大好き!


「キョーンくんっ! 今日は何の日かわかるかなっ?」
 わたしは、ベッドに寝転がるキョンくんにのし掛かりながらそう言った。
「ん……特に何も無いだろう。普通に学校のある、ただの平日だ」
 眠そうな目を擦りながら起き上がるキョンくん。わたしの大好きなお兄ちゃん。
 でも、最近はライバルが多いんだよね……有希にみくるちゃんにハルにゃん。みんなキョンくんのことを気にしてるの。
 だからね、今日っていう日に、妹っていう特権を活かしてアタックするの!
「今日はね、2月14日だよ。キョンくんが楽しみにしてた日!」
 ほんとにそうかはわからないけど、男の子なら絶対に期待するよね。
「……あー、チョコレート会社の売り出し戦略的記念日か。どーせ貰えないしな、期待なんかしてないぞ」
 こうやって、キョンくんはわざと遠回しに意地悪な説明をすることがよくある。もっと素直に『期待してる』って言えばいいのに。
 それはそうと、今日の目的は、一番にキョンくんにチョコをあげること! クリスマスにプレゼントを貰った時から考えてたんだ!
 妹だから、一番にキョンくんに会える。だからわたしは一番に渡せるんだ。
 今日はいつもより早起きして、おかーさんに手伝ってもらって、手作りチョコを作ったし、準備は完璧!
「ねぇ、キョンくん?」
「どうした。それより、早く俺から降りろ」
「もうちょっとここで待っててね!」
「あ、あぁ……」
 キョンくんの部屋から飛び出して、自分の部屋に置いてるチョコを持ってくる。
 わたしが、愛情を込めてキョンくんのためだけに作ったチョコ。他の誰にも渡す気はないもん。
「お待たせっ!」

 わたしが部屋に戻ると、キョンくんは携帯をいじってた。気にしない、気にしない……。
「さっきからどうしたんだ? 朝っぱらから騒がしいな」
「うふふ~、キョンくん。あのね、えっと……」
 あれ……手が震えちゃうなぁ……。声も出そうで出ないよ。なんでだろ?
「……ん? 寒いのか? 顔色悪いし、震えてるぞ」
 違う、違うよ、キョンくん。なんか……劇とかでステージに上がってるみたいに緊張してるの。
 わたしって、緊張しない方だと思ってたのになぁ。ダメな子だ。
「大丈夫か? 今、母さん呼んでくるからな」
 うぅ、なんだか動けないよぉ、でも……。
「待って!」
 キョンくんが振り返って見てくる。うひゃあ……やっぱり緊張する。告白とか、プロポーズとかもこんな感じなのかな?
 わたしの、初めての恋。今から何回も体験するだろうけど、その始まり。
「これ……キョンくんに作ったんだよ? あげるっ!」
 顔が見てられなくて、キョンくんの手に押しつけた後、すぐに自分の部屋に走りこんだ。
 キョンくんはただのお兄ちゃんなのに……絶対に相手にされてないのに……どうしてこんなに緊張しちゃうんだろ……。
 わたしも大人に一歩近付いたのかな? みんな、こんな気持ちで恋してるのかな?
 ――コンコン――
 えっ……と、キョンくんかな? どうぞ……。
 やっぱり、入って来たのはキョンくんだった。その片手にはわたしが作ったチョコが……。
「これ、手作りか?」
 キョンくんは包みを開けながら、わたしに質問を投げ掛けてきた。
「そうだよ」
 チョコを見つめるキョンくん。それを見つめるわたし。……いきなり、キョンくんはヒョイってチョコを口に放り込んだ。
「……ふむ。なかなかよく出来てるな。美味いぞ」

 その言葉と一緒に、わたしの頭に乗っかるキョンくんの手。えへへ……うれしい。
「さぁ、飯だ。チョコは学校で腹が減った時に食わせてもらうからな」
 スタスタとわたしの部屋から出て行くキョンくんの後ろ姿を眺めてた。なんだか、いつの間にか差をつけられたみたいだなぁ。
 わたしは子どものままなのに、キョンくんだけ大人になった気がする。だけどね……。
「どうした? 早く来ないとお前の分まで……のわっ!」
 大人じゃなくても、こうやって抱きついたりはできるよ。っていうか、大人だと簡単には出来ないよね。
「キョンくん! 大好きだよ!」
「何言ってんだ……。はいはい、俺も大好きだぞ」
 わたしの『大好き』と、キョンくんの『大好き』は多分、意味合いが違う。
 でも、それはしょうがないよね。だって家族……兄妹なんだもん。
 だからね、付き合うのは諦める。ハルにゃんとでも、有希とでも、みくるちゃんとでも許してあげるんだ。
 ……その代わり、絶対、毎年この日だけは一番にチョコを渡すの。この言葉と一緒にね。
「キョンくん、大好き!」
「わかった、わかった。俺も大好きだから二度も言うな、ひっつくな」
 今はまだ、わたしだけが言ってもらえる『大好き』。
 その響きに喜びながら、わたしの一日は始まっていく。……キョンくん、ほんとに大好きだからね。


おわり


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