受験生だから勉強ばかりの毎日のあたしも、今日と明日だけは特別。
 なんたって大晦日と元旦だもんね。センターまであとちょっとってのも本当なんだけど。
 でもでも、やっぱり大晦日と元旦くらいは、息抜きしたいよね?
 だからこの二日間だけはお休みをちょうだいって、家庭教師をやってくれているキョンくんに訴えたら、渋々ながら了承……、というか、傍に居たハルにゃんを巻き込めたおかげで、晴れて我が家で年越しパーティ、何てことになっちゃった。
 瓢箪から駒ってこういうこと? そう言えば、ハルにゃんが勉強で困っているところって見たこと無いなあ。キョンくんに教えているところを見たことはあるんだけど。
 そんなわけで今日は年越しパーティなんだけど、三人だけじゃつまらないだろうってことで、ハルにゃんがお客さんを呼んでくれたの。んー、本当はハルにゃんもお客さんなんだけど、そこはまあ、気にしないでおいてね。
 あ、そうそう、両親はお正月旅行だよ。今年社会人一年生になったキョンくんからの贈り物なんだよね。うんうん、キョンくんも立派になったなあ。
 まあ、妹のあたしが言うのもなんだけど。


「やっほー、招いてくれてありがとうっ」
「こんにちは、お招きいただきありがとうございます」
 ハルにゃんが朝方にやって来て、それからご飯を食べたりゲームをしたりしながら待っていたら、昼過ぎに、呼んでいたお客さんがやって来た。
 鶴屋さんと古泉くんだ。
「はいこれ、お土産だよっ」
「ああ、ありがとうございます」
 鶴屋さんが差し出した高そうなお菓子を、キョンくんが受け取る。
 鶴屋さんは何時も元気だし明るいしちょっと突っ走った感じのする人だけど、それでもやっぱりお嬢様だからなのか、こういうところは結構きっちりしているみたい。そういうことを相手にも求めているってわけでもないから、本当、おおらかなお嬢様って感じ。
「……古泉、お前、疲れてないか?」
 キョンくんが、古泉くんを見て首を傾げた。
 そういえば古泉くん、ちょっと顔色悪いかも……、どうしたんだろう。
「あ、いえ……」
「あー、うちで色々振り回されていたからねえ」
 鶴屋さんがちょっと苦笑い。
 そっか、そう言えばこの二人、鶴屋家での用事があるから、この時間じゃないと来られないって話だったんだっけ。
 古泉くんは鶴屋さんの婚約者なんだよね。将来的には婿養子に入ることになるのかな?
 婿養子……、うーん、イメージがわかないけど、何だか大変そうだなあ。
「古泉、お前はちょっと休んでろ」
「ですが、」
「良いから休め」
「そうそう、キョンくんの言うとおり、休んでおいた方が良いよ。明日からはまた新年会とかが目白押しだからねー」
 鶴屋家って一体どんなところなんだろう……。んー、あたしも行ったことはあるんだけど、あの大きな家のしきたりとか行事とかって、ちょっと想像がつかないなあ。鶴屋さんの性格とか振る舞いを見た限り、何でもかんでも雁字搦めってことはないと思うんだけど。
「……すみません」
 古泉くんはぺこりと頭を下げると、そのまま居間のコタツに入った。入れ替わりにコタツから出たハルにゃんは「頑張んなさい」とか言ってたっけ。うん、やっぱり古泉くんは大変みたい。
 それからは、休んでいる古泉くんを除いた四人でお節作り。
 パーティって言うと派手なことをするみたいだけど、今日のメインイベントはこれなんだよね。
「キョン、焦さないうちに鍋を回す!」
「あー、キョンくん、醤油どこだい?」
「わ、馬鹿、ハルヒ、まとめて持つな! こぼすだろ!!」
「ええっと、ソースどこにしまったっけ……」
「……ちょっとこれ賞味期限切れてる!」
 始終こんな感じで、四人で右へ左へ大騒ぎ。
 でもって途中で材料が足りないことが分かったから、キョンくんとハルにゃんは買出しにおでかけ。ハルにゃん、一緒に出て行くときにキョンくんに文句言っていたけど、何だか嬉しそうにも見えたな。……こういうところ、あんまり変わってないよね。
「……おや、寝ちゃっているね」
 ちょっと小休止と思って鶴屋さんと一緒に居間の方へ向かったら、古泉くんがコタツに頭を預ける形でうたた寝していた。シャミセンまで古泉くんに寄りかかる形で寝ているし。
 古泉くんの寝顔、何だか可愛いな。
 幾つも年上の男の人にこんなことを思うのもちょっと変かも知れないけど、何だか今の古泉くんは子供みたいに見える。
 思わず頬を突っついちゃいたくなるよね。そんなことはしないけど。
 鶴屋さんも居るし。……居なかったらするかどうかってことについては、ノーコメントで。
「風邪引かないようにしないとね」
 鶴屋さんはそう言って、何時も居間に転がったままになっている毛布を古泉くんにそっとかけてあげていた。うーん、こういうときはやっぱり、鶴屋さんの方が年上、って感じだよね。普段は鶴屋さんの方が子供っぽいくらいなんだけど。
 婿養子に、しかも相手は姉さん女房かあ……、うん、まあ、頑張って。
 愛があるならきっと大丈夫だよね。あたしがわざわざ言うようなことじゃないと思うけど。
「妹ちゃん、何か食べる?」
 古泉くんを起こさないよう静かにコタツに入ったら、鶴屋さんが小声で問いかけてきた。
「え?」
「お菓子とか、差し入れ以外にも持ってきているし」
 と言って鶴屋さんが取り出したのは、どこかのスーパーの袋だった。
 高級和菓子店のお菓子よりは、敷居が低くて良い。
「……じゃあ、貰おうかな」
「はいよ、好きなの食べてね」
 そう言って鶴屋さんは、袋の中身をコタツの上に置いた。
 そこから好きなお菓子を取って、二人で食べる。
 何だか不思議な感じだけど、こういう時間のすごし方も良いかも。
 それにしても、鶴屋さんって不思議だな。天衣無縫とか、豪快とか、天真爛漫って言葉が似合いそうなのに、ちゃんとお嬢様っぽいところとか、お姉さんっぽいところを持っている。
 ……古泉くんは、こんな鶴屋さんだから、好きになったのかな。
 気がついたら何時の間にか付き合っていた二人が一体どういう経緯で付き合い始めたのか、あたしは知らない。……知りたくなかったのかな。
 どうだろう、そういうことは、ちょっとよく分からない。
 小学生の頃のあたしが、古泉くんを見てカッコいいなあって思ったことだけは、本当だと思うけど。お兄ちゃんの友達、かあ。
 友達というにしては、何だかちょっと変な感じはしたけどね。でもまあそれは、ハルにゃんや鶴屋さんや、今は会えなくなっちゃった人達のことも含めての話なんだけど。


「たっだいまー!」
 雑談めいた話をしながらお菓子を食べていたら、唐突に大きな声が玄関の方から聞こえてきた。買出しに行っていたキョンくんとハルにゃんが帰ってきたんだね。
「……ん、」
「おや、起きちゃったかい?」
「あ、すみません、僕……」
「良いから良いから、そのまま寝てなよ。……ごめんね、色々面倒なことが多くてさ」
「……あなたが謝るようなことじゃないですよ」
 鶴屋さんがちょっと寂しげな顔で頭を下げ、古泉くんが首を振る。
 何だか大変そうだなあ……。
「たっだいま、あら、何か美味しそうなものを食べてるじゃない」
「おっかえりー、ハルにゃんも食べるかい?」
「貰うわ。お節を作るのはその後でも間に合いそうだしね」
 ハルにゃんが答えて、コタツに滑り込む。あ、四つ角が全部埋まっちゃった。
 キョンくんは、買い物袋を抱えたままちょっと疲れた顔で立っていた。何だか買出しにしては量が多いような……、まあ、ハルにゃんと鶴屋さんが居れば食べ終わるだろうけど。
「あ、キョンはとりあえず片付けてきなさい。……まあ、その後は、あたしの隣に入れてあげても良いわ」
「……ああ、分かった」
 キョンくんが買ってきたものを片付けて、それから、あたし達は五人でトランプをちょっとだけしてから、またお節作りを再開した。
 大晦日をこんな風に過ごすのも、良いものだよね。
 ああ、でも、この状況下にいると、あたしも恋人が欲しくなるかも……うん、大学に入ったら、あたしもカッコいい彼氏を探そうっと。
 でも、まずはその前に、古泉くんと鶴屋さんになれ初めの話でも聞いてみようかな。


 終わり
 


|