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――はじまり――

 卒業と、それに伴う進路……。それと同時に訪れる、別れと出会い。
 それは、人生において重要な役割を果たし、誰にでも分け隔てなく、選択を強いられる物だ。
 そして、俺達、SOS団にもそれが訪れた。
 とりあえず、朝比奈さんは一年早く大学に行った。勉強を頑張っていたわりには、近場の一番レベルの低い大学に落ち着いたがな。
「わたし、緊張しぃだから本番で全然ダメで……ここしか受かりませんでしたぁ」
 と、落ち込んだ表情で朝比奈さんは言っていたが、鶴屋さんも付き合って同じ所に行ったから楽しい生活を送っているのだろう。
 そして、今年。長門と古泉は同じ国立大学に受かった。まぁ、理系と文系という違いはあるがな。
 ハルヒから離れていいのか? という疑問も浮かんだのだが……。
「最近は涼宮さんも落ち着いてきましたからね。僕は何か起こるまでは好きにしてていいと」
 「……わたしも」
 と言われたらしょうがない。何故なら、ハルヒはほとんど問題を起こさなくなったからな。
 本当に力が残ってるのか? というほど、ハルヒは何も起こさない。
 とはいえ、ぶっ飛んだ考えや行動は直ってないが。あまりにも人知を超えた行動はなくなったわけだ。
 そして、そのハルヒと言えば、一流国立大学へと進学した。当然といえば当然だ。
 成績のいいあいつが、それなりに勉強したらそうなるからな。
「親とか教師にうるさく言われたくないからね。いい大学に入れば文句も言われないし、一人暮らしも出来るじゃない」

 実にハルヒらしい。大学に行っても、怪しげな集団を作り、怪しげなことをするんだろうな。
 ……ん、俺か? 俺はアレだ、実を言うと朝比奈さんと同じ、近場の三流大だ。
 ちなみに、俺は就職か専門学校のつもりだったが、谷口の付き添いで受けたら受かってしまった。
 そしたら、親に言われて渋々と行く羽目に……。しょうがないから、谷口と遊びまくってやるが。一応あいつも受かっているからな。
 ……とまぁ、結局バラバラになり、SOS団は解散式をすることになった。ただ鍋を食うだけのな。
 しかし、いくら迷惑を被ったとはいえ、なかなか寂しいもんだ。3年間ずっと一緒だったもんな……。
 みんな、楽しくやってくれることを祈るぞ。そして、またいつか会おうぜ……。


 ってなことで、ちょい昔を振り返るのは終わりだ。
 なんでちょい昔を思いだしていたかと言うと……また、何か起こるような胸騒ぎがしたからだ。
 というわけで時間は進み、俺は大学1年の序盤を過ごしていた……。


――ある日・キョン――

「キョン! さっさと荷物まとめてゲーセン行くぞ!」
 俺を呼ぶ、いかにも頭の悪そうな声。ひたすら馬鹿面を振りまく谷口が俺を呼びにきた。
「ちょっと待ってろ、すぐ終わる」
 最近は何もなく、授業に行き、谷口と遊んで帰る。の繰り返しだ。
 なんて普通の日常だ。一時期はそんな生活を喜んだが、今じゃ退屈感だけが残る。
 どうやら、俺の脳味噌は非日常を日常とすることにしたらしい。
 何も起こらないのが、逆に落ち着かない。……わけじゃないが、つまらない。
 あの日常、あの時が懐かしいぜ。今考えると、充実していた毎日だった……。
「キョン! いい加減に急げ!」

 完全に忘れていた。老け込みモードに入るのはまだ早いな。今はこの青春を謳歌するのだ。
 鞄を持ち、谷口の方へと歩き始めた直後だった。俺のポケットが震え始めた。……誰だ?

FROM:朝比奈みくる
本文:今から会えますか? 場所と時間は…………です。お願いします、待ってますね。

 おぉ……麗しの朝比奈さんからの久しぶりのメール! まさか、まさかデートの誘いか!?

 ……なんてことはないよな。人生そんなに甘くない。
 俺が向かったその場所には朝比奈さんがいた。……ついでに古泉、長門もな。
 ハルヒ以外の元SOS団が勢揃いか。何だかうれしいが……何か起こったんだろうな。疲れないことなら大歓迎だぜ。
「まぁ、しばらくは疲れるのは僕だけですよ」
 ……何故だ、古泉。
「閉鎖空間が発生したのですよ。かなり久しぶりのことですがね」
 ……ハルヒの仕業か。なんで今更、閉鎖空間なんだ? 大学が気に食わなかったのか?
 古泉はあくまでも笑いながら答えた。正確には、苦笑いと言うのだろうが。
「それがですね、今回はわからないのですよ」
 なんだと?
「僕にもわかりません。本当に分からないのですからこればかりはしょうがありません」
 わけの分からないことを言いやがる。じゃあ、どうするってんだ?
 このまま放置するわけにもいかないはずだ。まぁ、こいつら超能力集団が苦労するだけで俺には関係ないけどな。
 ハルヒが何をやっても、当事者にならない限り俺が出来ることはないのさ。
「……というわけで、あなたに涼宮さんに会いに行ってもらいます。よろしいですか?」
 ちょっと待て。何故、俺がハルヒに会いに行かなきゃならん。

「聞いてなかったのですか? 僕達は閉鎖空間が頻発した時のために準備をしなければなりません。すぐに動けるのはあなただけですからね」
 ハルヒに会うのは別に構わない。久しぶりに顔が見たいと思っていた所だ。
 しかし、あいつのいる場所は県外だ。金はかかるし、時間はかかる。そこまでして会うような気分じゃない。
 そもそも、会うだけなら長期休みにでも会える。
 そして、何よりもこいつらのために働くってのが癪だ。朝比奈さんのためだけなら喜んでするけどな。
「……これ」
 その時、沈黙を保っていた長門が俺に封筒を差し出してきた。……何だ、これ?
「切符とお金。わたしからの餞別」
 いや、気持ちはうれしいが行くとは……。
「じゃあわたしもです。お弁当と、お茶です」
 朝比奈さんまで……って、弁当とお茶ってことは?
「じゃあ、僕が駅まで送りましょう。卒業後、すぐに免許を取りましたからね」
 すぐかよ……。ということは、もちろん拒否できないわけだ。無理矢理に眠らせてでも連れて行かれそうだな。
 そんな、気持ち悪い真似をされるくらいなら、自分の意思で行く。
 行き当たりばったりでも、財布の中身が500円でもどうにかなるさ。
「流石はキョンくんですね、顔で意思表示をしてくれてますよ。早速乗って下さい」
 古泉に表情を読み取られ、多少ムカつきながらも車へと乗り込もうとした……っておい。ピカピカの新車かよ。
「高校の時から機関の仕事で稼いでましたから。まだ余裕はありますよ」と、にこやかに言い放つ古泉。
 まったく持って嫌味たらしい。本人にそんなつもりはないんだろうが。
 ニヤニヤし続ける古泉より先に車に乗り込む。……って朝比奈さんと長門は見送り無しなのか?

「わ、わわわたしは……あの、用事がっ!」
「図書館の返却日」
 期待はしてなかったが悲しいもんだ。何故、古泉と駅までドライブなんか……。
「さぁ、行きますよ」
 言われなくてもわかってる。早く行け。
 出来るだけ早くしてくれ。お前と二人なんてうれしくなさすぎる状態だ。
 それにしてもハルヒか……。いくら会ってなかったとは言え、元気付けるくらいは俺でも出来るよな?
 会ったらメシでも連れて行ってやろう……って、500円しかなかったか。
 そこで、俺は長門にもらった封筒を思い出し、手を突っ込んだ。
 ハルヒのいる街への切符と……ご、5万!? こんな大金どうすりゃいいんだ?
 ……いや、せっかくの長門からのプレゼントだ。もらっておこう。
 そして、また今度に何か奢ってやればいいさ。
「着きましたよ」
 早くも駅に着き、俺は古泉と二、三言葉を交わすと、改札をくぐった。
 今日中にハルヒに会えたらいいけどな。……一応住所は分かるから大丈夫か。
 そして、俺は電車に座り、出発の時を待った。
 出来る限りのことはやってやるさ……。


――その夜・みくる――

 わたしは、また古泉くんに呼び出されちゃいました。当然、今回のことについてです。
「それで……朝比奈さん。涼宮さんの件、本当なんですね?」
 涼宮さんの件って言うのは……この間、実は電話がかかってきたんです。

「……もしもし?」
「みくるちゃん、元気!? みんな、どう!? キョンは!?」っていう感じの、涼宮さんからの電話でした。
 そんなに慌てて聞かなくてもよかったのに。でも、涼宮さんらしいですよね。

「わたしも、みんなも元気ですよ。キョンくんも相変わらずです」
 そこで、電話から聞こえてきたのは、安堵の溜息でした。
「よかったわ。ちょっと心配になっちゃって……」
 やっぱり、離れ離れになっても団長ですね。いつも、メチャクチャなことを言うけど、優しいです。
 それにしても……何の用かなぁ?
「んーとね、実はみくるちゃんの声を聞きたかったの。少しだけ、高校時代を思い出しちゃって」
 とか言ってますけど、これは嘘です。わたしだって、涼宮さんとずっと一緒にいたからわかります。……ですよね、涼宮さん?
「……よくわかったわね。みくるちゃん、あなたレベルアップしてるわよ」
「うふふ、ありがとうございます」
 それからしばらくは、沈黙だったり、ただ笑ったりしてました。
 涼宮さんが、何か言いたそうで言えないみたいなんだけど……どうしましょう?
 いえ、どうしましょうじゃなくて、力にならなくちゃ。多分、キョンくんのことですし……。
「ねぇ、涼宮さん。何か相談があるんですよね? 力になりますよ?」
 涼宮さんはしばらく黙っていたけど、ゆっくりと話し始めました。
「あたしね、キョンに会いたい……。あっ! もちろんみんなにも会いたいのよ! だけど、キョンと会いたいのは何か違うの……」
 あれだけ頭が良い涼宮さんだけど、自分の気持ちとかには鈍いんですよね。その気持ちが恋だって気付いてないのかな?
 キョンくんも鈍いから、二人が付き合う時は大変だろうなぁ……。あ、これは規定事項ですよ。
「なんでこんな気持ちになっちゃうんだろ。やっぱり、大学に入ってからつまらないからかしら? 去年までは楽しかったから?」
「そういえば、涼宮さん。大学で何かしてますか?」

「何にも。ほとんどのサークルとかを回ったわ。だけど全っ然ダメ! SOS団を超えるようなのは一つもなかったわ!」
 それだけ、わたし達といたのが涼宮さんにとって、かけがえのない思い出になってるってことですよね。
 それはうれしいんだけど、このままじゃいずれ不機嫌になって、古泉くんが疲れるような日々が戻って来ちゃいます。
 古泉くんにアルバイトが入ると、わたしにも指令が来そうだなぁ……。
 どうにかしなくちゃ。

 こんな感じの電話でした。これを古泉くんに相談して、作戦をたてたんです。
 だから、閉鎖空間が発生したって言うのは真っ赤な嘘なんです。キョンくんを向かわせるための。
 ……ごめんね、キョンくん。
「しかし、キョンくんだけじゃなくて涼宮さんまで鈍感だとは思いませんでしたね。
 涼宮さんは自分の気持ちに、キョンくんは他人の気持ちに鈍感なんですよ。似たもの同士かもしれませんが」
 そうなんですよ。二人とも、恋してるのに気付かない面白い人達なんです。気付いてないフリをしてるだけかもしれませんけどね。
 でも、わたしは思うんです。そんな所で隠しちゃっても幸せにはなれないって。
 だから、二人には気付いてもらって、幸せになって欲しいんです。
 ……だって、わたしはあの二人が大好きですから。もちろん、長門さんも、古泉くんも、鶴屋さんも大好きですよ?
「それにしても涼宮さんが『キョンに会いたい』ですか……。変わりましたね」
「そうですよねぇ。うふふ、昔は毎日会ってたからそんなことを考えたこともなかったんでしょうね」
 そうなんです、昔は毎日同じクラスで顔を合わせて、SOS団が終わって帰るまでずっと一緒でしたからね。
 涼宮さんがキョンくんに会いたくなる気持ちもわかります。

 それから、わたし達は少し話し合いをして別れました。多分、またすぐに話し合いを持つことになると思うんですけど……。
 その帰り道、わたしは空を見上げながら祈ってみました。
 祈るだけで叶うとは思わないけど……どうか、涼宮さんとキョンくんが上手く行きますように……。


――翌日・ハルヒ――

 うぅ……眠い。ダルい。大学なんてつまんない!
 そんな気持ちと一緒に、あたしは目を覚ました。お母さんも、親父もいない一人の家で。
 あたしは大学に入って、一人暮らしを始めた。理由は、家から遠い大学だし、一人の方が好きに不思議を追い求められるから。
 門限なんかに縛られずに、不思議を探せるから。
 ……でもね、それも何か色褪せて来ちゃった。みくるちゃんも有希も古泉くんもキョンもいない生活がつまらない。
 卒業してすぐは、昔みたいにあたしは一人でも大丈夫だと思ってた。でも、そうじゃなかった。
 もう、一人だと寂しいって感情が出てきちゃう。やっぱり、あたしは『SOS団団長』じゃないとダメみたい。
 みんながいないと、何してもつまらない。
 だから誰かに会いたいの。みくるちゃんでも、有希でも、古泉くんでも、キョンでも……キョンでも……キョンでも……。
 あぁ、もう! なんでこんなにキョンの顔が出てくるのよ!
 朝からなんなの!? こんなに悩むのはあたしらしくない! 朝風呂に入ってさっぱりして、大学に行く! それでいいじゃない!
 あたしはお風呂を炊き始め、ついでに朝食の準備を始めた。朝風呂から上がって、すぐにご飯。この流れが好きなのよね。
 簡単な朝食を準備し終えた後、あたしは衣服を一枚ずつ脱ぎ始める。

 少しだけ、自信のある体だけど……みくるちゃんには負けるのよね。また触りたいな……ってダメダメ!
 思い出したら切りがないから、やめないと。さ、早くお風呂でさっぱりしよう!
 あたしが浴室のドアを開けた時、インターホンが鳴った。ムカつくくらいのタイミングの良さね。
 胸の辺りからタオルを巻き、あたしはドアを開けて返事をした。
「こんな早い時間になんなの!?」
 ドアを開けた先には、なんでかわかんないけど……キョンがいた。
「あー、こんな早い時間にすまん」
 あぅ……ドキドキする。この顔、この声、この仕草。全てが間違いなく、『キョン』のもの。
 なんでここにいるの? あたしに会いに? うれしいわよ……バカキョンのくせに……。
 ありがとうって言いたい。上がってって言いたい。けど、なんでかしら、口が動かない。
「なんだ、お悩みの所悪いが……入れてくれないか? 外は寒くてな」
 その一言で、あたしは我に帰った。よ、よく来たわね! 入っていいわよ!
「それと……出来れば服を着ろ。目のやり場に困る」
 う……そういえば、裸にタオル一枚だったわね。キョンに恥ずかしい所見せちゃった。
 脱いだ服の所に行き、あたしはTシャツと、パンツと、ズボンを身に着けた。
 ブラはいいわよね、もしかしたらキョンに……されちゃうかもしれないし……。
「ハルヒ」
「は、はいっ!」
 妙な考え事してる時に声かけられたから、メチャクチャわけの分からない返事しちゃった……。こんなのあたしのキャラじゃない!
 あたしは絶対にして、不可侵なSOS団の団長様なんだからっ! もっと堂々としなくちゃダメ!

「なんだ、その返事は。……まぁいい。久しぶりだな、会いたかったぞ」
 思わず、溜息が出るくらい、そう言ったキョンは大人っぽかった。……あ! 違うわよ、カッコいいなんて思ってないんだからね!
「あ、あたしも雀の涙くらい会いたかったわよ。どっちかと言うと、みくるちゃん達のがよかったけどね」
 ……素直に言えないのよね、『うれしい』って。あんたが来てくれたのが一番うれしいって。
 キョンは一言、「そうかい」と言うと、あたしの部屋を見回し始めた。
 普通の娘達みたいに、飾り付けなんかしてなく、最低限の物を置いてある部屋。つまり、女っぽさの無い部屋。
 あたしは気に入ってるけど……キョンはどうかな?
「わりといい部屋だな。俺はこの雰囲気、好きだぞ」
 よかった、気に入ってくれたみたい……って、なんでキョンに気に入られる必要があるのよ。
 なんだろ、あたし何かおかしい……。心の底が暖かくて……ドキドキして……。
「それよりハルヒ、髪伸ばしたんだな……っておい! 何泣いてんだよ!?」
 誰が泣いてんのよ。その冗談、つまらないわよ。
「……目、拭ってみろ」
 指に水滴がつく。あたしは本当に泣いていた。初めてのことに戸惑っちゃう……。
「一人で寂しかったんだろ、大変だったんだろ。……たまには甘えてみせろよ、団長様」
「キョンに何がわかるのよ! バカ……キョンのくせに、キョンのくせにぃ……」
 な、何よこれ。なんで涙が……あ、わかったわ。みくるちゃんがあたしに乗り移ったのね。もう……ダメじゃない。早く出て行きなさい?
 あたしの体が、意思を持った人形のように動くのがわかる。キョンに抱きつこうとしてる。

 ダメよ、ダメ! そんなのあたしじゃない! あたしは団長なんだから気安くさわれないのよ!
 必死で押さえるあたしの思考、関係無しに動くあたしの体。決着がつくのは意外に早く、あたしはキョンの背中に手を回した。
「ど、どうしたハルヒ?」
「な、なに抱きついてんのよ! 早く、離しなさいよ……」
 あたしが抱きついてるのに……認めたくない。絶対に認めたくない。
 あたしは強い女なの。だから誰かに甘えたりするなんて絶対ありえない。
「お前……あぁ、悪い。もう少し抱かせてくれ」
 キョン……ありがと。あたしのつよがりに付き合ってくれて。
「しょうがないわね。あんたがそう言うんならこのままでいてあげる。団員の頼みを聞くのも団長の仕事なんだからね!」
 はぁ……落ち着くわ。今日はこのまま大学さぼっちゃおう。久しぶりに探索行きたいな。
 キョンに奢らせて、ずっと歩いて、たまには休んで……。何も無くても、最後にはキョンが『楽しかったからいいじゃねーか』って言ってくれたりさ……。
 そして、あたしの家に戻ってきて、いろいろ話して……。
「みんなの所に帰りたい……」
 不意に、あたしの口をついてそんな言葉が出てきた。あたしの、SOS団っていう家に帰りたい。
 やっぱり、こんな所に来るんじゃなかった。どうせこうなるってわかってたんじゃない。
 あたしは気付いてたのよ、強がって離れても帰りたくなるって。じゃあ、なんでわざわざ離れたのかって?
 団長は強い人間でなくちゃダメなのよ。あたしがみんなの手本にならないと。
 それに、良い大学に入って、有名になるように努力すれば不思議だって近付いてくるかもしれないじゃない。だから……。

 キョンにしがみつきながらそんなことを考えていた。誰にも言えないあたしの想い。誰かに言えたらどんなに楽だろう?
 でもね、あたしは絶対に強がっちゃうから言えないの。だからたまにはこうしても……ね?
 あたしはキョンから手を離して、口を開いた。
「満足した?」
「あぁ、大満足だよ。心がリフレッシュしたぜ」
 その通りよ。バカキョン……ありがと。
 それから、あたしはキョンを待たせてお風呂に入り、一緒にご飯を食べた。
 ちなみに、キョンは昨日はホテルに泊まったとか。……貧乏人のくせに。
 それから、二人で探索を始めたり、買い物したり、また話をしたり……いろいろして、すぐに別れる時間になった。
 楽しい時間はすぐにすぐに終わる。なんて信じてなかったけど、ほんとだったのね……。
「またな、ハルヒ。いつでも連絡しろ。そうすりゃ俺が行きたくなってやるからな。次は誰か連れて来てやるよ」
 駅のホームでキョンはそう言った。あたしに気遣って言うその言葉が心に染みる。
「そ、そうね。またあんたが寂しくなりそうな時に呼び出してあげるわ」
「そうしてくれ。……お、もう時間か」
 発車が近付くアナウンスが聞こえる。もう、別れの時間。あたしの顔は笑ってるけど、心は名残惜しい。
 また、しばらく一人の時間が続く。知り合いのいない大学で勉強して、誰も待ってない家に帰る。
 そんな生活が、夏の長期休みまで続く。
「じゃあな」
 キョンの声が聞こえて、発車のベルが鳴り始めた。


「はぁ……どうしてお前はそうなんだよ……」
 キョンの呆れたような声が聞こえてくる。帰ったはずのキョンの声が。
 あたしの手には、キョンのシャツの裾が握られていた。ドアが閉まる直前に引っ張り出したのはあたし。

 気付いちゃった自分の気持ち。ううん、気付いてたのに気付かないフリをしてただけかも。
「好き。大好きだから行っちゃダメ」
「はぁ?」
「だから帰っちゃダメ。帰ったら死刑だからね!」
 顔が真っ赤。自分でも何を言ってるのか理解出来ない。それでも、離れたくない。
 キョンが困った顔をしてるのが分かる。そりゃ困るわよ、切符も買ったのに帰れなきゃ。
「やれやれ……死刑は勘弁だからな。しょうがない」
 そう言って、キョンは駅外へと歩き出した。あたしは後ろからそれについて行く。
 絶対に言わないと思ってた言葉を言っちゃったわ……。あたしから言ったのは初めてよね。
 でも、待ってるだけの女じゃダメだからこれでよかったのかしら?
 っていうか、まだキョンは返事くれないのかしら? あたしがせっかく……。
「ハルヒ」
 っ!? ……びっくりした。いきなり名前呼ばれるんだもん。いったい何なのよ?
「何なのよじゃなくて……お前の家だろ? 鍵が無いと入れないに決まってるだろ」
 顔を上げると、あたしの部屋の入口がそこにあった。……全然気付かなかった。
 鍵を開けると、あたしはキョンの胸倉を掴んだ。ただ、照れ隠しのためだけにね。
「好きよ! あんたはバカだからわかんないかもしれないけどね、好きなのよ! 文句ある!?」
 あたしの知り得る限りの最高の照れ隠し『逆ギレ』。これほど便利な物は無いわ。
 あたしは本当は照れ屋なのよ。みんな知らないかもしれないけどね。
「文句か……あるな。告白なら告白らしくしてくれ。恥じらいながらとかな」
 ば……バカっ! あたしがどんな気持ちで言ってると思うかわかんないの!?

「生憎、色恋沙汰には疎くてな。もっと、長い間好きで好きでたまらなかった気持ちを吐きだす片思いの女の子、みたいな感じで頼む」
 このバカキョン……。昔も同じようなこと言ってたわね。幼馴染みがどうの……みたいなことを。
 ……もしも、その通りに言ったら応えてくれるかしら?言ってみる価値はあるかな……。
 あたしは、勝手にイメージして、【長い間好きで好きでたまらなかった気持ちを吐きだす片思いの女の子】みたいな感じで口を開いた。
「ずっと好きだったわ……キョン、付き合って……?」


――同時刻・キョン――

 おいおい、マジかよ。本当にやってしまうのか。
 ハルヒに好きだと言われ、照れ隠しに言った気紛れを実施された。困ったな。
 ……いや、待てよ。これは実はハルヒじゃないんじゃないか? 古泉の陰謀とか、谷口のドッキリとか……。
 そ、そうか! 朝倉か? 急進派とやらの罠か!?
 ……なわけないよな。今日一日遊んだ結果、こいつは紛れもなくハルヒだ。間違う程俺はバカじゃない。
 しかしだ、目の前にいる女は、ほぼ理想形だ。頬を赤らめて、ちょっと上目遣いで、少し涙目の美少女。
 それがハルヒなんて信じられるか? いや、無理だね。これはこいつの演技か、素か。それすらわからん。
 俺の頭がオーバーヒートだ。今なら寒中水泳で軽く100メートル泳ぎきるほど体と頭が熱い。
「……いや?」
 ぐはっ! こいつはまた俺のストライクゾーンをえぐりやがる。さっきの状態から首を傾げる。男の理想の仕草ベスト3(俺調べ)の一つを……。
 なんてふざけてる場合じゃない。問題はただ一つだろう。
【俺が、ハルヒを好きかどうか】

 これだけじゃないか。そもそも、俺にとってこいつは何者だ?
 高校時代3年間のクラスメートでずっと後ろに座ってた奴か? それとも、成り行きで入ったわけの分からん団の団長か? 神? 進化の可能性? 時間の歪み?
 どれも当てはまらないな。何故かって? ……そりゃ、心の中じゃこう思ってたからさ。
「お前は、俺の一番大事な人だよ。間違いなくな」
 そう言って、ハルヒを抱き寄せる。前より少し伸びた髪に手が当たる。サラサラしてる。
 背中は柔らかい。だけど、細っこくて、力を入れたらポキッと行きそうな体だ。
 こう……なんか変な気分になるな。人を抱くっていうのは。朝はハルヒに抱かれてたわけだから、大してそんな気分にはならなかったがな。
「……もう、元のキャラに戻していいわよね?」
 ハルヒはボソッと呟いた後、背骨を折るんじゃないかというくらいの力で俺にサバ折りを仕掛けた。
「あんたの言うこと、うれしいけどクサいのよ!」
 ぐあっ! やめろ、死ぬ! 骨が折れる!
「ふふん、あんたがうれしいこと言ってくれるからよ! もう……あぁもう!」
 次は、俺の胸に額を押しつけてグリグリとしてきやがった。くすぐったい。
 なんだ、この幸せな展開は。何か裏が有りそうで怖いぞ。
 ……しかしだ、ハルヒとこんな関係になったからにはやっておきたいことがある。
「ハルヒ、ポニーテールにしてくれないか?」
 そう、俺の理想の女の髪型だ。今のハルヒの長さなら、ギリギリそれっぽく見えるはずだ。
「しょうがないわね……これでいいかしら?」
 少し短めだが、やはり非の打ち所のないポニーテール姿。個人的な雰囲気はバッチリだ。
「じゃ、いいよな? 文句は言わせないぞ」

 そう言って、俺はハルヒと唇を重ねた。いつ好きになったかはわからないが……好きな奴とこういうことが出来る。幸せなんだよな……。
 とりあえず、今日はもう帰れないからな。たっぷりと幸せな時間を過ごさせてもらうぞ。……なぁ、ハルヒ。


おわり
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