯にメールの着信。長門からだった。
「本日、19:00、マンションにて会合。参加されたし」
ふと時計をみると19:00までそれほど時間があるわけではなかった。
「キョン君」
「どうした?」
「でかけないと」
「どこに?」
「長門さんのマンション」
「俺も行こうか?」
「うーん」
それはまずそうな気がする。どう考えてもこれはこの異常事態に対する
会合だろう。この事態の「内部」にいるらしいキョン君を連れて行くのは適当じゃない気がする。
「えーと、禁則事項、かも...」
「かもって、なんだ」
キョン君は愉快そうに笑った。
「わかったよ。じゃあ、俺は遠慮しとく。しばらく家にも帰ってないしな。
今日はおとなしくしとくよ」
それからみくるは外出着に着替え(キョン君が部屋からでていかず、着替えを
じっと見つめているのには閉口したが、そもそも、朝目覚めたときに全裸で
同衾していたというのにいまさら着替えを見ないでとも言えないので)、
いっしょにマンションをでた。途中まで、キョン君といっしょに歩く。
別れ際にキョン君は
「みくる、愛してるぞ」
と言ってくれた。
「あ、えっと、ありがとう」
こういうときはなんて言うのかな?「わたしも」なのだろうか?
「ありがとうってなんだよ、本当に今日は変だな、みくる」
キョン君は愉快そうに笑いながら、去っていった。
その後ろ姿を見送りながら、みくるはふと思った。この「事態」が「解決」
してしまったら、どうなるのだろう?キョン君はもう「愛してる」なんて言って
くれなくなる。みくるは急にさびしさを感じ始めている自分に気づいていた。

第三節 長門有希の場合[II]

キョンを部屋から送り出したあと、長門は各パラレルワールドの同位体と
 協議を開始した。緊急事態、と言っておいたから、登校しなくてもキョンは
心配しないだろう。古泉一樹ワールドの同位体から提案があり、19:00までに
時空にワームホールを穿ち、長門の部屋で各ワールドの改変主達を一堂に
集めて善後策を協議することが決まった。いったい、なぜ、長門や涼宮ハルヒのみ
ならず、古泉一樹や朝比奈みくるや彼が時空改変の機会と能力を付与されたのか。
それが一番の問題だったが、現在のところ、それは不明だった。明らかなのは、
かつて、涼宮ハルヒの時空改変(閉鎖空間発生による新しい時空の創出)を断念させる
ために涼宮ハルヒ自身の「元の世界に戻りたい」という意志転換が必要だったように、
今回の事態を旧に復するには、全ワールドの全改変主の「もとへもどりたい」という
強い意志が必要だということだ。これは大きな難題だった。他の同位体との同期によれば
いくつかのワールドでは、改変主が時空適応を開始し始めていると言うことだった。
改変主が完全にワールドに時空適応してしまえば、そもそも、自ら生成した
ワールドが改変されたものだと言う自覚自体が消失してしまう。そうなったら、
もはやもとに戻ることは不可能だ。
情報操作能力の大部分をワールド間をつなぐワームホール作成に費しながら、
長門は思った。実際のところ、自分自身はどうなのか?彼が自分を「愛している」
というこの改変時空を否定することはできるのだろうか。元の時空ではこれは
許されざる事態だ。鍵と長門が結合することは、涼宮ハルヒの精神状態に
大きな影響を与えて、不確定要素を著しく増大させるだろう。が、この時空では?
すでに朝比奈ワールドの同位体からは、朝比奈みくると彼の結合が、涼宮ハルヒの
精神状態になんら問題を引き起こしていない、という驚くべき報告があがっていた。
ということは、この時空でも長門と彼の結合が、何の問題も起こしていない、
という可能性は否定できない。いや、おそらく、問題は起きていないだろう。
なぜなら、この時空は長門の抑圧された欲望、あの時空改変を引き起こした
エラーの欲求を満たすべく作られたはずだからだ。
他のワールドの同位体と同期できる長門自身が、他の改変主の様に完全に
時空適応し、改変と言う事態自体を忘却することはありえないだろう。
が、それでも、この「ここちよい」改変時空を積極的に捨て去る自信が
自分にあるのか?長門には解らなかった。

第四節 キョンの場合[II]

長門から「真実」を聞かされた後、俺は教室に戻って、ハルヒの弁当を食べた。
しゃくなことにそれはお袋が作ったどのバージョンの弁当より、圧倒的に
うまかった。このうまさに対抗できそうなのは、朝比奈さんが作った全ての
弁当のうちのもっともうまいバージョンくらいだった。
「うまい...。」
不覚にも俺はこうもらしてしまった。ハルヒは
「当然でしょ!このあたしが全力を注いで作ったんだからまずかったりしたら
死刑なんだから!」
って誰を死刑にするんだ、ハルヒ。勝ち誇ったように笑うハルヒ。
『可愛い...』
え、いま、俺は何を思ったんだ?たとえ一瞬でもハルヒを可愛いと思うなんて
どういうことだ?俺の頭と体に何が起きているんだ?
午後の授業の最中、ハルヒにつつかれたときにも、いつものいやーな感じが
薄まっており、なんとなくぽかぽかしたあったかい感じがした。
振り返ったとき、自分が迷惑そうな苦虫を噛みつぶした様な表情の代わりに
うっすらと微笑を浮かべていることに気づいて、俺は愕然とした。
ハルヒがつぶやいたことは、例によって奇想天外な荒唐無稽な
アイディアだったが、それを聞いてわいて来たのはいつもの様な
苛々と反感の嵐ではなく、さっきのポカポカ感。なんというか、
妹が無茶を言ったときに感じるあの不思議な感覚に近い。
放課後の部活動でも、俺はいつものようにハルヒにくってかかることができず、
涙目で俺に助けを求める朝比奈さんを見てもいつものように「どうしても助けたい」
と思うことが出来なかった。俺は人間の「感情」というものに
大きなショックを受けた。同じ事を体験してもここまで対応が違ってしまうものなのか。俺は帰り際に朝比奈さんに
謝った。
「さっきは済みません。助けられなくて」
「あ、いいーんです。キョン君はもう涼宮さんの『彼氏』なんですから、
いままでみたいにわたしの味方ばっかりできないですよねー。
気にしないでください」                
帰り道もハルヒと並んで歩いているだけでポカポカ感がこみあげてくる。
しかも、段々、強くなって来ているようだ。
駅でハルヒと別れるとき、ハルヒは俺の方を見ると、目を閉じ、顔を上に
向けた。
「なんだ」
ハルヒは目を開けると呆れたように言い放った。
「キス、でしょ、キス。最愛の恋人と別れようって言うのにキスのひとつも
しないわけ、あんたは?」
「今日はだめだ」
「なんでよ!」
「ダメったらダメだ」
怒り狂うハルヒを後に俺は長門のマンションに向かった。19:00に来いっていう
メールが来たからな。ハルヒとキスしなかった理由は単純だ。
したく無かったわけじゃない。逆にしたかった。したいってことが、そういう
自分自身が許せなかった。

第五節 ハルヒの場合[II]

「この世界を作ったのはあなた。あなたの望みが全て適っている世界」
「それは解ったわよ。なんでそんな世界にあたしはいるのよ?」
「あながた望んだから」
「何ですって?望んだだけで適うわけ...」
「適う」
「どうしてよ?」
「あなたが持っている力のおかげ」
「あたしがどんな力を持っているって言うのよ」
「望みをすべて適える力」
「なんですって。じゃあ、ここじゃどんな願いも適うのね」
「その通り」
「なんであたしにそんな力が備わったのよ。あっちにいたときは..」
「力は最初から備わっていた。あなたが気づかなかっただけ」
「えっ?」
「あなたがここに来る前にいた世界でも既にあなたは力を保持していた。
わたしは宇宙人で、朝比奈みくるは未来人で、古泉一樹は超能力者だった」
「ちょっとまってよ、有希。じゃあ、何も変わってないじゃないの?
あたしはなんのためにここに来たのよ?」
「前の世界ではあなたが自分の能力に気づくことは非常に危険だった」
「どうしてよ?」
「あなたが自分の力に気づけば、世界は無秩序に改変され、収拾がつかなくなる
恐れがあった」
「じゃあ、ここはどうなのよ?ここは大丈夫なの?」
「おそらく。そうでなければこの世界の存在価値は無い」
「馬鹿にしてるわ」
「何がですか?涼宮さん」
「要するにここはあたしが自分の力の行使に責任を持たなくていいだけの世界じゃないの」
「そういうこことになりますね」
「つまり、あたしは、元の世界では、この力を責任を持った使い方が出来ないってことじゃないの!」
「違うのか、ハルヒ?普通、そう思うだろ、誰でも、おまえの普段の言動を見れば」
「違うわよ、違うに決まってるでしょ!元の世界へもどって、この力を『正しく』使って
見せてやるわ。絶対、元の世界に戻るんだから。有希、なんとかしなさい!
意地でも元の世界に戻るわよ!」
「あなたは、今日、19:00にわたしのマンションに来るべき」
かくして、もっとも簡単に世界を改変でき、いままで常にその機会を保持し続けていた
涼宮ハルヒ自身が、最初に改変世界を拒否した。これほどの皮肉は無い、と長門は思った。

第六節 長門の部屋にて

その部屋に5人が集まることは、頻繁ではないにしろ珍しいことでは無かった。
だが、いつもと異なり、この場にいる5人は、それぞれの改変世界からやってきた
パラレルワールドの住人、つまりは異世界人だった。ハルヒがもとの世界でも
実現できなかった異世界人との邂逅をここで実現したのは皮肉以外の何者でもない、
と言えるだろう。5人とは言うまでもなく、
イライラが極に達して今にも爆発しそうな涼宮ハルヒ、不安そうに周囲を見渡す朝比奈みくる、
全く表情に変化がない長門有希、いつもながらの微笑を浮かべた古泉、そして、
いつもにもまして複雑な表情のキョン、だった。
古泉一樹が口火を切った。
「すでにみなさん、各改変世界の長門さんから説明を聞いているとは思いますが、
ごく簡単に状況を説明して頂きましょう。長門さん、お願いします」
「改変世界は5つ。それぞれ、ここにいる者が改変主となり、個々人の願望、または、潜在願望
を実現するような世界が作られた。この様な事態が起きた理由は不明」
いつもながら、本当にごく簡単な説明だな長門。それだけ聞くと大したこと起きてないように
聞こえるぞ。
「みんながどんな世界にいるのか、説明してもらった方がいいんじゃないか?
まず、状況把握が大切だろ?」
「それはちょっと...」
言いかける古泉を無視してハルヒが口火を切った。
「あたしのいる世界では、あたしは世界を思いのままに改変できる力を持っていて、
有希は宇宙人で、みくるちゃんは未来人で、古泉くんは超能力者なのよ」
きまずい沈黙。誰もがどうコメントすべきか悩んでいる。
「あのなあ、ハルヒそれはなあ..」
「しってるわよ!ここにいる全員もしってるわよね?何も変わってない。何も変わってないのよ!
望みを適える世界ですって?あたしが知らなかっただけでもう望みはとっくに適ってたんでしょ?
馬鹿にしてるわ、どうして誰も教えてくれなかったのよ!」
「いや、ハルヒ、俺は教えたぞ。何度も説明してやったのにお前が...」
「あんたの説明の仕方が悪い!あんな説明で納得できるわけが...」
「まあまあ、涼宮さん、とりあえず、その話しは置いておきましょう。こんなことを
続けていては戻る世界も戻らなくなります」
驚いたことにハルヒは口をつぐんだ。「こんなことを
続けていては戻る世界も戻らなくなります」という古泉の一言が効いたようだ。
そんなに戻りたいかハルヒ?お前の説明だとお前が一番、戻る理由の無い世界にいるみたいだがな。
「わたしのせかいでは...」
促されもしないのに朝比奈さんが口火を切った。珍しいこともあるもんだな。
「わたしはキョン君と..、その...」
「肉体関係を伴った結合関係にある」
言いにくそうな朝比奈さんに代わって長門が説明をした。途端に朝比奈さんは首まで真っ赤になった。
「そ、それは本当ですか朝比奈さん?」
「はい...。」
消え入りそうな声で答える朝比奈さん。
「あ、でも、でも、『わたし』はまだ何もしてません....。あ、あの、本当の事を言
うと..,、キスだけ...」
消え入りそうな声で朝比奈さんが付け加えた。ああ、なんてこった。朝比奈ワールドの俺、
いますぐここに来い、そして俺と代われ!が、次の一言で場は完全に硬直した。
「わたしの世界でも同じ」
と長門が言ったからだ。
「有希とですって?ちょっとキョン、何考えてんのよ、みくるちゃんならまだしも、
有希にまで手を出すとは、信じられないわ。手当たり次第なのね、あんたって。この獣!」
「ちょっと待て、ハルヒ、有希とくっついている俺と、朝比奈さんとくっついている俺は
全くの別人だぞ」
「解ったもんじゃないわね。そもそも、潜在的にそういう欲望があるからそういう世界
が...」
「涼宮さん、おことばですが、適うのは改変主の願望です。彼の願望ではありません。
彼の願望が適うのは彼の改変世界においてです」
「じゃあ、何よ、有希やみくるちゃんにそういう願望があるっていうの?」
「そういうことになりますね」
今や、みくるは完全に下を向いていた。長門は表情こそ変えなかったが、どことなく
立場が弱そうに見える。
「あきれた。こんな奴のどこがいいのよ!」
ハルヒはぷいっと横を向くと腕組みをしてふてくされた。そんな「どこがいいのかわからない」
奴を閉鎖空間に引っ張っていったのはどこの誰だったかな、ハルヒ。
「古泉、お前の世界はどうなっている」
「僕の口からは説明しにくいですね。長門さんお願いします」
「古泉ワールドの古泉一樹も肉体関係を伴った結合関係を結んでいる」
「あー、SOS団の男共の潜在願望ってこんなことしかないのかしら。情けないわ。
部室ががそんな不純な願望がうずまく不浄な空間だったなんて。元の世界に戻ったら
断固粛清よ!」
粛清ってことばの意味解って使ってるのかハルヒ?それに何度もいうように朝比奈さんや
長門が俺とくっつきたいと思ったのであって、その逆ではない。
「古泉くん、で、あんたは誰とくっついてるのよ?有希、みくるちゃん?まさかあたしじゃないでしょうね?
あたしだったら、即刻死刑よ!」
「いや、それは...」
「古泉一樹の結合相手は彼」
と長門はこともなげに俺を指さした。今度ばかりは本当に世界が静止した。
さすがのハルヒも口をポカンと開けて、硬直状態。朝比奈さんは口を手で覆い、
俺と古泉をちらちらと見比べている。古泉はいつもの笑顔を浮かべながら肩をすくめ、
俺は..、俺はどんな顔をしたらいいんだ、誰か教えてくれ。
「ま、いいわ、じゃ、次行きましょう」
「よくない!、古泉、これはどういうことだ!」
「そういわれましても、僕の意志では。僕も困っているわけで」
「ふざけるな!お前がガチだなんて全然知らなかったぞ」
「僕も知りませんでした」
「なんだと!」
「まあまあ、落ち着いてください。とりあえず、『まだ』『僕は』何もしていませんから」
俺は仕方なくだまった。怒っても仕方がないことがここにはある。
「キョン、あんたはどうなのよ。あんたも『肉体関係を伴った結合関係』を誰かと
結んでるわけ?まさか、古泉くんとじゃないでしょうね?あたしと
『肉体関係を伴った結合関係』をもっていたりしたら、この場でミンチにしてあげるから
覚えておきなさい!」
いや、ハルヒ、何も言わない前からそう言われても...。
「俺の世界では俺は...]
息を飲む長門以外の三人。
「ハルヒとつき合っている..」
「なんですって!やっぱり獣じゃないの!何と何をどうしたのよ。ここで全部申告しなさい!」
「何もしてない」
「そんなことは聞いてないわよ。古泉くんも有希もみくるちゃんも、ここにいるこの当人
は何もしてないでしょ。そうじゃなくて、あんたの世界のあたしとあんたが普段何を
どうして何をしているのか詳細に報告しろと言ってるのよ」
「朝、いっしょに登校する」
「それから」
「お前が作って来た弁当をいっしょに食う」
「で?」
「部活をやってみんなで帰る」
「それで?」
「以上だ」
「なにそれ、そんなわけは無いでしょ。もっと何かしてるんでしょ。
隠したら許さないわよ」
「本当は」
「本当は?」
「軽いキスくらいはした」
「で?」
「それだけ」
「それだけ?」
「そうだ」
「....。あんた、これだけの美女と懇ろになって、軽いキスしかしてないっていうの?」
「そうだ」
「みくるちゃんや有希はあんたと体の関係まで結んでいるっていうのに?」
「そうだ」
「嘘よ、嘘嘘嘘!そんなの信じられないわ。有希!」
「彼は真実しか話してない」
一連の会話のうちに真っ赤だったハルヒの顔は徐々に血の気が引いて蒼白になりつつあった。
「ゆるせないわ、キョン、なんて甲斐性無しなの、いますぐ死になさい!」
ハルヒはやおら、立ち上がるとコタツテーブルの天板をもちあげ、馬鹿力で振り回し始めた。
「す、涼宮さん、落ち着いて!」
「あなたは落ち着くべき」
古泉と、みかけに似合わず馬鹿力が出せる長門がなんとか天板をとりあげてハルヒを座らせた。
下を向き、ぶるぶるふるえているハルヒ。その頬を何かがつたい落ちた。涙?
なぜに泣く、ハルヒ、何がそこまで悲しい?口惜しい?
「話しを先に進めたいのですがよろしいでしょうか?」
古泉がそういうと皆押し黙った。反論などありようがない。
「長門さんの話しでは、この5つに分裂した世界を元に戻すには、
我々全員の合議が必要だそうです」
「どういう意味だ?」
「つまり、我々が世界を元に戻したいと強く願うことです」
「それだけ?たったそれだけなの、古泉くん?」
「はい。長門さんからはそう伺っています」
「有希?」
「古泉一樹の言っていることは正しい」
「だったら、簡単じゃないの。いますぐ、元に戻しましょうよ!」
「あ、あの...」
みくるは自分が発言しているのに気づいて、自分で驚いた。
わたしは何を言おうとしてるのだろうか?
「どうしても戻らないといけないんですか?」
「みくるちゃん、何を言ってるのよ?こんな変な世界がいいわけ?」
「わたしがいる世界はちっとも変じゃありません」
「え?」
「わたし、戻りたくない...」
「なんですってみくるちゃん、こんな奴とくっついてる世界が
いいわけ?信じられないわ?」
「ハルヒ、勝手なことばっかり言うなよ!」
「勝手って何よ!あんたは今の世界がいいわけ?」
「そうは言ってないが....」
「じゃあ、戻りましょう、いますぐ!」
「嫌です」
「みくるちゃん、しっかりして、あなた、今の世界に毒されてるのよ!」
「とにかく、わたしは嫌ですから!」
みくるはそう叫ぶとこたつから立ち上がり、部屋から出ていってしまった。
「みくるちゃん!」
後を追いかけようとするハルヒに長門が言った。
「行っても無駄。この部屋の外はパラレルワールド。朝比奈みくるはもう、
自分の改変世界に帰還した」
「なんなのよ、一体。このままがいいなんてどうかしてるわ」
「時空適応」
「なんて言ったの、有希?」
「時空適応。改変主はいずれ、自らの改変世界に適応する。
最後には改変を行ったという記憶自体が失われる」
「そうなったらどうなるんだ、長門?」
「そうなったら、元に戻ることは不可能」
「なんてこった!」
「長門さん、質問があります。僕も時空適応とかをするんでしょうか?」
「する」
「そうするとどうなるんですか?」
「彼に対する違和感が徐々に薄れ、代わりに欲望を感じ始める。最終的には
激しい快感以外は何も感じなくなる」
「解りました。ありがとうございました」
古泉は肩をすくめてから、おとなしく、座った。おい、古泉、お前は
大した奴だな。もし、俺の世界がお前のみたいな世界で、「快感しか感じなくなる」
なんて予言されたら、俺はいますぐ、この部屋の窓から飛び降りる方を選ぶがな。
「古泉くんとあたし以外に、この世界に不満があるひとはいないわけ?
有希、あんたはどうなのよ」
「.....。」
「あっそう、強い不満はないわけね。まったくみんなもの好きだわよね。
キョン、あんたはどうなのよ、今のままがいい?あたしは嫌よ!」
「あなたも残りたいはず」
「なぜよ?」
「元の世界に戻れば、力の行使に難しい判断を迫られることになる。
今、あなたがいる世界の様な柔軟性を、現実世界は保持していない。
今のままの方があなたは幸せ」
「勝手なこと言わないでよ、有希」
「よく考えるべき。『神』であることは簡単ではない」
「神って...」
「その力をフルに使うつもりなら、あなたは神と同じ」
「....。」
「結局、戻りたいのは俺と古泉だけなのか?」
「あなたにも戻らない理由はある」
「なんでだ?別にこっちに来なくったってハルヒとつき合ったり出来るだろ?」
「こっちがお断りよ!」
「別に俺だって好きで...」
「あなたは涼宮ハルヒとつき合うことを望んでいる。しかし、彼女のように
傲慢で自分勝手な女性に好意を告白し、つき合い始めるのにはかなりの勇気がいる」
「ちょっと有希、傲慢で自分勝手、って誰のことよ!」
「あなたが今いる世界では、この難しいステップが既に終わっている。
誰もが、あなたと涼宮ハルヒがつき合っているのが当り前のことだと
とらえている。元の世界でこうなるのは簡単ではない」
「じゃあ、結局、古泉以外は戻る理由が無いってことか?」
「古泉一樹がどうしても戻りたいと思っているかは不明」
「長門さん、それはないでしょう、いくらなんでも」
「改変世界に戻れば解る。まだ、あなたは自分の肉体と心におきつつあることに
気づいていない」
「...。」
「結局、どうなるんだ?長門」
「24時間、様子を見るべき。明日の20:00、改変世界を消失させたいと依然として
思っているものはこの部屋に来ること。一人でも欠けた場合には、
世界は元に戻らないと思うべき」
「なんてこった!」
「みくるちゃんは?あの娘はそんなこと知らされてないわよ」
「彼女の世界の『長門有希』が伝えるはず。問題は無い」
「じゃあ、このまま解散かよ」
「そう」
俺たちはドアを開けて廊下に出た。いっしょに出たはずだったが、廊下に出ると俺一人だった。
長門が言うように、みな、自分の改変世界に戻ったのだろう。24時間後。俺は
どんな選択をするのだろうか?俺にはもうなんの自信も無かった。



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