このハイキングコースを辿るのも何年ぶりだろうかと思うと
疲労感さえも心地よく思えてしまう。


同窓会の案内が来たので、久しぶりに懐かしき学び屋へと足を進めている最中だ。
何でもタイムカプセルを掘り起こすらしい。案内の文面を読むまですっかり忘れていた。
埋めてから経過した年月は二桁にも達していないというのに。
タイムカプセル。
時空を超えるという大層な役目を負ったSFじみた宝箱。
いかにもあの女が好みそうなイベントだ。
だから、きっと来るのだろう。
高校時代と変わらない、不敵な笑顔を引っ提げて。


涼宮ハルヒがその後どうしているのか、俺は知らない。



『トライフリング・コーダ』



高校卒業後、俺は逃げるようにあいつらの前から姿を消した。
きっと俺は恐れていたんだろう。
あの女の近くにいることで、俺までもが非日常の世界の住人になってしまうことを。
そうとも、俺は本来普通の人間なんだ。いつまでも付き合ってやる義理も道理もない。
涼宮ハルヒの傍にいるべきは俺ではない。
その役割を担って然るべき人間が、あの女の周りにたくさんいた。
腐れ縁もそろそろ朽ち果てて切れちまった頃合だろう。
そう思うと、少しだけ気が楽になった。

進学を決めた大学の所在地は、電車に揺られて二時間未満の小都会。
ついでに引越しもトントン拍子で決まった。
なあに、すぐ帰ってこられるさ。新生活を始めたばかりのころはそう思っていた。
かくして、俺は渇望していた日常を手にしたわけだ。
何かと騒ぎ出す女もいなければ、巻き込まれる厄介事もない。
恐ろしく平凡な日々がそこにはあった。
そしていつしか、俺は帰ることを忘却していた。

果たして、俺はその毎日に満足していたのだろうか。
俺にとっての非日常だった日々を忘れたいと思っていたのだろうか。
違う。
向こうでしばらく経って、自分でも愕然としたが、確かに認識したことがある。
それなりに気に入ってたんだ、俺は。ここで過ごした微妙に非日常な学園生活を。
なら、どうして俺は背を向けた?
――やはり原因は、あいつらにある。

俺はただ、見ていたくなかった。嫉妬していただけなんだ。

かつてあの女に惚れていた男として、

いつも涼宮ハルヒの傍にいられることが、

もしかしたら――


俺は羨ましかったのかもしれない。


校庭には、既に何人かが集まっていた。
親しかった者の姿もある。
国木田と談笑していたそいつは、俺を見つけるとこちらに足を向けた。
涼宮ハルヒとはうまくやっているのだろうか。
数年前と変わらぬ調子で、あいつは俺に笑いかける。

そして聴きなれた、ただただ心地よい文句を投げかけてきた。



「谷口、チャック開いてるぞ」


          トライフリング・コーダ ~くだらない結末~ /完

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