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 何故か最近部室に行っても古泉が居ない。
 アルバイトだと言うが、どうして泣きながら言うのだろうか。
 なんか痣あるし。脅迫されてるんじゃなかろうか。
 ……何故? 誰に?
「んなワケないか」
 本当にバイトなんだろう。あんまりにキニシナイことにした。

「あ、キョンくん。今日はお茶じゃなくてジュース買ってきたんですよ」
「アンタは残りもののカルピスだけどね」
 と、机の上には言葉のとおり白い液体に満ちた500mmペットボトルが置いてある。
 嫌な書き方だな。清涼飲料水だぞ、勿論。
「朝比奈さんはオレンジジュースで、ハルヒがリアルゴールドで、長門がグレープジュースか」
 約一名若干おかしなヤツが居たが、あえて突っ込まない。
「みくるちゃんのおごりなんだから味わって飲みなさいよー」
 そんな声に応えるように、ありがとうございますー、とごっきゅごきゅ飲む。
「うむ」旨い。ふぐお君が好きな理由も頷けるというもんだ。
 ……がしかし、大して咽が渇いていたワケではないので500は少し多い。
 俺は四分の三ほど残して、また後で飲む事にした。
 それは他の皆も同じようで、一様に俺と同じことをしていた。
 ハルヒだけは飲み終えていたようだが、まだ目の前に二本置いてある。
 ……そんなに元気になってどうするつもりなのか。まったく。

 それから何をするでもなくボッヘーラリーンと過ごしていると、背筋に嫌な予感が走った。
 ハルヒを見る。案の定何かろくでもないことを思いついた顔をしていた。
「……なんだ、どうした。一気飲み大会とか言い出すなよ」
 味わって飲まないと申し訳ないし。
 ハルヒは「違うわよっ!」と何故か赤い顔で怒鳴った。
 なんで赤くなる。図星だったのか? 単純なやつめ。
「ちょっと、みくるちゃん、有希。耳かして」
 と、ハルヒの野郎は俺だけをのけ者にして女三人でひそひそ話をおっ始めた。

 ……あぁ、何だかさらに強い嫌な予感。
 ろくでもない思いつきの被害者は俺で間違いなさそうだ。

「どーしたもんかねぇ」
 俺がのけ者にされている間にずらかろうかと真剣に悩んでいる間、三人は、
「……だから……ね? ……も……でしょ?」
「…………っ!? むり……いえ……します……」
「……いい」
「……! ……よ! ……!?」
「……っ? ……! ……!」
「……いい」
 なにやらハルヒの言葉を聴くたびに其々の特徴を活かした大騒ぎをしている。
 声だけ小さい騒ぎというものも珍しい。いったいどんな内容なんだろうね。

 で、だ。三十秒くらい経っただろうか。
 打ち合わせが終わったらしい三人は、皆俺の方を向いた。
 ……何故ハルヒと朝比奈さんは赤い顔をしているんだろうか。
 分からんが、とりあえず聞いてみよう。
 おい、俺には人権があるからな。
「ばか。人道を無視したことなんかしないわよ」
 説得力ねぇ。
「あのう、キョンくんにお願いがあるんです」
 ……あぁ、丸め込まれてしまったんですか。
「聞いて欲しい」
 長門、お前まで。
 いったいハルヒはどんなマジックワードを使ったのだろうか。
 疑問に思いつつ、俺は「構わないけど……」としぶしぶ頷いた。
 ハルヒは心がけがなってないわね、と口を尖らせつつ、説明しだした。

「いい? おんなじ味ばっかりだったら飽きるから、混ぜていろんな味作るわよ」
「食いもので遊ぶのは良く無いぞ」
「ほ、ほら、オレンジカルピスとかあるでしょう。粗末にはしませんから」
「朝比奈さんがそういうなら……」
 おごりだし。監修してくれるなら、大丈夫そうだ。
「……態度違いすぎじゃない?」
「何のことやら」
「……早速開始する」
 長門は言うや否や、自分のグレープジュースをくいっと口に含んだ。
 ……あれ? コップは? ていうか、そのまま飲んだら意味ないだろう、長門。
 グレープカルピス……あるのか?……を作るんじゃないのか、おい。
「……」
 そのつもり。そうする。
 そんな意思を目にこめて、長門はなんと普通に頷いた。
「――ほあ?」
 思わず変な声が漏れた。おかしい。普通の長門じゃない。
 ――そう感じたときにはもう遅かった。
「ふごごっ」
「飲みなさい。じゃなくて口に含みなさい」
 後ろからハルヒに体をロックされて、無理やりにカルピスを口に含まされた。
 共犯朝比奈さんだ。……うわ、ひでぇ。
 ひでぇが、おとなしく口に含んだ。これ以上何かされたらたまらない。

 で、これからどうすれば良いんだ? と考えた俺の目の前には、本当に何時のまにか長門の顔があって――それはもう超至近距離で、息と息というか口と口が、
「んむ」
 ――やわらかくて、マシュマロのようだった。
 思わず目を閉じていた。
 ……何が起こったのだろう?
 そう考える暇も余裕もない。いや、キスだ。キスだった。キスされた。
 水分を帯びて潤んだ唇が触れたかと思うと、次の瞬間長門は手で頬を押さえ、俺は少し強引に口を開かせられていた。

「む、ぅ」
 含んでいたカルピスが零れそうになる。
 何でいきなり突然長門とキスしてるんだというかされているんだ俺――? と頭は大混乱なのだが、
「んんっ、んむぅ」
 とにかくその時はカルピスを零してはいけないということしか考えられなくて、噛み付くように重ねられた長門の唇との間を空けないようにと必死だった。
「んんん……」
 ――長門は俺の肩に手を置き首の角度をかえ、ねじるように口の位置を高くした。
 小さな水音とともに、グレープジュースが俺の口内に流れ込んでくる。
 長門は舌を巧みに使って、上手に俺の口の中にジュースを注ぎこみ、カルピスと混ぜ合わせた。混ぜ合わせたといっても、殆どディープキスに近い。
 顎の裏も舌の表も裏も唇の裏も歯肉もあらゆるところに舌を這わされた。いや、混ぜているのか……?
 分からない。もう何がなんだか。ただ舌同士が触れ合って、首の裏に電流が走ったかのような感覚に襲われて、上唇の裏をこそがれたときに、脳に直接響くような快感があった。
 冷たいはずの口内が反対に熱くて仕方ない。いや、体全体が熱い。
 ……そうしてグレープジュースとカルピスと混ざり合い、俺の口の中でなんとグレープカルピスが簡易作成されたのだった。バカな。
「……んんんっ!?」
 しかも長門は首の角度を変え自分の口を俺より下方に移すと、そのぶどうカルピスを吸い込み飲み込みはじめた。首に長門の下細い手が回される。じゅるじゅると音を立てて。口の端から零れるのも俺の舌が唇に巻き込まれるのもおかまいなしに、居一心不乱に飲み干していく。
 合わさった口内から直接咽がなる音が聞こえた気がした。顔にぶつかる長門の荒い鼻息がこそばゆくて、水音がやけに大きく頭に響いて、じゅむじゅる……あぁ、もう、どうなってんだろう。
「んはぁっ」
 気がついたときには、俺は長門を抱きしめて、もうジュースはすべて飲まれてしまったというのに、ただ単にむさぼるように口付けを交わしていた。
 本能の赴くままにさっきのお返しだと長門の口の中をめちゃくちゃにする。舌を吸い、唇で甘かみする。
 ――と。そりゃ、まぁ、そうだわな。突然部室でエロチックインモラルを打ちかましたら、頭を殴られても仕方ないよな。
「何時までやってんの! エロキョンアホキョン! 有希も! 幸せそうな顔しないっ!」
 完全にいろぼけでぼーっとしつつハルヒの怒鳴り声を聞く。
 あぁ、見られてたなぁ。全部。でも、良いか。そく思えるくらい長門とのキスは桃源郷だった。
「……いや。もっと」
「だめぇ! 順番よ、順番!」
「そ、そうですよ、長門さん!」
 長門がハルヒにひっぺがされる。――何? 順番?
 どういうことだ。……ん。……あぁ、なるほど。ぼけてる割に冴えてるな、俺。つまり先ほどの密談はそういう事だったのか。
 いや、悪いな。ジュース奢ってもらった上にキスまでしてもらえるなんて。
 口の端についたジュースと唾液のまじったものをぬぐいながら、俺は朝比奈さんが口にオレンジジュースを含むのを眺めていた。
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