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 もりのこいずみくん
 
 その日、俺はどういうわけか見知らぬ森林を彷徨っていた。
 気がつくと木こりのような格好をして、ぶどう酒とパンを持っていたりなんかして、
 そして、奴は突然に現れたんだ。全裸で。

「やあ、いい天気ですね」
「お前は誰だ」
「僕はこいずみくんです」
「何者だ」
「森の精です」
「なぜ全裸なんだ」
「ほら一応精霊ですし」
「なら余計に醜いもの晒すなよ」
「お嫌ですか?」
「そう真っ向訊かれてもな……。で、何やってるんだ」
「森林浴ですよ。どうですかあなたも」
「帰る」

「待ってください」
「何だ」
「あなたが落としたのはこの金の斧ですか? 銀の鉈ですか?」
「落としてねぇよ! つうかなんで片方鉈なんだよ!」
「圭一くんはね……転校、しちゃったの」
「世界違うだろ!」
「はまってましてね最近」
「やっぱり帰る」
「だから待ってくださいってば」
「服をつかむな! 全裸で近くに寄るな!」
「では続いての商品はこちら、アヴフレックス!」
「いつの間に! 全裸で腹筋鍛えるなよ!」
「ん~どうだいナンシー? 最高よボブ♪」
「一人芝居かよ……しかも女側が使ってるのか」
「ジャパネットたか○なら金利手数料一切かかりません!」
「急に日本に帰ってくるな!!!」

「まぁお茶でも飲んでいきませんか? いい天気ですし」

 無駄に爽やかだったのでどういうわけか肯いてしまった俺だった。

「どうぞ、お掛け下さい」
「すまんな」
「僕が毎日座ってる椅子です」
「ぶはっ! 余計な事を言うな! 普通使ってないほうに座らせるだろ!」
「毎日両方に座ってますよ?」
「……まぁいい。お茶を出してくれるのか?」
「えっ……」
「どうした急に」
「今月ピンチなのに……」
「そうなのか?」
「観鈴ちん、ぴんち」
「だぁぁ気持ち悪いからやめろ! 世界観を跨ぐな!」
「ぶっちゃけた話森の精霊って貧乏なんですよ」
「そうなのか」
「えぇ、木の実とかで飢えをしのいでます」
「えらい切実だな……」
「くんくん」
「ん?」

「何だかいい匂いがしますね。くんくん」
「何のことだ。俺は何も持っちゃいないぞ」
「いいえ。僕の勘が正しければぶどう酒とパンがくんくん」
「ドンピシャすぎんだろ!」
「こう見えて僕超能力者なんですよ」
「暴露唐突だろ!」
「透視できるんですよねぇくんくん」
「こら、どこ嗅いでるんだよ」
「森の精霊さんがあなたの股間をチェーック!」
「すな!!!」

 ――色々あって、

「さぁ、それじゃぶどう酒でお祝いしましょう」
「俺のなんだが!」

「どうですかこの森は」
「あぁ、なかなかいいんじゃないか」
「売地なんですけどね」
「不法侵入かよ!」
「ここまできたら共犯です」
「俺もかよ!」
「一緒に呑んだ仲じゃないですか」
「誤用の確信犯かてめぇは! つか酒俺のだし!!」
「あなた未成年でしょう? いいんですかお酒なんか持ってて」
「自分自分自分!!!!」
「僕はほら。精霊さんですから!」
「ターンしてポーズ決めながら喋るな!」
「あ、ほらこの土地の所有者がこっちに来ますよ」
「逃げるぞこのやろう!!!」

「いやぁ、たまに走るといいですねぇ」
「にこやかに言うな! 全裸で!」
「あ」
「のわああ! 銃持ってるのか相手は!」
「服着てない分僕の方が回避率上ですね」
「どんな理屈だ! つかもっと走れ!」
「実は僕飛べるんですけどね」
「なぜそれを早く言わない!!!」
「誰かを持ち上げることはできないんですよはっはっは」
「使えねぇぇえええ!!!」
「それじゃ僕はこの辺で」
「一人だけ飛ぶな! 薄情者!」
「お酒美味しかったですよ。そっらをじゆうに、とっびたーいなー♪」
「待て待て待て待てぇぇえええ!」
「はい! こいずみくん! あっはははははははは」
「待て! そんなステージアイドルっぽく宙を舞うな!!!」

 ……結局捕まってしまった。

「あんたが不法侵入者なわけ? よかったわね狙撃されなくて」

 これがまたなかなかの美人だった。というか女だったことがまず驚きである。

「いや、これにはマリアナ海溝より深い理由があってだな」
「何よ。つまらない理由だったら即刻死刑よ」
「お前は森の妖精さんを信じるか」
「はぁ!? あんた何言ってんの?」
「あいつのせいなんだよ。あいつがいなきゃ俺はとっくにこっからトンz――!」

 窓の外で、全裸の精霊が手を振っていた。

「あいつめぇぇぇえええ!!」
「ちょ、どうしたのよ急に! っていうか待ちなさいあんた!」
「離せ! 離せ! 一発ぶん殴ってやる! あのインチキ精霊!!!」

「窓の外って、何もいないじゃないの」
「へ? ……あ。あれぇぇぇえええっ!!?」

 奴は瞬きする間に姿を消していた。こんちくしょう!!!

「さぁ、幼稚なウソをついた罰を与えなきゃねぇ?」
「何か嬉しそうだなおm――!」

 女の後ろで、全裸の精霊が無言で挨拶していた。

「てめぇぇええええ!!!!」
「きゃっ! なによあんた! ……えぇい座れっ!!!」
「のわっ! だって精霊が!」
「はぁ? あんた頭おかしいんじゃないの?」

 精霊は女が首を振るのに合わせて器用に後ろに回りこんでいる。ついでに浮いている。

「お前の後ろにいるんだよ! さっきからずっと!」
「はぁ? ……いないじゃないのよ」
「だから前! 前!」
「ん。やっぱりいないじゃない!」
「だぁぁあああっ! このクソ精霊!」
「あんた、あたしを誤魔化して逃げようったってそうはいかないんだからね?」

 精霊は横宙返りとか観音ポーズとか取っている。くそ忌々しい! つかモノが見えてるんだよ!!!

「……そうだ! おいお前! この家に鏡はあるか?」
「あるけど、それがどうしたのよ?」
「鏡の前に立ってみろ。そうすれば全てが分かるはずだ!!!」
「分かったわよ。……ちょっと待ってなさい」
「おう。……って何でお前ここに残ってんだよ! あいつの後つけてるんじゃないのかよ!」
「お久しぶりです」
「にこやかに言うな! つうか俺をここから逃がせ!」

「はっきり言いましょう。これは異常事態です」
「んなこた言われなくとも分かってるんだよこの変態精霊!」
「……///」
「何で照れるんだよ!」
「僕たち、通じ合って――」
「ねぇよ!!!」

「ちょっとあんた! 何にもないじゃないの……って、誰あんた?」
「やあこんにちは。僕は森の精霊です。はっははは」

 注釈しておくが、精霊、もち、全裸である。
 男勝りとはいえ、相手はうら若き女性である。

「あ、あんた……」
「なんでしょうか?」

 終わった……色々な意味で。そう思った。

「格好いいわ! 最高よ! 何者なの!?」
「僕は森の精霊ですよあっははははははははは」
「ちょ、えぇぇぇえ!? えぇぇぇええええええええええええええええっ!!!!??」

 色々あって――、

「そう。そういうことだったのね」
「えぇ、全く彼ときたらそそっかしくてあっははは」
「釈然としねぇ……」
「それで? 精霊さんはあたしの森を守ってくれてるわけ?」
「そうなりますね。彼のような不届きな侵入者を捕らえたりしてるんですよ」
「ちょ、自分自分! 精霊自分は!!!」
「何よあんた。精霊さんにケチつけるつもりなの?」
「いやだってお前こいつは……」
「ここで質問です」
「何? 精霊さん」
「……」
「あなたが落としたのは、この金の斧ですか? 銀の鉈ですか?」
「またそれかよ!!!」

 日が暮れる頃――、

「それじゃぁねー精霊さーん!」
「はい。今日はどうもごちそうさまでした。はははっ」
「腑に落ちねぇ……」
「あんた」
「何だよ?」
「……精霊さんと、また来ればいいわよ」
「……」
「何よ?」
「いや! べ、別に何でもねぇよ!」
「さぁ! それじゃぁ行きましょうか。今夜はどこに泊まりますか?」
「泊まる……って、え? え?」
「精霊ぇぇぇええ!!!! 何言ってんだてめぇ!!!」
「あんた……へぇ。そういうコトなの」
「誤解だ! 俺はヘテロだ! 完全なるミスアンダスタンディングだっ!!!」
「やっぱ死刑よ死刑!!!」

「のぁぁぁああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」


 ……ふふ。
 僕はもりのこいずみくん。精霊さんです。
 次は誰をしあわせにしてあげようかな?


 (終われひっこめ消えろっ!!!)


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