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ハルヒと暮らし始めて初めて迎えた正月は、色々と忙しく過ごすうちに瞬く間に終わってしまった。
そして…休暇も終り日常を取り戻した俺は、今日もいつも通り仕事を終えて足早に我が家へと向かう。

我が家であるアパートへと近付くと、見覚えのある宅配便のトラックが、アパートの駐車場に停まっているのが見えた。

さては…ハルヒの奴、また通販で何か買ったな?

俺は歩くペースを更に上げて玄関へ近付くと、慌ててドアを開けた。

「…ただいま~」
「あっ!旦那さん、毎度どうもっ!あけましておめでとうございます!久し振りっすねえ…」

俺を出迎えたのはハルヒではなく、玄関先に立つ宅配便の男だった。
ちなみに、この宅配便の男の名前を俺は知らない。
だが、顔は良く知っている…
つまりだ、それほど我が妻ハルヒは通販に御執心という訳だ。
まあ、ハルヒの通販好きは今に始まった事ではないから、別に気にはしていないんだが…
それに高校の頃の様に、メイド服やらバニーの衣装を買いまくる訳ではないしな。
だが結婚した以上、金の無駄使いは困る。
俺は宅配便の男に「ごくろうさまです」と軽く微笑みかけると、胸ポケットからペンを取り出して差し出された伝票にサインをしてやった。

「あざーすっ!毎度~」

元気良く去って行く宅配便屋…
しかし、本当に「毎度」だな。
…おっと、ハルヒが何を買ったのか見届けなくては!

急いで靴を脱ぎ部屋の奥へ。
そして、もう一度「ただいま」と声をかけてみた。

「おかえり~」

寝室の方から声がする。
まったく、一体何をやってるんだ…

寝室のドアに手をかけながら、少しだけ感じる悪い予感。
躊躇いがちにドアを開ける、と…
ハルヒが何やら巨大なモノを組み立てていた。

「おい…なんだそれ…」
「ふふん、さて何でしょう」
「いいから答えろ」
「…何、怒ってるのよ?これはね、タブルベットよっ!」
「…はあ?」
「安心しなさい?支払いは全額アタシのヘソクリで払っておいたわっ!」

ヘソクリ…?
毎月、給料日に小遣いをくれる時には「今月もキツイんだからねっ!」を連発する癖にっ。

少々…いや、かなりムッとしながら続きを訊く。


「高価かったんじゃないのか?」
「馬鹿ね、安かったから買ったのよ。それよりキョン?早く組み立てるのを手伝うのよっ?」
「ええ?」
「あたりまえでしょっ!ほら、早くっ!」

やれやれ…だ。
俺に相談も無くこんなデカイ物を買って、その挙げ句に組み立てまでしろって…

「仕方ないな…ほら、そのドライバーとネジを貸せ」
「説明書は?」
「いらん、大体解る」
「へぇ、流石は元SOS団雑用兼大道具係ね!」

おそらく誉め言葉なんだろうが、ちっとも嬉しくないのは何故なんだぜ。

「ねえ、キョン…」
「あ?何だよ」
「フフッ、『完成した後』が…楽しみね…」
「完成した後………?」

…………!!!
ちょ、ちょっと!そんな!まだ夕方だぞっ!
よ、よ~しっ!自前の工具も使って速攻で仕上げるかっ!?

「お…おお!こんなの簡単に組み立てられるからなっ!」
「……(相変わらずチョロイわね)」
「ん、何か言ったかっ?」
「べ、別に何でもないわよっ!」


━2時間後━

「ふう…完成だ」
「完成ね!」
「中々のもんだな」
「でしょ?憧れてたのよアタシ!こういうのってさ、よくアメリカの映画とかに出てくるじゃない?」

満面の笑みを浮かべながらハルヒが喜んでいる。
まったく、しょうがない奴だな…

「ところでキョン、今何時?」
「ん?ああっ!もう八時だ…」
「遅くなっちゃったわね…。夕食、どうしようか?ラーメンでも出前してもらう?」
「…そうだな」

ハルヒは「ちょっと待ってて」と言いながらキッチンへと消えた。

俺は今のうちに後片付けをしようと、腰を下ろしながら散らかした工具を拾い集める。
そして、工具を拾いながら久し振りの出前に少しだけ心を踊らせた。
大して安くないから滅多にとらない出前だ、この際奮発してチャーシュー麺でも頼もうかな…

「おーい、ハルヒ!注文の電話をするなら…」

「もしも~し……あ、寿楽さん?出前してくれる?…前にも来てもらったんだけど覚えてるかしら…そうよ、二丁目の638…
えっと、チャーシュー麺1つと、『まむし黒焼きスッポン塩だし爆裂スタミナ&ギガンテス麺』を1つね!よろしくぅ~」

よろしくぅ~…っておい、その…なんとかギガンテスって美味いのか…?
まあ、チャーシュー麺は頼んでくれたみたいだから良いが…

「なあハルヒ、よく俺がチャーシュー麺を食べたいって判ったな?」
「はあ?チャーシュー麺はアタシの分しか頼んでないわよ?」
「…何だと?」
「大丈夫!アンタには奮発して『凄い』の頼んだから!とにかく『凄い』らしのよ?
米屋の知抄ちゃんが言ってたから間違いないわ!」
「誰だよ、それ…。しかも『スッゴい』って…」
「だ…だってさ…その…今夜…ほら…ダブルベットだし…ね?」

なんと!『凄い』の運用計画はソレか!
た…確にマムシとかスッポンとか言ってたが…

「た…食べようかな、ギガンテス…い…いや、勘違いするなよ?最近仕事の疲れがとれなくてさ」
「……あ、ああ…そうね!疲れは溜め込むと良くないわよっ!…そうだ!アタシ、先にお風呂済ませちゃうからさ?ラーメン屋さんが来たら、お代払っておいて?」
「ああ、分かった」

…ギガンテスか。
マムシにスッポン…食べる事に関しては相当な勇気が要りそうだが、効果は絶大とみた!
ここはひとつ、今夜はハルヒに『亭主の威厳』というやつを思い知らせてやるか…

『ピンポーン』

お!来た来た。サイフ、サイフ…

慌てて玄関のドアを開けると、ヘルメット姿のラーメン屋の店員がニヤニヤと笑っていた。

「毎度、寿楽です!お待たせしました~エヘヘ」
「い、いや…どうも」

ちっ、『ギガンテス』を頼んだからニヤニヤしてんのか…
いやらしい奴だな…


「エヘヘ…こちらがチャーシュー麺で、こちらが【マムシ黒焼き…中略…ギガンテス麺】…通称『夜間突撃仕様』になります」

つ…通称?突撃…?
それほどかよ、おい!

「…よろしいですか?」
「あ…ああ、おいくらですか?」
「五千五百円になります」
「………(高価っ!)」
「どうしました?」
「い、いや…じゃあ、丁度ありますから…」
「ああ、助かります!毎度どうもっ!」

スケベなラーメン屋を見送り、とりあえず二つのドンブリを食卓へ。
さてさて…見せてもらおうか、ギガンテス!
裏側に湯気の張り付いたサランラップを丁寧に剥がすと、噂のギガンテスが俺の目の前に姿を見せた。
が…しかし…
どう見ても普通の塩ラーメンだ…
強いて言えば、この黒い粉末のトッピングが「マムシ」なのだろうか。

「あれ?キョン、ラーメン屋さん来たの?」
風呂から上がったばかりのハルヒが、背中から一緒にドンブリを覗きこむ。

「ねえ、『凄い』のは?」
「ん?…これらしい」
「これ?」
「そうだ」
「何よっ!只の塩ラーメンじゃないっ!」
「だな…。まあいいや、腹も減ったし食おうぜ?」
「それもそうね」

俺達は互いに「いただきます」と告げると割箸を割った。
たまにはこういう夕食も良いな…と思う。

食べ始めてしばらく後、ハルヒが麺をすする俺を見ながら目を丸くした。

「ねえキョン!アンタ、鼻血出てるわよっ?」
「え?」

慌てて鼻に手を当てる。
本当だ…やばいなコレ…

「はい、ティッシュ。大丈夫?」
「ん、ああ。…そういえば、なんだか体が熱い気がする」
「ええっ本当?それって効果アリって事かしら」
「ああ、かもな」

ハルヒは「なるほどねえ」と呟きながらニヤニヤと笑うと、手首に付けていた髪止めのゴムを外して髪を結わいて見せた。

「ねえ、キョン?ほら見て、ポニーテール!」
「うお!?い、いかん…鼻血がっ!」
「ああっ!だめよ…もっとティッシュ詰めとかなきゃ…ほら、『ぶっといのを奥まで突っ込んで』っ」
「ええ?ぶっといのを…って …ぐあっ!更に鼻血が…」
「もう、いちいち反応すんじゃないわよっ!」
「い…いや、そんなつもりは…」
「まあ、いいわ。そのラーメンが効果絶大なのは解ったから。
早く全部食べて、鼻血を止めてからお風呂に入って来なさいよ?





…ベットで待ってるから」
「お…おお!待っててくれ…あ…想像したら、また鼻血が…」
「…バカ」


結局その後、俺は鼻血を止めるのに一時間近くかかってしまった。
少しフラフラする気がするものの…生まれ変わった様に体が軽い!
もう一度完全に鼻血が止まった事を確認してから、慌てて風呂を済ませる。
そして…いざ出陣!

…って、あれ?

「おい、ハルヒ?」
「……zzz」
「おーい、ハルヒ…」
「…フガッ……zzz」

な…なんなんだ、このオチは…

既にハルヒは爆睡していた。
ていうか俺、どうするよ…

仕方無くハルヒの隣に潜りこんで眠る事にする。
だが、眠れる訳がない。

無理矢理目を閉じてみても、例のラーメンの所為で頭も体も冴えたままだ。

「あーあ、参ったな…これは」

思わず呟いた瞬間、隣で寝ているハルヒがモゾモゾと動いた。

ん、起きたか?

少し期待しながら様子を伺う。
しかし、ハルヒは俺に被さっている部分の布団を自分の方にたぐり寄せると、独り占めしたまま再び寝息を立て始めた。

おい、ちょっと待て!めちゃくちゃ寒いんだが…?

とりあえず布団を元の状態へ。
しかし、再びハルヒに持っていかれる。
それを繰り返す事数回…

もういいや、今夜はソファーで寝よう…
寒さの為か、例のラーメンの効果は薄れてしまった様だ。
俺は暖をとるべくキッチンへ、そしてカップに少しだけコーヒーを入れてお湯を注いだ。

全く…散々な一日だ…

ぼんやりと壁に掛けられた時計を見ると、もう日付が変わっている事に気が付く。
もう寝なきゃ…と思い、薄いコーヒーを飲み干してリビングへ向かう。
すると、俺と入れ違う様に寝室のドアが開いた。

「あれ…キョン…?どうしたの?」

「ああ…どうしたもこうしたも…お前は先に寝ちゃってるし…隣で寝たら布団持ってっちゃうし…」
「え?ああ…ごめん」
「で…お前はどうしたんだ?」
「ん~トイレ…」
「そうか…まあいいや。俺、リビングで寝るわ」
「え?なんでよ!」
「だって、寒いから」
「ちょっと待ってっ!そんなの嫌よ…せっかくダブルベットなのに…」
「ん?でもなあ…」
「ねえ、ちょっと待ってて?今、なんとかするから!」
「…ああ」

ハルヒは俺を寝室に押し込むと、パタパタとスリッパを鳴らしながらトイレへ向かった。
そして一分もしないうちに戻ってくると、ベットから掛布団を取り上げ手に持って拡げた。

「ねえ、キョン?ベットのとこに立って?」
「ん? ああ…」

ハルヒは俺をベットの側に立たせると、拡げた掛布団を俺の体全体を包む様にクルクルと巻き始めた。
…かと思えば、巻き終わるや否や、いきなり俺を「えいっ」と突き飛ばす。
掛布団に巻かれたまま、訳も解らずベットに倒れこむ俺。

「お…おい!何をするっ!」
「えへへっ、そのままジッとしてるのよっ?」

悪戯っぽく微笑みながら、俺の足元から掛布団の中にモゾモゾと潜り込んでくる。

そして、俺の胸もとから顔を覗かせると「ね?暖かい?」と再び笑った。

「ん…?ああ…暖かいな」
「でしょ?朝までこのまま…ね?」
「ああ…このまま…だ」

まあ…なんだ…
色々あったけど、ダブルベットも…悪くないもんだなと思う。


「おやすみ、キョン…」
「うん、おやすみ…ハルヒ…」


おしまい







…おまけ…

「ねえ…キョン?まだ起きてる…?」
「ん…?」
「…明日は……しようね?」
「……バカ」

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